145話 新しい魔法
魔法学院に来て、一週間が経った。
講義を受けて、実践授業を受けて……
時に学友との仲を深めて、それからまた知識を蓄える。
世の中には、勉強をめんどくさいと思う人がいるみたいだけど、俺の場合は、そう思うことはない。
むしろ、とても楽しいと感じていた。
自分の知らない知識を知る。
それは、世界が広がるような感覚だ。
色々なことを知りたい。
もっと多くの知識を蓄えたい。
そんな感想を抱いて、積極的に知識の吸収を行っていた。
「……っていう感じかな、俺は」
とある日の昼休み。
俺とアリスとアンジュの三人は、学食で一緒に昼を食べていた。
今までは、それぞれに忙しくて、なかなかタイミングが合わなかったのだけど……
今日は、良い具合に時間が合ったため、一緒にごはんを食べることにしたのだ。
ちなみに、サナ、ナイン、シルファの三人は別行動だ。
従者は食堂を利用できない、ということはない。
ただ、従者は主のサポートがメインなので……
たまに、次の授業の準備の手伝いなどをすることがあり、なかなか時間が合わない。
授業中は一緒にいられるんだけど、それ以外となると、難しいんだよな。
「アリスとアンジュは、どうしているの?」
ごはんを食べながら、学院に来て一週間の近況を話していた。
「あたしは精霊っていう特殊な子を相手にしているから、今は実践授業は一度も受けていないわ。まずは、精霊に対する知識を蓄えるべき。っていうことで、ひたすらに勉強をしている感じね」
「私も似たような感じでしょうか? 今は色々な知識を蓄えて、魔法に対する理解を深めているところです」
「そっか。じゃあ、実践をしているのは俺だけなのかな?」
みんな、それぞれの方法で学んで、力と知識を蓄えているみたいだ。
問題が起きたという話を聞くことはないから、ひとまずは順調なのだろう。
「でも、ハルはもう実践をしているのね。ちょっとうらやましいかも。あたしも、早くこの子と心を通わせて、精霊魔法を使えるようになりたいわ」
アリスが指先を伸ばすと、そこに光の球がふわふわと降りる。
彼女に懐いている精霊だ。
いつも一緒にいるらしく、学院では、精霊に好かれた少女、という二つ名が広がりつつある。
「私もハルさんもアリスさんも、ひとまずは順調ですね。この調子で力をつけて……」
「もう一つ、悪魔や魔人に関する知識も手に入れたいね」
「でも、学術都市とはいえ、そうそう簡単に見つかるかしら?」
「そうですね……伝説の存在となると、なかなか難しいかもしれませんね」
二人は難しい顔をするものの……
俺は、一つ、心当たりがある。
もちろん、学院長のシノのことだ。
彼女は、自らが使徒であることを打ち明けた。
悪魔、魔人に関することを調べたいのなら、シノに話を聞くのが一番だろう。
まあ……
話はしないよ? と、あらかじめ釘を刺されてしまったので、なにかしら対策を考える必要はあるだろうけど。
タイミングを見て、みんなにシノのことを話して、相談したいと思う。
許可なく話したのがバレたら、シノは、絶対に協力してくれないだろうし……
そこら辺は、しっかりと考える必要があるな。
「ハルは、他になにか進展はないの?」
「うーん……あ、そうそう。上級火魔法のエクスプロージョンを覚えたよ」
「へえ、それはすご……は?」
アリスの目が点になる。
アンジュも似たような顔になる。
「えっと……どうかした?」
「どうかしたもなにも……」
「一週間で、上級火魔法を覚えてしまうなんて……」
「えっと……おかしいことなの?」
「「すごくおかしい」」
アリスとアンジュは、声を揃えて言う。
こういう時の二人は、息ぴったりなんだよな。
「才能のある人でも、上級火魔法の習得には最低で一年。普通は三年はかかると言われているのよ?」
「それを一週間で……ハルさまには、いつも驚かされてばかりです」
「あ、うん……運が良かったのかな?」
本当は、合間に勉強を挟んでいたから……
実質、五日で覚えたということは、口にしない方がよさそうだ。
さらに驚かせてしまうことになる。
「でも、さすがハルね。強くなるという目標も、すでに達成しているなんて」
「まだ誇れるようなことじゃないよ。魔法を一つ、新しく覚えただけだからね」
「上級火魔法なんだから、それでも十分よ」
「でも……」
「うん、ハルの懸念は理解しているつもり。ハルの話だと、魔人は特殊な結界を展開していて、通常の攻撃は通らないみたいだから……上級火魔法を覚えたとしても、有効な手にはならないかもしれない」
「でもね?」と間を挟みつつ、アリスは柔らかい顔で言う。
「新しい魔法を習得して、ハルが強くなったことは確かなこと。それは、誇っていいことなのよ?」
「そう……なのかな?」
「そうよ。ハルは強くなった、そのための努力を欠かしていない。それは、とても偉いことで、誇らしいこと。あたしは、そんなハルのことを、とてもかっこいいと思うわ」
「はい、アリスさんに同意です。どんな時でも諦めず、前に進む勇気を持つ方です。そんなハルさんのことは、自分の誇りのように思っています」
「アリス、アンジュ……うん、ありがとう」
本当にうまくやれているのだろうか?
悪魔や魔人……そして、レティシアに迫ることができているのだろうか?
魔法学院に入学してからも、その不安は消えることなく、胸の奥で病魔のように心を侵食していたのだけど……
でも、その不安は、今消えた。
二人の言葉が特効薬となり、全てを消してくれた。
「ふふっ、お礼なんていらないわ。私は、ハルの役に立てることが、一番うれしいから。だから、もっともっとがんばらせてちょうだい? それで、たまにハルの笑顔を独り占めさせて」
「ハルさんの笑顔……えと、その……で、できればでいいのですが、私にも……」
二人はなぜか赤い顔に。
気遣ってくれているというか、気にしてくれているというか。
改めて、二人と出会うことができてよかったな、と思う。
もしも俺一人のままだったら、どうなっていたことか。
想像するだけで恐ろしい。
「……とはいえ」
いつも二人に甘えてばかり、助けられてばかりなので、少々、男として情けない。
なにかしらお礼をしたいのだけど、なにかあるだろうか?
「そういえば、ハルはエクスプロージョンを習得した後、使ってみたの?」
そんなことをアリスに尋ねられて、お礼のことは頭の外に飛んでしまう。
「ううん、まだ試していないよ」
「そうよね……ここ最近、学院や学術都市で大爆発が起きたという話は聞いていないものね」
「大爆発くらいで済むのでしょうか? 下手したら、学術都市が吹き飛ぶということも……」
「まさか、と言いたいところだけど……ハルの中級火魔法の威力を実際に見て知っているから、冗談で済ませられないところが恐ろしいところよね」
俺は天才かなにかだろうか?
たまに、彼女達の俺の扱いに対して異議を唱えたくなる。
確かに、ちょっとだけ魔力が大きいかもしれないけど……
でも、それだけだ。
上級火魔法を覚えたからといって、そこまでひどいことにならないはず。
「大丈夫。そんな問題になることはないよ。なんなら、今からそこの訓練場でエクスプロージョンを使ってみて……」
「「それはダメ!!」」
全力で阻止されてしまうのだった。
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