142話 クラウディアの反発
クラウディア・ファナシスは貴族だ。
学術都市を治める領主の娘。
ただ、三人の兄と二人の姉がいる。
クラウディアは六人目の子供であり、領主を継ぐ可能性はゼロに等しい。
兄か姉か。
どちらになるかわからないが、クラウディア以外が継ぐことになるだろう。
兄と姉は、皆、とても優秀だ。
他の子供よりも早く言葉を発するようになり、幼い頃から学問に触れて育ってきた。
その結果、当たり前というべきか、天才と呼ばれるにふさわしい知識を身に着けた。
一方で、クラウディアに学問の才能が開花することはなかった。
言葉を発することがなかなかできず、病気なのではないか? と両親に心配されたことがある。
学術書に触れてみたものの、内容がさっぱりわからなくて、そのまま寝てしまったことがある。
普通に考えるならば、それはおかしなことではない。
言葉を発する時期は子供によって差異は出てくるもので、難しい学術書を幼いうちから理解できるなんてごく一部だけだ。
しかし、両親は落胆した。
三人の兄と二人の姉はこんなにも優秀なのに、この子ときたら……
落胆はしたものの、そこで育児放棄をするほど、愚かな両親ではない。
なに一つ、不自由のない暮らしをさせた。
欲しいものがあれば買い与えた。
ただ……
愛情と興味と関心は与えられることはなかった。
それだけの価値はない。
クラウディアは、失敗作という判断をされてしまい、両親の心に触れることができなくなったのである。
しかし、そんな事情は子供は知らない。
わからない。
どうして、自分に笑いかけてくれないの?
どうして、頭を撫でてくれないの?
どうして、兄や姉にするように、よくやったと褒めてくれないの?
クラウディアは、どうにかして両親の愛を得ようと、色々なことをがんばった。
兄や姉のように優秀になればいいのではないかと、勉強をがんばった。
でも、才能が開花することはなくて……
逆に、別の才能が花開いた。
それが魔法だ。
クラウディアには魔法の才能があった。
十万人に一人と言われるほどの才能で、かなり希少なものだ。
魔法に関しては、ありとあらゆる知識を吸収することができて……
天才と言われるほどの能力を身に着けた。
これならば両親に褒めてもらえるに違いない。
クラウディアは期待したものの……
しかし、現実は残酷だ。
両親がクラウディアに求めていたものは知識であり、力ではない。
いくら強い魔法を使うことができたとしても、それは、領主となるにあたり、なんの役にも立たない。
領主に求められるのは、領地を問題なく治めて、発展させていくことができる知識なのだ。
強い力を手に入れたとしても、それは大して意味を持たない。
故に、両親はクラウディアに興味を持たない。
彼女が幼い頃からそうしてきたように、必要なことはするものの、愛情を注ぐことはない。
笑顔を向けることもない。
魔法の才能を見つけたというのに、なにも変わらないなんて。
クラウディアは悲しみ……
でも、今更他の道を歩むことはできなかった。
自分に、魔法以外の才能がなにもないことは、今までの経験で理解していた。
それなのに、唯一の取り柄である魔法を捨ててしまっては、両親に振り向いてもらう可能性はゼロになってしまう。
だから、クラウディアは己にできることをがんばることにした。
とにかくも魔法をがんばる。
鍛えて……
鍛えて……
鍛えて……
そしていつか、世界一の魔法使いとなる。
賢者と呼ばれる高みに到達して、名を轟かせてみせる。
そうすれば、両親も振り向いてくれるかもしれない。
そう考えて、ずっとずっと報われない努力を続けてきた。
「……それなのに」
突然、魔法学院に編入生がやってきた。
魔法学院は、常に優秀な人材を求めている。
能力があると判断されれば、誰であろうと入学することができる。
クラウディアは、実は編入生に期待して、興味を持っていた。
良き学友となれば、互いに切磋琢磨して高みに登ることができるだろう。
そう期待していたのだけど……
実際にやってきたのは、いかにも田舎者という六人組だった。
学術都市の光景に目を奪われていて、おのぼりさん、という言葉がぴったりと似合う。
そんな彼らを見ていたら、クラウディアは腹が立ってきた。
ここは魔法を学ぶための場所であって、観光をするところではない。
そのようなくだらない目的でやってきたのだろうか?
他の生徒は、全員、これからの学院生活に期待をして……
己を奮起させて厳しい顔をしていたというのに。
それなのに彼らときたら、呑気におしゃべりをして、楽しそうに観光気分だ。
腹が立った。
自分は、それこそ己の全てを賭けて魔法を学んでいる。
より高いところに到達しようと、日々精進している。
そんなところに、観光気分のくだらない連中がやってきて……
そう思ったら、とても腹立たしくなり、気がつけばきつい言葉をぶつけていた。
理不尽なものであると自覚していたが、止めることはできなかった。
その後、紆余曲折あったものの……
二人と同じクラスになった。
ハル・トレイター。
サナ。
ドラゴンを従者にしているという、わけがわからないコンビであるが……
さらに理解不能なのは、ハルの魔力だった。
ぽやーっとした顔をしているものだから、大したことはないと思っていたのだけど、それは大間違い。
技術こそ拙いものの、彼は常識はずれの魔力を持っていた。
それだけの魔力があれば、賢者になれるかもしれない。
魔法を極めることができるかもしれない。
……よくやった、と両親が褒めてくれるかもしれない。
そう思うと、クラウディアはますます苛立たしくなり、ハルのことを疎ましく思うようになっていた。
必要以上にきつく当たり、棘のある言葉をぶつけるように。
それが子供の八つ当たりのようなものと自覚していたが……
しかし、どうしても止めることができない。
「わたくしは……今も、子供のままなのですね。このような有様では、お父さまもお母さまも振り向いてくれないのは当たり前。本当に……なにをしているのでしょうか?」
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