141話 魔法学院の授業
シノの入学試験を受けた時と同じ、訓練場に移動した。
「今日は、魔力のコントロールを学びたいと思います」
攻撃魔法学科の担任のライネル先生が、ゆったりとした口調で言う。
温厚そうな人に見えるけど、それは見た目だけ。
妥協などは一切せず、贔屓や差別も絶対に行わない。
生徒ができるまで何度でも同じことを繰り返させるなど、ゆったりとした見た目に反して、スパルタ教育を実践しているのだとか。
そんな話をクラスメイトから聞いた。
サナは、うへぇ……というような顔をしていたが、俺は喜んでいた。
もっともっと強くなりたい。
魔人に打ち勝つ力を手に入れたい。
生半可なことでは、そのための力を手に入れることはできないだろう。
だから、力が手に入るのならば、スパルタ教育であろうとなんであろうと構わない。
むしろ、厳しい方が、より高みに登ることができると思うし、歓迎だ。
「まずは、コレを見てください」
ライネル先生は手の平を上に向けて、そこに水の球を生成した。
これくらいのことならば、一定の魔力があれば、詠唱をしなくてもできることだ。
生成された水の球は、一定の高さでふわふわと浮かび続ける。
水は綺麗で、不純物が一切ないほどに澄んでいる。
さらに、歪みがない。
とても綺麗な球体で、熟練の職人が仕立て上げたかのようだ。
「このようにして、水の球体を生成して、なるべく綺麗に整えてください。そして、それをずっと維持することが今日の課題です」
サナが小さな声で訪ねてくる。
彼女は授業に参加することはできないが、従者として傍で見学することは許されている。
「師匠、師匠。アレは、どんな意味があるっすか?」
「うーん、俺もよくわからないや。でも、なにかしら意味があるんだと思うよ」
「では、はじめてください」
ライネル先生の合図で、クラスメイト達は、一斉に水の球体を生成した。
俺も作業に取りかかる。
「えっと……魔力で水を作り出して」
手の平に魔力を収束させるのだけど……
「うわっ!?」
ぼんっ、と一メートルほどの巨大な水の球ができてしまう。
それを見て、クラスメイト達がざわついた。
「お、おい……お前、あんなに大きな水の球を生成できるか?」
「無理に決まってるだろ。詠唱がないと、ライネル先生でも十センチがいいところだぞ」
「アイツ、何者だ……? 途中の編入生だから、只者じゃないと思っていたが……」
注目の的だ。
慌てて水の球のサイズを調整しようとするものの、これ以上、小さくすることができない。
どれだけがんばっても、大きくすることはできても、一メートル以下のサイズにすることはできなかった。
「こ、これはどうすれば……?」
「師匠、ファイトっす!」
「無責任に応援されても……」
こんなことをしていいのかどうかわからず、軽くパニックに陥っていた。
そんな俺を見かねてか、ライネル先生が苦笑しつつ、こちらへ。
「おやおや、これはすごいですね」
「あ、先生。す、すみません……もっと小さくしたいんですけど、でも、うまくいかなくて……」
「いえいえ、無理に小さくする必要はありませんよ。というか、トレイターくんの魔力が大きすぎて、それが最小のサイズなのでしょう。無理に小さくしようとすれば、逆に良くない結果を招いてしまうでしょう。そのまま、コントロールしてみてください」
「わ、わかりました!」
あたふたとしつつも、水の球のコントロールをがんばる。
意識を集中。
水の球と体が繋がっているかのようなイメージ。
綺麗な球体にして、水を限りなく透明にするように魔力を調整するのだけど……
「あ、あれ?」
どうにもこうにも、うまくいかない。
水はそれなりに澄んでいるのだけど……
でも、完全というわけではなくて、ところどころ濁っている。
綺麗な球体にしようとがんばるのだけど、どうやっても、形を整えることができない。
表面が波打つような感じで、あちらこちらが歪んでいた。
「ふふんっ、学院長はあなたに期待しているようでしたが、その程度の実力でしたか」
こちらの様子を見て、クラウディアが鼻で笑う。
ムッとしてしまうのだけど……
でも、言い返すことができない。
なぜなら、彼女はとても見事な水の球を生成していたのだから。
大きさは5センチほどと小さいけれど、その精度はライネル先生と同じくらいだ。
クラウディアの見事な技術に、クラスメイト達はもちろん、ライネル先生も感心する。
「ほう、これはこれは。とても素晴らしいですね」
「当たり前ですわ。わたくしは、魔法学院の生徒会長! 人柄だけではなくて、成績も模範とならなければいけないのですから! これくらい当然なのですっ」
人柄、って……それ、自分で言っちゃうんだ。
まあ、否定するつもりはないけどさ。
ちょっと強気なところはあるけれど、クラウディアは悪人じゃないと思う。
色々と空回りしている部分はあるものの、悪意は感じられない。
たぶん、この学院の生徒であることに誇りを持っていて、好きなのだろう。
いつか、その理由を聞くことができれば、と思う。
「ファナシスさんの技術はとても素晴らしいですが、しかし、トレイターくんの技術も素晴らしいですよ」
「え?」
褒められるとは思っていなかったので、ついつい怪訝そうな顔をしてしまう。
大きな水の球を作り出すことはできたものの……
色々と問題があり、とても優秀とは言えないと思うのだけど?
「これだけの大きさの水の球を制御するとなると、魔力だけではなくて、かなりの技術が要求されますからね。そのことは、ファナシスさんは理解できるのでは?」
「そ、それは……」
「その程度、と言いますが……これだけのものを生成して、維持することは、なかなかできることではありません。このサイズで、ここまでの制御をしているのならば、十分に合格でしょう。私でも、できるかどうか」
「ぐぐぐ……」
思うように俺を貶めることができず、クラウディアは悔しそうな顔に。
うーん。
出会いが出会いだから仕方ないのかもしれないけど……
俺、どうしてそこまで敵視されているんだろう?
同じ魔法学院の生徒なのだから、できるなら仲良くしたいのだけど。
「クラウディアはすごいね」
「え?」
「魔力をうまくコントロールしているし、すごいと思う。よかったら、コツを教えてくれないかな?」
「……嫌味ですの?」
「え?」
「自分は、それだけの巨大な水の球を生み出して、しかも、ライネル先生に褒められて……わたくしとの間に大きな差があると、そう言いたいのですか!?」
「いや、そんなことは……
「覚えていなさい、ですわー!!!」
悪役のような捨て台詞を残して、クラウディアはどこかへ消えた。
「……まだ、授業中なんだけど」
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