137話 入学初日
入学試験から一週間。
準備のために慌ただしい時間が過ぎて……
あっという間に、魔法学院入学の日が訪れた。
「へぇ、これが制服なんだ」
宿の部屋。
見たことのない服に身を包む自分の姿を鏡で見る。
魔法学院では、生徒達は全員、制服という服を着ているらしい。
そうすることで、集団行動を意識させるとか、魔法学院の生徒としての自覚を促すとか、そんな理由があることを事前にシノに聞いた。
一番の理由は、魔法学院の生徒であるという証だ。
この制服は、他に着ている人はいない。
つまり、制服を着ている人は魔法学院の生徒ということが一目でわかる。
服そのものが身分証になっているような感じだ。
よく考えられたシステムだなあ、と感心していると、扉をノックする音が響く。
「はい、どうぞ」
「ハル、もう着替えた?」
扉が開いて、アリス達が姿を見せた。
みんな、魔法学院の制服を着ているのだけど……
「……」
「どうしたの、ハル?」
「いや、なんていうか……」
女の子の制服は男と違うらしく、スカートタイプだ。
シックなデザインなのだけど、とてもよく栄える。
「アリスの制服姿がすごくかわいいから、ついつい見惚れていたんだ」
「なっ?!」
カアアア、とアリスが赤くなる。
「ハルってば、そんなお世辞を言わなくても……」
「え? 本心だけど?」
「……」
「どうしたの、アリス?」
「……ハルは、将来たらしになるのかしら? それとも、すでに?」
「えっと?」
「ううん、なんでもないわ。こちらの話。それで……ありがとう。ハルにそう言ってもらえると、すごくうれしい」
アリスが花のような笑みを浮かべた。
少し頬を染めているところを見ると、照れているのだろうか?
貴重なアリスの照れ顔だ。
「あの、ハルさん。私はどうですか?」
「うん。アンジュも、すごく似合っていると思う。かわいいよ」
「はぅ……ハルさんに、かわいいって。なぜでしょう? 胸のドキドキがさらに強く……あうあう」
「ふふっ、照れるお嬢さま、とてもかわいらしいです」
「師匠、師匠! 自分はどうっすか? セクシーっすか?」
「シルファも、ハルの感想が気になるかな? 教えて」
従者として入学するナイン達も、同じ制服姿だ。
差別に繋がりかねないということで、服装は統一されるらしい。
「えっと……」
いつの間にか、制服のお披露目大会になっていて……
その後、しばらくの間、俺はみんなの制服姿を褒めることになった。
――――――――――
朝食を食べて、宿をチェックアウト。
荷物を持ち、学術都市の入り口へ。
「すみません、俺達は……」
「魔法学院の新入生の方々ですね? 話は聞いています。どうぞ、中へ」
説明をするよりも先に、衛兵は道を開けてくれた。
話は聞いている、とのことだけど……
安心だ。
シノはちょっと適当なところがあるっぽいから、もしかして、揉めるのではないかと思っていた……というのは秘密にしておこう。
「この中央通りをまっすぐ進んだ後、しばらくしたら、噴水が見えてきます。そこを右に曲がり、さらに五分ほど進むと魔法学院が見えてくるでしょう。諸々の手続きをしないといけないので、寄り道することなく、まっすぐ魔法学院へ向かってください」
「わかりました。ありがとうございます」
丁寧に説明してくれる衛兵に頭を下げた後、中央通りを進む。
「ここが学術都市か……すごいね」
「ええ、本当に。見たことのない建物ばかりで、圧倒されるわね」
「ここだけ時間が切り離されているかのような感じで、未来に迷い込んでしまったかのような印象を受けてしまいます」
普通、建物は木で組まれているか、削られた石が使われている。
しかし、学術都市の建物はまるで違う。
木でも石でもなくて、見たことのない素材が使われている。
その上で広く、高い。
異世界に迷い込んでしまったかのようで、あちらこちらを見て、キョロキョロとしてしまう。
初めて都会にやってきた田舎者そのものなのだけど、でも、あちらこちらを見ることはやめられない。
それくらい興味深いところだった。
先日の入学試験の際は、ゆっくりと見て回ることができなかった。
なので、こうして改めて見ると、学術都市の圧倒的な技術を知ることができた。
ほどなくして魔法学院に到着した。
相変わらずすごいところだ。
いくらか緊張しつつ、ハル達は、まずは守衛のところへ。
今日から入学する旨を伝えると、あっさりと通してくれた。
話が通っているのと、制服を着ていることがうまい方向に働いたのだろう。
「まずは、事務所に向かうんだっけ?」
「ええ、そうね。そこで学院についての説明と、クラスを教えてくれるとか」
「ドキドキしますね」
緊張する俺達。
一方で、
「お嬢さまの制服姿……これはぜひとも、画家を雇い、後世に語り継がなくては」
「珍しい街なら、珍しい食べ物もあるっすよね? じゅるり」
「……スヤァ」
みんな、とことんマイペースだ。
シルファに至っては、歩きながら寝ていた。
格闘術専門だから、魔法にはとことん興味がないのだろう。
「でも、事務所と言われても……」
「どこなのかしら……?」
魔法学院がとても大きいせいで、どこになにがあるのか、さっぱりわからない。
一つ一つ確かめていくという方法もあるのだけど……
下手をしたら、立ち入り禁止区域に入ってしまうかもしれない。
……更衣室とか。
なので、手当り次第は却下。
一番確実なのは、誰かに道を聞くことだろう。
「すみません」
ちょうどいいところに女性生徒らしき人が。
声をかけたのだけど、なぜか睨まれてしまい、
「誰なのですか、あなた方は!?」
詰問するような、強い声をぶつけられてしまうのだった。
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