133話 シノの実力、ハルの実力
爆風を間近で受けて、耐えることができず、吹き飛ばされてしまう。
幸いというか、火傷を負った感じはない。
地面を転がった際に、多少の擦り傷ができたくらいだ。
「いったい、今、なにが……?」
「なに、簡単な魔力反応の結果だよ」
煙が晴れて、シノが姿を見せる。
こちらに追撃をしかけるわけではなくて、余裕の表情で講義をする。
「相反する属性の魔法を同じ威力、規模でぶつけてやると、今のように反発作用が起きるのさ。で、基本的に爆発する」
「そんなことが……」
「知らなかったみたいだね。これは、わりと基本のことで、魔法学院に入学していなくても、知ることはできるのだけど……ふむ。キミは、魔力はすさまじいが、色々と勉強不足のようだね」
「く……」
悔しいと思うのだけど、しかし、返す言葉がない。
戦闘に関しても、その他知識に関しても。
俺は、知らないことが多い。
だから、もっと色々な知識を身に着けないといけないのだけど……
「学ぶというだけで、こんなに苦労するなんて」
「知識は黄金に等しい財産だよ。それを、楽してタダで手に入れようなんて、恐れ多い。それなりの苦労はするものさ」
「もっともだね」
自分の考えが甘かったことを痛感する。
でも、反省して後悔に囚われるようなことはしない。
そういうネガティブな考えは、捨てていかないと。
これからは、もっと前向きに……明るい場所を目指して、上を向いて歩いていくんだ。
「ハル、まだがんばれる?」
「うん、大丈夫。アリスとアンジュは?」
「もちろん、あたしは平気よ」
「私も問題ありません」
「じゃあ……みんなで、一緒にがんばろうか。あのちびっこ学院長に、一泡吹かせてやろう」
「「賛成!」」
意気込む俺達を見て、シノは不敵に笑う。
「うんうん。諦めることなく、逆にやる気になってくれることはうれしいね。ただ、ちびっこは余計かな? ねえ、そう思わないかい? ちびっこはいらないよね?」
見た目のことは、けっこう気にしているのかもしれない。
だとしたら、申しわけないと思うのだけど……
うまくすれば隙を作ることができるかも。
「よし、いくよ、ちびっこ学院長!」
「それはもうわざとだよねえ!?」
律儀にツッコミを返してきたところで、最初にアリスが突撃した。
次いで、俺、アンジュの順番で駆ける。
「お願い!」
アリスは精霊に命令をして、光を発してもらう。
一瞬、世界が白に包まれる。
「ふむ。簡単な命令ではあるが、精霊をそこまで使役するなんて、なかなかやるね。精霊剣士の素質があるかもしれないな」
「褒めてくれてありがとう。でも、今のはこの子の力じゃないわ」
「なに?」
「今度こそ、お願い!」
再び光が発せられた。
「あう!?」
二度、連発されるとは思っていなかったらしく、シノは閃光を直視してしまい、悲鳴をあげる。
一度目の光は、特製の閃光弾。
二度目は精霊によるもの。
道具を組み合わせることで、シノの隙を誘った、というわけだ。
「くっ、悪い小細工をしてくれるね! でも、この程度で!」
どういう体の構造をしているのか、シノは、すでに視界が回復しつつあるらしい。
俺の動きを捉えていて、こちらに手の平を向けてくる。
とはいえ、まだ視界は完璧ではないはず。
詳細な狙いをつけられるとは思えないから、たぶん、広範囲の魔法で薙ぎ払うだろう。
ならば……と、先手を打つことにした。
「ファイア!」
初級火魔法を唱えて、
「フリーズ!」
こんな時のためにこっそりと覚えておいた、初級氷魔法を唱えた。
巨大な炎と氷がシノに迫る。
「ふふん、それくらいでこの僕をどうにかできると……いや、まさか!?」
こちらの狙いに気がついたらしく、シノが顔色を変える。
しかし、遅い。
炎と氷がシノの直前で激突して、相殺される。
ボンッ! と爆発が起きて、シノの小さな体を吹き飛ばす。
その先に、すでにアンジュが回り込んでいて……
「バインド!」
「む!?」
魔法でシノを拘束した。
魔法学院のトップであるシノを、魔法で長時間拘束することは難しいだろう。
なにかしらの方法で、すぐに解除されてしまうに違いない。
保って数秒というところか。
でも、その数秒で十分だ。
「これで……」
「チェックメイトだね」
アリスが剣を突きつけて、俺は手の平を突きつけた。
さらに、アンジュも動いて、シノを三方向から囲む。
「まさか、僕が見せた相殺をすぐに自分のものにしてしまうなんて」
「わりと基本のことなんでしょう? なら、すぐにできると思ったんだ」
「でもまあ、ハルなら、難しい技術だとしても、やっぱりすぐに実践してしまいそうな気がするわ」
「そうですね、ハルさんなら、なんだかんだで使いこなしてしまうような気がします」
「二人は、俺のこと、どういう目で見ているの……?」
信頼されているのか、それとも、別の感情なのか。
非常に判断に困る。
「それで……どうかな? まだ続ける?」
「いや……」
シノは、どこかスッキリとした顔をして、両手を上に挙げる。
「僕の負けだ」
「それじゃあ……」
「おめでとう、試験は合格。キミ達の魔法学院の入学を認めよう」
俺達は顔を見合わせて、
「「「やった!!!」」」
笑顔でハイタッチを交わすのだった。
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