131話 シノの力
この台詞を言いたくて言いたくてたまらなかった。
そんな感じで、シノはニヤニヤとしている。
意外と好戦的なのだろうか?
いや……好戦的とは違うのかもしれない。
その理由は、シノの瞳がキラキラと輝いていて、好奇心に満たされているからだ。
たぶん、彼女は俺達の力が気になるのだろう。
どれだけの力を持っているのか?
実際に戦うことで、どんな発見があるのか?
もしかしたら、未知の現象に遭遇できるかもしれない。
そんな期待をしているのだろう。
どうやら、良くも悪くも、シノは魔法学院のトップらしい性格のようだ。
「さあ、準備完了だ」
俺達の周囲を囲むように、柱のようなものが四つ、設置された。
「あれは?」
「うむ、よくぞ聞いてくれた! あれは、我が魔法学院が開発した結界だよ。魔法の力で、全ての力を遮断する。訓練の際、周囲に被害を出さないように開発したもので、今はまだ動かすことはできないのだけど……将来的には、自由に持ち運びできるほどにコンパクト、かつ高性能にしたいと考えているよ」
「へえ、素晴らしい発明だね」
「うむ、そうだろうそうだろう?」
「シノさんが言ったようなことが実現されれば、魔物に対する防御機構としての役割も期待できるね。被害に遭う人も減るかもしれないし、世紀の大発見じゃあ?」
「そ、そうだろう? そう思うよね、うんうん。キミは見る目があるな」
「本当にすごいと思うよ。俺は、こんなもの作ることができないし、物の考え方が良い意味で人と違うのかもしれないね」
「え? あ、いや……そこまで褒められると、少し照れくさいというか、なんていうか……」
「こんなものを見せられたら、絶対に魔法学院に入学しないと、っていう気持ちになるよ。シノさんみたいな人を目指して、がんばりたいよね」
「褒め殺しなのかい!? 新手の嫌がらせなのかい!? そこまで色々と褒められると、ホントにもう、照れて照れてどうにかなってしまいそうだよ!?」
シノが耳まで赤くして、そんなことを言う。
むう?
俺としては、純粋にすごいと思っただけなのだけど。
「ハル。褒めるのは良いことだけど、加減を覚えないとダメよ。あと、できればあたしのことも褒めて」
「ハルさんは、褒め殺しという言葉を覚えた方がいいと思います」
「う、うん?」
なぜか、アリスとアンジュは、ちょっと拗ねた様子だった。
二人といいシノといい、女の子の心は複雑だ。
とても難しい。
「こほん。と、とにかく、試験を始めようか」
仕切り直すように咳払いをして、シノが俺達と対峙した。
「繰り返しになるけど、試験の内容は僕と戦うこと。合格条件は、僕に参ったと言わせる……うーん、それじゃあ、ちょっと厳しすぎるかな? でもでも、魔法学院に入学するだけじゃなくて、学術都市の入場も兼ねているから、やはりそれくらい厳しくした方が?」
なんてことを言われてしまい、むむむ、と反応してしまう。
俺はシノよりも強い、なんて適当なことは言えない。
彼女の力を見たことはないし、そもそも、迷宮都市の戦いでは手も足も出なくて……
昔のように雑魚とまで卑下はしていないのだけど、それでも、まだまだ力が足りないことは確かだ。
それでも、最初から敗北前提で語られるのはおもしろくない。
力はないと認めていたとしても……
だけど、男としてのプライドはあるのだ。
つまらないプライドかもしれないけど、守りたい。
そうすることで、もっと前向きになれるような気がするから。
「まいった、と言わせればいいんだね?」
「む? まだそう決めたわけではないのだが……」
「俺は、それでいいよ。アリスとアンジュは?」
「もちろん、あたしもいいわ。ギャフンと言わせてやりましょう」
「はいっ、がんばります!」
二人も似たようなことを考えていたらしく、やる気たっぷりだ。
そんな俺達を見て、シノは不敵に笑う。
「ほほう、自信たっぷりだね」
「自信がないよりもある方がいいと思わないかな?」
俺が言うのもなんだけどね。
「うんうん、そう思うよ。僕も、上昇思考を持つ若者の方が好きだ」
「うーん……シノにそう言われると、あたし、複雑な気分になるわ」
「おや、なんでだい?」
「だって、小さいじゃない」
「キミはハッキリとものを言い過ぎじゃないかな!?」
「アリスさん、本当のことは、時に人の心を傷つけてしまいます。もっとオブラートに優しく……例えば、話をしていると少し目線が下がってしまいますね、とか、そんな感じにするのはどうでしょうか?」
「キミはキミで、フォローしているようで、とんでもなく失礼なことを言うね!?」
律儀に反応するシノは、やっぱり良い人なのかもしれない。
そんな感想を抱いてしまう俺だった。
「まったく……これは、新手の精神攻撃かな? 試験開始前なのに、どっと疲れた気分だよ」
「さすが師匠っす! そんなことを考えていたなんて!」
「ううん、サナ。ハルのあれは、ただの天然だと思うな。シルファは、そう思うよ」
「私の口からは、なにも言うことはできません」
後方で見守る三人も、のんびりとしたものだ。
ただ……
この直後、そんなのんびりとした空気が一変する。
「まあ、ともかく……始めようか?」
「っ!?」
シノが一歩、前に踏み出した。
瞬間、空気がビリビリと震えた。
シノの全身から、圧倒的な魔力が放たれる。
それは目に見えるほどに濃厚だ。
彼女を中心に渦を巻いていて、暴風をもたらしている。
「これは……」
「まだ、なにもしていないさ。ただ単に、これから戦うぞ、っていうやる気を見せただけかな」
「それだけで、こんな魔力を……」
「ふふ、僕は魔法学院のトップだからね。これくらいは当たり前さ」
一筋縄ではいかないだろうと予測していたけれど……
甘かったかもしれない。
シノは、俺達の想像のさらに上をいく。
甘い考えを持っていたら、瞬殺されてしまうだろう。
全力で……
それこそ、殺すくらいの勢いで戦いを挑まないといけないかもしれない。
かなり厳しい試験になるだろう。
でも……
アリスとアンジュを見る。
さらに、後方に控えているナインとサナとシルファを見る。
みんながいる。
俺は一人じゃない。
そして……どこかにいるレティシアとも、どこかで繋がっていると思う。
だから、負けない。
「アリス、アンジュ」
「ええ」
「はい」
「がんばろう!」
シノの挑戦的な表情に応えるかのように、俺も不敵に笑ってみせて、一歩を踏み出すのだった。
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