130話 試験に挑め!
瞬く間に一週間が流れて、試験の日が訪れた。
事前に指定されたルートで、俺達は学術都市トライアルの内部に入る。
「うわぁ」
思わず、そんな声をこぼしてしまう。
それほどまでに、学術都市の街並みは壮観なものだった。
石で作られた高く巨大な建物が見えた。
一つだけではなくて、数え切れないほど、いくつも建ち並んでいる。
不規則に作られているわけではなくて、一定の法則があるみたいだ。
高さ、横幅、形……なにかしらの共通点がある。
それが街の景観に繋がっていて、今まで見たことのない神秘的な街を作り上げている。
「すごいなあ……これが、学術都市か」
「これは、思っていた以上ね。最先端の技術を保有している、っていうのも納得ね」
「知らないものばかりで、あちらこちらに目がいってしまいます」
俺達は、田舎者の雰囲気たっぷりで街中を歩いていた。
好きに歩いていいわけではないので、先導する憲兵に、時折、あまりよそ見をするなと注意されてしまう。
それでも、ついつい色々なところを見てしまうほど、とても洗練された都市だった。
圧倒されてばかりだ。
ただ、しばらく眺めていると、少しは慣れてきた。
そう思っていたのだけど……
「ついたぞ。ここが、魔法学院だ」
「……」
「……」
「……」
俺、アリス、アンジュの三人は、再び圧倒された。
何度驚かされればいいのだろう?
そこには、城のように大きく、天を突くような巨大な塔が建てられていた。
しかも、一つではなくて三つ。
それぞれが支え合うようにして、その巨体を維持……いや、誇示している。
これが、魔法学院……想像していたものの遥か上をいく。
まさか、これほどのものなんて……
学術都市の技術は、どれほどのものなのか?
まるで想像がつかない。
恐れすら抱いた。
でも、同時に期待に震えた。
これだけの技術を持つ都市ならば、魔法学院ならば、必ずや魔人に対抗する力を身につけることができるはずだ。
それと同時に、魔人についての調査も進むはずだ。
待っていてくれ、レティシア。
俺は、ここで強くなって、知識を身につけて……
そして、必ずキミを元に戻してみせる。
優しかったあの頃に戻して……そしてまた、幼馴染として笑い合うんだ。
俺は決意を新たに、魔法学院の敷地に足を踏み入れた。
――――――――――
「やあやあ、よく来てくれたね」
訓練場のような大きな広場に案内されたところで、シノが姿を見せた。
今日は一人ではなくて、他に複数人の男女が付き従っている。
「待っていたよ。ああ、こちらは僕の部下だよ。君達の試練の審査を担当する」
「シノさんが審査をするわけじゃない?」
「それでもよかったんだけどね。ただ、僕って、けっこう私情を挟んじゃうタイプでね。君達のことはけっこう気に入ったから、手心を加えてしまうかもしれない。そうなると、後々で面倒だろう? だから、ちゃんと審査をするために、この人達に足を運んでもらった、というわけさ」
「なるほど」
色々と俺達のことを考えてくれているみたいだ。
思っていたよりも良い人なのかもしれない。
まあ、なにを考えているかわからないところはあり……
どこに真意があるか不明なので、まだ気を許すことはできないのだけど。
「学院長、本当に彼らに試練を受けさせるのですか?」
「特に秀でたところも感じられませんし、時間の無駄ではないかと」
シノの部下が、小声でそんなことを言う。
隠しているつもりなのかもしれないけど、全部聞こえているんだよね。
どうせなら、そういうことはきちんと隠してほしい。
「んー? キミ達は、僕の目が節穴だと? 彼らは試験を受ける価値もない、ダメ人間だと?」
「い、いえ。決してそういうつもりでは……」
「ただ、ここは神聖な魔法学院。気軽に立ち入ることさえも、本来は許されないのです。それなのに、見ず知らずの者に簡単に試験を受けさせるなんて」
「それ、やっぱり僕の目が節穴だと言っているよねえ? ねえ、そういうことだよね?」
「そ、それは、その……」
「いやー、きちんと自分の意見を言える部下を持って、僕は幸せ者だね。うんうん。ならば、僕もきちんと仕事をしないといけないね。優秀な部下に対しては、しっかりとした査定を行わないといけないようだ。もしも彼らが試験を突破した際は、君達の見る目がなかったということで、なにかしらのペナルティを課さないといけないな」
「なっ!?」
「ど、どうしてそのようなことに!?」
「当たり前だろう? ケチをつけるだけつけて、自分は安全でいられると思うなんて、とても傲慢だと思うだろう? 批判をするのならば、相応の覚悟をしたまえ」
「……」
鋭い目つきで睨まれて、彼らはなにも言えなくなってしまう。
少し驚いた。
シノの見た目はこんなだから、うまく学院長をやっているか不安なところがあった。
でも、それは杞憂で、今見た通り、きちんと全てをコントロールしているみたいだ。
侮られるわけにはいかないと、どこかで身構えていたところがあったのだけど……
こちらの方こそ、シノを侮っていたみたいだ。
反省。
改めて気を引き締めないといけないな。
「さて……すまないね。話が横道に逸れてしまったよ」
「いや、こちらは気にしていないから」
「うんうん、キミはいい子だねえ。そう言ってもらえると、安心するよ」
「さて」と間を挟んで、シノは話を仕切り直す。
「それじゃあ、改めて試験についての話をしようか」
「うん、お願いするよ」
「試験を受けるのは、ハルくん、アリスくん、アンジュくんの三人。他の三人は付き添いという形で問題ないかな?」
「大丈夫」
「じゃあ、付き添いの三人は向こうの観戦席に移動してもらえるかな?」
よく見ると、訓練場の左右に観戦席らしきものが設置されていた。
一階席と二階席と二つに分かれていて、かなりの人数が収納できる作りだ。
訓練だけではなくて、演舞なども行われたりするのだろうか?
それとも、他者の訓練を観戦して、見て学ぶ機会を与えているとか?
「お嬢さま。ハルさま、アリスさま。どうか、お気をつけて」
「師匠、がんばってくださいっす!」
「シルファ達、がんばって応援するね。ファイト」
三人は指定された通りに、一階席へ。
移動したところで、間に光の壁が立ち上がる。
「あれは!?」
「大丈夫、大丈夫。心配しなくてもいいよ。あれは、一種の結界だよ。魔法やその他、物理的な衝撃を防ぐためのものだ。昔、流れ弾に被弾して、怪我をした生徒がいてね。それから、設置されるようになったんだよ」
「そう、ですか」
それならそうと、最初から説明してほしい。
たぶん、こちらの反応を見て楽しんでいるのだろう。
なかなかに意地が悪い。
「準備は整った。では、試験内容の発表といこうか」
シノがニヤリと笑う。
ドッキリを企んでいる子供のようだ。
一見すると微笑ましく見えるかもしれないが、しかし、彼女は長年を生きているエルフ。
ついでに、底意地も悪い。
どのような試験なのか、俺達は緊張する。
「試験の内容は……僕と戦うことだよ」
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