13話 旅の途中で
馬車に揺られ、一週間ほどが経過した。
まだ街には着いていない。
レティシアに見つからないようにと、遠い街を選んだため時間がかかるのだ。
ただ、旅の行程はとっくに半分を過ぎている。
たぶん、あと1~2日くらいで到着するだろう。
「……ふぁ」
馬車の振動が眠気を誘うらしく、隣のアリスがあくびをした。
「眠いわ……」
「寝てもいいんじゃないか?」
「そうしたら、夜、眠れなくなるじゃない。おもいきり体を動かせばそんなことはないんだけど……でも、こうして馬車旅の途中だと、そんな機会ないからね」
「なるほど」
「ねぇ、ハル。なにか話をしましょう?」
「と、言われてもな……」
ふと、思いつく。
「話というか、聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「うん、どうぞ」
「アリスって、以前のパーティーではどういう風に過ごしていたんだ? 今は組んでいないとしか聞いていないから、今までどうしていたのかな、って気になって」
「あー……」
アリスが気まずそうな顔になる。
聞いてはいけないことだったのだろうか?
「……秘密♪」
「え、なんだよ。それ」
「っていうのは冗談、語れるほど大したことはないの。ただ単に、それぞれの事情でパーティーを円満解散して……新しいパーティーを探していたところでハルを見つけたの。それだけ」
「そう……なのか?」
「そうよ」
うーん?
なんとなくではあるが、アリスはウソをついているような気がした。
根拠もなにもなくて、ただの勘なんだけど……そんな気がした。
でも、本当にウソをついているとしたら、隠しておきたいことなのだろう。
無理に暴くようなことはしたくないので、この話はここで終わりにした。
「レティシア、うまく撒けるといいわね」
「そうだな」
アリスが笑い、俺も笑う。
ただ、そんな中で、俺はレティシアのことを考えていた。
なんだかんだでレティシアを完全に無視することができず、声をかけられれば相手をしてしまう。
過去の思い出を捨てることもできず、心のどこかで、改心を望んでいる……かもしれない。
自分のことなのに、よくわからないな。
俺……レティシアと、どう向き合えばいいんだろう?
「ハルッ!」
不意にアリスが鋭い声を発した。
その視線を追うと、街道の先にもう一台の馬車だ。
さらに、その周囲に魔物らしき複数の影。
「どうす……」
「助けよう!」
「さすが、ハル。そう言うと思っていたわ!」
俺とアリスは馬車を降りて駆け出した。
――――――――――
私の名前は、アンジュ・オータム。
城塞都市アーランドの領主の娘にして、聖女。
力なき人々を救う使命を神様に与えられ、日々、励んできました。
今回の任務は、アーランドの管轄下の村で発生した疫病を鎮めること。
私が村に到着した時、村はひどい有様でした。
しかし、友達でもあり護衛でもあるナイン・シンフォニアと、その部下の尽力もあり、無事に疫病を鎮めることに成功しました。
私?
私の力なんて、大したことはありません。
全て、みなさんの力があればこそ。
その後……
任務を終えた私たちはアーランドに戻ろうとしていたのですが、まさか、途中で魔物に襲われてしまうなんて。
しかも、相手はレベル45のデスアント。
見た目は巨大なアリですが、その力は強く、熟練の冒険者も簡単にやられてしまいます。
さらに、デスアントは群れで行動します。
10を超えるデスアントに囲まれて……
私は、死を覚悟しました。
「ぎゃあっ!?」
護衛の兵士がデスアントの牙に倒れてしまいます。
「くっ……セイクリッドブレス!」
即座に上級治癒魔法を使い、護衛の兵士の傷を癒やしました。
しかし、その間にも他の方々が傷ついてしまい……
「フェアリーサークルッ!」
上級範囲治癒魔法を使用して、まとめて傷を癒やします。
でも……ダメ!
敵の攻撃がすさまじくて、回復が追いつきません。
「お嬢さまっ、私たちが囮になります! その間に、アーランドへお逃げくださいっ!」
「ナインっ、そんなことを言わないでください! 囮になるなんて真似、絶対に許しません。私たちは、皆で生きてアーランドに帰るんです!」
「しかし、他に手は……くっ、邪魔ですっ! ツインボルトッ!」
ナインは両手に持つ短剣を巧みに操り、デスアントの頭部を切り裂いた。
ナインのレベルは33。
差はあるものの、確かな力と経験があり、威力の高い上級技を使うことができます。
しかし……
「ギィッ!」
デスアントの頭部の傷は、みるみるうちに塞がり、再生してしまいます。
高い攻撃力を持つだけではなくて、胴体の中心にある核を破壊しない限り死ぬことはないという、驚異の再生力……なんて恐ろしい魔物でしょうか。
このような魔物に目をつけられた時点で、私の運命は決定してしまったのでしょう。
でも……ナインたちは殺させません!
「ナインっ、部下を連れて私の後ろへ!」
「お嬢さま!? いったい、どうするつもりなのですか? お嬢さまは聖女で、近接戦闘は元より、攻撃魔法も……まさかっ!?」
「そのまさかです……自爆魔法を使います」
聖女が持つ、唯一の攻撃魔法……バルズ。
己の命を捧げる代わりに、天の怒りを降らすという自爆魔法。
それを使えば、私はともかく、みんなを助けることができます。
「お嬢さまっ、それはなりません! そのようなことをしてはいけません! 犠牲になるとしたら、それは私たちであり、お嬢さまではありません!!!」
「ありがとう、ナイン。あなたは、とても優しい人。そして、私の大事な大事な友達です。どうか、私に友達を助けさせてください」
「お嬢さまぁっ!!!」
ナインが他の護衛の兵士に押さえつけられました。
彼らも、他に方法がないと理解したのでしょう。
私はデスアントの群れに向かい……
魔力を額に集中させて……
最後に、ふと、思います。
「……ナインの作るパンケーキ、もう一度、食べたかったですね」
私は覚悟を決めて、自爆魔法を……
「ファイアッ!」
「ひゃあっ……!?」
突然、巨大な炎が飛んできました。
炎は生き物のように荒れ狂い、デスアントの群れを飲み込みます。
しかし、デスアントは炎に対して強い耐性を持ちます。
最大で3000度の熱に耐えたという報告もあり、火魔法でデスアントを倒すことは……
「できない……はず……なの、ですが……あれ?」
デスアントたちが悶え苦しんでいました。
炎に対して強い耐性を持つ体が、みるみるうちに燃えていきます。
ほどなくして、核も燃やし尽くしてしまい……デスアントの群れは一掃されました。
「いったい……なにが……?」
誰かが助けてくれたのでしょうか?
しかし、デスアントを炎魔法で打ち倒すなんて……いったい、どれだけの魔力があれば、そんなことが可能になるのでしょうか?
上級火魔法を使ったとしても、普通、このような結果にはなりません。
誰が今の魔法を?
「大丈夫か!?」
「あっ……」
振り返ると、私と同じくらいの男の方が。
その方を見て、私の胸はドクンと高鳴るのでした。
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