129話 試験に向けて
試験に挑むのは、俺、アリス、アンジュの三人。
ナイン、シルファ、サナは付き人枠なので、試験を受けることはない。
試験は一週間後。
本来なら身分調査などをする必要があり、準備に数ヶ月はかかるらしいのだけど……
そこは全て、シノがパスにしてくれた。
俺達を信頼してくれているのか。
はたまた、他の思惑があるのか。
どちらにしても、俺達にとっては助かる。
どれくらいの時間が残されているのかわからないけど……
早く動く分には、それに越したことはないと思う。
だから、数ヶ月の差は大きい。
「というわけで」
シノが立ち去った後、俺達は改めて今後についての話をする。
魔法学院の入学試験を受けることはできる。
ただ、シノも言っていたのだけど、受かるかどうかは別の話。
ここまでの流れを掴んでおいて、本番になったら落ちました、なんて話になったら目も当てられない。
「せっかく掴んだチャンス、絶対に逃すわけにはいかない。俺達は、一週間後の試験に必ず合格しないと。そのために、今できることを考えてみよう」
今はまだ、スタートラインに立っただけ。
ゴールに到達できるかどうか、それは、俺達の力にかかっている。
「要するに、お約束の特訓っていうわけっすね! くううう、熱い展開っす! 燃えてきたっす!」
「いや……サナが特訓するわけじゃないよ?」
「えぇ!?」
ガーン、というような顔になる。
そこまで特訓したいのだろうか?
サナって、人の妙なところに憧れているよな。
「あたしは、この子と今以上に仲良くなろうと思うの」
アリスは手を伸ばす。
すると、光の球……精霊がじゃれつくように動く。
「力を貸してもらわないといけないけど、まずは、信頼関係を築かないとね」
「うん、いいと思うよ」
「私は、この近くに巡礼の地があるみたいなので、そちらへ行ってみようと思います」
「こんなところに? 俺達もついていこうか?」
「いえ、大丈夫です。ナインがいますから。それに、この近くの巡礼地は、それほど危険なところではないので」
「うーん」
「どうしたんですか、ハルさん?」
「いや、アンジュってたまに無茶をするから、ちょっと心配で」
「いつも無茶をしているハルさんに言われたくないんですけど……」
「え?」
「ハルってば、自覚なしなのね……まあ、そういうところはハルらしくて、あたしは好きだけど」
みんな、やれやれというような顔になる。
俺、そんなに無茶はしていないよね……?
「ハルはどうするの?」
「俺も、二人と同じようにがんばってみるつもりだよ。他の人より多少強い魔力は持っているみたいだけど、それだけじゃあ、合格できないかもしれないからね。なにかしら、切り札になるような、あっと驚くようなものを考えてみたいと思う」
「ぜんぜん、多少、じゃないんだけどね」
「あっと驚く程度で済めばいいんですが……」
なんか、二人からの評価がひどい?
「また、新しい魔法でも開発するのですか?」
「似たような感じ?」
ナインの問いかけに、曖昧な答えを返した。
ちょっと危険が伴う行為なので、詳細を口にしたら止められるかもしれないと思い、適当にごまかしておいた。
ただ、そんな俺の考えはお見通しらしく、アリスとアンジュがジト目に。
「アリスさん。ハルさんは、また、なにかよからぬことを考えていると思いませんか?」
「ええ、思うわね。素知らぬ顔をして、とんでもないことをやらかそうとしているわ」
「な、なんでわかるの……?」
「「ハルだもの(ハルさんですから)」」
異口同音に二人は言う。
ここ最近、二人の息はぴったりだ。
「と、とにかく」
「ごまかしたわね」
「ごまかしましたね」
本当に仲が良い。
それは良いことなのだけど、今はちょっと困る。
「大丈夫。危険があるわけじゃないと……思うから」
「今、間が空いたね」
「空いたっすね」
「空きましたね」
シルファ、サナ、ナインが次々と言う。
俺に味方はいないのか……?
「はぁ」
やれやれ、というような感じで、アリスがため息をこぼす。
「ハルにはハルの考えがあると思うから、深く口出しはしないわ」
「あ、ありがとう?」
「でも!」
ビシッと、指を突きつけられる。
「絶対に無茶はしないこと! ハルになにかあれば、あたし達は悲しい。泣いてしまうかもしれない。そのことを、ちゃんと理解してね?」
「……うん。無茶はしない、約束するよ」
「ええ、約束よ」
俺とアリスは、笑顔で指切りを交わした。
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