128話 資格を得ただけ
「はい、これが紹介状だよ」
あらかじめ用意しておいたらしく、シノから紹介状を受け取る。
念の為に中を確認すると、俺とアリスとアンジュの三人に魔法学院の入学試験を受けさせるように、と書かれていた。
それと、ナイン、サナ、シルファの三人を付き人にすることも書かれていた。
「えっと……ちょっと話が違うと思うんだけど?」
試験を受けるのは、俺とアンジュとサナのはず。
アリスとナインとシルファを付き人に、という希望を伝えておいたのだけど。
「いやー、ごめんごめん。騙すとか、そういうつもりはまったくないんだよ。本来なら、君達が望む通りに、紹介状を書こうと思ったのさ。これは本当だよ?」
「なら、どうして?」
「ハル君とアンジュ君は申し分ないんだけどね。でも、サナ君は……ほら、ちょっとアレだろう?」
「ああ、なるほど」
「アレ!? 師匠、なに納得してるっすか!?」
サナがショックを受けたような顔に。
申しわけないとは思うんだけど、シノの言うことは理解できてしまう。
ドラゴンであるサナは、力は一級品。
魔力もとても高い。
ただ、性格がちゃらんぽらんというか、なんていうか……
入学できたとしても、ちゃんとやっていけるのかどうか、非常に不安だ。
それ以前に、力以外のところで問題が起きて、試験に落ちるかもしれない。
「そういうことなら、こちらとしては、特に問題はないかな」
「うん、理解してくれてうれしいよ」
「当事者の自分を抜きにして話を進めないでほしいっす!?」
「よしよし」
「うわぁーん!」
サナが吠えて、シルファに慰められて……
場が混沌としつつあるのだけど、話は進んでいく。
「紹介状は書いたけど、それだけ。魔法学院に入学する……学術都市に入るには、試験を突破しないといけない。そこについては、力を貸すことはできないかな」
「うん、それでいいよ。そこまでしてもらうには、さらなる対価が必要になるだろうし……後は、自分達でなんとかしてみせる」
「試験の合格率はとんでもなく低いのに、三人全員が受かると?」
「断言はできないけど、でも、やる前から諦めていたら意味がないから。俺達は、やれることをやって、がんばるだけかな」
「ふむ」
シノがじっとこちらを見つめてきた。
心を覗き込まれているような、そんな居心地の悪さを感じる。
いや、待てよ?
この感覚……どこかで。
「なるほど、なるほど。うん。やる気たっぷりというわけだね、頼もしい」
シノが口を開いて、そこで思考が霧散してしまう。
なにか思いつきそうだったのだけど……今の感覚、なんだったんだろう?
「それだけの自信があるのなら、もしかしたら、って期待できるかな?」
「期待に応えられるようにがんばるよ」
「うん、がんばってくれたまえ。君達みたいな才能あふれる人が来ることは、大歓迎だよ。学術都市の発展に繋がるし、それに、なにか新しい発見をしてくれるかもしれない」
今までの反応を見る限り、シノの言葉に嘘はないと思う。
俺達に対して、それなりに期待をしているのだろう。
ただ……少し引っかかる。
どうして、そこまでの期待をするのだろう?
俺の魔力のことは説明していないし、アンジュが聖女候補であることも教えていない。
シノが知ることは、サナがドラゴンということだけだ。
それだけの情報で、ここまでの期待を寄せるだろうか?
アリスが言っていたように、なにかを隠しているのかもしれないな。
疑惑は、ほぼほぼ確信に変わりつつあった。
「……とはいえ、敵とは思えないんだよな」
シノがなにを企んでいるか、それはわからないのだけど……
少なくとも、悪意あってのことではないと思う。
悪いことを企む人にありがちないやらしさは感じられないし、嫌な雰囲気も受けられない。
しかし、悪意ではないとしたら善意?
どんな目的を抱えて動いているのか、まったくわからない。
いったい、なにを考えているのか?
「うん? 今、なにか言ったかい?」
「いや、なんでもないよ」
どちらにしても、しばらくは警戒しておかないとダメか。
下手な行動はしないように注意しよう。
「うーん」
「どうしたの、アリス?」
「みんなのやる気を削ぐようなことは言いたくないんだけど、あたし、試験に受かるとは思えないんだけど」
「それは……」
「職業は、初級の剣士。当然、魔法は使えない……合格する要素、ある?」
アリスの言うことは自虐ではなくて、純然たる事実だ。
養護できず、黙ってしまうのだけど、
「いや、あるよ?」
シノは、それが当然のように、アリスの言葉を否定してみせた。
「ウチは魔法学院と言われているけれど、一芸に秀でていれば、特例として認められる場合があるんだよ。例えば、魔法に関する知識や、歴史の知識などなど。魔法が使えなくても、ある特定の分野に優れていれば、そこを評価されて、合格をもらえる場合があるのさ」
「特定の分野と言われても、それはそれで、なにもないから困るのだけど」
「あるじゃないか」
シノがニヤリと笑う。
彼女の意図がわからないらしく、アリスが小首を傾げる。
一方で、俺はシノがなにを指しているのか気がついた。
「それは、精霊?」
「その通り」
シノの視線が、アリスの周囲でふわふわと漂う精霊に向けられる。
「彼女は精霊に懐かれたという、非常に稀有な存在だ。それだけでも、かなりの価値がある」
「うーん……それはそうかもしれないけど、この子を利用するようなことは、ちょっと」
「なら、力を借りてみるといいさ。精霊の力を行使できることも、かなり貴重な存在になるからね。十分に試験は突破できると思うよ」
「それなら、まあ」
アリスが精霊に指を差し出す。
「あたしに力を貸してくれる?」
もちろん、というような感じで、精霊はアリスの指の上に乗るのだった。
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