126話 恩返し
フードで顔を隠した、いかにもな怪しい男達が三人、倉庫内に姿を見せた。
待ち伏せされているなんて、欠片も考えていないのだろう。
男達は周囲を警戒することなく、倉庫の奥へ進んでいく。
アリスとアイコンタクトをして、事前の作戦通りに動く。
まずは、男達が目的の場所に移動するまで様子を見る。
作業を開始したところで、二手に分かれ、左右からの挟撃の体勢に。
男達は、まだこちらに気がついていない。
魔力を右手に集中。
しっかりと狙いを定めて……
「ファイアボムッ!」
今まさに、商品を運び出そうとしていた男に、小規模な爆撃を叩き込む。
なにが起きたかわからない様子で、男は悲鳴をあげて昏倒した。
「な、なんだ!?」
「まさか、敵が……」
「気づくのが遅いのよ、ファストスラッシュ!」
動揺している間に、アリスが接近。
剣の腹で、もう一人の男の脇腹を薙ぐ。
男は苦悶の声をこぼしながら、その場に倒れた。
意識は残っているみたいだけど、立ち上がる力は残っていないみたいだ。
「くそっ、罠か!?」
残り一人。
ようやく状況を理解したらしいけど、すでに遅い。
俺は第二射の準備に入っていて、アリスも追撃の準備に移っている。
これで逃がすなんてありえない。
よほどのことが起きない限り、十秒後には、最後の一人の拘束も完了する。
……はずだったのだけど、よほどのことが起きてしまう。
「ししょー、自分、ヒマなんで手伝いにきたっす」
「「えっ!?」」
今度は、こちらがおもいきり意表を突かれてしまう。
まさか、サナが役割放棄してこちらにやってくるなんて思わず、アリスと揃って驚きの声をあげた。
それをチャンスと見たか、男はアリスに突撃する。
「こうなれば、てめえを人質にして……!」
「くっ!」
「アリス!?」
男の持つ短剣が閃いた。
回避できるタイミングじゃない。
それでも、アリスは剣で防ごうとするが、それも間に合いそうにない。
短剣がアリスの腹部に……
「えっ」
突き刺さると思われた瞬間、太陽が間近に降りたかのように、光があふれた。
視界が白一色に染まる。
しかり、熱は感じない。
どこか温かい感じがして、優しく抱きしめられているかのようだ。
「ぎゃっ!?」
光をまともに直視したらしく、男の悲鳴が聞こえてきた。
でも、俺はなんともないんだけど……これはいったい?
「アリス、大丈夫!?」
「う、うん。あたしは平気。でも、これは……?」
「わからない。わからないけど……たぶん、悪いものじゃないと思う」
その推測が正しいことは、すぐに証明された。
ほどなくして光が収まり……
白一色に染まっていた景色が元に戻る。
すると、ふわふわと漂う光の球が見えた。
「あなた、さっきの……」
「……」
「もしかして、助けてくれたの?」
「……」
光の球がゆっくりと上下に動く。
頷いている……のかな?
言葉は通じないみたいだけど、でも、意思は伝わっているみたいだ。
ちゃんと受け答えもできるみたいで……
精霊っていうのは、すごいなあ。
「そっか……うん、ありがとう。あなたには助けられたわね」
「……」
「もしかして、どういたしまして、って言っているの?」
「……」
「うん。こちらこそ、改めて、ありがとうね」
すごい、会話が成立している。
今まで見たことのない、そして、想像したこともない光景に、俺はただただ驚くだけだ。
精霊という不思議な存在。
そんな精霊に好かれるアリス。
色々な意味で、興味深い光景だった。
「あっ、師匠、見つけたっす」
サナが追いかけてきた。
最後の一人を捕まえたらしく、ドヤ顔をしている。
「見てください、師匠。自分、悪そうなヤツを捕まえましたよ? ふふーん、褒めてもいいっすよ? っていうか、褒めてください」
「……」
「えっ、なんすか。その、とても残念なものを見るような目は!?」
精霊は、とても賢くて、恩返しをするという良いところを見せたというのに、サナときたら……
やれやれ、とため息をこぼさずにはいられない俺だった。
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