表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/547

124話 潜入捜査

 結局、依頼は請けることにした。


 確かに、シノはなにかを隠しているかもしれない。

 ただ、悪いことではないと思う。


 今日、俺達が学術都市手前の宿場街に到着したことは、まったくの偶然。

 シノと出会ったことも、本当の偶然。

 それなのに、事前から色々と企み、仕込んでいるなんてことは、さすがに不可能だろう。


 俺達のこれまでのことから、今に至るまでの行動、全てを読んでいたという可能性はなきにしもあらずだけど……

 そこまでくると、もはや神の領域だ。

 そんなことはできないと、結論づける。


 故に、シノは即興でなにかを思いついた。

 学院長という立場もあるし、悪いことではないだろうと判断した。

 そんな感じだ。


 その後、俺達は……


「まさか、すぐに動くなんてね」

「それだけ急な用件なのかもね」


 夜の宿場街。

 俺とアリスは、人気のない倉庫街で、物陰に身を潜めていた。


 この倉庫街には、学術都市に流通するありとあらゆる商品が保管されている。


 自給自足には限界があるため、学術都市といえど、いくらかの商品は外から取り寄せている。

 ただ、検閲なしに流通させることは絶対にない。


 一時的に、倉庫などの保管。

 そこで問題がないかの検品をした後、ようやく、学術都市の内部に送られることになっている。


 この倉庫街にある商品は、検品を終えて、明日、学術都市に運び込まれる予定のものが保管されている。


 シノ曰く、これらの商品を別のものとすり替える輩がいるらしい。

 盗聴器などがついたものと取り替える。

 あるいは、もっと大胆に、スパイを内部に忍ばせた本物と偽物を取り替える。

 それを足がかりにして、学術都市の内部へ潜入する。


 そんな情報を掴んだシノは、スパイの摘発を考えるものの、手が足りない。

 そこで、俺達に目をつけた……らしい。

 あの後、連絡をとると、そんな説明をされた。


 そして、俺達が依頼を請けると確信していたらしく、そのまま仕事へ。

 やっぱり、油断ならない人だ。


「でも、本当にスパイなんて現れるのかしら?」

「シノさんの話だと、今夜、確実に現れるみたいだね。倉庫街に保管されている商品に細工をするために、中へ侵入するとか」

「そこをあたし達が捕まえる、っていうわけね」

「そういうこと」

「んー」


 アリスが考えるような仕草を取る。


「シノさんのこと、まだ疑わしい?」

「それはもちろん」

「容赦ないね……」

「いきなり話しかけてきて、協力してほしい。そうすれば、魔法学院への紹介状を書いてあげる、なんて言われても信じられるわけないじゃない。なにかしら裏があるに決まっているわ。ハルも、そう考えているんでしょ?」

「うん、まあ。なにかしら裏があるのは間違いないと思うけど……悪い感じはしないんだよね」


 悪意は感じられない。

 まあ、それすらも巧妙に隠しているだけなのかもしれないけど、その時は、もうお手上げだ。

 役者のような演技ができる人の嘘を見抜く観察眼なんて、俺にはない。

 できることは、ただ愚直に信じるだけ。


 でも、それでいいと思う。

 あまり大したことはできない俺だけど……

 でも、心が腐ったりしたら目もあてられない。


「とりあえず、依頼をがんばろうか。なにか隠されているとしても、今、この場で罠にかけられることはないと思うからね」

「それは、どうして?」

「俺達を罠にかけるなら、あえて接触なんてしてこないよ。秘密裏にコソコソと隠れてやった方が、遥かに効率がいい」

「それもそうね。うん、さすがハル。ちゃんと見て、ちゃんと考えているのね」

「アリスに教わったことだよ」

「ふふっ、よかった。あたし、ハルの力になれているのね」


 うれしそうに笑うアリスと一緒に、あらかじめ用意してもらった鍵を使い、倉庫の中に入る。

 シノに指定された倉庫だ。

 彼女の推理では、ここにスパイが現れるという。


 ちなみに、他のみんなは別行動だ。

 スパイが逃げた時に備えて包囲網を敷いてもらっている。


 倉庫街の入り口は二つ。

 アンジュとナイン、シルファとサナのコンビが、それぞれの入り口を見張り、スパイを待ち構えている。


 これならば、と思う作戦だけど、油断はできない。

 一人でもスパイを逃がしたら、依頼は失敗。

 紹介状も書いてもらえないだろう。

 そうならないように、がんばって仕事をしないと。


「ハル」

「うん?」

「あまり気負わないでね? ハルには、あたし達がいるんだから」

「……うん、ありがとう」


 アリスはいつも頼りになるな。

 彼女がいれば、大抵のことはなんとかなるような気がした。


「それにしても、大きな倉庫ね」

「ここの倉庫が一番、大きいらしいよ。学術都市に納品される、ありとあらゆる品が保管されているみたいだからね」

「それ故に、スパイに狙われやすい、っていうわけか。あのちびっこ学院長も、ちゃんと考えてものを言っているみたいね」

「あはは、その言い方、本人が耳にしたら怒りそうだね」

「内緒よ?」

「了解」


 笑いつつ、指定された待機場所へ向かう。


 どういう根拠があるのか、シノは、スパイが現れる時間も指定していた。

 たぶん、彼女の言う通り、スパイは指定された時間……三十分後に現れるのだろう。

 だから今はまだ、おしゃべりをしていても構わない。


 ただ……そこまでわかっているのなら、やはり、自分で動いた方が確実だと思うのだけど。

 どうして、俺達を雇ったのか、なかなかに理解に苦しむ。


 とはいえ、ここで降りるという選択肢はない。

 学術都市に入るために、魔法学院に入学するために、やれることをやるだけだ。


 アリスと一緒に、所定の位置に移動した。

 あと二十分ほどで、少し離れたところにスパイが現れるはずだ。


 それまでは待機。

 念の為に、これ以上の会話も控えて……


「あら?」


 ふと、アリスが不思議そうな顔をした。


「ねえ、ハル。今、なにか言った?」

「え? いや、なにも」

「おかしいわね。なにか、声が聞こえたような気がするんだけど」

「もしかして、俺達よりも先にスパイが?」


 周囲の様子を探るものの……

 しかし、人の姿はない。


「誰もいないと思うけど……気の所為っていうことは?」

「ない、と思うんだけど」


 アリスも自信がないらしく、怪訝そうに周囲を見回していた。


 と、その時。


「……タスケテ……」


 その声は、俺にも聞こえた。


『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマークや☆評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ