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123話 学院長の依頼

 突然のシノの申し出に、俺達は顔を見合わせてしまう。


 どうやって入学しようか迷っていたところに、向こうから手を差し伸べられた。

 運が良い……と考えるほど、さすがに楽観的ではいられない。

 なにかしら裏がある、と考えた方が自然だ。


「どうして、そんなことを?」

「ドラゴンをパーティーメンバーにしているっていうことは、きみ達もそれなりの実力者なんだろう? 特に、きみときみからは、強い魔力を感じられる」


 シノは、俺とアンジュを指差した。


 さすが、魔法学院の学院長。

 詳細は知らないだろうけど、俺とアンジュが魔法特化ということを、見ただけで見抜いたらしい。


「優秀な人材をスカウトする。それも、学院長の役目だと思わないかい?」

「そう言われるのはうれしいけど、でも、学院に入学するっていうことは、学術都市に入ることだよね? そんなに簡単に部外者を入れてもいいの?」

「こう見えて、僕はかなり偉いんだよ? 魔法学院の権力は、かなりのものだからね。学術都市でも、領主に次ぐ発言力と権限を持っているのさ」

「へえ」


 こんなに小さいのに、そんなところまで登りつめているなんてすごい。

 素直に感心していたら、アリスがこそっと耳元でささやいてきた。


「……ハル、騙されないで」

「……え、なにが?」

「……嘘は言っていないだろうけど、この子、油断ならないわよ。ひょっとしたら、独裁者、っていう可能性もあるわ。あまり心を許さないで」

「……ああ、なるほど」


 アリスの言いたいことを察した。


 エルフで百歳を超えていたとしても、シノの見た目は子供だ。

 そんな彼女を重要なポジションにつけることに反対する人はいるだろう。

 子供にそんなことは任せられないと、頭の硬い人はどこにでもいるものだ。


 しかし、シノは違う。

 学院長という座に収まり、領主に次ぐ発言力と権限を持っている。


 それだけの力を得るのに、どれだけのことをしてきたか?

 それだけの力を維持するのに、どんなことをしてきたか?


 もしかしたら、ミリエラのような暴君……独裁者という可能性もある。

 アリスは、そのことを懸念しているのだろう。

 日々、勉強は欠かしていないため、そういう意図も読み取れるようになった。


 こんな人が善意で手助けをしてくれるわけがない。

 なにか裏があるに違いない。


 そんな判断をアリスはしているのだろうけど、果たして?


「目的はそれだけ?」

「え?」

「タダで紹介状を書いてくれるのなら、それは願ったり叶ったりだけど、その辺りはどうなのかな?」


 腹の探り合いをしても仕方ないと思い、直球で踏み込んでみた。


 シノはキョトンとして……

 それから、楽しそうに肩を震わせて笑う。


「くくく、きみは馬鹿正直なのかな? それとも、とんでもない知略の持ち主なのか……うーん、なかなか判断に迷うね」

「善意なのか、悪意が混ざっているのか。真偽はこちらで判断するから、とりあえず、シノがどう思っているのか教えてくれない?」

「まったく……本当に、きみは面白い。うん、面白い。僕が人間に興味を持つなんて、いつ以来かな? 本当に、純粋な善意で紹介状を書きたくなってきたよ」

「ということは、善意じゃない?」

「うん、そういうことになるかな? ああ、でも勘違いしないでくれよ。悪意があるわけじゃないんだ。ただ、打算があるんだよ」

「打算?」

「紹介状を書く代わりに、ちょっとした依頼を請けてくれないかな?」




――――――――――




 知識の山と言われるほどに、学術都市には様々な情報が揃っている。

 魔法に関するもの。

 歴史に関するもの。

 技術に関するもの。

 その価値は計り知れないほどで、うまく利用すれば、巨額の財産を築くことができる。

 あるいは、人を超えるような力を手に入れることができる。


 そう言われているほどに、学術都市の情報は貴重だ。

 厳重に管理されて、都市に出入りする人も制限されるほど。


 しかし、いつの時代も悪い人はいる。

 学術都市の情報を狙い、多くのスパイが足を運んでいるらしい。


 学術都市の警備は強固ではあるものの、完璧ではない。

 少数ではあるが、スパイによる被害が出ているらしい。


 そして今回、新たなスパイを発見したという。

 しかし、すぐに捕まえることはしないで、あえて泳がせることで仲間をまとめて一網打尽にしよう、とシノは考えた。


 ただ、人手が足りない。

 学術都市内で人を動かそうとしたら、どうしても目立つ。

 結果、スパイに行動を読まれてしまっては意味がない。


 そこで目をつけたのが俺達だ。

 外にいる俺達を利用して、スパイを追い込み、壊滅させる。

 そんな作戦を思いついたらしい。


「どう思う?」


 一通り、話をした後、シノは考える時間が必要だろうからと宿を後にした。

 明日、返事を聞くために戻ってくるらしいから、それまでにみんなの意見をまとめないといけない。


「私は賛成でしょうか。話の筋は通っていますし、そこまで怪しいとは思いませんでした。恩を売る、という意味でも、請けてもいいのではないかと思います」

「私も、お嬢さまとほぼほぼ同じ意見です。ただ一つ、付け加えるのならば、依頼を請ける際に正式な契約書を交わすべきかと。もしかしたら、契約を破棄されるかもしれません。その可能性を考慮して、詰めるところは詰めるべきかと」

「アンジュとナインは賛成……と。シルファは?」

「んー……嘘は言っていないと思うから、賛成かな? スパイとか、よくあることだからね。学術都市なら狙う人はたくさんいるだろうと思うし、本当の話だと思う。それと、シルファ達を騙す理由もないし」

「シルファも賛成、と」


 ちなみに、サナは未だに気絶していた。

 というか、気絶を通り越して寝ていた。

 なんていうフリーダムなドラゴン。


「アリスは?」

「うん……あたしも、基本は賛成。特に異論はないわ」


 そう言う割に、どこか渋い顔をしている。


「なにか懸念が?」

「懸念というか、引っかかるところがあるのよね。今回の依頼については、なにも問題はないと思う。あ、危険性とかはもちろんあるだろうけど、そういう問題じゃなくて、裏があるかどうか、っていうところ。その点は心配しなくてもいいと思うわ。ただ……」

「シノそのものに、なにか秘密が隠されている……とか?」


 補足してみると、アリスが驚いたような顔に。


「ハル、気がついていたの?」

「うん。これだ、っていう根拠はないんだけどね。漠然とだけど、そういうものを感じているよ」

「えっと……どういうことですか?」


 不思議そうにするアンジュに説明をする。


「今回の依頼について裏はないと思うし、シノが俺達を引き込みたい、っていうところも本音だと思う。ただ、そういうのとは別にして、シノはなにかを隠しているような気がしたんだ」

「それは、いったい?」

「ごめん。それはわからないんだ。大したことじゃないのか、それとも、とんでもない事実が隠されているのか。それはハッキリとしないんだけど……」

「少なくとも、シノはなにかを隠している。その上で、あたし達に接触してきた。それは、間違いないと思うわ」

「そのようなことを見抜いてしまうなんて……」

「さすがでございますね」

「答えがわかったわけじゃないから、褒められたことじゃないんだけどね。それに、勘のようなものだから、外れている場合もあるだろうし」


 シノはなにを隠しているのか?

 ミリエラと同じように、実は魔人でした、なんて答えだったら笑えない。


「その点を踏まえて、もう一度考えてほしいんだけど……今回の依頼は、請けた方がいいと思う? それとも、請けない方がいいと思う?」


 俺は、改めてみんなに問いかけた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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