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122話 小さな学院長

「え!?」


 と、思わず大きな声をあげてしまったのは、仕方ないことだと思う。

 だって、こんなに小さな女の子が魔法学院のトップなんて、普通は思わない。


 普通、高齢の威厳ある人とか、そういう人物像を思い浮かべるのだけど……

 それとは真逆だ。


「よしよし」


 シルファが女の子の頭を撫でた。


「あれ? 僕はなんで撫でられているのかな?」

「背伸びしたい年頃。うん、それは悪いことじゃないかな。でも、シルファ達は真面目な話をしているの。邪魔しないでね?」

「いやいやいや。僕を子供扱いしないでくれるかな? 英雄を勝手に名乗る、痛い子みたいな扱いをしないでくれるかな?」

「え?」

「違うの? みたいな反応はやめてくれるかな!?」


 女の子がバンバンとテーブルを叩く。

 そういう子供みたいな仕草をするから、シルファに雑な扱いをされるのではないか?

 そんなことを思うものの、やぶ蛇になりそうなので口にはしないでおいた。


「えっと……ごめんなさい。あなたの外見が外見だから、その言葉をそのまま受け止めるわけにはいかないの。証拠はある?」

「これなんてどうだい?」


 アリスの問いかけに、女の子は一枚のカードを取り出した。


「冒険者カード? 学院のトップなのに、冒険者を兼ねているの?」

「学術都市は、基本、部外者立ち入り禁止だからね。他所の冒険者も受け付けていないから、なかなかに人手不足なのさ。だから、いざという時のために、僕も登録しているんだよ」

「納得はできる話だね」

「そうね……とりあえず、確認させてもらうわね」


 みんなで女の子の冒険者カードを見る。


 シノ・フラムシュタイン。

 女。

 360歳。

 職業、賢者。魔法学院学院長。

 レベル100。


「「「え?」」」


 ありえない情報が記載されていて、俺を含めて、みんな目を丸くした。

 そんな俺達の反応を見て、女の子……シノは得意そうに胸を張る。


「ふふん、どうだね? これで僕が学院長であることが証明できたと思うが……おっと、いけないな。僕が賢者で、しかもレベルカンストしていることもバレてしまったか。はっはっは」

「あなた……」

「うん、なにかな?」

「十二歳くらいの子供じゃなかったの!?」

「驚くポイントはそこかい!?」


 実のところ、俺もアリスと同じで、一番驚いたところは彼女の年齢だ。

 てっきり、十二歳くらいだと思っていたのに……

 その予想を大きく外して、三百歳超えとか。

 そんなこと予想できるわけないし、驚いて当然のことだと思う。


 というか、三百歳超えってどういうことだろう?

 普通なら死んでいるのだけど……


 疑問に思ったところで、ふと、女の子にもう一つの特徴があることに気がついた。

 耳が長く、ピンと先が尖っている。

 よくよく見てみないとわからないくらいの差異だけど、常人にはありえない特徴だ。


「その耳……」

「お、気づいたかい? 実は僕、エルフなんだよ」


 森の民エルフ。

 彼女達は、そう呼ばれている。


 自然と共に生きて、自然と共に死ぬ。

 魔力に長けていて、幼くして多くの魔法を扱えるとか。

 寿命は人の十倍以上と言われていて、中には、数千年を生きたエルフもいるとか。


 基本的に内向的な種族で、森の外に出てくることは少ないと聞いているのだけど……


「ああ、僕はちょっと特殊な感じでね。外の世界に興味があって、里を飛び出して……で、持ち前の魔力と才能で学術都市入りして、学院長に登りつめた、っていう感じかな」


 こちらの疑問を察した様子で、シノがそう説明してくれた。


「で、これで僕が学院長だと信じてくれたかな? ……信じてくれたよね?」


 二度目の台詞は、やや不安そうなものだった。


「うん、俺は信じるよ。みんなは?」

「まさか、っていう思いはあるのだけど、これだけの証拠を見せられたら信じないわけにはいかないわね」

「はい。まさかのエルフなんて、驚きましたけど……私も信じます」

「私も異論はございません」

「シルファも同じく」

「うんうん、ようやく納得してくれたかい。そう、僕こそが、学術都市トライアルの魔法学院を束ねる者、シノ・フラムシュタインなのさ!」


 ババーン、というような効果音が流れてきそうな勢いで、シノがドヤ顔をした。

 疑われたり子供だと思われたりしたため、色々と思うところがあり、認めてもらえたことはうれしいのだろう。


 こうして、彼女の素性を知ることができたのだけど……

 それはそれで、新しい謎が出てきた。


「学院長が、どうして俺達に?」


 良い方向で考えるならば、学院のことを教えてくれるため。

 悪い方向で考えるならば、不穏分子として事前に排除をするため。


 どちらなのか?


 緊張しつつ、シノの返事を待つ。

 彼女はニヤリと笑い、


「なに、大したことじゃないさ。きみ達に興味があってね。それで、声をかけさせてもらった、というわけだよ」


 そんな答えを口にした。


 その言葉をそのまま素直に受け止めるには、まだ早計なのだけど……

 しかし、悪意や敵意は感じられない。

 少なくとも、すぐに敵対することはなさそうだと、安心していいだろう。


「どうして、あたし達に興味を持ったのかしら? そこのところ、詳しく教えてくれない?」


 アリスは警戒を続けているらしく、問い詰めるような口調だ。


 そんな鋭い言葉を受けたシノは、不機嫌になることはなくて……

 むしろ、不思議そうに問い返す。


「うん? 興味を持つなんて、それは当たり前のことじゃないかな」

「どうして?」

「そこの彼女だよ」


 シノは、未だ気絶したままのサナを指差す。


「彼女、ドラゴンだろう? ドラゴンを連れている人なんて、初めて見たよ。気になって当然だと思わないかい?」

「……」


 至極まっとうな主張に、アリスは言葉を失う。

 他のみんなは、そういえばそうだった、というような感じだ。


 サナって、日頃の言動のせいか、偉大なるドラゴンって感情を抱かせてくれないんだよね。

 おかしな言動を連発する、おもしろ困った子、という認識なんだよね。


「えっと……うん、シノが俺達に興味を持つ理由はわかったよ。でも、どうして好意的に接してくれるのかな? もしかしたら、悪人かもしれないよね」

「こう見えても、僕は人を見る目はあるつもりでね。善人と言っていいか、そこは迷うものの……悪人ではないと判断した。そして、ドラゴンを連れているという特異な人達が、僕の学院に興味を持っている。学院長としては、声をかけないわけにはいかないだろう?」

「なるほど」

「そんなわけで、声をかけさせてもらった、というわけさ。もしかして、きみ達は、学院に入学したいのかな? それなら、僕が紹介状を書いてあげてもいいよ?」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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