117話 VSキマイラ・その2
「あっ」
しまった。
サナのことを完全に忘れていた。
「あちゃちゃちゃちゃちゃ!?!?!?」
角と尻尾が燃えていた。
サナは両手両足をわちゃわちゃとさせつつ、悲鳴をあげて駆け回る。
そんなサナを見た俺は……
キマイラの炎を浴びて、熱いくらいで済むなんて、とことん頑丈だなあ。
なんて、のんきな感想を抱いてしまうのだった。
って、いつまでものんびり眺めている場合じゃない。
「サナ、ストップ!」
「は、はいっす!?」
「ファイアボムッ!」
サナが止まったところで、その手前で威力と範囲を絞り、魔法を炸裂させた。
衝撃波が吹き荒れて、サナの角と尻尾についた炎を消し飛ばす。
「あちゃちゃちゃちゃちゃっ!?!?!?」
「あっ」
炎は消し飛ばすことができたのだけど、熱波が直撃したらしく、再びサナが悲鳴をあげていた。
その場でダンスを踊るように飛び跳ねて……
ややあって落ち着いたらしく、動きを止める。
それからゆっくりとこちらを振り返り、涙目を向けてきた。
「ししょぉおおお~」
「ごめん……いや、本当にごめんなさい」
平謝りするしかない俺であった。
「我を無視して、なにをふざけている!?」
激怒したキマイラが、俺達を踏み潰そうと前足を大きく上げて、叩きつけてきた。
俺とサナは左右に跳んで回避。
「師匠っ、コイツなんなんっすか!?」
「敵だ!」
「ラジャーっす!」
悪魔を名乗っているとか、みんなを誘拐したとか、余計な情報を与えると、サナの場合混乱する恐れがある。
なので、シンプルに一言、そう伝えた。
その判断は正解だったらしく、サナはすぐに迎撃行動に移る。
「よくもやってくれたっすね!」
サナの怒りの拳が炸裂した。
しっかりと大地を踏みしめて、腰を入れて、拳を叩きつける。
ゴンッ!!! という強烈な音が響く。
「ギャアアアアアッ!?」
やや遅れて、キマイラの悲鳴。
鎧のように硬い毛も、ドラゴンの拳の前では無力だったらしい。
苦痛に悶えている。
たぶん、骨の一本か二本はいったのではないだろうか?
「このっ……クソガキがぁあああああ!!!」
怒り狂うキマイラが、その牙でサナを噛み砕こうとする。
サナは避けようとすらしない。
その場で仁王立ちをして……
「ふんすっ!」
噛みつかれる瞬間、両手を広げて、キマイラの噛みつきを受け止めた。
「あがっ、あががががが!?」
キマイラはそのまま噛みちぎろうとするが、しかし、サナの力に勝てず、押し切ることができない。
後退しようとしても、サナに捕まえられているようなものなので、それも叶わない。
なんとかしようと、蛇の尻尾でサナを攻撃しようとするが、
「ナイン!」
「はい!」
アリスとナインが駆けて、それぞれ武器を構える。
「ホーリーウエポン!」
アンジュが補助魔法を唱えた。
二人の武器が淡い光に包まれる。
「クロススラッシュ!」
「火断!」
アリスとナインの息の合ったコンビネーションが炸裂して、蛇の尻尾を切り落とした。
これでもう、キマイラは抵抗することができない。
「師匠!」
「ああ!」
ぐいっと開かれているキマイラの口の中に、あえて手を突っ込む。
俺の意図を察したキマイラが、慌てたように言う。
「ま、待て!? 我が悪かった、このようなことはもうしない! だから……」
「悪いけど」
魔力を収束させて、
「みんなを傷つけようとしていた時点で、助けるなんていう選択肢はないんだよね」
一気に解き放つ。
「まっ……!!!」
「ファイアボム!」
キマイラの体内で魔法を炸裂させた。
ボゴン! という鈍い音がキマイラの体内から響いてきた。
「……」
キマイラが白目を剥いた。
サナが強引にこじ開けている口から、煙が湧き出てくる。
巨体から力が抜けて、そのまま地面に倒れた。
「ふう」
無事に倒すことができてよかった。
みんなは無事。
それと戦う場所を離していたため、一応、村人達も無事だ。
まあ、彼らについては、みんなを勝手に生贄にした経緯があるから、助かってよかったね、なんていう話で済ませるつもりはない。
しっかりとした説明と謝罪を求めるつもりだ。
場合によっては、騎士団に通報することも考えている。
「おつかれさま、サナ」
「えへへ、自分、役に立ったっすか?」
「ものすごく。ありがとう」
「ふへ、ふへへへ」
「それじゃあ、まずは村人達を起こして事情を……
「ふむ……まさか、キマイラが倒されるとはのう」
突然、第三者の声が乱入してきた。
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