113話 神隠し?
「誰もいない?」
部屋を見て回るものの、みんなの姿はない。
それだけじゃない。
宿の店主の姿も消えていた。
最初からいなかったかのように、忽然と消えていた。
「ハルさん、こちらも誰もいないです」
店の奥を調べていたアンジュが戻ってきて、そう報告してくれた。
そうなると、この宿には誰もいないことになる。
揃ってどこかに出かけている……なんてことはないか。
そんな偶然、あるわけがない。
なにかしらの事件に巻き込まれた、と考えるのが普通だよな。
でも、宿の主人まで消えているのは不可解なんだけど……
「ひとまず、村の方を探してみようか」
「はい、わかりました」
もしかしたら、みんなは外に出ているのかもしれない。
そんな淡い可能性に期待するのだけど……
「……これは、どういうことなんだろう?」
みんなの姿はない。
村人の姿もない。
夜だから出歩いている人はいない。
それは当たり前のことだけど、ただ、家に灯りがついていない。
一軒、二軒なら問題ないかもしれないけど、全部の家の住人がもう寝てしまっているなんて考えづらい。
みんなだけじゃなくて、村人全員も消えた……?
「これはもしかして、神隠しでしょうか?」
「カミカクシ?」
「色々な場所を旅してきた中で、そういう言葉が使われている地域がありました。人が突然、神さまに誘拐されたかのように消えてしまうことがあり」
「だから、神隠し?」
「そうです」
そんなバカなことが……
と言いたいのだけど、一蹴することもできない。
現に、誰も彼も消えてしまった。
「……あれ?」
「どうしたんですか?」
「足跡だ」
夜の闇のせいで気がつくのが遅れたけど、地面に足跡がついていた。
かなり強く踏みしめたらしく、しっかりと足跡が残っている。
しかも、一つだけじゃなくて複数。
バラバラではなくて、規則正しく並んでいて……
なにか重いものを協力して運んだのだろうか?
そんな足跡に見えた。
「追いかけてみよう」
「わかりました」
二人で足跡を追跡する。
視界は悪いけど、しっかりとした足跡がたくさん残されているため、迷うことはない。
「ハルさん、明かりは大丈夫ですか? よかったら、魔法で明かりを作りますけど」
「えっと……やめておこう」
「いいんですか?」
「もしかしたら、事件の可能性もあるから。敵がいたら、俺達の存在、居場所を教えることになるから、なるべくなら避けたいかな」
「あ、それもそうですね……私、そこまで考えていませんでした。すみません」
「気にしないで」
謝るようなことじゃないので、さらりと流す。
ただ、アンジュは思うところがあるらしく、神妙な顔に。
「どうかしたの?」
「私……ナインに頼り切りなんだなぁ、って」
「それは?」
「色々なことを知っているつもりで、でも、知らないことが多くて。今も、ハルさんに言われなければ、特に考えることなく明かりを点けていたと思いますし……うぅ、ダメダメです」
「そんなことないよ」
アンジュでダメということになるのなら、俺なんてどうすれば?
俺の方がものを知らないし、知識もない。
あるのは、よくわからない力だけ。
でも、俺なんてどうしようもないから……と、卑下することは、やめようと思う。
まあ、半分クセになっているから、気がついたら口にしてしまうことはあるんだけど……
でも、それも意識して改善して、いつか、たくさんの自信を持って、胸を張れるようになりたい。
一人だと無理かもしれない。
でも、俺は一人じゃないから。
アリスがいて、みんながいてくれる。
そのおかげで、前に進むことができる。
「だから、誰かを頼りにすることは、悪いことじゃないと思うよ。むしろ、いいことなんじゃないかな?」
「……ハルさん……」
「一人でなんでもできる完璧な人なんていないよ。きっと、誰もが色々な人を頼りにしていて、それは当たり前のことで……だから、どんどんナインを頼りにしよう」
「それで、いいのですか?」
「後で、恩を返せばいいと思うよ。俺も、そうするつもりだから」
「……ハルさんは、強いですね」
「よくわからないけど、魔力だけはあるみたいだからね」
「いいえ、そういうことではなくて……ふふっ。そんなところも、ハルさんらしいです」
「?」
よくわからない。
一応、褒められているのかな?
「ハルさん。私、がんばりますねっ」
「うん、応援しているよ」
「それで、その……できれば、ハルさんも一緒に……」
「あっ」
アンジュがなにかを言いかけるのだけど、そこで、人の話し声のようなものが聞こえてきた。
「アンジュ、静かに」
「うぅ……なんで、このようなタイミングで」
なにやらアンジュが落ち込んでいるのだけど、今は気にすることができない。
今まで以上に慎重に足跡を追跡して……
しばらく進んだところで、山の麓に到着した。
クレスト山と同じく、それほど標高は高くないみたいだ。
綺麗に整理されていて、道も作られている。
山道の手前に、村人達らしき人々が集まっていた。
円を描くようにしていて……
その中央に、祭壇らしきものが見える。
食べ物や美術品など、お供え物らしきものも。
そして……
「あれは……みなさん?」
俺達は近くの茂みに隠れて……
そして、隣のアンジュが小さな声で驚く。
ロープなどで拘束されたみんなが、祭壇に見えた。
それはまるで、生贄のようだった。
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