112話 違和感
「てい……やー!」
サナがジャンプ。
そのまま、全身を投げ出すようにしてベッドに着地して……
「ごはっ!?」
全身をしたたかに打ちつけて、悶えた。
「し、師匠……このベッド、硬いっす……」
「まあ、小さな村の宿だからね。上質なものがあるなんてことは、考えづらいかな」
「おおぅ……痛い痛い」
「野宿よりはマシだから、ベッドがあるだけでもよしと考えないとね。ほら、サナも遊んでいないで、荷物を置いたら食事にしよう」
「ちょっとくらい心配してほしいっす……って、あれ?」
「どうかした?」
「よくよく見てみると、この部屋、ボロいっすね」
「まあ、小さい村だからね」
「でも、あちこちに傷があって、相当なものっすよ」
「傷?」
サナが指差す先……壁を見てみると、なにかがぶつかったような感じで、一部が凹んでいた。
それだけじゃない。
刃で付けられたような跡や、黒く焦げた燃え跡のようなものも見えた。
火事に遭ったというわけではなくて……
火魔法を部屋の中で唱えた、というような印象だ。
「なんだ、これは……?」
人が利用すれば、部屋はだんだんと劣化していく。
時に、傷つくこともある。
小さい村の宿ならば、修理費を惜しみ、そのままにしておくこともあると思う。
でも……
それにしては、ちょっと異常じゃないだろうか?
よくよく見てみると、部屋のあちらこちらが傷ついている。
まるで、この部屋の中で戦闘が行われたようだ。
それも一回だけじゃなくて、何度も何度も。
気にしすぎなのか、それとも……
「あ、はい」
ふと、扉をノックする音が響いた。
どうぞ、と言うとアンジュが顔を見せる。
「ハルさん、突然、すみません」
「別に謝ることなんてないよ。それよりも、どうかした?」
「この後は、食事ですよね?」
「そうだね。小さいけど、一階は食堂になっているみたいだから、そこで食べよう」
「その前に、ちょっとだけ付き合ってほしいところがあるのですが、お願いできませんか?」
――――――――――
「勇者の墓が近くに?」
宿を出て、アンジュと二人で歩く。
その途中で、目的を話してもらった。
「はい。聖女候補になると、歴代勇者さまのお墓の位置を感じ取れるようになるんですが……それが、この村のすぐ近くにあることがわかって」
「そういうの、事前に把握しているものかと思っていた」
「把握しているお墓は、もちろんありますが、そうでないお墓もありまして……」
歴代勇者の墓は、その存在が神聖視されることで、秘境などに建てられる場合がある。
この村の近くにある勇者の墓も、同じような理由で、人里から遠く離れたところに作られたらしいけど……
あまりに時が経ちすぎたため、人々からその存在を忘れ去られ、野ざらしに。
そして、教会が管理する情報からも漏れることになったのだろう。
そんな推理を聞かされた。
「せっかくなので、巡礼を済ませておきたいと思って」
「それはいいんだけど、護衛は俺だけでいいの?」
「はい。ナインに調べてもらったのですが、すぐそこで、危険はないみたいですから。あと、ナインが、これは二人きりになるチャンスです、というよくわからないことを言われて……」
「うーん? それは、確かによくわからないね」
「はい、わからないですよね」
二人、揃って首を傾げつつ、勇者の墓がある場所へ向かう。
その場所は、村のすぐ近くにある小さな森の中だった。
小動物達が暮らす森の中に、小さな小さな広場が。
木々のカーテンが一部開いていて、そこから差し込む月明かりが、墓を照らしていた。
「確かに、危険はなさそうだね」
小動物の気配はするけど、魔物の気配はない。
小動物がのんびりと暮らしているから、獰猛な獣がいるということもないはず。
「すぐに祈りを済ませてしまいますね」
「うん、了解。一応、俺は周囲を見てくるよ」
離れても問題はないと判断して、周囲の警戒にあたる。
「って……やっぱり、特に問題はないかな」
小さな森だから、草木が生い茂るということもなくて、視界はクリアーだ。
なにか凶悪なものが潜んでいる様子はないし、穏やかなもの。
これなら特に問題はないだろう。
そう判断して、アンジュのところへ戻ろうとして……
「うん?」
少し離れたところから、人の声らしきものが聞こえてきた。
こんな夜に、こんなところに人が?
気になり、声の方に足を向ける。
「……間に合うか? 今夜は……もう……」
「……大丈夫だ。食事に……すぐに運べば……」
森から少し離れたところ……村と森の中間の辺りに、二人の人影が見えた。
「これは……」
どこからどう見ても密談だ。
ついつい身を隠して、話を盗み聞いてみる。
「……ちょうどいい具合に……これで、なんとか時間を……」
「……俺は薬を……そちらは、搬送の準備を……」
少し距離があるせいか、断片的にしか聞き取れない。
気になるものの、これ以上近づけば、バレてしまうと思う。
普通に考えて、なにかしらの悪事を企んでいるのだと思うけど……
ただ、どうしたものか?
見た感じ、普通に話をしているだけなので、悪事の証拠はなにもない。
とぼけられたらそこで終わりだし、そうじゃなくて、誤解という可能性もある。
「みんなで情報を共有しておこう」
そう決めて、俺はそっと森の中に引き返した。
「あ、ハルさん。どうでした?」
勇者の墓へ戻ると、ちょうど巡礼を終えたらしく、アンジュがそう尋ねてきた。
「問題があるというかないというか……なんともいえないんだけど、ちょっとおかしなことを見つけたから、宿に戻ってみんなで相談をしたいかな」
「そうなんですか? なら、急いで戻りましょう」
「一応、静かにね」
「はい」
俺とアンジュは、闇夜に紛れるようにして宿へ戻る。
幸い、誰にも見つかることはなくて、問題になることもなかった。
ただ、戻った宿で別の問題に遭遇することになり……
「アリス? シルファ? サナ? ナイン?」
みんなが消えていた。
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