109話 魔法学院
「魔法学院?」
初めて聞く単語に、俺は首を傾げた。
ただ、知らないのは俺だけらしく、アリスとアンジュは不思議そうな顔をすることはない。
「魔法学院っていうのは」
いつものように、アリスが説明をしてくれた。
学術都市が運営する学院で、その名前の通り、魔法に関する授業・研究が行われている。
魔法を学びたいもの。
あるいは、自分の手で開発して切り開きたいもの。
そんな人達が世界中から集まり、日々、研鑽が積まれているのだという。
もちろん、誰でも入学できるわけじゃない。
まず最初に、推薦状が必要に。
その次に、実技試験。
それから、筆記試験。
さらに面接、莫大な入学金、過去の経歴の調査……などなど。
数えるのもうんざりするほどの関門を乗り越えて、ようやく入学が許可されるという。
「なんていうか、すごいね」
予想以上にすごい話を聞かされたことに驚いて、逆に、そんな感想しか出てこない。
俺、語彙力貧弱。
「入学することが難しいため、魔法学院の生徒ということは、それだけで一種のステータスとなります。また、ある程度の自由行動も許可されているため、調査や鍛錬をするのならば、これが一番の方法になるのではないかと」
「そうですね、ナインの言う通りかと。聞いたところによると、学術都市にある図書館などの立ち入り権限も与えられているらしいです」
「ただの学生に、そんな権限が?」
「ただの学生ではないのです。学術都市の魔法学院生になることは、それほどまでに難しいのですから」
「なるほど」
幾多の試験を乗り越えるだけじゃなくて、危険な思想の持ち主でないかどうか、そういうところも全て、キッチリと調査される。
それら全てに合格した人が、魔法学院生になることができる。
そんな人ならば、ある程度の権限を与えても問題はない、っていうことかな?
「みなさま方の要望を叶えるとなると、魔法学院生となることが一番ではないかと思います」
「確かにそうかもしれないけど……」
「そういうことになりますと……」
アリスとアンジュは、揃って難しい顔をした。
たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。
「そんなところ、どうやって入学すれば……?」
アリスとアンジュの考えていることを代表して答えるかのように、俺は、ナインにそう尋ねた。
確かに、魔法学院生になれば、色々な問題が一気に解決する。
目的を考えるのなら、一番の方法だと思う。
ただ、どうすれば入学できるのか?
幾多もの関門が敷かれていて、どれも乗り越えることができないように思うのだけど……
とはいえ、そんな疑問、ナインが考慮していないわけがなかった。
俺の質問に、迷うことなくスラスラと答える。
「確かに、普通に入学することは、ほぼほぼ不可能でしょう。一万人が受験して、数人しか受からないと言われているほどですので」
「えげつない確率だね」
「ハルさまならばあるいは、とも思いますが……私達全員となると、入学できる可能性は限りなくゼロに近いでしょう」
「むしろマイナスのような……あたし、魔法使えないし、シルファも使えないんじゃあ?」
「私は治癒魔法専門なので、それ以外となると……うぅ、未熟者ですみません」
「あぁ、ガッカリするお嬢さまもかわいらしいです」
たまに、ナインっておかしくなるよね。
主に、アンジュ絡みのことで。
主人であるアンジュを敬愛していることは間違いないんだけど、たまに見る目がおかしくなるというか、なんというか……
まあ、仲は良いようなので、問題はないか。
「結局、どうすればいいの?」
「特待生として入学すればよろしいかと」
「特待生?」
「はい、特待生というのは……」
再びナインの説明を受けた。
数多の試験を乗り越えなければ、魔法学院に入学することはできない。
それだけのエリートが求められている、ということだ。
ただ、稀に、他に類を見ない力を持つ人が現れる。
例えば、魔法は使えないけれど、魔法学に関する知識は誰よりも優れている人とか。
例えば、魔法学はさっぱりだけど、誰よりも強い魔力を持つ人とか。
そんな特異な人は、ごくごく少数だけど、稀に現れるらしい。
そのような人を、試験で追い払うなんてことをしてしまうことは、学院にとって……学術都市にとって、損失以外のなにものでもない。
時に、なんでもできる人よりは、一点特化した人が求められることがある。
そんな時のために用意されたのが、特待生制度だ。
学院に有能であると認められた場合、全ての試験をパスして入学することが可能に。
さすがに、反社会的な存在ではないか、そういう調査は行われるものの……
それ以外の試験などは全て免除となる。
それが、特待生制度だ。
「なるほど」
一発逆転みたいなシステムだな。
確かに、それを利用することができれば、入学することができるかもしれない。
でも……
「特待生として認められる方が難しいんじゃあ?」
宝くじに当たるようなものだ。
入学するよりも困難に思えるのだけど……
でも、みんなの意見は違うらしく、その手があったか、というような顔をして頷いている。
「そうね、確かにハルの魔力なら、特待生としての資格は十分ね」
「あと、サナさんも特待生の資格があるのでは? ドラゴンの入学希望なんて、学院は諸手を挙げて歓迎すると思います」
「はい、お嬢さまの言う通りですね。あと、お嬢さまも資格はあると思います。まだ見習いとはいえ、聖女なのですから」
「あたしとシルファとナインは、ハル達の世話係、っていうことにすればいいわね。確か、付き人は認められていたわよね?」
「はい。一人、認められています。ハルさま、お嬢さま、サナさまに特待生として入学してもらい、残りのメンバーは、それぞれの付き人になればよろしいかと。付き人には、多くの権限は与えられませんが……主が一緒であれば、同じように行動することが可能なので、そこは問題ございません」
「なるほど」
「いけそうですね」
なにやら勝手に話が進んでいる。
俺が特待生として受かるという前提の話だけど……
うーん、どうなんだろう?
俺の持つ魔力がちょっとおかしいっていうのは、最近、みんなから色々と言われていることで理解はしてきた。
でも、今は少し自信がない。
なにせ、魔人に対しては手も足も出なかったんだ。
もしかしたら、大したことないんじゃあ?
レティシアが言うように、俺は雑魚なのでは?
ついつい、そんなネガティブなことを考えてしまう。
「って、ダメだダメだ」
マイナス思考でいても仕方ない。
前向きになって、どこまでも突き進んでいくと決めたばかりじゃないか。
うん、がんばろう。
「ハル、そんな感じで動いてみようと思うんだけど、どう思う?」
「それでいいよ。特待生として合格できるかどうか、それはわからないけど……やれるだけのことはやって、後悔がないようにがんばるよ」
「うん、その意気よ。そうやって、前向きになっているハルはかっこいいと思うわ。あたしは、そんなハルの方が好きよ」
アリスは優しく笑いつつ、そんなことを言うのだった。
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