108話 学術都市トライアル
必ず答えを見つけてみせると、決意を新たにした。
ただ、決意だけでどうこうできるものじゃない。
具体的な方針を示して、それに向かって動いていかないと。
「うーん、どうしようか?」
今の俺達に足りないのは、情報が。
圧倒的に、色々な情報が足りていない。
それ故にどう行動していいかわからず、足踏みをしている状態だ。
「勇者のこと、悪魔のこと、魔人のこと……これらのことを調べることは確定なんだけど、どこでどう調べたらいいのかな? うーん」
「そのことなんだけど……」
アイディアがあるというように、アリスが挙手する。
「学術都市を目指してみない?」
「学術都市?」
「そう。学術都市トライアル……世界中の叡智が集まるといわれている街よ。その街で調べられない情報はないって言われているわ」
「へぇ、そんなところが」
世界中の叡智が集まる……確かに、それならば俺達が知りたい情報もあるかもしれない。
次の目的地としては、これ以上ないほどピッタリだ。
「ですが、アリスさん」
アンジュが難しい顔をして口を挟む。
「確かに、学術都市ならたくさんの情報を手に入れることができますが、私達が入ることができるでしょうか?」
「それ、どういうこと?」
「学術都市は閉鎖的なところがあって、他者を受け入れることは少ないんです。一般には解放されてなくて……気軽に足を運ぶことは、とても難しいです」
「えっ、街なのに解放されていないの?」
「街の人々は、知識を宝と考えていて、それをみだりに公開するわけにはいかないと思っているんです。学術都市の知識が外に広がらないように、徹底的な対策がとられています。簡単に中に入ることは、なかなかに厳しいかと……」
そんな街、初めて聞いた。
かなりとんでもないところみたいだ。
でも、学術都市と言われているくらいだから、その街に行けば欲しい情報を手に入れられるかもしれない。
「こっそり忍び込む、っていうのは?」
「やめておいた方がいいわ」
今度はアリスが言う。
「あたしが提案しておいてなんだけど……そんなことをしてバレたら、物理的に首が飛ぶわね」
「……ホントに?」
「マジよ」
「そんなことをして、問題にならないの……? っていうか、普通、問題になるよね」
「それがならないの」
「それが、学術都市の特異性なのです」
二人の話によると……
学術都市が持つ知識は、俺が思っている以上にすさまじいものらしい。
文明は百年先を行くと言われていて、魔法学も同じくらいに発展しているという。
そんな技術が、気軽に他所に流出したらどうなるか?
悪人が手にしたらどうなるか?
まず間違いなく、大事件に発展する。
それを防ぐために、学術都市では徹底した知識の管理が行われているらしい。
不正に盗み出そうとする者がいれば、一切の慈悲のない処分が下される。
そうすることで、知識の流出を防いできたとか。
「お、恐ろしい場所だね……」
「でも、それ故に、学術都市で得られる知識は確実なものよ。たぶん、勇者や悪魔のことに関する詳細な情報もあると思う。もしかしたら、魔人に関することも」
「あと……できることなら、強くなるための方法も知りたいです」
そう言うアンジュは、悔しそうな顔をしていた。
「私は聖女と呼ばれているのに……あの時、なにもできませんでした。ハルさんだけに全てを任せることになって……もっと力が欲しいです」
「あたしも」
アリスも似たような顔をして、唇を噛む。
「学術都市に行けば、今以上に強くなれるはずなの。それだけの知識がある場所だから」
「アリスは……強くなりたいの?」
「なりたい」
すぐに答えた。
その瞳には、確かな意志を感じられる。
「勇者や悪魔のことを調べることも大事だけど、でも、強くならないとダメ。今以上に強くなって、同じようなことに遭遇しても、ハルの力になれるくらい強くならないと。あたしは、ハルの隣を歩きたいの。ハルと一緒に、前を見ていたいの」
アリスは切実な顔をして言う。
続けて、アンジュもこちらをまっすぐに見つめて、必死な様子で言葉を並べる。
「私も、ハルさんの力になりたいです。こんなことを口にしたら怒られるかもしれませんけど、聖女としての役目よりも、ハルさんのことを優先したいです。そのために……」
「力がいる……か」
「はい」
「……」
二人の気持ちはよくわかる。
というか、俺もまったく同じ思いだ。
みんなは、俺の魔力はとんでもないって言うけど……
でも、フラウロスを前にして、俺はなにもできなかった。
その後悔はした。
これ以上、後ろ向きになることはない。
だから、次にするべきことは、対策を考えることだ。
次に魔人と相対した時、倒すとまではいかなくても、最低限、逃げられるくらいの実力を身に着けないといけない。
そうしなければ、この謎を追求していくことはできない。
勇者、悪魔、魔人……それらの調査と、今以上に強い力を身につけること。
これはセットで考えないと。
「うん、そうだね。その通りだ。俺も、きちんとした力を身に着けないと、って思うよ。たぶん、それは楽をしてできることじゃない。危険な橋を渡るくらいのことをしないと、ダメだと思う」
「それじゃあ……」
「次の目的地は、学術都市にしようか」
「異議なし」
「はいっ」
二人は笑顔で賛成してくれた。
ナインとサナとシルファは賛成してくれるかな?
というか……
シルファは、まだ今後のことをきちんと確認していなかった。
できれば、これからも一緒にいたいけど、どうするのかな?
「学術都市はどこにあるの?」
「そうね……ここからだと、馬車で一ヶ月、っていうところかしら?」
「けっこう遠いね」
「人の交流なんて、まったく気にされていないもの。むしろ、その理念から、人が来ない方が望ましいわけで……」
「自然と、辺境に作られることになった、というわけなのです」
「なるほど……まったく人の行き来がないわけじゃないんだよね?」
一つの街で自給自足をするなんて、今どき、不可能だ。
商人を受け入れて、経済を回すことをしなければ、すぐに物資が底を尽きてしまう。
「そうね。一定数、学術都市への出入りを認められた商人がいるわ」
「あと、とても稀なケースになりますが、偉業を達成した人に関しては、学術都市に招待されるということもありますね」
「商人に扮するか、同行させてもらう……っていうのは、どうかな?」
「やめておいた方がいいわ。以前、似たようなことをして、速攻でバレて、そのまま処分された人がいたみたいよ。しかも一人だけじゃなくて、月に何人もいるみたい」
「どれだけ厳重な警備をしているんだろう……」
素直に恐ろしい。
「ハルさんの魔力を提示することで、それで学術都市の人の気を引いて招待をしてもらえば……いえ、そうなると、実験体にされる可能性も……」
アンジュは、さらりと恐ろしい提案をしないでほしい。
「うーん、どうすればいいのかな?」
「一つ、私に案がございます」
「うわっ、ナイン!?」
気がつけばナインがいた。
いったい、いつの間に……?
「おかえりなさい、ナイン。街の方はどうなっていましたか?」
「ひとまず、混乱は収まりつつあります。領主は行方不明という扱いに。あと、紅の牙の隊長である、シニアスという男の行方も知れません。どちらも歓迎されていなかったため、街の人々は、むしろ喜んでいる様子でした。小さな混乱は続くでしょうが……大きな問題に発展することはないと思います」
「なるほど……それで、ナインの案というのは?」
「話を軽く聞いていたのですが、学術都市に入りたいと?」
「はい。そうですが、ナインには、なにか良い案が?」
「学術都市の魔法学院に入学する、という手はいかがでしょう?」
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!




