表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/547

108話 学術都市トライアル

 必ず答えを見つけてみせると、決意を新たにした。

 ただ、決意だけでどうこうできるものじゃない。

 具体的な方針を示して、それに向かって動いていかないと。


「うーん、どうしようか?」


 今の俺達に足りないのは、情報が。

 圧倒的に、色々な情報が足りていない。

 それ故にどう行動していいかわからず、足踏みをしている状態だ。


「勇者のこと、悪魔のこと、魔人のこと……これらのことを調べることは確定なんだけど、どこでどう調べたらいいのかな? うーん」

「そのことなんだけど……」


 アイディアがあるというように、アリスが挙手する。


「学術都市を目指してみない?」

「学術都市?」

「そう。学術都市トライアル……世界中の叡智が集まるといわれている街よ。その街で調べられない情報はないって言われているわ」

「へぇ、そんなところが」


 世界中の叡智が集まる……確かに、それならば俺達が知りたい情報もあるかもしれない。

 次の目的地としては、これ以上ないほどピッタリだ。


「ですが、アリスさん」


 アンジュが難しい顔をして口を挟む。


「確かに、学術都市ならたくさんの情報を手に入れることができますが、私達が入ることができるでしょうか?」

「それ、どういうこと?」

「学術都市は閉鎖的なところがあって、他者を受け入れることは少ないんです。一般には解放されてなくて……気軽に足を運ぶことは、とても難しいです」

「えっ、街なのに解放されていないの?」

「街の人々は、知識を宝と考えていて、それをみだりに公開するわけにはいかないと思っているんです。学術都市の知識が外に広がらないように、徹底的な対策がとられています。簡単に中に入ることは、なかなかに厳しいかと……」


 そんな街、初めて聞いた。

 かなりとんでもないところみたいだ。

 でも、学術都市と言われているくらいだから、その街に行けば欲しい情報を手に入れられるかもしれない。


「こっそり忍び込む、っていうのは?」

「やめておいた方がいいわ」


 今度はアリスが言う。


「あたしが提案しておいてなんだけど……そんなことをしてバレたら、物理的に首が飛ぶわね」

「……ホントに?」

「マジよ」

「そんなことをして、問題にならないの……? っていうか、普通、問題になるよね」

「それがならないの」

「それが、学術都市の特異性なのです」


 二人の話によると……


 学術都市が持つ知識は、俺が思っている以上にすさまじいものらしい。

 文明は百年先を行くと言われていて、魔法学も同じくらいに発展しているという。


 そんな技術が、気軽に他所に流出したらどうなるか?

 悪人が手にしたらどうなるか?

 まず間違いなく、大事件に発展する。


 それを防ぐために、学術都市では徹底した知識の管理が行われているらしい。

 不正に盗み出そうとする者がいれば、一切の慈悲のない処分が下される。

 そうすることで、知識の流出を防いできたとか。


「お、恐ろしい場所だね……」

「でも、それ故に、学術都市で得られる知識は確実なものよ。たぶん、勇者や悪魔のことに関する詳細な情報もあると思う。もしかしたら、魔人に関することも」

「あと……できることなら、強くなるための方法も知りたいです」


 そう言うアンジュは、悔しそうな顔をしていた。


「私は聖女と呼ばれているのに……あの時、なにもできませんでした。ハルさんだけに全てを任せることになって……もっと力が欲しいです」

「あたしも」


 アリスも似たような顔をして、唇を噛む。


「学術都市に行けば、今以上に強くなれるはずなの。それだけの知識がある場所だから」

「アリスは……強くなりたいの?」

「なりたい」


 すぐに答えた。

 その瞳には、確かな意志を感じられる。


「勇者や悪魔のことを調べることも大事だけど、でも、強くならないとダメ。今以上に強くなって、同じようなことに遭遇しても、ハルの力になれるくらい強くならないと。あたしは、ハルの隣を歩きたいの。ハルと一緒に、前を見ていたいの」


 アリスは切実な顔をして言う。

 続けて、アンジュもこちらをまっすぐに見つめて、必死な様子で言葉を並べる。


「私も、ハルさんの力になりたいです。こんなことを口にしたら怒られるかもしれませんけど、聖女としての役目よりも、ハルさんのことを優先したいです。そのために……」

「力がいる……か」

「はい」

「……」


 二人の気持ちはよくわかる。

 というか、俺もまったく同じ思いだ。


 みんなは、俺の魔力はとんでもないって言うけど……

 でも、フラウロスを前にして、俺はなにもできなかった。


 その後悔はした。

 これ以上、後ろ向きになることはない。


 だから、次にするべきことは、対策を考えることだ。

 次に魔人と相対した時、倒すとまではいかなくても、最低限、逃げられるくらいの実力を身に着けないといけない。

 そうしなければ、この謎を追求していくことはできない。


 勇者、悪魔、魔人……それらの調査と、今以上に強い力を身につけること。

 これはセットで考えないと。


「うん、そうだね。その通りだ。俺も、きちんとした力を身に着けないと、って思うよ。たぶん、それは楽をしてできることじゃない。危険な橋を渡るくらいのことをしないと、ダメだと思う」

「それじゃあ……」

「次の目的地は、学術都市にしようか」

「異議なし」

「はいっ」


 二人は笑顔で賛成してくれた。

 ナインとサナとシルファは賛成してくれるかな?


 というか……

 シルファは、まだ今後のことをきちんと確認していなかった。

 できれば、これからも一緒にいたいけど、どうするのかな?


「学術都市はどこにあるの?」

「そうね……ここからだと、馬車で一ヶ月、っていうところかしら?」

「けっこう遠いね」

「人の交流なんて、まったく気にされていないもの。むしろ、その理念から、人が来ない方が望ましいわけで……」

「自然と、辺境に作られることになった、というわけなのです」

「なるほど……まったく人の行き来がないわけじゃないんだよね?」


 一つの街で自給自足をするなんて、今どき、不可能だ。

 商人を受け入れて、経済を回すことをしなければ、すぐに物資が底を尽きてしまう。


「そうね。一定数、学術都市への出入りを認められた商人がいるわ」

「あと、とても稀なケースになりますが、偉業を達成した人に関しては、学術都市に招待されるということもありますね」

「商人に扮するか、同行させてもらう……っていうのは、どうかな?」

「やめておいた方がいいわ。以前、似たようなことをして、速攻でバレて、そのまま処分された人がいたみたいよ。しかも一人だけじゃなくて、月に何人もいるみたい」

「どれだけ厳重な警備をしているんだろう……」


 素直に恐ろしい。


「ハルさんの魔力を提示することで、それで学術都市の人の気を引いて招待をしてもらえば……いえ、そうなると、実験体にされる可能性も……」


 アンジュは、さらりと恐ろしい提案をしないでほしい。


「うーん、どうすればいいのかな?」

「一つ、私に案がございます」

「うわっ、ナイン!?」


 気がつけばナインがいた。

 いったい、いつの間に……?


「おかえりなさい、ナイン。街の方はどうなっていましたか?」

「ひとまず、混乱は収まりつつあります。領主は行方不明という扱いに。あと、紅の牙の隊長である、シニアスという男の行方も知れません。どちらも歓迎されていなかったため、街の人々は、むしろ喜んでいる様子でした。小さな混乱は続くでしょうが……大きな問題に発展することはないと思います」

「なるほど……それで、ナインの案というのは?」

「話を軽く聞いていたのですが、学術都市に入りたいと?」

「はい。そうですが、ナインには、なにか良い案が?」

「学術都市の魔法学院に入学する、という手はいかがでしょう?」

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ