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104話 気がつけば……

「……うっ」


 鈍い痛みと共に目が覚めた。


「いててて……」


 頭が痛い。

 ガンガンと、頭の中で鐘を鳴らされているかのようだ。

 その痛みと不快感を我慢しつつ、起き上がり、周囲を見る。


「うわっ」


 屋敷がメチャクチャになっていた。

 壁と天井がほぼほぼ消し飛んでいる。

 俺はここまでしていない。

 だとしたら、フラウロスが……?


「って、そうだ!? ヤツはどこに!?」


 慌ててフラウロスの姿を探すものの、どこにも見当たらない。

 気がつけば、息が詰まるような、禍々しい気配も消えている。


「逃げた? いや、逃げる意味がわからないし……見逃された?」


 でも、それも意味がわからない。

 フラウロスの力は圧倒的で、徹底的に追いつめられていた。

 完全に詰んでいた。


 あの状態で見逃される理由がわからない。

 なにか急用が起きたとしても、俺達を放っておく理由もない。

 それこそ数秒で、手間をかけることなく、俺達を始末することができたはずなのに……


「いったい、なにが起きたんだ……?」


 もうダメだと意識を失い……

 目が覚めれば、フラウロスは消えていて、とんでもない戦闘らしき破壊跡が。

 わけがわからない。

 完全に混乱してしまい、なにをするわけでもなくて、ぼーっと立ち尽くしてしまう。


「って、こんなことをしている場合でもないから!」


 俺は何度、ミスを繰り返せばいいのか。


「みんなは!?」


 幸い、みんなはすぐに見つけられた。

 アリスとアンジュは、抱き合うようにして倒れていた。

 たぶん、互いをかばい合ったのだろう。


 少し離れたところに、ナイン、サナ、シルファが見える。


 レティシアとシニアスは……見当たらない。

 こちらも、フラウロスと同様に、忽然と姿を消していた。


「アリスっ、アンジュっ」


 まずは、アリスとアンジュのところへ。


「んっ……ぅ」


 軽く肩を揺さぶると、小さな声がこぼれた。

 アンジュも同様に、わずかに指先を動かす。


 よかった、生きているみたいだ。

 小さな傷はあるけど、特に大きな外傷は見当たらない。

 ただ、内臓を傷つけている可能性もあるから、下手に動かさない方がいいし、治療をしておいた方がいいはず。


「ヒール!」


 二人の体を淡い光が包み込む。

 小さな傷はすぐに消えた。

 二人の顔も穏やかなものになり、呼吸も落ち着く。


「あれ?」


 ここで、疑問が湧いてくる。


 フラウロスとの戦闘で、俺は、ありったけの魔力を使ったはず。

 それこそ余力なんて残さないで、底が尽きるほどに。


 それなのに……なんで、魔法が使えるんだろう?

 初級だけど、治癒魔法はそれなりに魔力消費量が高い。

 でも、問題なく使用することができた。


 限界を超えて、魔力をひねり出しているのかな?

 でも、そんな感じはしない。

 体は軽く、意識もハッキリしていて、とても元気だ。


「……まあいいや。細かいことを考えるのは後にしよう」


 ナイン、サナ、シルファを順々に治療する。

 こちらも重傷者はいない。

 あれだけの化け物を相手にして、死者がゼロとか……

 ホント、奇跡としか言いようがない。


 ほどなくして、みんなが意識を取り戻した。

 口々に、なにが起きたのか? と問いかけてくるのだけど、俺に聞かれても困る。

 俺も、現状をさっぱり理解できていないのだから。


「ハル、いったいなにが起きたの? あの魔人は?」

「魔人って、なんすか?」

「えっと……」


 説明しないといけないことは、たくさんある。

 でも、今はやめておこう。

 というのも……


「とりあえず、ここから離れない? ここに残っていたら、たぶん、とても面倒なことになると思う」

「それもそうね」


 領主の屋敷が、ほぼほぼ全壊。

 肝心の領主は行方不明で、代わりに、現場には俺達が。


 普通に考えて、犯人扱いされてしまう。

 この騒ぎは、街のほとんどの人が気づいているだろうから、すぐに冒険者ギルドが動くだろう。


 いや、すぐに、っていうことはないかな?

 冒険者ギルドは領主によって、色々な権限を奪われて、押さえつけられている。

 こんな事態になったとはいえ、勝手に動くことはできないだろう。


 まずは様子を見て……

 そして問題がないと判断してから、行動を開始するだろう。


 うん、それなら問題ない。

 今からでも逃げることはできるはず。


「表はやめて、他から逃げよう。全員バラバラに逃げて、後で宿で合流。それでいいかな?」


 みんなは、問題ないと言うように頷いた。


「よし。じゃあ、また後で。念の為に、宿に戻るまでは最大限の警戒をしてね」

「ハルも気をつけてね? ハルってば、けっこう無茶をするんだから、心配よ」

「俺は大丈夫。無茶なんてしないよ」

「約束よ? もしも無茶したら、おしおきだから」

「あはは、それは怖いから、絶対に約束は守るよ」


 アリスと笑みを交わして……

 次いで、みんなと笑みを交わして……

 それから、俺達はバラバラになって、屋敷から逃げ出した。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 記憶の欠片さえ残ってないのか 魔力全回復は食ったからかな
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