101話 無敵
「どうして!?」
焦りを覚えつつ、再び魔力を込める。
しかし、魔道具は反応しない。
そんな俺を見て、フラウロスがくすくすと笑う。
「逃げようとしても無駄ですよ。魔法による逃亡を防ぐために、この屋敷の敷地内には結界が展開されていますからね。魔道具は使用できません」
「くっ……」
「私を倒せば結界は消滅しますが、まあ、それができないからこそ逃げようとしたのですし、意味のないことですね」
まずい。
まずい。
まずい。
いざという時の切り札も封じられてしまうなんて、さすがに予定外だ。
「ふふっ、いいですね。だんだんと絶望に染まっていく様、とてもおもしろいですよ。その魂、食したら、いったいどれほどの美味しさなのか」
「……悪いけど、あなたみたいな人に食べられたいとは思わないかな」
「なら、どうするのですか?」
「こうしようかな……ファイアッ! ファイアボムッ!」
魔法を連射した。
ドラゴンのブレスのような炎がフラウロスを包み込む。
それだけに終わらず、屋敷の壁を壊し、突き抜けて、外に駆けた。
さらに、ガァンッ! と爆音が響く。
ファイアボムだ。
大きな音が外にまで響く。
しばらくして炎が晴れる。
ダメージはないというように、フラウロスは余裕の笑みを浮かべていた。
「それで? 派手な攻撃でしたが、意味はありませんね」
「いや、あるよ」
「へぇ、どのような?」
「今の魔法で、外にいる人は、ここに近づけば危険だ、って理解したはず」
そのために、あえて広範囲に炎を撒き散らした。
轟音を立てるような、ファイアボムを使用した。
街中だからと加減をしていたのだけど、もう、そんなことは言っていられない。
人的被害を出すわけにはいかないけど、建物に対する被害は、もう無視しよう。
周囲のことを考えることなく、全力を撃つことができる!
「フレアブラストッ!」
今度は、正真正銘の手加減なしの全力だ。
ありったけの魔力を込めて放たれた中級火魔法は、さきほどの数倍の威力を叩き出して、フラウロスを飲み込む。
衝撃波が荒れ狂い、熱波が部屋の家具などを燃やしていく。
「フレアブラストッ!」
さらに連射。
一撃、二撃。
それだけで終わらない。
三、四、五、六、七……己の限界に挑戦するかのような勢いで、何度も何度もフレアブラストを放つ。
その度に、大量の魔力が消費されて、体から少しずつ力が抜けていく。
あまりに急激な魔力の消費に、体の機能が追いついていないのだろう。
このままだと深刻な事態に陥るかもしれないのだけど、
「フレアブラストッ!!!」
構うことなく、俺は八撃目を放つ。
さらに、九、十と重ねていき……
「フレアブラストォッ!!!」
渾身の力を込めた十五撃目。
そこで魔力が尽きて、床に膝をついた。
荒い吐息をこぼしつつ、前を見る。
屋敷の壁は一面が完全に吹き飛び、その周囲も荒れ果てている。
魔法の射線上、全てが燃えて、溶けて、崩壊している。
外から悲鳴やら動揺の声が聞こえてくるけど、今は許してほしい。
「これで……」
お願いだから、倒れていてほしい。
祈りつつ、煙が晴れるのを待つ。
「なるほど、なるほど」
「……ウソだぁ」
フラウロスは健在だ。
防御をした様子も回避をした様子もない。
十五発のフレアブラスト、その全てが直撃したはず。
それなのに……かすり傷一つ、見当たらない。
俺の魔法は児戯だと言わんばかりに、悠然と佇んでいた。
「無駄ですよ。魔人は、常に結界が展開されています。その結界は、通常の手段で破ることは不可能。あなたがどれだけ強力な力を持っていたとしても、人間である以上、私を倒すことは敵わないのです」
「そんな……」
「しかし、その魔力は見事なもの。まさか、これほどの魔力を持つ人間がいるなんて……普通に考えてありえないことなのですが、これはいったい? いえ、これは……もしかして、この人間も?」
なぜか知らないが、フラウロスが戸惑っているように見えた。
今までにない反応を引き出すことはできたけど、以前として、驚異はそこにある。
今の攻撃で、俺の魔力は空っぽに。
レティシアにやられて、ナイン達は意識を失っている。
アンジュの治療のおかげでアリスは持ち直したものの、でも、どうすることもできず、動くことができない。
そして、逃げることもできない。
本当に……やばい。
どうする?
どうすればいい?
どうしたらこの状況を打開できる?
必死になって考える。
これから先の展開を頭の中でシミュレートして、いくつもの予想を立てる。
その中から活路を見出そうとするのだけど、どの道も封鎖されていることを悟り、じわじわと絶望が這い寄ってくるのを感じた。
「……あなた、面白いですね」
ややあって、フラウロスが我に返り、笑みを浮かべた。
一歩、こちらに近づいて俺を見る。
「一つ聞きたいのですが、そのふざけた魔力はどこで手に入れたのです?」
「そんなことわからないさ」
「本当に?」
「本当だよ」
レティシアと一緒に旅していた時は、俺は、レベル七の魔法使いだと思っていたんだ。
みんなが言うようなすごい魔力があるなんて思っていなかったし、未だに実感がない。
だから、どこで手に入れたなんて聞かれても、答えようがない。
「ふふっ、とても興味深いですね。それほどの力を持つなんて、それこそ、私の使徒にふさわしい」
なんの話かさっぱりわからないけど、フラウロスから殺気が消えていた。
今の攻撃がきっかけになったのか、俺に興味を持ったのだろうか?
「一度聞いていたらごめんなさい。あなたの名前は?」
「……ハル・トレイター」
「そう。では、名前で呼ばせてもらいますね。ハル。あなた、私の使徒になりませんか?」
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