表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/547

100話 逃げられない

「ナイン! シルファ! サナ!?」


 声をかけるものの、反応はない。

 軽く胸元が上下しているところを見ると、最悪の事態は免れているみたいだ。


 ただ、意識がないのは確実らしく、どれだけ呼びかけても反応が返ってくることはない。


 どうして、こんなことに?

 というか、なんでレティシアが?

 突然の事態に理解が追いつかなくて、混乱してしまう。


「これは、レティシアの仕業なのか!?」

「……」

「どうしてこんなことを!」

「……」


 反応がない。

 こちらの言葉が届いていない様子で、虚ろな視線をさまよわせている。


 もしかして、操られている?


「ふふっ」


 フラウロスが楽しそうに笑う。


「彼女は、私の協力者ですよ」

「レティシアが?」


 フラウロスが魔人と知りつつ、協力しているのか?

 それとも、真実を知らずに協力をしているのか。


 どちらにしても、厄介極まりない。

 まさか、こんなところでレティシアが参戦してくるなんて。


 それに、計算違いも多い。

 この事態を避けるために、二手に分かれて行動したのだけど……

 まさか、ナイン達が返り討ちに遭ってしまうなんて。


 ナインとシルファはかなり強い。

 そして、ドラゴンであるサナは規格外の力を持つ。

 三人なら、レティシア相手でも遅れをとらないと思っていたのに。

 それなのに、どうして?


「し、師匠……」

「サナ!」


 サナが意識を取り戻した。

 ただ、立ち上がることができないほど消耗しているらしく、弱々しい声をこぼすだけだ。


「ごめんなさい、っす。失敗したっす……こいつ……やばい、っす……あうっ!?」

「……」

「サナ!?」


 レティシアが無言でサナの頭を踏みつけた。

 ガンッと鈍い音が響いて、再びサナが気絶する。


「レティシア、サナから離れろっ! そんなことはやめろ!!!」

「……」


 やはりというか、こちらの言葉に反応しない。

 聞こえていないわけがないから、やはり、操られている……?


「これは、お前の仕業なのか!?」

「そうですね。全てを支配しているわけではありませんが、だいたいは、私の筋書き通りですよ」

「っ……!!!」

「ジンの裏切りで、私の情報が漏れてしまいましたからね。遅かれ早かれ、あなたのようなものが現れて、領主の座にいられなくなることは予想していました。だから、逆に利用することにしました」


 フラウロスは唇の端を吊り上げた。

 その笑みは醜悪で、この世のありったけの悪意が詰め込めているかのようだ。


「今まで通り、人間の魂を食らいつつ、シルファやシニアスを使い、強者を誘い出す。万が一にも負けることのないように、同胞を覚醒させておく。そして、最後に強者を含めて、ありったけの魂をいただく。私の策はこのようなところでしょうか? シンプルにまとめているだけで、裏では、とても疲れるほどに動いていましたけどね」

「……待った」


 今、なんて?


「どうしましたか?」

「同胞を覚醒させる、っていうのは……どういう?」

「あら。気づいていなかったのですか? 調査によるところ、あなたはずいぶん長い間、一緒にいたらしいですが……それならもう、とっくに理解しているのかと思いました」

「まさか……」

「レティシア・プラチナスもまた、悪魔の魂を宿した者……魔人ですよ」

「っ!?」


 レティシアの中に、悪魔の魂が?

 そんなバカな。

 そんなこと……


 ありえないと叫ぼうとするのだけど、言葉が出てこない。

 思い当たる節がいくつもある。

 人が変わること、凶暴性を発揮すること、強い力を持つこと。


 悪魔の魂が宿っているという説明で、全て納得できる。

 辻褄が合う。


 でも、そんなこと……

 いったい、いつの間に?

 レティシアと5年、旅をしていたけれど、悪魔の魂に触れる機会なんてない。

 取り憑かれる原因なんて思い浮かばない。


 いや、まった。

 それ以前の話なら、どうだろう?

 レティシアは、前人未到の偉業を達成して、七人の勇者の一人に選ばれた。


 その偉業というのは、封印されていた悪魔の完全消滅。

 もしも、消滅させるのではなくて、その時に取り憑かれていたとしたら?

 レティシアがおかしくなり始めた時期とも一致するし、そう考えるのが自然かもしれない。


「まあ、完全に覚醒していないため、こうして手を貸さないといけないのですが……それはそれで好都合ですね。私の思うように、都合よく動いてくれますから」

「くっ……!!!」


 フラウロスの話では、覚醒していないものの、レティシアも魔人。

 おそらくは、同等の力を持つはず。

 そんなレティシアは、今や操り人形で、フラウロスと一緒になり俺達を追いつめている。


 ……ダメだ。

 こんなことは考えたくないけど、でも、認めないといけない。

 勝ち目はない。

 ゼロパーセントだ。


 魔人の力は想像以上。

 俺達全員が揃い、万全の状態だったとしても、どうなるか。

 たぶん、まともなダメージを与えることができず、蹴散らされてしまうと思う。


 しかも、同じく魔人であることが判明したレティシアが敵に。

 まだ完全に覚醒していないらしいが、それでも、その力は驚異的だ。

 ナイン達を圧倒するほどに強い。


 こんな二人とまともに衝突して、勝てるわけがない。

 悔しいが、今は逃げるしかない。

 一度退いて、じっくりと対策を練る必要がある。


 いざという時にナインから渡されていた、ネックレスを手にする。

 俺とシニアスを含めた、みんなを転移対象に設定。

 転移先は、できる限り遠くに。


 そして、魔道具を起動させる。


「……えっ?」


 魔力を注ぐのだけど、魔道具は反応しなかった。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 祝 100話と言いたいけど まさかのピンチで、逃げられない!
[一言] レティシアが魔人・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ