第二話も最終回
「……ん? あれ?」
目を覚ますとガレージ内部の仮眠部屋だった。
夢の中で更に眠ってしまうとは……俺は眠りの達人に違いない。
自称「神」を殴ったのも夢だったのか、残念。
大体、自分は「神」だとか、その時点でアホかと。
例えば俺が誰かに自己紹介をしようと思ったら最初に名前を言う。
まさか初めてあった相手に自己紹介で「はじめまして、俺は人間です」とか言う馬鹿は居ないだろう?
それと一緒だな。
つまり、自分は神だといった瞬間に、よっぽどそいつの頭がイカレでもして無い限りそれは嘘になっているわけだ。
!?
今凄いこと思いついた……。
まさか、名前が神という落ちじゃあ無いよな?
それだったらありえるが……、いくらなんでもDQNネーム過ぎて笑えない。
ふぁ~。それにしても眠い、夢の中で眠いのは……まあ、当然か。
寝てるんだもんな。
だが、せっかくまだ遊べるなら、もっと色々な構築を試してみたい。
というわけで寝るのは又今度だ。
今回は、前回の反省を生かして構築パターンを大きく変えてみよう。
範囲攻撃能力を組み込んで……後はTPSモードがなくなっていたからコクピット自体を一番丈夫な奴に変えて、代わりに前方は何もさえぎる物が無いようにしてっと。
反動軽減を考えるならやっぱり足は鳥脚か。
んー。マシンガンは補助兵器としてやっぱり無いと困るよな。
じゃあ、早速組んでみるか。
まずは土台に一番積載容量の大きい鳥脚、今回は重いコクピットを積む予定だからな。
次は、その上にいきなりコクピットブロックを繋げるんじゃなく、先に適当なエンジンユニットを載せる。これは後で差し替えるので適当だ。
エンジンユニットのジョイントが前側に来るように回転、そこへコクピットブロックの後ろ側のジョイントで繋げる。
これでコクピットが前側に突き出した、一見するとお辞儀しているような形の機体のベースが出来た。
次に、出力と重量のバランスを見ながらエンジンユニットを差し替えて、仕上げに正面から見た時エンジンユニットがコクピットの陰に完全に隠れるように調整。
後は、曲射(榴弾砲)をコクピットブロックを囲むように上下左右のジョイントを使って配置して……範囲攻撃目的だから弾種はHE(榴弾)で良いか。
どうして囲むように曲射を搭載するかというと、榴弾系の砲は反動が物凄いので、機体の重心からずれた場所に一個だけ榴弾砲を取り付けて撃つと、反動で機体の向きが変わってしまうのだ。
右側につけて撃つと、ぐるっと右を向き、天井につけて撃つと仰け反ってしまうほど強烈な反動が来る。
戦闘中に隙を作るわけにはいかないのでそのような構築は出来ない。
では、どうすればいいのか? という試行錯誤の結果生まれた構築が、この機体重心を榴弾砲で囲み、一気に発砲するという構築だ。
こうすると、榴弾発射時の反動が互いに相殺されて、殆どぶれることが無い。
ついでに、発射された榴弾も殆ど同じ場所に落ちるので、一回で4発の強烈な砲撃が可能になる。
範囲攻撃の効果も有るので、大抵の相手なら直撃しなくても大ダメージというわけだ。
しかも、榴弾砲は射程が物凄く長いので先制攻撃にさえ成功したなら、敵にとっては予想外の距離から一方的に攻撃を受けることになる。
逆に、わかりやすい欠点としては、発射から着弾までのタイムラグが大きいことと、飛んでいく弾の航跡が見えるので撃たれた側が避けやすいこと。
後、これは状況にもよるが、敵に接近されてしまった場合に近距離で敵に当てたり、間違って自分の足元に撃ってしまうと自分までダメージを受けてしまうというのと、同じ理由で味方まで巻き込んでしまうというのが有る。
それ以外では、装弾数が若干少ないことくらいかな?
ただ、その威力は全武器中でもかなり上位なので、好んで使っていた奴らも多い。
それに、敵の基地等の施設破壊を狙うような場合は、相手が動くはずも無いので、超長距離から一方的に破壊できるという利点が有る。
後は、地形の関係や遮蔽物の所為で射線が通ってない場所の敵を一方的に攻撃できるという利点も有るか。
それに、ある程度敵が近づいてくれば、水平打ちすれば良いだけなので、意外と使いやすいのだ。
勿論、補助兵器としてマシンガンは持っていくが。
というわけで、コクピット上部のジョイントに繋いだ榴弾砲の上に更にマシンガンを取り付ける。
今回は重量の関係から1丁だけだ。
最後に放熱器をつけて完成。
見た目は、何だろう? こんなのどこかで見たこと有るな。
うーん、あれだ、料理に使う電動のハンドミキサーの形が近い気がする。
一番の特徴は、コクピットブロックを囲んで前方向に、榴弾砲の馬鹿みたいに長い砲身が4本、にゅっと飛び出している所か。
これの所為でハンドミキサーに見えるんだな。
マシンガンははみ出る部分が殆ど無いので、上にちょこんと乗っているだけだ。
後は発射制御だが、これも気を付けないといけない。
今回は榴弾砲を使うので、必ず対角線で結んだ榴弾砲同士を発射順に登録する必要が有る。
これも、反動を殺すための知恵だ。
4本を同時に発射させる設定なので、上の次は下、右の次は左という感じで発射の順番を決めて撃ち出す様に指定を入れておく。
マシンガンは今回完全に補助兵器なので、1丁だけ独立して発射出来るようにする。
さて、これで出撃準備は出来たが、今回はガレージを飛び出すと何処に出現するんだ?
おっと、念のためスターライトスコープだけは取り付けておくか。
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「こぉんの馬鹿野郎がっ!!!!」
掘っ立て小屋の様な場所に大勢の柄の悪い男達が集まっていた。
たった今、怒鳴り声とともに殴られた男が派手に吹き飛び、受身も取れずに地面に転がるが、周りを囲んでいる男達の手によって無理やり立たされる。
ここは最近になって勢力を拡大中の武装勢力「地獄の番犬」の中継基地。
今、男を殴ったのが組織のボス「ガウル」で、殴られたほうは手下のゴメス、どこか小狡い印象を受けるひょろっとした男だ。
ゴメスは今日の昼、ガウルが武装商人「メグル」から買った情報を元に、新たな支配下とする予定の村へと向かわせた戦闘部隊の指揮を任されていた。
しかしその後一体何があったのか、予定時間を過ぎてようやく戻ってきた部隊はゴメスとわずか数名を除いて壊滅状態。
そんな事情で今、ゴメスはガウルの前に無理やり立たされて説明をするはめになっている。
立たされたゴメスは着ている服もボロボロで所々焦げている箇所もあり、今殴られた顔以外にも全身にまだ血の流れる大小の傷まであった。
これでは、とてもではないが戦闘部隊の指揮官というよりも敗残兵という表現の方がぴったりだろう。
「あんなちんけな村一個手に入れるのは、自分達だけで十分だって、いったよな? お前、俺に言ったよな?」
ただでさえ恐ろしい顔を怒りで普段以上にゆがめたガウルが、上から覆いかぶさるように顔を近づけてゴメスを睨む。
「ち、違うんでさ、おかしら、メグルに聞いた話と違って、へ、変な助っ人が現れやがって」
凄まれたゴメスは額にびっしりと冷や汗をかいて、目を逸らしながら必死になって言い訳を始めた。
「助っ人だぁあ~?
それが俺にどんな関係が有るって言うんだ?
お前は、俺に出来ると言ったことが出来なかった。
俺は貴重な手下と装備をお前の所為で失った。
合ってるよな? なあ?」
顔を覗き込まれて露骨におびえるゴメスはつっかえつっかえ言葉を口にする。
「あ、あっしだけじゃありません、一緒に行って生き残れた奴は全員見てます。
そいつあ見たことも無えようなとんでもねえ歩行戦車で、おっそろしく強力な武器を積んでやがって……。
そ、そいつの一撃で半分は味方の戦車が吹き飛ばされて……。
だ、だから悪いのは情報を持って来たメグルの奴で! そう! 俺が悪いわけじゃないんです!」
話しているうちに興奮してきたのか、段々滑舌が良くなり内容も大げさでそれこそ法螺話と変わらなくなっていく、それに反比例して聞かされているガウルの表情はますます冷たく鋭くなった。
このまま聞いていたらその内、戦争中に噂されていた山ほども有る炊飯器の化け物が出て襲ってきたとか言い出しそうな勢いだ。
ガウルは一度チラッと話に名前の出てきた武装商人メグルの方に視線をやる。
その視線に気づいたのか、メグルはあきれた様子でこちらを見て肩をすくめ首を振った。
このメグルという男は、いつも笑っているように見える糸目の野郎で、何も知らない奴が見れば優しそうにすら見える外見とは裏腹に、その本性は懇意にしている村から塩等の必需品と引き換えに自衛用の武器を取り上げ、村が抵抗力を失った段階でその情報を武装組織へと売る最悪の商人だ。勿論取扱商品には奴隷や兵器も含まれている。
ガウルは自己保身の言葉を垂れ流し続けるゴメスの顔をがっしりとつかみ、強制的に喋るのをやめさせると、
「おめぇ、話盛ってんじゃねえのか?
大体なんだその口の利き方は?
手前、誰に口きいてんのかわかってんのか? おい?
大体、軍隊が有ったころでもそんなとんでもねえ兵器なんて噂くらいでしか流れてなかったぞ? ああ?
おい、返事はどうした、返事しろよこら?」
そのままギリギリと力を込めて行き、顔をつかまれているゴメスが「あぎっ、あぎっ」と何かの鳴き声の様な声を出すのを眺める。
「ふん、まあ良い。肝心なのはそいつがもうくたばっているって事だが、それは間違いねぇんだろうな?」
ようやく顔をつかんでいた手を離されたゴメスの顔には、相当な力で握られていたのだろう、指が当たっていた部分から血が流れ出していた。
「は、はいぃぃ。な、謎の歩行戦車はぁ、あひっひっ、あっひらと戦った後、ま、間違いなく粉々に吹っ飛びぃやしたぁ。
い、生き残った他の、や、奴に確認してもらえば、う、嘘じゃないことは、わかり、ます」
途切れ途切れにどうにかそこまで言うと、限界が来たのかそのまま意識を失ってしまった。
意識を失ったゴメスにはもう興味が無いのか、ガウルは顎に手を当てて考え事を始める。
(ふん、どうせ手前の失敗を隠すために話を盛ってやがるんだろうが……。
それにしても、ど田舎の村ひとつに舐められたままっていうのは他の組織の手前どうにも具合が悪いな。
まあ、見たことも無い歩行戦車ってのが気になるが、正体は今までどこかに隠れていた傭兵の生き残りってところか?
どっちにせよもう死んじまっているなら好都合だ……スクラップになっていても取れるパーツくらいは有るだろうよ。
運が良けりゃあお宝にもありつけるか)
「おい、メグル、手ぇ貸せ。
もし、こいつの話が本当なら、お前の持って来た情報に不備があったってことだ。
その分のケツ持ちくらいは当然するよな?」
そう言って、メグルを睨むが、海千山千の武装商人は特におびえた様子も見せずに、
「そうですね、分かりました。
直接的な戦闘は立場上お手伝いできませんが、その分兵器と弾薬を格安で都合するというのはいかがでしょうか?」と条件を口に出した。
それを聞かされたガウルは、一瞬似合わないきょとんとした顔を浮かべると、
「こんな時まで商売かよ、まったくしっかりした奴だぜ、お前は!」
と言いながらガハハと大声で笑った。
「お褒めにあずかり光栄です」
そう言って大げさな仕草でお辞儀をすると、早速商談開始ということなのか、傍らにおいていた鞄から、現在取り扱っている兵器のスペックリストとその写真、それぞれの兵器に搭載可能でストックが有る弾薬の一覧を見せる為の用意をはじめる。
その様子を見て、やれやれという表情を浮かべたガウルは周りの手下達に向かって大声で
「よし、俺らに逆らったらどうなるか、その村の連中にはしっかりと教育する必要が有るようだな。
大人しく出すもん出してりゃ俺様の慈悲深い支配の下、安心して生きていけたって言うのによ。
……野郎どもっ! 皆殺しの準備だ! 取り掛かれ!」と命令を発した。
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夕闇の中、半壊した家屋を片付ける人々と、笑顔で炊き出しを手伝う子供達の明るい笑い声が村の広場に響く。
本当なら村人全員が今日でこの村とはお別れする筈だった。
それどころか家族全員が揃うことも二度と叶わなかっただろう。
しかし、今、誰一人欠ける事無く全員無事に家族が揃い、再び笑い合えている。
建物は壊れてしまったが、そんな物は又直せば良い。
そういった想いが普段以上に子供達の声を弾ませ、そしてその声が働く大人達の心を暖かくする。
――今日の昼、ならず者の集団が村を襲った。
本来ならどんな手を使っても絶対に勝てないほどの大集団。
だが、奇跡は起こった。
突然、所属不明の歩行戦車が現れ、たった一機でならず者達の大集団を撃退してしまったのだ。
残念ながらその歩行戦車に乗っていた筈の村の恩人は、ならず者達を倒すために相当な無理をしてしまったようで、戦闘が終わった直後、その歩行戦車ごと爆発に巻き込まれ粉々になってしまった。
出来ればお礼の一言も伝えたかったが、相手が既にこの世に居ないのでは仕方が無い。
家屋の瓦礫を片付けているうちに日が沈み、半壊した家で寝るのは危険ということで村人達は炊き出しに使っている焚き火の明かりを皆で囲むことになった。
その席で今日一体何があったのか、一部始終を目撃した大人達から、子供達は初めて謎の歩行戦車の活躍を聞かされる。
その活躍に、子供達はまるで御伽噺に出てくる英雄の様だと憧れ、自分達の村に起こった奇跡に胸をときめかせた。
そして、村人達は顔も知らない恩人に感謝し、今日も一日無事に過ごせたことを神に感謝する。
そんな村の直ぐ外には、まだ熱を持っている兵器の残骸が山積みだ。
子供たちを毛布に包んで寝かしつけた後、村の大人達は自然に焚き火を囲んで集まる。
その場で今日の出来事についての討議が始まり、議題には当然のように今後の村の防衛方針が上げられた。
今までは武装商人からのアドバイスと、村に戦争の道具を置いて子供たちがそれで怪我でもしたらどうするんだ。と言う母親たちの訴えもあり、自衛用の武器は屋内での管理が容易なライフルのみとしていた。
それに、これまで長く続いた国家体制を経験している大人達の世代は、今のような無政府状態がそう長く続くはずが無いとも信じていたのだ。
しかし、目に見える脅威を経験して村民の意識も大きく変わった。
大切な者を守りたいなら自分達に力が無ければいけない、と。
今後は自衛の為の兵器を積極的に配備する事になるに違いない。
通常こういった場合に問題となる兵器の入手経路に関しても心配はないだろう。
なにせ村のすぐ側にいくらでも転がっているのだから。
……明日になったら残骸の熱も冷めている筈だ。
そうしたら、大人達でその中から使えそうな武器を探す事にしよう。
ついでに疫病対策で、ならず者どもの死体も埋めなければならないが、最悪まとめて燃やしてしまう手もある。
これまでは、兵器を置いている村は何かあった際、武装集団を刺激して壊滅する可能性が高いという武装商人の言葉を信じていた。
だが、今日の経験で、兵器が村にあろうが無かろうが武装集団は無法を働くと学んだ。
それならば兵器が有った方が抵抗できるだけまだマシに違いない。
流石に残骸の中にそのままで使用できるような兵器は残されていないだろうが、完全に壊れている物も単なる金属としてなら武装商人に頼めば買い取ってもらえるだろう。
そうでなくとも、程度の良い物の修理を依頼するか、新しい武器と交換して貰えばいい。
残骸は物凄い量なので、一部は村の自衛のために確保するとしても、それ以外を武装商人に売れば壊された家屋の修理費どころか貴重な必需品すらも手に入れることが出来るかもしれない。
そう考えながら意識は夢の中に落ちた。
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暗闇の中、双眼鏡を構えて村を遠くから観察する一人の男が居た。
双眼鏡には光を増幅する機能が付いているようで、暗闇の中でも村の様子がはっきりと見えている。
「よーっし、よしよし、情報どおりだな。
村の奴らは完全に油断してやがる。
それに、話に出てきた歩行戦車の姿も確かに見えねぇ」
村はちょっとしたお祭りでもしているような雰囲気で、広場に大勢が集まり焚き火を囲んでいるようだ。
「しかし、残骸も残ってねぇってのはどういうことだ?
俺らより先に誰かが持って行った……にしちゃあ村の連中の様子が変だな。
村のどこかに隠してやがるのか?」
味方の歩行戦車や四脚、その他の残骸はここからでもはっきりと分かる。
ただ、話に出た強力な歩行戦車という奴の残骸が見えないのがどうしても気になった。
しかし、歩行戦車というのは巨大な物だ、隠そうと思っても隠せる物ではない。
それに一つ一つのパーツにしても優に1tは超えるので残骸を村人が人力で運び隠したとも考えにくいだろう。
村に有る一番大きな建物でも、仮に中がすっからかんの壁だけで出来た張りぼての建物だったとしても歩行戦車を隠すことは無理だ。
つまり、見える範囲には少なくとも危険な敵は居ないということになる。
「ふーむ、結局ゴメスの野郎が法螺吹いたってことか……
お宝が手に入るかも知れねえって盛り上がったこの気分を台無しにしやがって。
本当は榴弾の取り扱いをミスって仲間を吹き飛ばしやがったとか、そんな落ちか?」
しばらくそのまま観察を続け、納得が出来たのか双眼鏡を下ろすと
「まあ、理由はなんにせよ、ゴメスの奴は戻ったら縛り首だな。
村の連中にはとばっちりかも知れんが変な噂がたっても困る。
悪いがゴメスに付き合って死んでもらおう……今晩だけは時間をやる、良い夢でも見てな」
村のほうを向いて虚空にそう言い残し、男は村とは反対方向の丘の向こう側へと消えた。
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MAPへの帰還直前に、そういえば今の自分は無所属だからどこのエンブレムも付けてなかったという事を思い出した俺は、少し時間を使って懐かしい自分のスカッドのトレードマークを腰部カバーにペイントする事にした。
折角久々にオンラインで遊べるんだから、やっぱりこういった部分もきちんとしておかないと駄目だろう。
そういえば、人によってはトレードマークを綺麗にペイントする為だけに起伏の少ない盾を装備する痛車的な自己主張をする奴もいたな。懐かしい……。
システム的に絵を描く機能は無かったので、無理やり元からある記号のようなパーツを組み合わせてちゅる○さんやあんぱ○まんとかペイントしたっけ。
でも、それを見た外国人が「HENTAI、HENTAI」煩いのはどうにかして欲しかった。
いや、俺のことじゃないんだぜ? 勘違いはしてくれるなよな?
なぜかしつこくHENTAIと言ってた外人が戦闘終了後、トレードでそのペイントをくれくれ言ってたのも懐かしい。
当然布教の為に喜んでトレードしたさ。
いや、勿論俺の話じゃなく、友人に聞いた話なんだが。
一寸だけ昔のエピソードを思い出してしまった。
今はスカッドのトレードマークの件だ。
……本当はコクピットブロックにペイントしたいのだが、このゲームは狙撃が恐ろしいので、目立つ模様をコクピットブロックにペイントする事は出来ない。というか、しない。
幸いにもパターン設定のデータ自体は所属が空白になっても残されていたので、そのデータを利用し、後はガレージの機能任せでペイントは済んだ。
ただ、国別の所属を示すエンブレムは所属国のものしか使用できないという縛りがあり、今の俺のガレージにそのデータは入っていなかった。
まあ、描くだけなら記憶に残っている国旗を描けば良いだけなので問題は無いのだが、現実問題今の俺がそのエンブレムを使うと所属を偽っている事になってしまう。
それに、レーダーにはIFF(敵味方識別装置)も備わっているので、目視で敵味方の識別なんてそもそもする機会自体ほとんど無いのだから無理に描く必要も無い。
と、いうわけでスカッドのトレードマークである「翼の生えたカラフルな玉子」実際には昔の名作シューティングゲームの主人公機体で16tの爆弾を落とす奴がモデルなのだが、かなり古いので知ってる奴の方が少ないだろう。
さて、準備が整ったのでようやく出撃だ。
一体どのMAPに出るんだろうな?
……。
「あれ? ここって」
短い浮遊感とともにようやく帰ってきたMAPは、夢の中で最後に大量のNPCと戦った場所だった。
ゲーム時間は夜明けなのか、稜線から顔を出したばかりの太陽が残骸から伸びる影を長くしている。
夢の中なのにきちんと連続した状態で始まるとか、面白い経験をしたな。
大抵、夢の続きを見たいと思ってもそれが叶う事なんて無いのに……。
なんだか、一寸得した気分だ。
でも、そうすると、敵も前回の続きでNPCの大群なんだろうか?
前回は、一寸急いでいた所為で最後はレーダー中継器を制圧しなかったが、今回はちゃんと制圧してから続きをしよう。
有視界戦闘に頼りすぎて敵の取りこぼしとかあると嫌だしな。
俺の機体は汎用機として構築している為に機体内蔵のレーダーがサポートしている索敵範囲は極わずかだ。
構築で専用のレーダーユニットを積んでしまえばレーダー中継器は不要なのだが、そのユニットが非常に重い。
どのくらい重いかといえば、これを積むとまともな武器は一個しか詰めない上に、足回りも積載量が最大で鈍足の四脚位しか選べないといえば分かるだろうか?
じゃあ、何でそんなハンデにしかならない装備があるのかといえば、本来は6人で役割分担をして戦うのがセオリーなので、スカッド全体の戦域管制を行う指揮官機という役割を用意する場合はこの装備が必須になるのだ。
そもそも、このゲームではスカッド内の通信がレーダーレンジ内のみという制限がある。
人数が揃っていて連携して戦う場合は、構築にもよるがお互いの足の速さの違いもあるので、全体の戦域管制が出来る機体が居るか居ないかはかなり重要だ。
それだけではなく、MAPによっては吹雪や砂嵐(特殊な条件では水中戦)で殆ど視界が効かなかったり、遮蔽物の所為で敵を視界に入れることが出来ない場合もあるので、そういった時に戦域管制が出来る機体が居ると戦いやすさが全然違う。
他にも意外とお世話になるのが、目の前の戦闘に集中しすぎて周りが見えて無い場合に指揮官機からの警告で、予想外の敵の接近や味方の危機を知らされる等といったケースがある。
しかし、今の俺は一人きりなので仲間の支援が受けられない。
そうなると、機体内蔵のレーダーは極近距離しか見えないし、残りは肉眼で見える情報が全てになってしまう。
しかし、レーダー中継器が有るなら話は別だ。
こいつを制圧すれば、指揮官機とは違って自律して動いたり、戦況を判断して警告をくれたりしないという欠点はあるが、機体内蔵のレーダーに追加してレーダー中継器が持つ指揮官機並みのレーダー範囲が手に入る。
そのために、俺は一番近いレーダー中継器を目指す。
レーダー中継器へと向かう途中、昨日NPCが壊そうとしていた住居が集まった辺り、これは村かな? を横切る。
なぜか広場に人間タイプのNPCが沢山集まっていたのでガンカメラでズームして眺めながら移動していたら、こちらへ手を振っていた。
敵対行動を取って来なかったのでこちらからは攻撃しなかったが、……こんなイベントあったっけ?
中継器は近づいて一定時間そこから離れなければ自動的に制圧した事になり、それを示すランプが点灯する。
まあ、機体側で見えるレーダーレンジが一気に拡大するので、目に見えるランプは実際には必要ないと思うが演出なんだろう。
「うお、なんだこりゃ?」
制圧した中継器は、驚いた事に前回の夢で制圧したレーダー中継器ともリンクしていた。
前回はあまりに退屈な移動の連続で、精神が磨耗していた所為で気づけなかったが、このレーダー……MAPをまたがってリンクしてやがる。
バグかよ? なんだこれ? 範囲広すぎだろ。
おかげで物凄い広さの索敵範囲を手に入れたが、大半は誰も居ない砂漠地帯なのであまり意味はなさそうだ。
ただ、不思議な事にこの中継器を制圧するまでレーダーレンジは自機の物のみが表示されていたんだよな。
これも自称「神」の変な仕様変更の影響なのか?
でも、これに関してはルールさえ分かれば便利かもしれない。
お? 早速、今回制圧した中継器のレーダーが、丘の向こう側を移動する敵の集団を補足した。
数だけなら前回より多いくらいだ。
丁度いいので折角持ってきた榴弾砲をここから叩き込んであげよう。
セオリーが分かってる奴が相手なら、遠距離からの砲撃が始まったら砲撃の発射地点を目指して全速で接近してくるはずだ。
こちらの狙いとしては、相手が多いので集まってる時に可能な限りダメージを与えておいて、後は足の速さでばらけた敵を各個撃破なんだが、中距離は良いとして近距離がマシンガン1つなのが一寸厳しいかもな。
まあ、でもゲームなんだしある程度は厳しい戦いの方が楽しいだろう。
さてと、相手がNPCなのかPCなのかは不明だが、少しは手ごたえのある相手だといいな。
先制攻撃で取り合えず半分榴弾をぶち込んでやるから、きっちり反撃してこいよー。
丘を挟んで敵から射線が通らない位置を確保して榴弾砲を空へ向ける。
残念な事にレーダーでは敵の数や位置は分かってもそれ以上の情報は手に入らない。
構築で殆ど無限のバリエーションを生み出せるので仕方が無い部分ではあるんだが、敵の数が多いときは一寸不便だ。
本当なら、足の速い奴を優先して倒すか、長距離攻撃に特化した機体を真っ先に倒したい。
スカッドが機能しているなら偵察専用機体も構成的に有り得るので事前の情報や弾着観測をしてもらえるのだが……。
まあ、仕方が無い。
敵にも榴弾砲があるかもしれないので移動しながら砲撃を開始。
一門50発搭載してきたので25発を4門、つまり100発撃ち込んでやった。
さて、どんな反撃が来るか……。
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《村の少女視点》
にわとりさんの声でいつもは目がさめるんだけど、今日はすっごい音にびっくりして目がさめたの。
きのう大さわぎしたから今日は皆おきるのが遅かったみたい。
いつもなら夜明け前からコッコ、コッコ、コケーってないているにわとりさんも寝坊することがあるなんてね。
トムおじさんがいつもじまんしてる草を切るどうぐも近くで聞いてると耳が痛くなるくらいにぎやかだけど、今聞こえてくるのはお腹のそこからドドドドってひびいてくるようなすっごい音。
そのせいで皆とびおきてしばらく大さわぎ。
でも、その時だれかがいったの「あそこだー!」って。
皆、あやつり人形みたいにいっせいに指の先をみてたわ。わたしも。
そこに朝日のせいでかたちしか見えなかったけど、すっごく大きくてゴツゴツしたよく分からない何かがいたのね。
それが、すっごい音をだしている正体だったの。
しばらく皆でぼーっとしちゃって、そうしたらいつの間にかその大きな何かが動きだしたのね。
四本の棒が前に向いて生えた体をゆっくり、ゆっくりゆらしながら、にわとりの足に良くにた足でズシンズシンって。
歩き方はちょっと可愛かったわ。
皆はその大きさにびっくりしちゃってみてなかったけど、私はその腰のところに絵が描いてあるのに気が付いたの。
かわいい羽の生えた玉子の絵。
これはきっと天使様の玉子の絵。
思わず指をさして天使様ってさけんじゃった。
そうしたら皆も天使様の玉子の絵に気が付いたみたいで、その後はもう大変。
皆で手を振りながらありがとう、ありがとうって大さわぎ。
どうしてありがとうなのか分からなかったんだけどお父さんが言ってたから私もまねしていったわ。
ありがとう、天使様! って。
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「!!!!?!?!!?!?」
鼓膜が破れたのか、横の座席の奴が必死の形相で何かを叫んでいるのは見れば分かるが何を言っているかは聞こえやしない。
多分言ってる内容は俺がさっきから叫んでいる内容と大差ないだろう。助けてくれか、ふざけるな、のどっちか位しかこんなときは出ないもんだ。
隣を走って居るはずの戦車も、その向こう側を歩いていた筈の歩行戦車さえもが上からと下から降ってくる土砂の雨の所為で何処に居るのかもまったく分からない。
無限に沸いてくると錯覚しそうな大量の土砂の雨の所為で思うように移動も出来なくなった。
俺には一体何が起こったのかわからない。
最初に、燃料タンクが大爆発でもしたような轟音が聞こえたかと思ったら、中央を歩いていた一番でかい四脚が、空からどでかいハンマーで叩き潰されたみたいにひしゃげながら吹き飛んだ。
お頭は「敵襲だ!」って叫んだが、見えるところに敵なんか居ねえ。
じゃあ、地雷でも踏んだのか? って話だが、この爆発はそんなちんけなもんじゃねえだろう。
最初に吹き飛んだ四脚は歩行戦車の中でも飛び切り重量級で、重機で動かそうと思ってもそう簡単に動かすことが出来ねえ代物だ。
それが一瞬でぶっ飛びやがった。
しかもその爆発の所為で、四脚の破片が周りの奴らを巻き込むわ、搭載していた弾薬が誘爆するわで、四脚の周囲に居た奴らで操縦席にシールドが無いタイプのホバー戦車や、運悪くコクピットのキャノピーが吹き飛んだ歩行戦車なんかが次々と行動不能になる始末。
それで済んでいればまだ良かったんだろう、謎の爆発は治まるどころかでたらめな勢いで加速して、最初は爆発だと分かるだけマシだったが、今は地面がまるでめくれ上がったんじゃないかというような状態になっている。
さっきからやまない土砂の雨の正体がそれだ。
もうお頭が何処に居るのかも、誰が死んで誰が生きているのかも分からない。
俺達はお頭の命令に従って、一番足の遅い四脚を中心に、その周りを囲むような楕円形の集団を形成して街道をゆっくりと村に向かっていた筈だ。
そう、向かっていたんだ。さっきまでは、順調に。
まだ早朝で人通りも無く、すれ違う相手が居たら景気づけにぶち殺そうと相談していたのが嘘のようだ。
一瞬で地獄に叩き込まれたとしか思えない。
俺達は確かに悪党だが、此処まで酷い目にあわなきゃいけないほどの悪党なのか?
……誰か、教えてくれ。
さっきから隣の奴が騒がなくなったと思ったら首から上が無くなってやがった。
運の悪い奴だ、キャノピーが割れて岩が突き刺さってやがる。
あれ? おれの胸に何か透明な破片が突き刺さって……。
お頭……助けてくだせぇ……。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□
ふぅ……。おかしい。
予定の100発を撃ち終わった俺の感想は「おかしい」だった。
敵からの反撃が来ないし動きも無い。
必死で敵の反撃に備えてちょこまかと回避運動をしていた自分が物凄く間抜けに思える。
それにしても、丘の向こうがどうなってるのかが気になって仕方が無い。
見てみたい、だが、丘の向こうは敵の反応でいっぱいだった筈だ。
絶対に生き残りは居るだろう。
レーダーは動体目標にしか反応しないので、我慢して動かない奴らは例え生きていても反応しない。
つまり、移動していないだけで丘の向こうの敵はまだ生きてる奴がかなりの数居るはずなんだ。
それにしても、何だこの変な膠着状態は……。
例えNPCが相手でも、そんなに簡単に倒せるはずが無いのは分かっているつもりだ。
だが、時間が経つにつれ段々自信がなくなってきた。
え? 俺、何かとんでもない事したっけ?
榴弾撃っただけだよね?
先制攻撃で撃った100発は一体何を引き起こしたんだ?
まさかこれも自称「神」の変な仕様変更の影響なのか?
普通ならどんなに巧く当てても、ヘッドショットで四脚なら3発、2脚なら2発は倒すのにかかるはずだ。
密集していた敵だったから全体に少しくらいの範囲ダメージは有ったと思う。
でも、レーダー上で、敵は俺が攻撃を開始した時点からまったく移動をしていない。
PCでもNPCでも、撃たれれば普通は回避運動くらいはするだろう。
それが無いんだ。
まさか……!?
これは……罠、なのか?
俺が様子見のため丘の上からガンカメラをそっと出して覗いたらそこをスナイプする作戦なのか……!?
確かに! そう考えれば、この動きも理解できる気がする。
やばい、俺一寸様子見に行ってみようかと思ってたよ。
くそう、こういうときはどうすれば良いんだ……。
一寸予想外の作戦を立ててきやがったな。
敵に動きは無いんだから、こうなったらいっそ残りの100発も同じ場所に叩き込んでやるか?
今度はわざと集弾率を下げて着弾地点をばらけさせて様子を見てみるか……。
とりあえず、ちょっとしたテクニックを使ってみよう。
このゲームのテクニックの一つで、4発同時発射で設定して有る武器をトリガーを引くタイミングを一瞬にして撃つと単発で撃つことができるというのがある。
これは、応用次第で面白い使い方が可能だ。
今回の場合の利点は、4本の榴弾砲を一定の間隔で順番に撃つことにより同時発射時のようにリロードが同時に発生せず、発射間隔の隙間をなくすというのが一つ。
もう一つの効果は、バラバラに撃つおかげで反動が発生し、勝手に集弾率が下がり着弾点が分散する事だ。
今回の構築は反動制御優先なのと、連続発射のおかげで有る程度は反動が相殺されてくれるので馬鹿みたいに着弾点が狂うことも無い。
これで、後はトリガーを引きっぱなしにしておけば勝手に程よくばらけた着弾地点に榴弾の雨が連続して降る事になる。
結果、首を引っ込めた亀のように動かず、こっちの動きを待っている筈の敵が、この攻撃に音を上げて飛び出して来れば良し。
飛び出してこないなら、もういっそ残り100発も全部打ち込んでしまおう。面倒くさいから。
その後はこちらもマシンガンが一丁という心もとない状態になるが、それもまた面白い。
では、残弾、発射開始!
先制攻撃の後、しばらく休ませていた榴弾砲の砲身がまた空に向かって角度をあげていく。
俺は、しばらく花火職人にでもなった気分で、榴弾砲を撃ち続けた。
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「お、俺の……ヘルハウンドが……」
耳鳴りが酷くて自分の言った言葉も良く聞こえねえ、さっきまでひっきりなしに降ってきていた土砂の雨がようやくやんだ。
土砂といっても、ゴルフボールサイズの石は当たり前、でかい奴は岩といってもいいような奴まで降って来やがったのがたまらねえ。
指揮車両代わりに使っていたホバークラフトは、降ってきた土砂の所為で浮力を発生させていたローター部分に砂が噛んでしまい、ギュリギリガリゴリとおかしな音を立てたと思ったら煙を出して動かなくなりやがった。
元は軍用の癖にだらしがねえ奴だ。
「くっそ、ポンコツが!」
口の中に入っていた泥を吐き出しながら悪態をつく。
あたりに漂っていた砂埃もようやく少し薄まってきて、ある程度視界も回復してきた。
自分の体も半分は座席ごと土砂の雨で埋まってしまっていたので、とりあえず身動きが取れる程度に掻き分けてどうにかホバークラフトから脱出する。
最初の攻撃の後、馬鹿みたいに続いた爆撃の所為で、先頭を進んでいた俺のほかに生き残りが居るのかどうかも分からないが、反撃するためにも生き残った奴らを纏めなくちゃいけねえ。
「生きてる奴、返事しろい!」
そう考えて足場の悪さと、爆撃の所為で全身打撲の様な状態になった体に鞭打って、よろけながら稼動可能な兵力を探す。
状況は、四脚があった辺りが一番酷く、その辺りは火山の噴火口の様な状態になっていた。
今も、溶岩にしか見えないドロドロとした何かが四脚のあったあたりにぶちまけられていて、その所為で離れている筈のここでも酷く暑い。
土砂に埋まった手下達はそのまま蒸し焼きになったのか、真っ黒な煙が積みあがった土くれの下から吹き上がっている。
化学薬品やプラスチックが燃えているのか、少し吸い込むだけで吐き気がする、まるで毒ガスのような煙だ。
「手前ら! 返事しろって言ってるのがわからねえのか!」
敵は一体何をしやがったんだ?
何もかもが常識はずれだった。
地形が変わるような武器なんか戦争中でも聞いた事が無え。
俺は飛び切りの悪夢でも見ているのか?
「ったく、どいつもこいつも役立たずが!!」
大軍同士が衝突して、その「結果」地形が変わったって話なら聞いた事が有るが……。
その話にしたって、実際は大げさに言っていただけで、精々が崖の一部が崩落したとか、雪山で大砲を撃った所為で雪崩が起きたとかそんな落ちだったはずだ。
だが、目の前のこの光景は何なんだ。
「アラーーン! ファビオーー! マークス!!!」
腹心とも言うべき手下の名を叫ぶが誰からも返事は無い。
此処が元々火山だったって言うのならまだ理解は出来る。
だが、ここはさっきまで普通の街道だったんだぞ。
今は、道らしい物なんか何処にも無い、それどころか隕石が落ちたようなクレーターとその中心にはドロドロとした溶岩の様な何かがある。
クレーターの中、所々突き出した棒切れの様な物はひっくり返った歩行戦車の脚か?
ここは地獄なのか?
目に流れ込んでくる血が邪魔だ。
歩き回っていると横倒しになった歩行戦車を一台発見した。
土砂の所為で足元が滑ってぶっ倒れたのだろう。
近くには転倒の衝撃で放り出されたパイロットだった物が、ひき肉のようになって土砂に半分混じって……人間と土砂の化合物の様な状態になっている。
面倒くさがって座席のハーネスで体を固定していなかったのだろう。
既に精神が麻痺していた俺は、そんな肉塊を見ても特に何の感想も持たず、コクピットに乗り込み自分の体をハーネスと安全バーで固定すると、起き上がるための操作を開始した。
二足歩行の歩行戦車は、元々倒れるという状況は想定していないので、起き上がるのはかなり難しい。
しかし、今、周りはでこぼこの土砂の山だ。
重心さえ巧く調整してやれば起き上がる事は出来るだろう。
最初に膝を抱えて丸くなるような姿勢をとり、機体重心を調整する、その後、一気に足を伸ばし重心を足側へと動かした。
その動作で生まれた反動エネルギーを利用して機体の向きをひねり、うつ伏せにする。
右へ向きたいなら右足だけを一気に折りたためば勝手に機体はごろんと右へ回る。左なら逆の操作をすればいい。
後は尺取虫がするように体を曲げて脚を縮めればお座り状態に移行だ。
この操作は教本には載っていないが、戦場で転倒した二足歩行戦車はそのままだとただの的になってしまうので、機体耐久値を削る前提の緊急動作としてこういう動きもある。
ここが安全な場所なら、機体にかかる負荷を考えてクレーンや重機を使って慎重に起こすのだが、今そんな悠長な事をしている余裕は無い。
今必要なのは、直ぐに使える兵力、ただそれだけだ。
「「生きてる奴、返事しろい!」」
立ち上がった歩行戦車から、機体に備わったスピーカーを使って手下達に呼びかける。
調子の悪いスピーカーが俺の声を二重に響かせるが、でかい音が出るならそれで良い。
クレーターの外縁でわずかだが地面がもぞもぞと動いているのが分かる。
どうやら、しぶとく生き残った奴らが居たようだ。
これで反撃が出来る。
そう思った時だった、それまでやんでいた爆撃が唐突に再開された。
それも、今までと違いでたらめな場所をやけくそのように爆撃してくる。
本能的に空を見上げると、まるで絶望しろとでも言うように、大量の砲弾が次々と切れ目無く降って来るのが見えた。
俺の声で動き出した野郎どもが土砂の所為で巧く動けず俺のほうを向いて必死に何かを叫んでいる。
だめだ、こいつらにかまっていたら俺まで死んじまう。
俺は、自分の本能に従って、元凶の村を破壊するために歩行戦車を走らせた。
せめて村の奴らだけでも皆殺しにしてやる、考えるのはそれだけだ。
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砲撃を開始して数秒後、やはり満遍なく撃たれるのは敵も嫌だったのか、今までまったく動きの無かった敵にようやく動きが現れた。
俺のほうは、砲撃中、片手が空くので水を飲みながらビスケットを齧っていたんだが、敵の動きに合わせて次の動きに移るために、齧りかけのビスケットを口に全部放り込むと水で流し込んだ。
……何故か夢の中なのに腹が減った気がするんだよな。
レーダー上で確認すると、動き出した一機は丘を迂回して最初に俺が居たあたりを目指している。
なんだろう? この動きは。
砲撃している俺を狙うんじゃなく、俺が過去に居た場所に向かうって言うのが分からない。
数も一機だけだし、囮なのか?
榴弾砲は砲撃開始してから、一門辺り10発程度しか消費して無いのでまだまだ残弾数には余裕が有る。
残弾数も十分、待っているだけっていう状況も面白くない。
これがどんな作戦なのかは分からないが、ひとまず敵の誘いにのって動いて見ることにした。
移動開始にあわせて、静止状態からガクンと一回引っかかったような衝撃が走り、その後はゆっくりと加速が開始される。
囮の姿を確認したかったので、移動中の砲撃は一時中断だ。
移動中は暫くする事が無いのでくだらないことを色々考えてしまう。
さっきまで食べていたのが歩行戦車備え付けの備品で、脱出時に使うはずの携行食だとか。
食ってみたら意外と旨かったとか、味まで分かる夢って凄いな! とかそんな感じだ。
そこまで考えたら丁度時間が来た。
レーダーからの情報だと、そろそろ丘の向こうに敵が見える筈だ。
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ぼろぼろになった二足歩行戦車が煙を吹き出しながら駆ける。
フレーム自体もどこか歪んでしまっているのか走るたびに左右に傾き、どこかバランスもおかしい。
操縦席で二足歩行戦車を操る男も機体に負けずぼろぼろで、頭部からの出血で顔を染め、血走った目でブツブツと言葉をもらしている。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる……」
多数の二足歩行戦車やホバー戦車等で編成された新進気鋭の武装集団、ヘルハウンドの頭領ガウルはコクピットの中、狂気と憤怒で顔を歪ませていた。
ガウルの頭の中は、目指す村に死と恐怖をぶちまける事だけが目的になってしまっており、もはや理性は無い。
殺戮の熱に浮かされたように狂気して最後に残った二足歩行戦車を飛ばす。
……そろそろ目的の村が見えるはずだ。
攻撃可能になった瞬間から撃ちまくってやるぜぇ。
俺達が叩き込まれた地獄の何分の一かでも村の奴らに味わわせてやらないと気がすまねえんだよぉ。
理性はとっくに消し飛んでいるが、体のほうは手馴れた動作でセーフティーを解除し、武器を発射可能状態にする。
ガンカメラを覗き込む目は、額から流れ込んだ血の所為か真っ赤に染まっており表情の異常さも加味されて地獄の鬼のようだ。
口から泡と涎をたらしながら、トリガーカバーをはずし早速武器を発射しようと指に力を込め哀れな獲物を探す。
「ふひひ、殺す殺すころ、え?」
その瞬間、真横からまるで小さな太陽のような、熱の塊が近づいてくるのを感じてガウルの意識はこの世から消滅した。
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あれ?
あれれ?
敵……は?
囮だと思った歩行戦車を榴弾で片付けたらそれが最後の敵だった。
何を言っているのかわからないと思うが、俺も何が起こったのかわからない……。
またもや自称「神」の仕様変更に踊らされたのかと思うと頭がどうにかなりそうだった。
強化されたAI(人工知能)が俺を罠に嵌めようと想定外な行動を取っている物だとばかり思っていたのだが……結局なんだったんだ一体?
念のため最初に敵が集まっていたあたりにも行ってみたが、そこは道の途中がクレーターの様な地形になっていた。
このゲームではどんなに強力な攻撃をしたとしても地形が変わったりはしない、地形は非破壊オブジェクトだからだ。
精々が地面にこげ跡が出来たり足跡が残ったりする程度で、それだって時間がたてば勝手に消える。
つまり、ここは元からこういった地形なんだろう。
……そうか、どうも敵が変な動きをしていると思ったら、この地形の所為で動きが制限されているところに俺が榴弾をぼこぼこ叩き込んだんだな。
ゲームのAIは頭が悪いので、地形がおかしくても道として設定されていればそこを優先して通行するはずだ。
まさか、道の途中がクレーター、しかもかなりでこぼこになっているなんて普通は考えないもんな。
それにしても、酷い、ただ土地がでこぼこになっているだけじゃなくて古戦場的な演出をしたかったのか、歩行戦車の残骸や脚部が地面から柱のように生えている所為で物凄く通りにくい地形になってしまっている。
ここを通り抜けようと無理したら、そりゃ足も止まるわ。
でも、こんな地形俺は見たことが無いので、これも多分自称「神」が仕様変更した結果なんだろうな。
一体どこまで変な変更を加えやがったんだ。まったく。
熱い戦いを期待していたら、実際はただ榴弾を空にぶっ放すだけの単調なお仕事でした。
この不完全燃焼で溜まったイライラはいつか自称「神」にぶつけてやろうと思う。
おしまい




