ファンタジー作品の騎士に必要な設定とは 前編
お久しぶりです。
現代のファンタジー作品に登場する騎士は、史実での騎士とはかけ離れた姿であることが非常に多いように思えます。
中世ヨーロッパの風景を基に構築された世界において、もっとも乖離した形態をとる要素の一つと言ってもいいでしょう。
今回は史実での騎士とファンタジー作品での騎士の違いを見つつ、どのような世界であればファンタジーの騎士が構築されるのか、考えていきたいと思います。
--前編--
・ファンタジー世界の騎士団に所属する騎士
・史実の騎士団
・常備軍として存在するファンタジー騎士団の属性
--後編--
・騎士団成立のための2つの問題
・騎士団を国に所属させるには
・ファンタジー世界の騎士が持つ可能性
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・ファンタジー世界の騎士団に所属する騎士
ではファンタジー世界における、一般的な騎士とはどのようなものでしょうか。
非常に多く目につくのは、"軍隊単位として機能する「騎士団」に所属する職業軍人"という騎士です。今回はこれに絞って考察を行います。大体次のようなものです。
まず騎士になるには入団試験をクリアしたり、騎士学校を卒業する必要があります。親のコネや養成学校でいい成績を持っていると精鋭とされる騎士団に入団できます。
騎士団は国の軍事単位の一つとして扱われる場合がほとんどで、王や宰相の命令、またはそれに準ずる部署に従って軍事行動をとります。資金は国の軍事費に依存している場合が多く、給料や装備などの諸経費はそこから捻出されます。
騎士団の規格は統一されておらず、(よく主人公が所属する)貧乏な、もしくは問題児ばかりを集めた騎士団や、貴族のお坊ちゃんが所属する"近衛"の名を冠するエリート騎士団が存在していますが、どこも首都にある王宮(やそれに準ずる施設)に本部を置いています。
組織としては団長、副団長、構成員という形を取りますが、基本的に全員騎士であり、個々が所持する技能を活かして捜査や戦闘をこなします。
小説、アニメ、漫画、ゲームなど、媒体に関わらずこの設定を持つ騎士を皆さんも一度は眼にしたことがあるのではないのでしょうか。
もちろんそうでない騎士も沢山います。ただ、領地を持っていて君主の命によって従卒と共に戦場に駆け付ける、というような"史実中世での典型的な騎士"は少数派といってよいでしょう。
ファンタジー作品の騎士がこのような形態をとらざるを得ない理由やそうなった経緯というのは、メタ的な視点でいくつか考えることができます。
アーサー王伝説、ロマン派台頭、指輪物語、スターウォーズ、ドラゴンクエストなどの数百年にも及ぶ歴史を経て、その土壌の上に現代のファンタジーは形成されているのです。
今回は脇道にそれてしまうので詳しくは書きません(別作品: なろうファンタジーの騎士を考察しようをどうぞ)が、ともかく、"現状多く存在する設定"を根っこから否定してしまうと作品を成り立たせることができなくなってしまいそうです。
この設定はおかしい、史実に反していると書くことは簡単ですが、それは建設的な意見とは言えません。
中世という枠組みでこのような軍隊を成立させるには、どのような装置があればいいのでしょうか。または、どれだけ史実要素を取り入れればいいのでしょうか。
・史実の騎士、騎士団
史実中世ヨーロッパで騎士が登場し、主な軍事形態となったのには、いくつかのイベントや事情があります。
簡単に書くと、鐙が伝わったことと、指導者が沢山いて領土が小さかったことが挙げられます。
比較的簡単に馬に乗れるようになったことと、小規模な経済でできるだけ高威力な軍隊を編成しようとした結果、騎士が生まれることとなったのです。
騎士の武装や戦闘方法、その後については今まで書いてきたとおりですが、騎士団とは何でしょうか。
史実の騎士団を一言でまとめると、宗教関連の戦争や遠征事業を行う集団といえます。
中世ヨーロッパのメインイベントの一つである"十字軍"で騎士団は登場しました。
騎士団はヨーロッパから遠く離れた聖地エルサレムへの巡礼を手助けしたり、聖地をキリスト教サイドの物にするために活動し、そこからイスラム教や土着の自然崇拝といった異教と戦う集団へと変わっていきます。
宗教という属性を持った軍隊ですが、派生元としては修道院です。つまり厳密には騎士とは違います。
修道者というのは修行によって楽園に近づこうとする人々で、日本で言う修験者と同じような存在です。それがエルサレム(というヨーロッパ人にとっては過酷な地)に病院を設立し、キリスト教系の神殿や信徒を守るために騎士団となったのです。
資金源は農地(ブドウ畑)や王侯貴族からの支援によるものでしたが、資金は潤沢だったようで、十字軍に参加した王に戦費を貸すという銀行のようなこともやりました。世俗騎士から宗教騎士へ転向した騎士も多く、騎士団は充実していました。
騎士団は異教徒に対して高い戦闘能力を発揮し、多くの成果を上げましたが、近世が終わるまでには解体されてしまいます。武装集団はやはり国がコントロールする必要があったからです。ただ、彼らがいなければ、イスラム教徒やモンゴル系の民族からヨーロッパを守ることはできなかったでしょう。
・常備軍として存在する騎士団の属性
このように書くと、ファンタジーの騎士・騎士団と史実の騎士・騎士団がいかにかけ離れた存在か、お分かりいただけると思います。
このギャップをなんとかできるのでしょうか。
国が常備軍を持つのは近世からだとこの小説でも何回も書いてきました。では冒頭で書いたような騎士団がファンタジー小説に出てきたら、それは近世としなければならないのでしょうか。
実はそんな簡単な話でもありません。騎士団は近世の軍隊とも全然違うのです。
まず近しい存在を見つけるために、ファンタジーの騎士団がどのような属性を持っているのか考えてみましょう。よくある描写からそれぞれ探ってみたいと思います。
よくある騎士団の仕事は、モンスター討伐、要人警護、他国の工作員や犯罪組織との対決、未開拓地の調査、希少資源の採取などが挙げられます。
冒険者と仕事内容が完全に被っているわけですが、騎士団に主人公が入るような"騎士目線の作品"だと、冒険者自体がそもそも出てこないことが多いでしょう。
他国との大規模な戦争をテーマにしてしまうとジャンルが戦記物になってしまうためなのか、あまり国家間戦争に参加することはあまりないように思えます。
ファンタジーの騎士団は戦術単位の一つとして扱われる場合がほとんどですが、一方で個人の実力や特殊技能を重視する軍隊であり、装備の統一や規格化、団体行動を徹底するような様子はありません。騎士団自体の人数もまちまちである場合が多く、チンギスハーンやナポレオンが開発したような軍事形態を見ることができません。
騎士団という言葉は宗教的な意味は持たず、単にまとまった一つの軍隊単位の呼称として扱われます。
軍機能としては補給や人事を除けばそれ一つで完結するように構築されているようであり、一つの騎士団のなかに大剣を振り回すパワー系の騎士や治癒魔法に長けた騎士などが混在しています。近代化がすすめられた軍隊ではこのような編成が取られることはなく、これはどちらかというとイタリアの傭兵で紹介したランスに似通っています。
日常風景として団長や高い戦闘力を持つ騎士の指導による走り込み、模擬戦といった訓練を頻繁に行っており、従士制度や日本における師範に似通った性質を見ることができます。
騎士学校や入団試験などの条件を設けている場合、徴兵によって組織されるのでもありません。主人公を含め、騎士たちは自発的に騎士になろうとします。
治安維持を担っている場合もありますが、警察組織に似た衛兵と役割を分けている世界も多くあります。治安維持と軍事活動の分離は両者の専門性が上がった結果であり、もしそうであるなら近代的な思想とも言えます。とはいえ衛兵の活動に口を出す、もしくは指揮を執る騎士というのも珍しくないので、これは微妙なところでしょう。
複数の騎士団が王宮に本部を置いているという点も見過ごせません。騎士団に所属する騎士が王に従属している、王宮に出入りできる、首都に軍隊を集めておくことができる、ということになるからです。
爵位を持った貴族の子が騎士団にいるところ見ると、貴族たちが私兵としての騎士団を持っている様子はありません。都市国家と言うわけでもなさそうで、中央集権に成功した国家であるということが伺えます。
このように、統治体制から見れば史実近世に非常に近いものであったとしても、騎士団の形態や目的はそうとも言えない場合がほとんどです。次回はどういった要素があれば中世の枠組みに収めることができるのか、考えていきます。
"なろうファンタジーの騎士を考察しよう"は肝心なところで2年ほど前に連載停止していますが、騎士について歴史と文化史の二つの面から書いたところまでは公開していますので、気になる方は是非お読みください。
また、冒険者ギルドにフォーカスしたファンタジー小説、"辺境ギルドの分析者"をつい最近書き始めました。こちらは第1章まで公開済みです。
本小説ともども、どうぞよろしくお願いいたします。
カクヨムでは本小説の改訂版を投稿しています。理解が浅かった部分や意味が通りにくかった箇所、表記の揺れを加筆修正をして順番を整頓したものですので、本小説の内容をいい感じに忘れたという方は是非こちらもどうぞ。




