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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
陰謀巻き込まれ?編
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竜の牙20

 胸いっぱい感動の再会は、1秒くらいで終了した。


「ガァッ!!」

「グォオオオオオゥ!!」

「ギュェエエエッ!」


 もうあっちこっちが目一杯騒がしいのである。

 上空では4匹の巨大竜を相手にスーが炎を吐きながら飛び回り、私の背後では私のことを仔竜だと勘違いして地下牢から助けてくれた竜が最大音量でフィカルに対して吠えまくっている。音量が大きいので内臓までビリビリと震えている感じがした。これで痩せるならまだ耐えられるんだけども。


 至近距離で叫ぶ巨大竜から、それよりも小さい鳴き声でケェエーッ! と怪鳥のような声が降ってくる。それと同時にフィカルがこぼした舌打ちの音がかすかに聞こえ、私の体はフィカルごとスッと横に移動した。

 私達がいた場所にはベチャッと仔竜がかろうじて着地していた。


 顔面から落ちてきたように見えた仔竜はガバッと起き上がり、バタッと翼を広げたまま私を目掛けてドタドタ走ってくる。フィカルが闘牛士のようにそれを避けると、ベタンと転がって止まった仔竜がめげずに立ち上がりフィカルに対してカカッと威嚇した。まだ歯の生えない口のなかがよく見える。喉の奥が濃い紫色だった。

 フィカルの眉間に皺が刻まれる。


「フィカル、落ち着いて、あれ子供だから、この竜達も私を守ってくれたから、戦う必要全然ないからね」

「……」

「断らないでね」


 むっと黙り込んだまま頷かないフィカルに念を押して、今度は体を反転させて竜の方を見上げ……ようとしたらフィカルの腕に阻止されたので、抱っこされたまま首だけで後ろを向く。


「どうどう、落ち着いて落ち着いてー、仲間だから、フィカルは別に怖くないから!!」

「グルルルルル……」


 嘘つけ、と言いたげな竜はしばらくフィカルを引き剥がしたそうにあちこちから私達を眺めていたけれど、やがてフガフガと匂いを嗅ぎ、それからフガフガと鼻を鳴らし、そしてフガフガと嗅覚を駆使して、渋々ながらも敵ではないと判断をしてくれたらしかった。

 ちなみに鼻息攻撃を受けている間も、果敢に私を助け出そうとしているらしき仔竜が諦めず突進してはあっけなく避けられていた。途中からは身を低くして尻尾を左右に振って飛びついてきていたので、本来の目的を忘れ楽しくなっていたのはバレバレだった。


 まだ威嚇のように低く喉を唸らせながらも、巨大竜は空に向かって一声二声上げる。するとスーを追いかけまくっていたモスグリーン軍団も翼を畳み、鼻先を寄せてくる。一様に唸っているので暴走族にカツアゲされているような心境である。


「ギュアッグゥウ」

「スー! おいでー」


 鼻先だらけで押し潰されそうな間を掻き分けて近付いてきたのは、紅い鱗が目に鮮やかなスーだった。頭を押し付ける力加減を忘れているようで、私が思いっきり押されてフィカルがスーのお腹をぐぐっと押し返している。


 ギューギューと鳴きながら鼻先を下げて頭を擦り付けたり、反対に鼻を空に向けて喉を撫でろと押し付けたりと忙しいスーも、私のことを探してくれていたらしい。フィカルに抱き上げられたままギュッと両手で顔にしがみつくと、間近の瞳がパチパチと瞬いて瞳孔を大きくした。


「キェエ〜〜!」


 フィカルごと翼を前に持ってきてギュッとするようなスーの向こうから、仲間外れにされて泣いている仔竜の声が聞こえる。ぴょんこぴょんこ跳ねているモスグリーンの頭は紅い翼に遮られてしまった。


 グルルル、ギューギュー、キィー、ぎゅう。

 騒ぎが一段落したのはそれからしばらく後のことである。




 パチパチと炎が上がる立派な焚き火の傍に、串刺しにした川魚がいくつか並べられている。石を積んで作った竈には小鍋が掛けられていた。

 その近くでスーと仔竜が取ってこい遊びをしている。

 マシュマロをスーが咥えてブンッと遠くに投げると、仔竜がドタドタと走ってキャッチ、それからまた投げて欲しそうにキラキラとスーを見上げている。どう見てもスーは面倒くさそうだけれど、見たことのない色の鱗に興味津々と纏わり付かれるよりはマシだと判断しているのか、やる気なさげにだらんと尻尾を地面に張り付かせたままマシュマロを投げている。


 私は2杯目の白湯でほっと一息。それをフィカルが膝の上に乗せていて、さらに後ろにはまだ疑わしいと言いたげな巨大竜が一匹フガフガと鼻を鳴らしていた。他の巨大竜はリラックスしたように座り込んだりしているが、フィカル達が動くとパッと顔を向けるので完全に警戒を解いたわけではないらしい。


 ギュッと私を抱っこして離さないフィカルにまず思ったのは、「数日オフロに入ってないので離れてほしい」という事だ。伝えるとキッパリ断ると言ったフィカルは、スーの背中から私の着替えを出してくれた。マントと剣をいくつか携えていたフィカルは、簡単ながら私の旅装も積んで来てくれていたらしい。

 その準備の良さにびっくりして聞くと、冒険者ギルドきっての肝っ玉母さんであるメシルさんが持たせてくれたらしい。あとで拝もう。


 鍋でお湯を沸かせて体を拭ける上に着替えもあるだなんて! と感激する私を地面に置きたがらないフィカルを必死に説得して、枯れ木の枝にマントを張って1メートルの距離を取り、首から膝上までを目隠ししながらお湯を使うことに合意させた。丸裸を監視されるよりずっとマシである。羞恥心のハードルが下がっていることは否めない。

 胴体を濡れタオルでゴシゴシと何度も拭い、白いワンピース型の下着を付けて足は川に浸け、ついでに髪の毛もゴシゴシと洗った。まだ日が高いので冷たい川で頭を洗っても辛くない。

 すぐに近寄ってきたフィカルに頭を拭かれながら、ついでに脱いだばかりの洋服も洗っておく。絞って木に干して出発までに乾かないようなら、スーに横を向かせ炎を当たらないように吐かせれば乾燥機能もバッチリである。


 私が空腹を持て余していると知るとフィカルは私をスーの鞍に乗せ、テキパキと魚を捕り野草を摘んでジャマキノコを裂き、塩キノコを削ったもので味付けをして火にかけ始めた。

 非常に手際が良い。

 ちょっと手のかかる料理は私が作ったほうが断然に美味しくなるのだけれど、フィカルは旅をした経験があるせいかこういったアウトドアにはめっぽう強い。同じ座学で習ったはずの野草魔草も私は躊躇するけれどフィカルはきちんと見分けられているので、実践の強さというのは何にも勝るようだった。


 沢山遊んでもらったらしい仔竜はマシュマロを飲み込んで、今度は焼き魚に興味津々である。ほくほくに焼けたものをフィカルから手渡されて早速かぶりつこうとしていると、ウルウルの瞳が間近から見つめてきた。

 クルルゥ、クルルルルゥ、と非常に可愛らしい音を喉で鳴らしている。


「えーっと、ほ、保護者の意見!」


 私とフィカルの直ぐ側に陣取った巨大竜に魚を翳してみると、フンフンと仔竜を嗅ぎ、それから焼き魚を丁寧に嗅いだ。それから仔竜の頭にケプッとマシュマロを落とす。

 まだ離乳食には早かったようだ。

 ちなみに私の頭にもマシュマロが降ってきたけれど、座布団にすることにした。私を膝の上から離す気がないらしいフィカルの足にかかる負担が僅かでも軽くなるだろう。


 川魚は蛍光ピンクの鱗をしていることを除けば、非常に美味しい焼き魚となった。食べることを躊躇させるようなカラーリングだったけれど、フィカルが食べられると判断している上にスーもバクッと一口で平らげているので私も齧ると、白身がホクホクとしていて食べやすい。久しぶりの動物性タンパク質が胃袋から体を温めてくれるのが実感できた。


 2匹目の魚にかぶりついている私のお腹にはフィカルの腕がしっかりと回されており、体はフィカルの着ているマントで覆われている。大きなマントは魔王討伐の報酬で一緒に新調したもので、分厚い割には軽くて保温性が高い。ニシオオムササビの毛皮を丸々1頭使ったもので、どんな過酷な旅でも10年以上持つと商人が力説していただけあった。竜に騎乗するなら断然コレ、という商品らしい。


 フィカルは私より早く食べ終わると、白湯を半分だけ飲んであとは私をマントで覆い、頭を私の肩に預けてじっとしている。私の捜索で疲れているのかと顔を覗けば紺色の瞳が見上げてくるので起きてはいるらしかった。

 スーにしても私達の焼き魚にご相伴するだけでなく、自分でも派手に水飛沫を上げて沢山魚を食べ、ひとっ飛びして小型の魔獣を何頭か食べてやっと満足していた。ふたりとも休む暇もなく探してくれていたのが想像出来る。


 太陽も南中を過ぎて、これから遠距離を移動して帰るよりは野宿をした方が体力面でも安心だ。そうフィカルに相談すると、こっくりと賛成してくれたので今日はここで夜を過ごすことになった。野宿といえば頑丈な樹上などで眠る方が安全だと言われているけれど、ここには最高の布団があり、沢山のボディーガードがいて、さらに私にはフィカルがひっついている。

 屋根はないのに久々に安眠が得られそうだった。






ご指摘頂き誤字を修正しました。(2017/04/25)

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― 新着の感想 ―
[良い点] >保護者の意見 何度も読み返していますが、その時毎により好きな箇所が発見できます。 今回はここが刺さりました(笑) アレルギーとか毒になる食べ物とかありますもんね。スミレさんのこのバラ…
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