竜の牙12
トルテアの街でいきなりボッシュートされてしまったこと、その犯人は怪しげな秘密結社竜の牙という魔術団体だということ、そして異世界人を集めて知識を吸い取ろうとしていること、吸い取られたらなんだかヤバそうなこと。
一通り説明すると、何もないようにみえる場所に足を組んで腰掛けていたキルリスさんがニタァと笑った。
「なるほど、でかした」
「え?」
「竜の牙は危険思想団体として魔術師会でも捜査していた団体だ」
中々尻尾を出さなくて探しあぐねていた犯罪者を、証拠付きで発見出来た。
そうニタニタ笑いながら告げたキルリスさんの方がよっぽど悪人顔だったけれど、とりあえず味方にはなってくれそうである。
キルリスさんがすっと立ち上がって手を伸ばすと、その手には杖が握られていた。そして周囲をぐるりと見渡し、呻き声がする方へすっと杖を持っていない方の手を伸ばす。すると呻き声がピタリと止んだ。
何をしたのだろう。
それから伸びた手は私の方へと近付く。前に一度されたようにその指がくるりと円を描き、浮き出た光る魔術陣に手のひらをポンと押し付けるとその大きさが私の顔くらいの大きさになった。それがそのまま額、というよりも私の顔にふわっと掛かる。
「ここはまた随分南の方だな。流石に捜索隊も難航するわけか」
「あ、ここって南なんですね」
地下牢にいるというのに、遠くを見回しているキルリスさんが言った。
トルテアは東南端の街である。それより東南には人は住んでいない。ここも人が住んでいる南端の街からしばらく行ったところなのだろう。
土地があるのに住めない場所なんて不思議な感じがするけれど、この世界では基本的に星石のない場所には人間は定住することが出来ないらしい。
それは土地がやせ細っているからだとか、危険な植物や魔獣が出るからなど様々な理由があるけれど、とにかく街を作ることが出来ないのだそうだ。だから食料なども遠くから持ってくるしかない。それも食事が貧しかった原因なのだろう。
「とにかくここに目印を付けておくか。さすがの私でもこの姿で魔術師の面汚しを全員叩きのめすのは骨が折れる」
同じ魔術師を名乗るのも汚らわしい、といった言い方だったので、竜の牙というのはよっぽど嫌われた集団らしかった。
キルリスさんが杖でとん、と床を突くと、そこを中心としてぶわっと光る陣が広がった。半径3メートル程に広がったそれは、私がいる地下牢の壁を通り越して向こうまで広がっているようである。
その陣をもう一度とんと突くと、それがいきなり眩しく光る柱になった。
「ひゃあ! キルリスさん何してるんですか!」
「これを目印にして仲間を寄越す。まあ、そう時間はかからん」
「いやこれ相手にバレ……いないし!」
いきなりの眩しい光に目が眩んだ私がどうにかこうにか腕で光を遮っているうちに、キルリスさんは跡形もなく消えていた。
「何だこれは!?」
「おい、兵士を集めろ!」
案の定、ドタバタと沢山の足音が集まっている音がしている。
それはあっという間に近付いて、ガチャガチャと地下牢の鍵を開ける音がした。
「おい、異世界人! 何だこの魔術はッ!!」
「この陣……、くそっパルリーカスの陣じゃないか!」
「なんだと? お前、敵を引き入れたな!?」
「ええぇ〜……ち、違うと思いますぅ〜」
「しらばっくれるな!」
どやどや集まってきた魔術師が、慌ててあちこちへと走り回っている。
私はそのどさくさで逃げるといったスキルがあるわけでもなく、一応牢からの脱走を試みて、あっさりと魔術を使われるまでもなく捕獲されていた。
「くそっまさか異世界人に魔術師会の息がかかっているとは……」
「どうする、根城がバレたぞ」
いつの間にか、私はわざと誘拐されて潜入捜査をしていた有能女スパイに仕立て上げられている。
まったくの濡れ衣である。
そう主張してみても魔術師達は聞き入れてくれなかった。当然だと思う。紛れもない証拠がここで未だに眩しく光る柱となって輝いているのだから。おそらく、天井を通り抜けて高々と光り輝いているに違いない。キルリスさんのドヤ顔が浮かんでくるようだった。
「くっ……仕方ない、計画は練り直しだ」
「こいつらはどうする」
「始末するしかないだろう」
「えっ」
両手首をそれぞれ魔術師一人ずつにガッチリ掴まれた私は、こうして地下牢から久しぶりに出ることが出来た。
いや、そうじゃない。
というか、悪化している。事態が。
「フィーカールーゥ!! たーすけてー!」
「うるさいっ早く歩けっ!」
とりあえずキルリスさんは今度会ったら鼻にジャマキノコを詰めてやる。




