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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
陰謀巻き込まれ?編
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竜の牙4

 ヒカリホオズキは無事今年の分を収穫し終わり、私とフィカルは依頼した商人のおじさんから好意でヒカリホオズキを半額にしてもらえることになった。ヒカリホオズキは中銅貨2枚の値段で、そう高くはないためせっかくだからと交渉して定価を払って2個もらうことにした。


 ヘタの部分が太くシッカリしていて、光が強いのが長持ちして良いヒカリホオズキらしい。自分たちで山盛り採ってきたそれらを吟味して選んだそれらは、日中に外で見ているとそうでもなかったけれど家の中に入れると結構明るい。

 そしてアネモネちゃんがなぜか大喜びした。


「魔草同士で気に入ったのかな……楽しそうだねアネモネちゃん……」


 家に入った瞬間したたたたたー! っと走ってきたアネモネちゃんは、ぴょーんとヒカリホオズキに飛びつくと頭の部分である花まで乗せてぴっとりとヒカリホオズキにひっつき、白い根っこの足をぱたぱたと動かした。そんなにくっつくと花の部分が傷んでしまうのではないか、と見てる方が心配になったくらいである。


 ヒカリホオズキはずっと光っているため、居間の天井近くに吊るしておく家庭が多いらしい。私とフィカルもひとつはいつも食事をしているテーブルの上に吊るすことにした。天井の梁に半円形の金属が打ち込まれているので、紐を使ってそこに結びつけるのである。

 吊るす時はヘタに紐を結ぶため生えていたときと同じ格好になるけれど、ヒカリホオズキは白い皮の中はほとんど空洞のため、テーブルに置く時は逆にヘタを下に置くらしい。

 アネモネちゃんがひっついたままのヒカリホオズキをゆっくり逆さにすると、その動きに合わせてアネモネちゃんもかさかさと動いて抱きついたまま上下を変えていた。そんなにお気に入りなのね……。


 結局アネモネちゃんは寝るときも離れ難そうにするので、端切れを引っ張り出して簡単なアイマスクを縫った私の判断は大正解だった。アネモネちゃんの寝床の花瓶が置いてあるベッドサイドのテーブルにあると眩しくて寝にくいことこの上ない。楽しそうなのでいいけれど。

 寝るにはちょっと迷惑なヒカリホオズキだけれど、夜中に用を足しに行ったりお水を飲んだり庭から聞こえる寝言を窘める際には便利だった。外から窓を覗き込む、ぼんやりと白い光に照らされたスーは迫力が増してどう見ても恐竜映画の主役級なのが困るけれど。


 森の収穫はまだまだ続く。

 変わったところでは光る土や木の枝に引っかかっている羽を拾うというものもあった。シオキノコも冬には生えにくくなるため今のうちに沢山干しておく必要があるし、森が騒がしくなるせいかアバレオオウシの襲撃も増えた。その度に保存食を作ったり焼肉パーティーが開かれたりと、秋の始まりは忙しなく過ぎていく。






「断る」


 で……出た〜。フィカルの断る攻撃〜。お久しぶり〜。

 無表情なのに渋い顔という器用さを見せながら、フィカルは首を振って私をギュッと抱きしめた。さながらお気に入りのうさちゃん人形を貸せと言われた子供といったところである。


「そうなの。でも決まってることなのよ」

「断る」

「気持ちはわかるけど、少しの間だから我慢してね」


 剣豪さながらの断る攻撃をしゃなりしゃなりと柳のように受け流しているのは、トルテアの妖精シシルさんである。おっとりと頬に片手を当てているけれど、出ている雰囲気が全然困っていない。

 もう決定事項なのだとシシルさんが決めているのでそうなる、そんな気にさせてしまう美貌と、それを物ともしない端整な顔。会話も静かに進んでいるし二人共全く動いていないというのに、なぜだか背中がうそ寒くなってくる。カルカチアのテューサさんとはまた違った恐ろしさが漂っていた。


 秋の収穫時期で大きなイベントと言えば、「大機織おおはたおり」である。

 この時期にしか生えない魔草を摘んで煮込んで糸を撚って織物に仕立て上げる。すべての工程を3日以内に仕上げなければ、その魔草は駄目になってしまうらしい。摘んだその日にグツグツと煮込まないと駄目。糸のままでも駄目。その気難しいオオハタオリソウは細かく細かく織って1年寝かせると、何故か繊維が細かくなって不織布のようになる。その布で仕立てた服は厄を払うとして、沢山の人が欲しがるものなのだ。

 スピリチュアル的な効果はよくわからないけれど、物理的には不燃性で耐毒性があり、皮膚を溶かすような液体でもゆっくりと布が溶けるので肌に到達する前に防ぐことが出来るらしい。防虫効果もあって色落ちもほとんどないので、一度仕立てたら毎日着ても5年は保つと言われているらしかった。うちには服はないけれど、シシルさんに分けてもらった小さな切れ端をサシェにしてクローゼットに入れている。そうすると他の服にも虫がつかなくていいらしい。


 オオハタオリソウは秋の大雨が降って2日後から約2週間ほどしか生えてくることがない。そのため街の機織りはオオハタオリソウの生える期間はずっと不眠不休で機織りを続けるのだ。

 この期間を「大機織り」と呼び、それをサポートするのが街の女性たちなのである。普段は機織り娘しか立ち入らない機織り小屋に入って、もちろん機織りは出来ないものの、ひたすら機織りをする女性の身の回りのお世話をするのだ。


 機織り小屋は男子禁制である。

 小屋といってもちょっとしたお屋敷くらいの大きさがあるけれど、小屋の修繕などもすべて女性が行うことになっている。守り神がいて、男性が近付くと噛み付くのだ。妊婦さんでもお腹の子供が男の子だと入れないという、なかなか厳しい条件のため、大機織りの時期に手伝える女性は総出で手伝うことになっていた。


 このトルテアに来たばかりだった去年の今頃も、大機織りに参加したのを覚えている。

 といっても私はまだ右も左も分からない状態だったので、ただひたすら森の中でオオハタオリソウをプチプチと収穫していたのである。収穫から女性のみというその徹底した男子禁制には非常に驚いた。そして大機織りに一切関わっていないはずの男性陣がどうしてなのか異様に盛り上がっている状態にも驚いた。秘密にされると燃え上がるという心理、私にはまだ早いようだ。


 オオハタオリソウは一晩で約30センチほどに伸びるひょろりとしたミツバのような魔草である。白っぽく葉の先がうっすらとムラサキで、全体的にほんのりとホタルのような光の点滅をするのでわかりやすい。

 それが森の地面を覆うほどわさーっと生えるので、ただひたすら根本からプチプチする。割と美味しいらしいこの魔草を狙う草食動物は男性陣が見張って、子供も大人も女性は皆ひたすらプチプチプチプチ。その時もオオハタ摘みの歌を歌って男性パートの掛け合いもあって、全くついていけないそれを聞きながらプチプチしたものだった。


「断る」


 しかし、大機織りの期間は手伝えば男であるフィカルと離れる時間が増える。それを心配しているらしいフィカルがトルテアの習慣に真っ向勝負をしかけていた。

 大機織りで手伝いを免除されるのはお年寄りで仕事が厳しいおばあさん、妊婦や赤ちゃんで手が離せない女性、手伝いを上手く出来ない年頃の女児、そのほか重要で必要不可欠な仕事に就いている女性など。私はもちろんどれにも当てはまっていないのだった。

 家族の家事を担うお母さんポジションの女性は一家庭につき1人免除されることも多いけれど、うちはフィカルと大きな竜と魔草だけな上にフィカルも一人で暮らしていける能力がある。


 どう考えても断るのが難しい状況でこの対応。

 そのブレの無さ、本当に尊敬する。ただ、あまり発揮してほしくない。






ご指摘頂いた間違いを修正しました。(2017/12/15)

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