竜の牙1
のっしりのっしりと歩くスーに合わせて視界がゆっくり上下に揺れる。ごりごりと響くのは大きな轍、スーのために特別大きく作られた荷車には山盛りの収穫物が載せられている。
日照時間がいつもの時間に戻りしばらくすると暑さも和らいで、ふわふわ過ごしやすい秋が段々と始まっていた。それと同時に、作物などの収穫も始まっていく。たっぷりの太陽で育った植物はどれも栄養をつけて沢山の実を生らせ、森ではその食物を生き物がもりもり食べ始めていた。
狩りの時期はその動物たちがもう少し太ってからなので肌寒くなってからだけれど、特に木の実や畑のものは出来てすぐに収穫しないと食害にあってしまうらしい。特にトルテアで畑というと森の中で肥沃な土を利用した小さなものがほとんどなので、柵をしていても美味しい匂いがし始めると森の動物や魔物が荒らしてしまう。
森の中にある畑は、大体が木々が生い茂った中にポッカリと開いている芝地を利用して作られている。大抵は柵や網で囲いがしてあって、看板に芝地番号、作成者の名前と作物が書いてある。森の中の芝地はギルドが調査して地図に記してあるので、その看板から芝地番号を調べて現在地を知ることも出来るのだ。
森の中の畑は作物がよく育つけれど、どれも大きなものはなく、芝地の半分くらいの大きさにとどめてあるものが多い。毎日森の中まで世話をしに行くのは大変だし、木が多い森の中から街まで収穫物を運ぶのも手間だからだ。森から出して更に中央の市場まで運ぶという手間もあるので、労力と稼ぎがあまり見合っていないらしい。
そのため大体の作物が秋に採れるトルテアの畑では、収穫といえばバケツリレー方式である。数人で畑の作物を刈り取り、それを幾つかの小型の手押し車に分けて載せて、芝地から森の外まで何人もで送っては新しいものを受け取る。入り組んだ森では慣れていなければ迷ってしまうこともある上に作物を狙う動物や魔物もいるので、お互いに見える位置に待機しておくということが重要らしい。
例によって依頼された冒険者として収穫に参加している私とフィカルは、スーと一緒に森の中でも奥まった場所にある畑の作物を収穫しては飛んで運び、森の入口にそれが溜まったら荷車で中央広場の方へと運ぶという仕事を割り振られていた。
大体の畑は森の浅い芝地を利用して作られているけれど、深い場所でしか育たないという果樹や植物を育てている人もいるらしい。そういった人はそもそも森で過ごす知識はあるので自衛は出来るけれど、収穫の人手を確保するのに苦労するということだった。スーの力強さは非常にありがたがられている。
何度も往復をさせられてグニューと文句を垂らしているような声で鳴きながらも、スーは私とフィカルを背中に乗せてご機嫌で仕事をしている。ぶっちゃけ私はスーに荷を積み込むくらいしか出来ていないのでリレーチームに入ったほうが効率は良さそうだけれど、フィカルは宵祭以来私が一人で行動することにより神経質になってしまっているし、スーも私やフィカルを背中に乗せることについては苦に思っていないようなので荷物の一部となっていた。
荷車の中にみっしりと詰められているのは、形はスイカや冬瓜に似ていて色は紫色というテギという名前の植物だった。これは見た目よりずっしり重く、中にはかぼちゃのように熱すると甘くなる身がしっかり詰まっている。目の覚めるようなピンク色だけれど蒸したものを潰してこねて焼いたものは主食として食べられる。かぼちゃとさつまいもを合わせたような食べ心地で色を気にしなければ結構美味しい。
私とフィカルが行き倒れてこのトルテアで初めて食べた食事にこのテギが付いてきて、その激しい見た目とほっこりした中身のギャップに驚いた覚えがある。ちょうど収穫した旬のテギを使った料理が出されることが多くて、この世界の主食がピンクなのかと戦慄したことすら今は懐かしい。
みっしり詰まって大きいテギは日持ちもするけれど、大体春先くらいまでの主食として食べられ、そのほかには穀物なども使われているし主食だけでも様々な種類があって飽きない。農業もこちらは技術が発達しているとは言えないし、不作の時に備えて様々な種類を作っているのかも知れなかった。
トルテアの畑の収穫は、さほど日数もかからなかった。もともと畑にはあまり向かない土地であるので街の周辺には畑もあまりなく、森の芝地も多いわけではない。そのためトルテアで主に秋の恵みとしてあげられるのは、街の東南に広がる大きな森で自然に生る木の実やキノコ、そして動物たちである。
森の中では様々なものが採れるので非常に収穫期も長く、加工をするものが多い。あちこちに出稼ぎに行っているトルテア出身の冒険者もこの時期には帰ってくるという人も多いし、街の中もいつもより賑やかだった。
畑の収穫が終わると、スーがいることから、私とフィカルは森の西に位置する山に、重要な木の実を取りに行く役目を仰せつかった。
歩いて往復するには何日もかかる距離な上に初心者は入れない場所にあるそこは、私にとって初めての場所だ。わくわくしながら、大きな籠をいくつもスーの鞍にくくりつけた。




