宵祭18
宵祭があった大夏の日を過ぎると、翌日から夜がぐんぐん延び始めた。気温はそれほど変わっていないけれど夜が長いだけで随分過ごしやすい。
トルテアの家へと帰ってきてから3日目の夜明けに、私とフィカルはギルド前の広場へ向かう。まだ早いというのに既に集まった冒険者や若い女の子達がわいわいと騒いでいた。
今日は、ルドさんが星6昇格試験のために旅立つ日。
昨夜盛大に壮行会も開かれていたルドさんは、それでも言葉が尽きない街の人々に苦笑しながらも応えていた。大きくて茶色がかったルドさんの馬には既に荷物がくくりつけられ、座ってルドさんが跨るのを待っているのに、中々話が終わらなくて焦れたように長い尻尾を振っていた。メシルさんが見兼ねて手を叩きながら諌めると、声を掛け終わった人達から順番に離れていく。
「ルドさん」
「よう、スミレ、フィカル。見送りありがとな」
「あのこれ、フィカルと用意したんだけど、もし良かったら使って下さい」
私はスーの歯を矢に付ける鏃に加工したものを入れた袋と、先日貰った宵祭のお土産から携帯食になるもの、そして布教の意味も込めて干し梅もとい夜干しシオキノコが入った袋を恐る恐る差し出した。
すでに色々な人から餞別の品を渡されていたルドさんの馬には荷物が倍くらいに増えていたので、邪魔にならないか心配になる。するとルドさんは、これを見越して荷物は少なめに持ってきていたらしい。去年の見送りでは荷物が多過ぎて一旦家に帰ったそうな。
「竜の鏃か! 助かる、大事に使わせて貰う。スーもありがとな!」
ルドさんの馬がいるためギルドの屋根からこっそり広場を覗いていたスーにルドさんが手を挙げると、返事をするかのようにスーがグァッ! と鳴いた。ちなみに先程確認したところ、先日収穫した牙は既に新しいものが生えそろっていた元気な竜である。
「食料もありがとな。宵祭はお前らも大変だったろ」
「主にフィカルが大変だったかと」
「まあな。犯人が見つかってないから正直心配だけど、フィカルがしっかりと守ってやれよ」
ルドさんに肩を叩かれて、フィカルがこくりと頷く。あれからフィカルは、仕事ではないときも討伐用のしっかりとした剣を持ち歩くようになった。
「俺もしっかり星取って帰ってくるし、行先で探り入れて見るから」
「無理せずに、安全第一で帰ってきて下さいね」
「心配すんなって」
わしわしと私の頭を撫でたルドさんがようやく馬に跨ると、ようやく出発だと馬が喜々として立ち上がった。高い位置のルドさんを見上げて皆が手を振る。
「星石の加護がありますように!」
「ルド〜! 寂しいから早く帰ってきて〜!」
「怪我しないでね!」
「トルテアの旅路に幸あれ!」
「さっさと星6取ってこいよ!!」
ルドさんの姿が豆粒になるまで皆で見送って、ぽつぽつと解散していく。何人かは旅路を祈って星石へお祈りするために森の方へと歩き出す。私とフィカルもそれに付いて行って、変わらずそこにあるトルテアの星石へと祈りを捧げた。
人が住んでいる街には必ず何処かに星石があって、ギルドにも星石の欠片を祀っているところが多い。非常に硬い星石の欠片がどうやって取り出されたかは諸説があるのだけれど、昔勇者が星石に討伐の成功を祈ると加護を分け与えるために欠片が勇者の手に落ちたという言い伝えもあるらしい。
星石に手を合わせて、それから家へと歩いていく。今日はこれから久しぶりにギルドの仕事を受領して森に入るのだ。
「フィカル、スー、早めに行って早く帰ろう」
名前を呼ばれたスーが素早く飛んできて大きい鼻先を擦り付けるのに耐えながら、私はフィカルと微笑んだ。
トルテアの夏はまだまだ終わらない。




