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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
陰謀巻き込まれ?編
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宵祭13

 テューサさんはルドさんに抱き上げられてはいるものの、意識はあるようで恥ずかしそうに肩を竦めていた。

 カルカチアの冒険者達は無事な姿を見て歓声を上げ、よかったよかったと頷いている。人が多いので診察のために広い受付ではなく扉の付いた部屋を使うということで、女の子数人とお医者さんを連れて小部屋へと消え、ルドさんだけが戻ってきた。


「ルドさん!」


 さすが星5だルドだとおじさん勢から背中を叩かれていたルドさんが、邪魔にならないよう端っこに立っていた私とフィカルを見つけて近寄ってきた。よう、と手を上げたルドさんは荷物を背負ったままだったので、カルカチアに到着してそのまま捜索に加わったらしい。


「テューサはケガもないし意識もしっかりしてた。心配なさそうだったぞ」

「ホッとしました。いつ見つけたんですか? 私とフィカル、あの辺りをスーに乗って探してたんですけど」

「俺も大分うろうろしてたんだが、ふと気付いたら倒れてたんだ。ちっと変かもな」

「変?」


 聞き返すと、ルドさんは首を竦めて冒険者ギルドの入り口に目を向けた。ちょうどコントスさんがやって来て、暗い色のローブを纏ったカルカチアの魔術師らしき人達と話をしている。

 コントスさんはルドさんと目が合うとちょいちょいと手招きをした。ルドさんが魔術師の輪に加わって暫くすると、カルカチアの魔術師達は外へと出て行きルドさんとコントスさんが一緒に戻って来た。コントスさんは朗らかに手を挙げる。


「やあスミレちゃん。フィカル君もお疲れ様。これからテューサちゃんの様子を見に行くんだけど、一緒にどう?」

「え、私達、邪魔じゃないですか?」


 何があったのかよくわからないけれど、いきなりいなくなって街外れで発見された状態であれば、私ならあまり親しくない相手と顔を合わせるのはちょっと遠慮したいと思う。これ以上人手が必要なさそうだったら帰ろうと思っていたところだったので、コントスさんの提案に目を丸くした。

 しかし、コントスさんもルドさんもそうは思っていないらしい。


「帰り道、テューサがお前らに話があるって言ってたんだよ」

「そうだね、一緒に来たほうが良い」

「テューサさんが良いのであれば、私達は大丈夫ですけど」


 フィカルが私の両脇に手を入れて持ち上げ、そのままコントスさんの後ろについてテューサさんがいる部屋まで連行される。いや、歩けるよ。別に嫌がったりはしてないから。

 一通り診察を終えたらしいお医者さんと友達の女の子達が部屋を出てきたのと入れ違いに、コントスさんとフィカル、そして私が入った。ルドさんはそこまで見届けて、「俺は見回り加わってくる」と行ってしまった。


 大きいソファに横になっていたテューサさんは、ぶらんと足を揺らして入ってきた私を見た途端にいつもの般若顔を作った。ソファの周囲には沢山のジャマキノコがテューサを囲んで心配そうに生えている。どちらも元気そうで何よりです。


「えっと、テューサさん、お加減はいかがですか?」

「お陰様でなんともないわよ」


 視線が痛いので不満そうなフィカルに降ろしてもらい、ソファの近くまで歩いていった。眠りについた白雪姫を惜しむ小人のようなジャマキノコをどしどしっと押し転がして一箇所に固めておく。テューサさんは、最近は数が減ってたのに、と残念そうに呟いていた。こんな物があったら悪くないお加減も悪くなってしまう。あとでスーの胃袋に捨てねば。


 良い色艶だね〜と呑気にジャマキノコを褒めたコントスさんが、テューサさんの手を取って自分の手を翳し始めた。魔術的な何かをしているようだけれど、見た目には何の変化も起こっていないように見えるのでよくわからない。

 しばらく沈黙していたコントスさんが、うん、と頷く。


「これは魔術を掛けられたね」

「え! そうなんですか?」

「うん。攫われるところを誰も見てないし、発見が遅くなったのは隠蔽の術のせいだ」

「でも魔術って、本人が嫌がるようなものは難しいんじゃないんですか?」


 聞きかじりの知識だけれど、魔術というのは体の中にある魔力をどうにかこうにかするものらしい。魔草などの力を借りることもあるけれど、それにしても自分がその力を使うための魔力を持っていないと無理なのだ。

 人に対してもそうで、生き物にはそれぞれ独特の波長や魔力の大きさなどがある。そのため、誰かに魔術をかける時は自分の魔力を相手に合わせるという技術が必要になるらしい。


 施術者が被施術者に術の内容を説明し、お互いに同意をした上のものが1番抵抗が少ない。同意していなくても、例えば体の痛みを和らげるだとか、被施術者が嫌だと意識しないような術もかけやすい。反対に、危害を加えるような魔術は、被施術者が無意識にそれを防ごうとするため、より高い魔力と魔術師としての技術が必要になるらしかった。


「友達と別れて急いで帰っていたら、いきなり誰かに声を掛けられたの。それから魔術の力を感じて、それからのことは意識がぼんやりしてあまり覚えてないわ。顔も見たはずなんだけど」

「今は大丈夫なんですよね?」

「ルドが話し掛けてきて、それでハッとして色々考えられるようになったわ」


 ルドさんに発見されるまでの間、いつどうやってあそこまで運ばれたのかというのもよくわからないらしい。ぼんやりと起きていた気がする、と言っているから意識を奪っているわけではないけれど、それでも魔術としては凄いものなのではないだろうか。

 コントスさんにそう訊いてみると、うん、と同意が返ってきた。


「魔術っていうのは自然に沿ったものとか、ちょっとした手助けとかお役立ちには向いてるんだけど、いわゆる悪い事に使うのは意外に向いてないんだよね。倫理観とかも術に影響するし」

「気持ちも魔力に影響するんですよね?」

「そう。だからそういった壁を軽々越えられるような魔力の持ち主か、罪悪感がおかしくなった犯人だったということかな」


 何その二択どっちも嫌なんですけど。


「そもそも、誰かに危害を加えられそうになったんですよね? でもテューサさん元気だし、結局何がしたかったんですか? 宵祭の妨害とか?」

「私じゃないわ。多分、狙われたのはあなたよ、スミレ」

「……はいぃ?」






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