宵祭12
カルカチアのギルドでは既に捜索のために人が出払っていた。
果樹園の作業の時に見かけた大きなメガネのお姉さんが、あちこち探しては帰ってくる冒険者達の情報を聞いて忙しそうにまとめている。
「フィカルさん! よかった! スミレさんもテューサのこと聞いた?」
「お手伝いに来ました。日暮れ前だから、スーを使って街の周りを飛んだらどうかなって思うんですけど」
「それすっごく助かる! 北の街に竜騎士を貸してくれって鳥を飛ばしたけど、夜になると思ってたんだ。街道の方は人をやってるから、南の方を中心に探して。見つからなかったら一旦日暮れ前には報告に来てほしい」
「わかりました」
東南地方では竜に乗っている人は少ない。スーは小型で小回りが利くので、飛べる場所であれば捜索するのに効率的なはずだ。それ以上に勇者でもあるフィカルの姿を見て心強く思った冒険者も多いらしく、頼んだぞ、と声を掛けてくれる人もいた。
ギルドの前で待てをしていたスーに手早く乗り込むと、フィカルが自分のマントを私に被せた。森に行く時に使うようなしっかりとしたマントを持ってきていたのは夜まで捜索するつもりだからだと思っていたけれど、そうではないらしい。
フィカルは素早く私をすっぽりと包み込み、大きなフードをきっちりと被せて卵型の座席にしっかりと凭れ掛かるように軽く押した。
「フィカル? これだと探しにくいんだけど」
「探す。から、じっとしていて欲しい」
まるで私の姿を人に見せてはいけないとフィカルは言い聞かせるように、大きな手で私の肩を撫でた。優しい手つきなのに、紺色の瞳がいつにないくらいに真剣で、私は膨らんだ不安にこくこくと何度も頷いた。フィカルはそれに一度こっくりと頷き返して、私の後ろに回り手綱を握った。
スーは急な角度で高くまで上昇した後、西の方を目指した。揺れの大きさに耐えるように持ち手をしっかりと握りながら、私は深呼吸を繰り返す。
今は、テューサさんを探さないと。
カルカチアの南には街道がない。
小さな森が点在し、荒れた土地が続いたずっと先に、トルテアにある森が見える。人が住んでいないために道がなく、荒れ地を歩いている人がいれば見つけやすい。そのため高いところを素早く飛んで一回り遠目に探した後、フィカルは高度を下げて点在する森近くを中心に速度を落として見回った。
森を覆うように生える木に邪魔をされないように地面に近いところを飛んでいるため、スーは時折地面を蹴りながら翼を動かしている。
色とりどりの植物が流れるようなスピードで、私もフードが落ちないように押さえながら目線を動かした。この世界では植物の色は決まっていないため、さまざまな色の中から人影を探すのは難しそうだ。
主要な場所を探し終わり、沈みかけた太陽に一度戻ろうと提案すると、フィカルがもう一度スーを高く駆る。座った状態だと見下ろすことが出来ないので、景色が空一色になる。
「いた」
「えっどこ?!」
ぽつりと呟いたフィカルに反応する。フィカルはスーをやや西の方へ移動させるが、高度は下げなかった。フィカルは私の背もたれに手を置いて、ぐっと下を覗き込んでいる。
「ルドもいる」
「ルドさん、来てたんだ。降りて手伝おう?」
宵祭の人混みに対応する人員として冒険者が駆り出されることもあるため、ルドさんは早めにカルカチアへと来ていたらしい。
フィカルが覗き込む角度はほとんど真下なので近そうだった。様子を見たいと提案しても、フィカルは首を振った。馬がいる、とフィカルはギルドの方へとスーを飛ばす。
竜は基本的に肉食のため、草食動物からは脅えられることも珍しくない。特に飛んでいる竜が降り立ってくると逃げるという習性をもつ動物は多く、人馴れした馬でもパニックを起こすこともある。
さほど街から離れた場所でもない。ルドさんがテューサさんを見つけたのであれば、馬に乗ってカルカチアまで連れて行くだろう。スーと一緒に降りることでそれを邪魔してしまうよりは、見つかったことを先に知らせておく方が確かに効率的だ。
「テューサさん、見つかったって! もうすぐ戻って来ますよ!」
フィカルが上から見た限り、テューサさんは大きな怪我もないらしい。その吉報を持ち帰ると、カルカチアのギルドの人達はワッと沸いた。何人かがテューサさんを迎えに行くためにギルドを離れ、ある人は女将さんへ知らせに行き、ある人は捜索している人員を呼び戻すために走る。
街中の診療所へ行くよりギルドの方が近いということで、念のため呼ばれたお医者さんもギルドで待機することになった。
ほっと溜息を吐いて隣で同じような角度で生えてきたジャマキノコをスーにあげたついでに街の外で待つように指示して、周囲が暗くなってきた頃にテューサさんはルドさんに抱き上げられたままギルドへと入ってきた。
ご指摘頂いた間違いを修正しました。(2017/12/15)




