宵祭0
昔々、長生きのコウテイリュウもまだ卵だったころの話。
その頃、地上は長きにわたって増え続けた魔獣に侵略されつつあった。
森という森に凶暴な獣が現れ、川という川に怪魚が住み着き、人々は困窮した。
日々食料は減り、襲い来る魔獣は増えて、少しずつ村は消えていった。
そこへ立ち上がらんとする若者がひとり。
彼は生まれ育った村を魔獣に焼かれ、家族を屠られ、それでもなお戦った。
大義のためではなく、ただその日を生きていくために戦っていた。
たった一人、自分を守るために若者は剣を振るい、魔物を殺した。
いつしか村を襲った魔獣を倒せるほどの力を得たが、ただただ生きることに必死だった。
その日は多くの魔獣が若者を取り囲んだ。
いくら切り倒しても魔獣は減ることがない。
さしもの若者も息が上がり切っ先が下がってくる。
その時、光が飛び込んできた。
風のように舞い、雨のように刺し、炎のように倒していく。
若者はわけも分からぬまま光と共に戦った。
お互いを助け、補い、強さを増して魔獣を圧倒した。
光は少女だった。
美しく、妖精に愛された少女は、魔術を操る。
若者は少女に感謝を捧げ、少女は若者を手助けした。
少女もまた、魔獣に追われ孤独に身を浸していた。
今にも消えそうな灯火を見つけ、自らも顧みず飛び込んだのだった。
一人では難しいことも、若者と力を合わせれば苦難ではなくなった。
二人は共にいることで力をつけ、余裕を得て、ようやく志を持った。
共にいることで温かい心を思い出し、それを守ろうという意思を得た。
やがて二人は魔獣を倒す旅に出る。
お互いを守るために、相手を倒すという誓いを立てて。
そして二人は魔王に立ち向かい、この世に平和をもたらした。
剣を振るい魔王を倒した若者は勇者と呼ばれた。
また、妖精から得た力でそれを助けた少女は魔術師と呼ばれた。
大陸に国が出来るよりも遠い昔の話である。
――トルテア民話『最初の勇者と魔術師の話』




