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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
とくにポイズンしない日常編
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風邪にはマシュマロ2

 薄暗い部屋の中、むくりと起き上がる。頭が痛く、扁桃腺が腫れているような違和感を覚える。そして喉に何かが詰まっているかのような痛みに空気の通らない鼻。


 あーこれはだめだ。だめだわ。


 ズビズビ言いそうな鼻を先にかんで、私は溜息を吐いた。

 原因はわかっている。この薄くて肌寒いブランケットだ。


 こちらの世界の毛布は非常に重い。その分暖かさを外に逃さない効果はあるものの、体の上にみっしりと重いものが掛けられていると寝にくいのだ。何度押し潰されそう系の悪夢を見る羽目になったことか。

 雨季の間は朝晩の冷え込みが激しく毛布なしでの暮らしなど考えられなかったため、その重さに耐えていた。しかし雨雲は去り気候は温暖になって、1日の気温差もほとんどなくなった。


 そのため雨季明けそうそうに私は毛布を仕舞ったのだけれど、昨夜は珍しくにわか雨が降ったのだ。薄いブランケットが肌寒いな、とは思ったけれど更に足すものもなく、眠さにかまけてそのままにした。

 起きたらこれである。


 だるい体で着替えようと立ち上がると、トントンと音がした瞬間に扉が開いた。


「いやフィカル、それはノックの意味がないんだけど」


 私のアドバイスもどこ吹く風で部屋に入ってきたフィカルは、近くに寄って来て首を傾げたかと思うと、私に触れて珍しく目を見開いた。紺色の瞳が驚いているのを見ていると、素早くベッドへと押し戻されブランケットで包まれ、仕舞ったばかりだった毛布でもって更にしっかりと春巻状態にされて寝かされた。

 几帳面に枕の位置も調整したフィカルは私の額を大きな手で覆って、それから「じっとしてて」と顔を近付けて呟いた。頷くと、あっというまにいなくなってしまう。


 騒がしさに起きたらしいアネモネちゃんが、しぴぴぴと花瓶の縁で根っこの水を切ってぽすんとサイドテーブルから枕元までやってくる。ひらひらした葉っぱでそっと私に触れて、それからわたわたと動き回っている。


 鼻の詰まった声で大丈夫、というと、アネモネちゃんは私の体を必死によじ登って、変な踊りをしながら私の体を頭から脚まで往復し始めた。

 ツーステップの失敗のような歩みをしながら、わさわさと葉っぱを動かして、天辺で咲いている紺色の花をぐりんぐりんと不規則に回している。

 呪術? いや、応援? 重くないし面白いからいいけど……


 ぽすぽすと毛布越しに僅かに伝わってくる振動を感じながらぼんやりと紺色の花を見ていると、起きたばかりなのに眠くなってきた。



 うとうととして、フィカルが連れて来た医者にかかり風邪の診断を受け、奥歯の近くに酸っぱい唾が湧くような苦い液体の薬を飲み、もう一度眠って、今度は色々な匂いに目が覚めた。窓を見るとお昼過ぎらしく、朝よりは頭痛も治まっている。


 視線を動かすと紺色の花が覗き込んでいて、アネモネちゃんが葉っぱでそっと額を撫でてくれた。

 可愛い。


 用を足しに1階まで降りると、フィカルが鍋に向かって料理をしているらしかった。テーブルの上には色々な食材が山積みになっている。

 私が手を洗ってダイニングまで戻ると、待ち構えていたフィカルにぐるりと毛布を巻かれた。持ち上げられそうなのを断って椅子に座ると、フィカルがこわごわといった風にスープを出してくる。


 もわん、と匂いが立ったそれに、私はサッとテーブルの材料を見た。

 風邪とは違う悪寒が背筋を走る。






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