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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
とくにポイズンしない日常編
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きのこ再び3

「大変だ! アバレオオウシが出たぞ!!」


 ずぶ濡れの冒険者がギルドに飛び込んできたのは、フィカルやコントスさん達と昼食後の一服をしていたときだった。

 一報を聞いた冒険者達が一斉に剣を取って立ち上がる。隣街との協議に出掛けているガーティスさんの代わりに奥さんのメシルさんがテキパキと指示を出していった。


「ルドとフィカルが討伐実行、星4のガリア達5人は補助に付きな。他の星4は待機。その代わり、星3が周囲警戒に出ること。ぬかるみに足を取られないようにする、アバレオオウシの注意を一人に向けない、それを徹底すれば無理じゃないからね。しっかりやんな!!」


 他の魔獣が暴れる可能性を考えて、ギルドは昼間は特に無人にしてはいけないことになっている。ルドさんとフィカルというギルドでも腕のある若者二人で討伐し、ゲームで盛り上がっていたおっちゃん達がそれをサポート。司令塔のメシルさんと星4を持っている女性陣は留守番だ。


討伐任務は対象にもよるけれど、複数で行い役割を分担するのが普通だった。

 実行役は対象に攻撃を加え、討伐へと主に導く。補助は討伐対象が実行役を攻撃しないように注意を逸したり、弱い攻撃を加えることもある。

 周囲警戒は討伐対象からやや距離を取りながら囲むように立ち、視界が悪い場合に他の魔獣や地形に危険がないかを見張って何かあれば声を上げて知らせる。


 アバレオオウシはトルテアの魔獣被害の主たる原因で、私も何度か周囲警戒を担当したことはあった。トルテアの魔獣は魔術も弱いし距離があるので危険はほとんどないけれど、それでも何があるかわからないものだし、常に抜剣しておくのだ。


「暖薬を忘れずに食べていきなよ」


 外に出る前に各自配られたのは薬草の味がするキャンディのようなもの。噛み砕くとねっとりした液体が中に入っていて飲み込んでも味がずっと残っているような濃いものだけれど、これをひとつ食べておけば半日は凍った池で素潜りをしていても体が冷えない。魔物討伐では動きやすさが重視されるので、雨が降っていても寒くても身軽な格好でなければいけない。傘もカッパもなしなのだ。


 土砂降りというほどではないけれど、大粒の雨が降っているので外は昼間なのに薄暗い。教えに来た巡回の冒険者に案内されて、森まで走っていく。すぐに興奮した大きな鳴き声が聞こえて来たので、森でも街に近い場所で暴れているのだとすぐに気が付いた。


 アバレオオウシは大きくて3メートルほどにもなる大きな野生の牛のような魔獣だった。気性が荒いというか、些細な事をきっかけに怒り狂うことの多い生き物で、近くにちょうちょがウロウロしていたと思ったら怒り出した、といった目撃談もあるほどだった。

 ひとつのものに目を付けるとそれに猛突進してくるという物理的な危険の上に、火の魔術で角の表面を覆って攻撃するので非常に危険だった。魔術自体はそれだけだけれど、街や乾燥した森で暴れられると火事になることもある。


 今日は雨が降っているので火事の心配はないけれど、アバレオオウシはいつものように暴れて周囲の木がなぎ倒されたり抉れたりしている。真っ赤な鱗が雨に濡れて暗く見えるスーが羽ばたいては樹上で威嚇の声を上げているのを引き摺り下ろそうとするかのように、スーがいる木を順番に狙っているようだった。


 スーは器用に倒れる木から別の木へと飛び移る。順番に森の奥へと誘導するように移っているので、アバレオオウシは街に背を向けているような状態だった。


「このまま森の方へ誘導しながら討伐する。気付かれずに包囲しよう」


 街の方へ頭を向かせないように、フィカル達と補助の5人はなるべく気配を消して森の奥の方へと回り込む。星3の何人かはそれに付いて行って、何人かは街側で警戒する。


 私は街で一番新米の星3ランクなので、森の木々が生え始めた辺り、もっとも街に近い場所を任された。アバレオオウシの標的になりにくいように、周囲警戒役は木の陰に半分隠れた形で見張る。

 私と背中合わせになるような位置にコントスさんが立って、森を背にして街に結界を張っていた。いつものローブ姿で両手を街の方へと掲げているコントスさんを見ても派手な光や陣が浮かんでいるわけではない。けれどもしっかりと結界が出来ているらしい。光でアバレオオウシが興奮しないようにという配慮もあるのかもしれなかった。


 コントスさんが背後から襲われることのないように、雨の中しっかりと目を凝らして木の陰からアバレオオウシを見張った。

 弓を使うルドさんとフィカルはお互いにアバレオオウシの注意を引きすぎないようにしながら脚や目を狙って攻撃を加えていく。スーがアバレオオウシの届かない範囲でホバリングして挑発するので、普段よりも討伐に時間がかかっていないようだった。


 スーは大きな炎を吐くことが出来るけれど、アバレオオウシも同じ火の魔術を扱うのでダメージはほとんどないらしい。けれども自分の手の届かないところから何度も火を吹き掛けられたアバレオオウシは普段以上に怒り心頭で我を失っていた。


 やがて目を射られ脚を斬られて倒れ込んだアバレオオウシに、フィカルが止めを刺す。どちらも怪我はなく、木が荒らされた以外の被害は出なかった。アバレオオウシの痙攣が止まると歓声が上がる。


「ルドもフィカルもよくやった!!」

「おい、人手呼んでこい。荷車もな」


 補助の人達も話し合って、早速血抜きを始めている。3メートルを超す巨体を覆う肉は柔らかくて非常に美味しいので、1頭倒せば街の人の食卓に牛肉が上るのだ。

 アバレオオウシは非常に凶暴な魔獣である一方、ありがたがられる存在でもある。


 無事に討伐が終わったことにほっと息を吐く。

 ふと見上げると、私のすぐ上で、同じように木からアバレオオウシを覗くような形でジャマキノコが生えていた。ご丁寧に傘の部分が微妙に私に降る雨を防いでくれている。

 別の種類の息を吐いた。


「いや、そんな親切とかいらないから……」






ご指摘頂いた間違いを修正しました。(2017/12/15)

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