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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
とくにポイズンしない日常編
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ちちんぷいぷい3

 あれは去年の冬に入ったくらいの頃だったかな。皆も知ってるだろうけど、その頃魔王が元気であちこちで魔物が増えてね、魔王を討伐する勇者になる! とかでトルテアから出発しようとやってくる人も多かったんだよね。


 普通の冒険者が験担ぎにトルテアから出発するなら問題なかったんだけど、一番めんどくさかったのが、今まで剣すらまともに握ったことのないお貴族様の箱入り坊ちゃんが魔王討伐という輝かしい実績を夢見て軽々しく冒険者になったパターンでね。上から目線で無駄に偉そうなくせに護衛たっぷり、しかも本人は全然役に立たない、とかそういう人も何人かいたの。


「貴族って強いんじゃねーのか?」

「土地を守ってるんだよね?」

「騎士団に入ってる人も多いよね……」


 基本的にはそうなんだけど、親バカなバカ親に甘やかされて王都から出ずに育つっていう人もいるってタリナさんが言ってた。

 それで、そのころ私もちょうど冒険者として色々依頼を受けていた時期でね。初めての狩猟の仕事をそういうお坊ちゃんの一人と一緒に組むことになったんだよね。


 今日と同じでルドさんが付いててくれたんだけど、そのお坊ちゃんがまたこう、キラッキラした貴族の服に美しさを追求したような剣、そして4人の護衛を引き連れてたの。すごいでしょ?


「ルキタスも護衛連れてたな、そういえば」

「元気にやってるかな〜」

「……キノコ、採ってるかな」


 手紙を書いてあげたらいいと思うよ〜。確かにルキタスも護衛連れてたけどまだ子供だったし、仕事のときは一人でやってたでしょ? でもそのお坊ちゃんはねぇ、もう21歳だったんだよ。しかも、仕事にも護衛を連れて行くって家の圧力とか色々利用してねじ込んだんだって。


「21って、もう大人じゃねーかっ! 俺達でも出来るクエストだぞっ!」

「圧力掛けてくる人って、めんどくさいってママが言ってた〜」

「一番平和な街なのに護衛を連れてく大人……」


 ね〜。すごいよね。私もドン引きした。

 だって仕事の前の顔合わせでさ、私のことジロジロ見た後に庶民と一緒とは気分が悪い! とか騒いだんだよ?! 何こいつ、って私も思ったよね。

 でもまあしょうがないし、ガーティスさん達もさっさと星1昇格試験出来るくらいに実績積ませて、早く帰ってもらおうって結論になってて、ルドさんと私とそのお坊ちゃんと護衛4人でこうやって出掛けていったのよ。あいつらってば星石のお祈りもバカにしてやらないし、ホントにどうしようもないな〜って感じだったわ。


 で。その頃私は毎日のご飯を探しに来るのも兼ねて毎日森に来てたんだよね。それでちょうどこの辺りでキノコとか木の実とか採ってたんだけど、そしたら毎日おんなじマルマリトカゲと会うようになってね。ある日私がしゃがんでキノコを採ってたらそっと隣に来てさ、小首を傾げてぷい? って鳴いたのよ。可愛くない?


「あー、そういうの好きそうだもんなあ、女って」

「かーわーいーいー!!」

「……人懐っこいね」


 そうなのよ。撫でたら気持ちよさそうにするし、木の実を分けてあげたらぷいぷいっ! て鳴いて喜ぶし、私を見つけたら喜んで走ってくるんだよ、あのちっちゃい手足で! 尻尾振って! もうすごい可愛くてさ、私もその子に「ぷいぷいちゃん」って名付けて可愛がったんだよね。


「お前、ぷいぷいちゃんって……変だぞ……?」

「スミレちゃん、ちょっとセンスがおかしいと思うの〜」

「安直かつ変な名前……」


 えっそこ? そんなに変?


「俺もスミレの名付けのセンスは正直理解できない」


 ルドさんまで……

 う、うん、まあそれでね? お坊ちゃん達と仕事をした日も、歩いてたらぷいぷいちゃんが近寄ってきたわけ。そしたらさ、護衛の人がいきなり剣を抜いてぷいぷいちゃんを切りつけようとしたわけよ。ありえないでしょ?! 私が声を上げたのとぷいぷいちゃんが丸まって防御したので、ぷいぷいちゃんの固い胴体にちょっと傷付いたくらいで済んだんだけど、ぷいぷいちゃんは抱き上げてもプルプル震えてるし、「何すんの?!」って怒ったらそのお坊ちゃんの護衛が「それを殺せばいいんだろう、早く渡せ」とか言うわけよ。


「なんだそいつら!」

「ひどい〜」

「リーダーの言うとおりにしないといけないのに」


 そうそう、依頼書にも川向こうのエリアでって書いてあったでしょ? それを守ってないし、そもそも仕事は受領した冒険者本人がやらないと認められないんだよね。もちろんぷいぷいちゃんをいきなり斬ろうとしたのも許せないけど、それ以上に護衛はその仕事を受領してなかったし、まだ川にもついてないってことで、ルドさんに注意されたわけ。でも護衛はえらっそうな態度で「そいつを連れて川向こうで殺せばいい」って言い張ってさ。ついでに他の護衛も近くにいたマルマリトカゲを捕まえたり殺したりしだしたの。ルドさんが止めようとしても、あっちのほうが数が多くて、勝手なことをし始めたんだよ。


「ひっでえ! 何考えてんだそいつ!!」

「必要じゃないのに命を奪っちゃいけないんでしょ?」

「無駄な殺生は絶対ダメって……座学でも教えてもらったのに」


 そうなの。仕事で狩猟や討伐をすることはあるよね。でもそれは必要な数だけ、人間に被害が及んでいる範囲だけ。森は人間だけが使ってるものじゃなくて、皆が生きていくために必要な場所だから、って皆もしっかり教えられたよね。


 でもね、狩猟や討伐は最低限にするっていうのは、森を大事にして生き物と一緒に生きていくっていう理由だけじゃないんだよ。


 貴族のお坊ちゃんの護衛が殺そうとしたり、お坊ちゃんが雑に掴んだマルマリトカゲがね、いきなりすごい高い声で鳴き始めたの。キュイーキュイーッって。そしたら、私が抱えてたぷいぷいちゃんも一緒におんなじように鳴き出してね。抱えていられるほどちっちゃいのにその声は大きいし、それを聞いた周囲のマルマリトカゲまで同じように鳴いたから、私達の周りにその声が響き渡ったんだよね。

 それが何だかすごく異様で、皆動きを止めたんだけど、ルドさんが慌てて走れって叫んだんだよ。


「えっ! いきなり走れ?」

「こわーい」

「……ルドさん、どうして?」

「マルマリトカゲは、集団でマルマリオオトカゲを呼ぶって言われてんだよ」


 そう。ルドさんが真剣に言って走り出したから、貴族のお坊ちゃんも護衛も面倒そうについてきたの。でも、すぐにその人達も真剣に走るようになった。後ろからすっごく大きいマルマリトカゲが木をなぎ倒しながら突進してきてるって気付いたから。






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