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行き倒れも出来ないこんな異世界じゃ  作者: 夏野 夜子
とくにポイズンしない日常編
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ちちんぷいぷい2

 星石にお祈りをすませて、私達は森へと入っていく。ピンクで可愛い無害な小竜、ヒメコリュウの通称ヒメコもナチュラルに加わってくるが、子供達はもう慣れたものである。ルドさんは何か言いたそうにしていたが、彼もスーから一緒に逃げていた私達を知っているためそのまま流すことにしたようだった。


「川までは結構歩くから、どんどん進むよー」

「初めてのエリアだなっ! ほら、おれもう松ぼっくり拾ってるんだぜ〜」

「遠いの、めんどくさいよう〜。今日狩りをするマルマリトカゲってそんなに珍しいの?」

「……そこにもいるよ、マルマリトカゲ」

「うわぁ! あれかよっ!」


 レオナルドが指差した先に、今日の目標物であるマルマリトカゲがのそのそと歩いていた。私達は歩みを緩めてそのマルマリトカゲへと近付いていく。

 マルマリトカゲはアルマジロっぽいトカゲである。全体的に暗い灰色で、人間の指先から肘くらいの大きさをした胴体に、細長い象のような鼻としっぽがちょろりしている。森の木漏れ日などでよく日光浴しているため見つけやすいが体は結構堅く、丸まってしまうとつるっとした体表に傷を付けるのは中々難しい。好奇心が旺盛で警戒心も薄く、人間の傍に近寄って来ることも多い生き物だった。

 私達が見つけたマルマリトカゲも、近寄ってくる人影に気付いてのそのそと向こうからも歩いてきた。立ち止まった子供達の足元を細長い鼻でふんふんと嗅いでいる。ゆっくりのたのたしている動きとよく見るとつぶらな瞳は、こちらの警戒心をも薄くさせる癒し系アニマルである。女の子であるリリアナは早速しゃがみこんで撫で始めた。メガネ少年であるレオナルドもしゃがんでじっと観察している。


「かわいい〜!」

「……確かに、かわいい」

「なースミレ、なんでわざわざ川向こうまで行くんだ? 狩るのコイツじゃダメなのか?」


 唯一立ったままそれを眺めていたマルスが頭の後ろで腕を組みながらあっさりと質問した。その途端、リリアナの恐ろしいものを見る視線と、レオナルドの引いた表情がマルスへと向けられる。マルスは仲間からの非難の表情に思わず一歩下がった。


「ダメだよ! こんなに懐いてるのに!!」

「可愛いから……狩れないよ」

「いやっでも仕事なんだぞ? ちゃんとやんないと星貰えないぞ?」

「そうそう、そこが試練なんだよね」


 私は深く頷いて説明した。

 マルマリトカゲはすぐに懐く可愛い生き物だ。特に人の出入りが多い街近くの森では、住民に可愛がられて人馴れしているマルマリトカゲが沢山いる。相手は人間を敵とは思っていない生き物である。可愛い上に無条件に近寄ってこられると、狩る側に抵抗感を抱かせるのだ。

 ペット代わりに可愛がっているという人も少なくないのと、人馴れしている個体は余計に狩りにくいということ、そして血の匂いは獣を寄せやすいという理由から、狩猟の依頼は大体森の奥の方で行われることになっていた。


「ハッキリ言って、私は星3ランクまでいった中でこの依頼が一番辛かったよ……ペロペロ手舐めてくるのにさぁ……」


 思い出すだけで涙ぐみそうになる。硬い殻を剥くとそこそこ美味しいお肉になるマルマリトカゲが乱獲されない理由として、この無邪気な愛らしさがあると私は確信している。自分が非道な悪者になった気がして、罪悪感に胸が痛むのだ。捕獲が難しいとか凶暴であるとかのデメリットがあっても、他の生き物を狩るほうがやりやすく感じる。


「だから基本、冒険者は野生の動物に対して意識的に情を持たないようにしてるんだよ。討伐や狩猟の依頼があれば、どんなものでもこなす必要がある。ヒメコリュウは腐っても竜だし大人しくて討伐対象にはならないが、お前らも星ランクを上げていくつもりなら覚悟は持っとけよ」


 ルドさんのフォローと励ましで、3人は更に森を進む決心をしたようだった。けれどもリリアナやレオナルドは俯いて憂鬱そうな顔になっているし、マルスは「お前、狙われたらしっかり逃げるんだぞ」とヒメコリュウに言い聞かせている。ヒメコリュウはわかっているのかいないのか元気にクエッ! と返事をしているけれど、これからの任務を考えた3人に漂う雰囲気は湿っぽくなってしまった。


「えーっと……まあマルマリトカゲにも危険なところがあってね……これは皆も知っておいて損はない話かな」


 じめっとした空気を変えるために、私は歩きながらちょっとした思い出話をすることにした。






ご指摘頂いた間違いを修正しました。(2017/09/19)

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