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第33話 フィンランド内戦

 1917年12月。

 無事(?)結婚式を挙げたハーグリーヴス夫妻はハネムーンに出発した。しかし、そこに至るまでの経緯は荒れまくりであった。


 既にハネムーンの概念は欧州社会に定着していたのであるが、一般人と公爵では社会的立場に雲泥の差がある。当然、相応の護衛が付くことになったのであるが、そのことにテッドが猛反対したのである。


 中身が21世紀な日本人であるテッドにとって、ハネムーンは二人っきりでキャッキャウフフするものであった。彼は旅先のホテルで初夜を仲睦まじく迎えたかったのである。あれだけヤッておいて、今更初夜とかツッコミどころ満載であるが、当の本人は至って真面目であった。


『ハネムーンは二人で行くものでしょう!? 護衛付きとかあり得ないって!?』

『仮にも公爵家の当主が護衛も付けずに旅行とか、それこそあり得ません! どうかご再考を!』

『いーーやーーだーーっ! 旅行先でマルヴィナとキャッキャウフフするんだーっ!』


 主人の身を案じるセバスチャンの必死の説得も平行線を辿り……。


『よろしい、ならば戦争だっ!』


 ブチ切れたテッドによって、ドーセット公爵邸で大乱闘が繰り広げられたのであった。


「……それで、護衛も無しでハネムーンに出発したのですか?」

「ああ。本人たちの強い希望でな」

「いささか軽率では無いですか? あの二人なら滅多なことは無いでしょうが……」

「護衛は用意したのだよ。ただ、二人にぶちのめされてしまってな……」


 ため息をつくロイド・ジョージ。

 問い質したチャーチルも、会議で居合わせた円卓のメンバーも目が点になった。


「あー、まぁ、あの二人なら問題は無いでしょう」

「ですな。あのIRA相手に無双していましたし」

「MI6の支部には情報を出しておきます。せめて居場所だけでも把握しておかねば……」


 これ以降、およそ数か月に渡り、世界各国のMI6支部から二人の目撃情報が相次いだ。目撃だけならともかく、現地で派手に暴れまわることもあり、その後始末に円卓は奔走することになる。







「……では、本題に戻ろうか」

「フィンランドの件ですな」

「うむ。先日のフィンランドの独立宣言をソ連は認めていない。何らかのアクションを起こす可能性が高い」


 この世界のロシアでは史実よりも早く臨時政府が倒れ、ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国(ソ連)が樹立されていた。ソ連はフィンランドの独立宣言を強く批判し、軍事介入すら匂わせていたのである。


「史実とは異なる流れになっていますが、原因はやはりアレですかね?」

「ロシア皇帝とその家族を救出したのが最大の原因であろうな。あれでソ連の求心力が低下してしまったのだろう」


 救出されたニコライ2世とその家族は、英国で亡命貴族として遇されており、ミルフォード・ヘイブン侯爵家のように英語風の名前に改名して英国貴族の一員となることが既に決定していた。


 しかし、そんなことを知る由も無いソ連は、皇帝一家が帰還して新政権を打ち立てることを極度に警戒していた。実際、皇帝一家が国外脱出に成功したことを知った反政府勢力は活動を活発化させており、彼らの懸念はあながち間違いでもなかった。


「おそらくだが、フィンランド国内の赤軍を使って圧力をかけるのではないか? 卑劣なアカ共がやりそうなことだ……!」


 吐き捨てるような口調のチャーチル。

 世界線を越えても彼の赤嫌いは健在である。最近は赤嫌いにターボがかかってきており、赤と聞くだけで過剰反応を起こすようになっていた。


「現在のフィンランドの政情はどうなっておるのだ?」

「史実よりは安定しています。北欧諸国全般に言えることですが、大戦が早期終結したおかげでそれほど貿易に支障が出なかったことが大きいです」

「逆に言えばアカ共は追い詰められているということか」

「左派勢力は議会における絶対多数を失い、さらに議会は赤軍の国外追放を決議しています」

「決議を無視して赤軍が増派されるようなことがあれば、内戦一直線でしょうな……」


 史実では第1次大戦時の貿易不振によって、多大な損失を被った北欧諸国であったが、この世界では英国海軍無双によって貿易は維持されていた。戦争そのものが早期終結したことで発生した復興需要に上手く便乗して利益をあげてさえいたのである。


「仮にフィンランドで内戦が勃発したとしよう。諸外国の動きはどうなると思う?」

「史実だとマンネルヘイム率いる白衛軍は、ドイツとスウェーデンから軍事支援を受けていたはずですが……」

「スウェーデンはともかく、ドイツは動ける状況ではない。かといって、支援しないとアカに国を乗っ取られることになりかねん」

「ならば、こちらで支援するしか無いでしょう。至急フィンランド政府に軍事支援を打診します」


 史実知識を有する円卓にとって、ソ連は来るべき第2次大戦の仮想敵国の一つである。たとえ北欧のボヤ騒ぎであっても、ソ連の勢力が増すことは好ましからざることであった。ボヤ騒ぎが大火事になる前に介入することを円卓は決意したのである。







「その話は本当か同志!?」

「あぁ、間違いない。全面的に支援するとのことだ」

「では……!?」

「我々にはソ連がついている。彼らの力を借りて人民のための政府を打ち立てるのだ!」


 12月某日。

 フィンランド首都ヘルシンキ郊外の一軒家で男たちが密談していた。


 彼らはフィンランドの左派勢力であった。

 追い詰められた彼らは、起死回生の一手としてソ連に動いてもらうべく策動していたのである。


 民族自決の観点から、当初ソ連はフィンランドの独立を認めるつもりであった。

 しかし、ニコライ2世とその家族を逃がしてしまったことにより、ソ連は求心力が低下していた。この期に及んでフィンランドを失うようなことがあれば、ウラジミール・レーニン率いる主流派の凋落は決定的なものとなる。彼は周囲の反対を押し切って、左派勢力に全面的な支援を開始したのである。


 左派勢力の密談から数日後。

 ヘルシンキの国会議事堂の一室で、ペール・エヴィン・スヴィンフヴュー首相と、カール・グスタフ・エミール・マンネルヘイムの二人が話し合っていた。


「君には白衛軍の司令官になってもらいたい」

「ずいぶんと急な話ですな。何か動きが?」

「赤衛軍の勢力が急速に拡大している。近いうちに軍事行動を起こすだろう。そのための措置だ」

「この国を赤い連中に好き勝手されるのは気に入りません。引き受けましょう。しかし、赤衛軍のみならず赤軍まで相手取るとなると、戦力的に厳しいですな」

「じつは英国から軍事介入の打診があった。有効活用してほしい」

「……東部戦線にいたころから思っていましたが、あの国は本当に手が長い。どこまで我が国に侵入しているのやら」


 思わずため息をつくマンネルヘイム。

 しかし、このままでは内戦に勝利出来ないことも理解していた。他国による直接的な軍事介入は彼の望むところでは無かったのであるが、自ら率いる精鋭をもってしても国内の赤軍全てを相手取るのは不可能であった。赤軍の相手は英軍に任せることにして、自らが率いる白衛軍は赤衛軍の相手をすることに専念することにしたのである。






 1918年1月28日早朝。

 奇しくも史実と同じ日にヘルシンキは赤衛軍によって制圧された。フィンランド議会は、既に西部の都市ヴァーサに疎開していたため事実上の無血開城であった。


(首都を無血占領とは幸先が良い。この調子でヴァーサに巣食うブルジョワ共を駆逐してやろう……)


 赤衛軍司令官アリ・アールトネンは首都を無血で制圧した戦果に満足していたが、所詮はぬか喜びであることを思い知らされる光景が臨時首都ヴァーサで展開されていた。


『こちら5番機。移動中の赤軍の部隊を発見。位置はミッケリ南方の街道。ヘルシンキへ向けて南下中』

『了解。以後、この部隊をチャーチと呼称する。引き続き偵察を続行せよ』

『こちら9番機。燃料がそろそろ心細い。交代はまだか?』

『当該空域に3番機を向かわせている。30分ほどで到着予定。引継ぎ次第帰投せよ』


 年末にフィンランドに対する軍事介入を表明した英国は、ヴァーサにBEF(英国海外派遣軍)を派遣。近郊に突貫工事で大規模な飛行場とBEF司令部を設営していた。飛行場の完成と同時に、第1次大戦時に活躍したハンドレページ V/1500が長大な航続距離を活かして航空偵察を行っており、フィンランド国内の赤衛軍と赤軍の位置は、内戦勃発前に完全に把握されていたのである。


「目標上空へ到達!」

「どうせ奴らは街道上からは大して動けん。道沿いに爆撃していけ!」

「イエッサー!」


 ヘルシンキ制圧の報を受けて英国軍軍は赤軍に対する空爆を開始した。

 1機あたり、250ポンド(113kg)爆弾30個、合計で300個近い爆弾を搭載したハンドレページ V/1500の編隊が赤軍をなぎ倒していく。


 フィンランド国内に駐留している赤軍部隊は、その大半が旧式な装備の二戦級部隊であった。対空機関銃などという気の利いた武器などあるはずもなく、爆撃機を直接迎撃する戦闘機は当然のごとく保有していなかった。爆撃を受けた彼らは、爆風で吹き飛ばされて死ぬか、爆弾の破片で切り刻まれて死ぬか、街道から外れた森に逃げ込んでヒグマの餌食になるかの3択であった。


 2月に入ると赤軍に対する空爆が本格化した。

 フィンランドの国土の大半は平坦な地形で、氷河に削られて形成された湖が無数に点在する。そのため、場所によっては部隊の移動は必ず道路を使用する必要があった。そこを狙われた赤軍は為すすべもなく殲滅されていったのである。







「やはり新型艦は良いものだな」

「……この間まで、散々降りるのを嫌がっていたじゃないですか」

「それはそれ、これはこれというやつだ。上層部への嫌味も込めて言ってみたのだが、まさか通るとは思わなかった」


 艦隊を率いるサックヴィル・カーデン提督はご機嫌であった。

 彼は第1次大戦時に、前弩級艦で超弩級艦を撃沈するという偉業を成し遂げたことで有名であった。戦後は中央に呼び戻して元帥位を与えるという意見もあったのであるが、円卓の根回しによって新設されたバルト海派遣艦隊の司令に就任していた。


 円卓からすれば、ユトランド沖海戦は勝つべくして勝った戦いであった。

 史実のネガ潰しを徹底的にやって、史実以上の戦力をぶつけたのであるから、ジェリコーやビーティ―がいなくても大勝利は間違い無かったであろう。しかし、カーデンの戦果は幸運にも恵まれたにせよ、艦の性能と相手の内情を見切った彼の卓越した技量によるものである。


 双方を評価するとすれば、当然カーデンに軍配が上がるのであるが、ユトランド沖海戦の戦果を大々的に宣伝して英国の威光を知らしめたい円卓にとってそれは不都合なことであった。そのために新設したバルト海派遣艦隊の司令官にねじ込んだのである。


『今まで旧式戦艦に乗ってきましたので、どうせなら新型に乗りたいですな』


 もっとも、本人も上層部の微妙な空気は察していたようで、上手く立ち回ってQE型戦艦で最も新しい『ネプチューン』を配備させていたりするのであるが。史実ではいざ知らず、この世界のサックヴィル・カーデン提督は艦隊指揮だけでなく、上層部とも渡り合える有能な海軍軍人である。旧式戦艦を指揮するハメになったのは、カ〇ソリ〇藤の如く有能過ぎて上層部から煙たがられていたためであろう。多分。


 バルト海派遣艦隊は、旗艦『ネプチューン』を含むQE型戦艦5隻を基幹とする独立戦隊である。世界最強の高速戦艦5隻の存在感は圧倒的であり、ソ連が馬鹿な事をしでかさないように砲艦外交を行っていたのであるが……。


「左舷に島影を視認。コトリン島です」

「そのまま湾内に侵入する。観測機も飛ばしておけ」

「アイアイサー! 針路0-7-0。速力10ノット!」


 薄明の時間帯にネヴァ湾に侵入を開始するバルト海派遣艦隊。

 英国の再三の警告と、内戦への介入宣言にも耳を貸そうとしないソ連に対して、紳士的にプレゼントのお届けである。5隻合計40門の15インチ砲によって、サンクトペテルブルクの赤軍は壊滅したのであった。






 1918年2月中旬。

 英軍による紳士的かつ容赦ない攻撃によって、フィンランド国内の赤軍は既に壊滅していた。


 史実ではフィンランド南部を制圧した赤衛軍であったが、この世界の赤衛軍は積極的な軍事行動を起こすことが出来なかった。頼みの綱の赤軍が壊滅したことで士気ががた落ちし、統制を保つことすら難しくなっていたからである。


 赤衛軍は当初ヘルシンキに立てこもる動きを見せたものの、未だに居座るバルト海派遣艦隊の圧力によって、ヘルシンキから北方へ200km離れたタンペレに集結していた。


 赤衛軍を追撃してきた白衛軍であったが、すぐさま攻め込むようなことはせずにタンペレに通じる道路を封鎖するにとどめていた。


「……その、閣下。こんなのが本当に役に立つのですか?」

「役に立つに決まっているだろう! わたしも部下も、東部戦線ではさんざん世話になったのだ。これが無かったら、あの大攻勢は実現出来なかったのだぞ?」

「はぁ……」


 納得出来ない顔をしつつも、作業の手は止めない白衛軍の兵士たち。

 作業を監督するのは、白衛軍司令官であるマンネルヘイムであった。彼らは封鎖する道路にブロック状のものを積み上げていた。ブロックは茶褐色で、上側は円柱状の突起が複数付けられており、底は何かがハマるようにくぼんでいた。そのブロックを兵士たちは木槌で叩き込んで重ねていたのである。


『何そのリアルスケールレ〇ブロック!?』


 この場に平成会のメンバーがいたら、きっとこう叫ぶことであろう。

 これこそが、第1次大戦時にロシアの冬季大攻勢を支えたパイクリートブロックであった。東部戦線にいたマンネルヘイムは、このブロックを上手く活用して多大な戦果をあげており、直々に作業を指導していたのである。


 パイクリート自体は、ジェフリー・ナサニエル・パイクの発明であるが、パイクリートブロックは彼の親友テッド・ハーグリーヴスのアイデアである。


『パイクリート製のレ〇ブロックとかあったら便利じゃね?』


 テッドが冗談交じりでパイクに話したのであるが、当の本人がこれは良いとガチで作ってしまった。試しに東部戦線に持ち込んだところ、ロシア軍から大絶賛された。これが無ければ、冬季大攻勢は不可能であったと後の歴史書に記されるくらいに活躍したのである。


 パイクリートブロックは、コンクリートと比較すると以下のメリットが存在する。


・材料費が極めて安価。

・寒い場所であれば、特別な施設や装備を必要とせずに、材料を型に嵌めるだけで短時間で製作可能。

・レ〇ブロックなため、工夫次第であらゆる形状を作成可能。

・強化コンクリートに匹敵する強度を持ちながらも、施工時間不要ですぐに使用可能。


 寒い場所でないと安定した性能が出せないという問題に目をつぶれば、驚異のチート素材である。タンペレのこの時期の最低気温はマイナス40℃に達するため、型枠に嵌めれば短時間に大量に製作可能であり、さらに都合の良いことに製紙産業が発達しているので、材料のパルプにも事欠かない理想的な場所であった。


 兵士たちが作業に慣れると、ブロックの量産とハメ込み時間は飛躍的に短縮された。赤衛軍が気付いたときには、タンペレはパイクリートブロックの壁によって完全包囲されていたのである。







(どうしてこうなった!? こんなはずではなかったのに……)


 タンペレ市の赤衛軍司令部の一室で、アリ・アールトネンは頭を抱えていた。

 彼にとって最大の誤算は、あてにしていた赤軍が英軍によって早々に殲滅されたことであった。赤軍が消滅したことによる赤衛軍の混乱は酷いものであり、脱走や略奪が横行して地元民の反感を買っていたのである。このような状況では積極的な軍事行動など不可能であった。


 この状況に輪をかけたのが、バルト海派遣艦隊である。

 サンクトペテルブルクの赤軍を壊滅させた艦隊が、ヘルシンキに接近しているとの情報が流れた時点で籠城は無意味なものとなった。恐慌状態となった赤衛軍をまとめ上げて、タンペレまでの撤退を成功させた彼の手腕は評価されるべきであろう。


 この時点では、彼にはまだ勝算があった。

 タンペレが社会主義・共産主義運動の中心地であったことから、戦前から密かにソ連から支援が行われており、市民に対する軍事教練が行われていた。赤軍から譲り受けた火砲も多数配備されており、さらに市内の一部は要塞化するべく工事が行われていた。タンペレの地の利と市民の全面協力があれば、白衛軍の撃退は可能と判断していたのである。


 状況が急変したのは2月下旬であった。

 英軍お得意のビラ巻き作戦によって、タンペレが『物理的』に包囲されていることを知った赤衛軍は、壁を排除するべく部隊を派遣した。しかし、彼らを待ち受けていたのは、そびえたつ壁とステンガンの猛射であった。


「狙わんでいい! ばら撒く感覚で撃てっ!」

「銃も弾もいくらでもある。撃ちまくれっ!」


 見晴らしが良く、身を隠す場所も無い場所に立てられた壁はまさに長城であった。壁越しに撃ち込まれる9mmパラベラム弾によって、赤衛軍の部隊は為すすべもなく壊滅したのである。


「たかがレンガ積みの壁が何故破壊出来ない!?」

「知るかよ!? とにかく撃ちまくれっ!」


 接近しての破壊が困難と知った赤衛軍は、配備されている火砲で遠距離からの破壊を試みた。しかし、マンネルヘイム直々に指導して組まれたパイクリートブロックは鉄壁であり、たかがレンガ積みと侮った彼らを驚愕させていた。


 1個辺り70kg近い重さのパイクリートブロック(500×300×500mm)を普通に組めば厚さ300mmの壁となるが、彼は完成した壁の上から、固まっていないパイクリートをぶっかけた。こうすることでブロックの隙間にパイクリートが入り込んで凍結し、一枚板のパイクリート壁とそん色ない強度を発揮出来るのである。東部戦線を生き抜いたマンネルヘイムの知恵であった。


 厚さ300mmのパイクリート壁は、ほぼ同じ厚さの強化コンクリートに匹敵する強度を誇る。赤衛軍の最大火力であるM1877 152mmカノン砲をもってしても破孔を生じさせるので精一杯であった。


「朝になったら破孔が修復されてた……どんなマジックを使ったんだ!?」


 しかし、赤衛軍が苦労して壁を破壊しても、夜のうちに破孔に液状のパイクリートを充填すれば、朝までに復旧が可能であった。日中になけなしの砲弾を使って苦労して破壊したのに、翌朝には完全復旧している光景は、赤衛軍の戦意をへし折るのに十分なインパクトがあったのである。


 力攻めによる犠牲を嫌ったマンネルヘイムが包囲と兵糧攻めに徹したことに加え、完全に十八番と化した英軍のビラ巻きによって、公平な裁判と寛大な処置を取ることが周知されていった結果、タンペレから脱出する市民や赤衛軍兵士の数は加速度的に増えていった。


 3月下旬になるとタンペレ市内に籠るのは、ガチガチの共産主義者のみとなっていた。そんな彼らも飢えには勝てず、次々と白衛軍に下っていった。アリ・アールトネンがいくら嘆こうとも、大勢は既に決していたのである。






 1918年4月5日。

 白衛軍は解放されたヘルシンキで内戦の勝利を祝った。


 史実の半分ほどの期間で終結した内戦による犠牲者は、タンペレにおける一連の戦闘によるものが主なものであり、双方合わせても1000人程度であった。


 代わりに赤軍の損害は悲惨なものとなっており、赤軍絶対殺すマンと化した英軍の容赦無い空爆で殲滅されていた。運良く生き延びた兵士も、飢えと寒さで死ぬかヒグマの餌となり、フィンランド国内の赤軍は文字通り消滅していたのである。


 ちなみに、アリ・アールトネンはタンペレで捕縛されたものの、本格的な尋問が始まる前に死亡していた。彼の死因については、暗殺説も根強いのであるが、現在の調査ではリフィーディング症候群による死因が有力である。


 捕縛された直後の彼は極度の飢餓状態であったとされ、与えられた英軍のレーションを食べてリフィーディング症候群を発症した可能性が高い。ここらへんが脚色されて、不味い英軍レーションに悶絶して死んでしまったなどと言われてしまうのであるが、英軍のレーション開発者たちからすれば甚だ迷惑な話であった。メシマズという評価を払拭すべく、フリーズドライ技術の実用化など英軍のレーション開発は加速されていくことになる。


 フィンランドとサンクトペテルブルクの赤軍の壊滅によって、レーニンは失脚。主流派はスターリンに取って代わられた。その後のソ連は、スターリンとトロツキーの両名の熾烈な主導権争いが繰り広げられることになる。


 フィンランド内戦の終結によって、欧州は平穏を取り戻した。

 しかし、そんなことが吹き飛ぶ事態が新大陸で進行していたのである。






以下、今回登場させた兵器のスペックです。


ステンガン


種別:軍用短機関銃

口径:9mm

銃身長:196mm

使用弾薬:9mmパラベラム弾

装弾数:32/50発(箱型弾倉)

全長:760mm

重量:3180g

有効射程:46m


史実で大量生産されたサブマシンガン。

この世界では最初からMk2の仕様で生産されており、主にロシア軍に大量供給されて冬季大攻勢から実戦投入されている。


最初から工作精度の高い部品を使用して生産されているために、史実のような初期不良はほとんど無く、驚異的な低コストはそのまま据え置かれたチート武器である。


その単純な構造から各地でコピー品が作られたが、まともに作動させるには部品に高い工作精度が必要となるため、大抵はデッドコピー品に終わっている。



※作者の個人的意見

古今東西のサブマシンガンにおいて、コスパでこれに勝てるものは存在しないでしょう。

初期型はトラブルが多かったですが、それも生産に慣れるとだいぶマシになったとか。お値段を考えると問題無いでしょう。壊れたら、傍にあるのを使えば良いのですから。


ちなみに、この世界の英国はパラメトロン・コンピュータが発達していますが、その延長線上で史実の三菱電機の『MELDAS 3213』相当のNC制御装置を実用化しています。MELDAS 3213は、光電式テープリーダー、指令装置、操作卓の3つから構成されるパラメトロンを使用したNC装置です。おかげで熟練工が足りなくても部品の精度が確保出来るようになっています。なんて酷いチートだ……w






M1877 152mmカノン砲


種別:カノン砲

口径:152.4mm

砲身長:3200mm(21口径)

重量:5300kg

有効射程:9300m

仰角:-5度~+45度


1877年にロシア帝国が制式採用した口径152mmのカノン砲。

史実の日露戦争や第一次世界大戦で使用された。フィンランド内戦でも使用されている。この世界では赤衛軍が使用しているが、パイクリート壁の前には無力であった。



※作者の個人的意見

ロシアの大砲は性能が良いものが多いのですが、さすがにこの時点では旧式です。砲弾ははそれなりに大きいのですが、短砲身なので初速は大したことないでしょう。有効射程で発砲しても300mmのパイクリート壁が抜けるかは微妙です。たとえ貫徹したとしても、すぐに塞がりますけどね(酷


なお、パイクリート壁の強度は強化コンクリ並みと想定しています。

この場合、史実の17ポンド砲だと1m厚の強化コンクリを抜くのがやっとです。メートルオーバーの外壁を持った要塞の破壊が困難であることと同様にパイクリート壁の破壊も困難なのです。


極寒の地で、本気でパイクリートで要塞を作ったらどうなるか。

早く書きたいけど、まだまだ後の話なんですよね。早くストーリーを進めなきゃ…!


なお、今回の検証に関しては、【アジ歴】徹甲弾・徹甲榴弾・破甲榴弾の対ベトン(コンクリート)抗力の概算(ttps://togetter.com/li/511049)を参考にさせていただきました。他の砲のデータもあるので、興味を持たれた方は見てみることをお勧めします。

あけましておめでとうございます。

今年もまったりマイペースで更新していきますので、皆様よろしくお願いいたしますm(__)m


新年一発目は、フィンランド内戦ですがだいぶ史実と剥離しています。

何を今更という感が強いですが(苦笑


次回はアメリカに起こった出来事を書きます。

もう想像がついてる人もいるかもしれませんねw

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 史実だとこの時期当たりで金本位制が復活したはずですが大戦が短期間で終わった為どうなっているか知りたいです。 [一言] 明けましておめでとうございます。今年も楽しみにしています。新大陸で…
[一言] あけましておめでとうございます。今年も期待しております しかしメシマズ死疑惑とはw 捕虜虐待を疑われないために捕虜専用レーションを作ったとかの戦場伝説が生まれそうですねw
[一言]  ああそうか、寒い場所で使う分には冷やす必要はないものな。そりゃ強いし絶賛されるわ。  でも夏が来たら腐ってエライ事になりそう。それとも蜂とか鳥が巣の材料として使うのに群がるんだろうか?
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