4-25 お腹すいた~
カルミの罪状の放免、ユレサの今後の問題、吸血鬼の権威の回復。そしてこの世界の結晶も手に入った。
後は捕らえたゴンドラ四人の身柄の処理についてだ。王城前でオーバーテクノロジーを堂々と使うのはマズいと思ったランの意見により、旅人四人が別の場所に移動してから処理を解決する流れになった。
カルミの家にお世話になるとはいえ、せっかく仲良くなれた幸助と分かれることがやはり寂しいユレサ。
彼女は最後にまた幸助の手を取り、別れの言葉を告げようとする。
「本当に、ありがとうございますコウスケさん。その……私……」
「大丈夫!」
「えっ?」
少し頬を赤くするユレサに、幸助は満面の笑みを浮かべて返事をした。
「いつか再びこの世界に来るよ。そのとき、こちらとしてもまた仲良くしてくれると嬉しいな」
ユレサは一度ポカンとした顔になるが、次にこぼれた笑いに乗せて幸助と同じ笑顔になる。
「ハイッ! そのときを待っています!!」
これを離れて見ているランとリガー。再び思うところを話し合う。
「あの人、かなり察しの悪い人なんですね」
「ま、いいんじゃねえか? どう転ぶかは本人達のこれから次第だ」
カルミ達への挨拶を終え、ユリはぬいぐるみの姿に変身してランの右肩に乗っかり、気絶したままのゴンドラを連行しながら人の目のつかない場所にまで移動した四人。
ここに来て処理といってもどうすればいいのか分かっていなかった幸助がランに質問する。
「それで捕まえたのはいいけど、どうするんだコイツら?」
「もちろん牢屋にぶち込むさ」
「いやいや、牢屋ってそんなもの用意できるの?」
「ここに用意するんじゃない。コイツらを転送するんだよ」
ランの説明によると、次警隊にはそれぞれの活動場所にて逮捕した犯罪者を送りつけ、留置の後裁判にかける共通の司法機関があるらしい。
ランは幸助と会話をしている合間にもその場所にゴンドラを転送するための諸手続を行なっていたようだ。
「流石多次元規模の組織。システムがしっかりしている」
感心してしまう幸助にランは謙遜なのか否定の言い分を述べる。
「システムはな。それを利用している隊員は大悟を始め変人だらけだから、体内での揉め事も多いんだよな」
「聞いてて一気に不安になったぞ、次警隊」
そんなこんなで二人が会話をしている間にランは転送のための手続きを終了した。
「よし、後は決定で転送するだけだな」
「これだけ異世界で色々やらかしたんだ。ちゃんと罪を償って貰わないとな」
幸助が睨みを効かせ、ランがゴンドラを転送しようとしたそのときだった。
突然ランが端末を操作する手を止め両腕を広げると、両隣にいる幸助と南をラリアットでもする勢いで後ろに下がらせた。
「アガッ!!? い、いきなり何すんだお前」
被害を受けた幸助がランに文句の一つでも言ってやろうとした瞬間、つい今まで彼等が立っていた地面が高い爆音が発生した。
「これは!?」
「な、何が起こったの!?」
魚人の世界に続き二度連続で起こったこの事態に、四人の警戒が一気に増す。爆発の煙が晴れた先には、ぼんやりと人影と、陥没した地面が見えた。
その陥没した地面跡は、四人にとって見覚えがあるものだった。
「あの陥没跡!」
「魚人の世界の時の!!」
目の前にある陥没跡は、以前魚人の世界にて彼等が撃退したキロン達赤服を飲み込み消し去ったものと全く同じだ。
「てことは……今あそこにいる奴が、事を起こした張本人か」
ランはローブを着込み、幸助は剣、南は拳をそれぞれ構える。そして完全に煙が消えた先には、こんなことを起こせたとはとても考えにくい事実あった。
目の前にいる人数は一人。脚が細く背が長い、頭に二つのお団子にまとめた白い髪型をした少女がいた。
プロポーションも良く、それを生かしたようなタイトな赤いシャツにミニスカートをはいている。端から現代日本人から見ればギャルのそれに近いだろう。
する同瞳をした様子の少女。無言のままただ立っているだけでいるが、どう出てくるのか分からないラン達には下手に動くことが出来ない。
などと緊迫した空気になっていたが、突然次に響いてきた音に全員意識が向けられた。
グウウゥゥ~~~!!!……
「お腹、すいた~……」
少女が鳴り響かせた腹の音に目を閉じてため息を吐きながら猫背になった様子に、相手側は緊張感がから回って揃ってずっこけてしまった。
「な、なんなんだ一体?」
「何というか、掴み所のない女の子だね」
一周回って自分達で少女の印象の会話が始まってしまうところだったが、ここに来て少女が初めてラン達の存在に気が付いたようだ。
「あれ? そんなところで何つったんてんのよ? 寝ぼけれるの?」
ついさっき殺されかかったことにすら気付いていないのだろうか。こうも天然で相手を小馬鹿にする相手となると何処か腹が立ってくる。
すると少女は思い出したかのように後ろを振り返ると、気を失ったままのゴンドラを見て勝手に自分の目的を口にしだした。
「おっと! そうだった! あ~し、この人達を連れて来いって言われたんだったぁ!! 余計なことせずにちゃっちゃと仕事を済ませないと」
(ゴンドラを!?)
ゴンドラの身柄を目的としている時点でまずこの世界の存在ではないことは明らかだ。ランは彼女を呼び止めようと声をかける。
「オイ待て! お前何処からその指令を受けた!? 格好から察するにまさか」
「うるさいわねえ。あ~し今お腹すいてて機嫌が悪いの。とっととどっかに消えなさい」
軽くあしらって相手にしようともしない女だが、ランに代わって幸助が食い下がらずに会話を繋げる。
「そうはいかない。そいつらはこっちで処分を決めているんだ。悪いけど横入りは」
「うるさい!!」
「避けろ!!」
逆ギレして彼女が振り返ると、何かを察した三人が咄嗟に左右に避ける動きをとった。次の瞬間、彼等が立っていた場所に彼女の真下と同じ陥没が発生した。
(まるっと地面が消えた!?)
陥没に驚くラン。女も三人が自分の攻撃を紙一重で回避した彼に感心した。
「へえ、中々に勘が鋭いのね。生きのいい食事は久しぶり」
「食事?」
女はスカートのポケットの中から食器のナイフを取りだし、ペン回しの要領で軽く一回転させて強く握ると途端にナイフは彼女の身長と同じほどの大きさに巨大化したが、彼女はこれを片手で軽々と持ち続けている。
「いいわ。貴方たち三人、今日の楽しいお昼として頂こうじゃない!!」
女が一歩踏み出すと、人間離れした極力で一気にランと至近距離にまで近付き、ナイフを振り降ろした。
ランはブレスレットを変形させた剣で受け止めるも、直後に感じた攻撃の重みに骨がきしむショックに襲われた。
「ラン!!」
(何だこの力!? 巨大生物の一撃受けている感覚だぞ! このまま受け続けていたら押しつぶされる!)
ランはどうにか身体を捻らせ武器の向きをかけることでナイフの押し込まれる力を逸らそうとするも、あまりのパワーに向きを変えることすら難しい。
このままランが押し潰されるかに見えたが、その前に間合いに入った幸助が剣を横方向に振るった為に女は回避に回らざるおえなくなり、ランにかかっていた力を外すことが出来た。
「大丈夫か!?」
「かなりやばかった。礼を言う」
「何で上から?」
冗談を交えつつも、ランの冷や汗を見て幸助は彼ですら余裕を持てない相手であることを暗に察する。
「一緒に戦うぞ」
「……しかないな。無理はするな」
「?」
「南!」
突然名前を呼ばれて驚く南。どういう訳か彼女は幸助と違いさっきの位置から移動していないが、ランはこれを好都合と捉え肩に乗っているユリを放り投げた。
南はこれを両腕で優しく受け止めると、ランは一言だけ指示を伝えて前を向いた。
「頼む」
いつも無理矢理身体を引っ張ってでも動かしてくるランが心配の声をかけ、南にユリの身柄を預け保険をかけている。
それ程にまで、現状は芳しくないと言うことなのだろう。
(幸助は三度の連戦で疲労がかなり溜まっている。未知数の能力相手に、今の俺達で何処まで通じるか)
体勢を立て直した二人に、女は舌舐めずりをして吟味している。
「フ~ン、男二人で来るの? いいわ。あ~しがまとめて平らげて上げる」
女の台詞が途切れるとすぐに脚を動かし距離を詰めてきた。さっきのパワーを警戒した二人は彼女とは逆に距離を取ってランは恐竜の世界の結晶の力を、幸助は七光衝波を撃ち出した。
二つの大技が同時に迫ってくる事態にも、相手の女は一歳動揺していく様子はない。至近距離にまで近付く衝撃波に、普通では思い浮かばないような言葉をこぼす。
「初めて見るわ。どんな味がするのかしら?」
次の瞬間、ラン達は目を疑った。手加減なしに仕掛けた二つの攻撃は、瞬きすらしていない合間に影も形も消えてなくなったからだ。
「消えた!?」
思わず驚きの声を漏らす幸助。女はため息に近い息をつき、残念といったような態度を取っている。
「ハァ、あんまり美味しくないわね。これだけじゃとても物足りない……わね!!」
女は今度はこっちからだと言わんばかりに地面を踏み込んで前に飛び出し、ナイフが届き間合いにまで距離を詰めてきた。
(速い! あのパワーにこのスピード、いくら異世界人とはいえぶっ飛んでるだろ!!)
女のあまりの運動神経に対応策を考えるランだが時間的余裕はとてもない。
だが幸助は違った。考え無しに動く性格が功を奏し、二人の首を切りにかかる女のナイフに剣を当てて鍔迫り合いを始めた。
できる限りの渾身の力を押しつける幸助。だがゴンドラとの戦いで疲弊した今の彼の力では、いつ押し返され切り裂かれてもおかしくない。
だが彼のおかげで考える時間が延びた。ランはこれを利用しない手は無いと頭を高速で回転させる。
(考えろ! 考えろ!! アイツの作った時間を無駄にするな!!)
ここまでの時間で女が見せてきた攻撃。彼女が口にした台詞。自分達の状況。全てを踏まえ、ランは目を閉じ大きく息を吸い込み脳に酸素を送る。
そして目を開けた彼は、幸助が抑えてガラ空きになっている女の腹に蹴りを入れて後ろに引かせることで幸助を鍔迫り合いから解放した。
「ラン。助かった」
「言いたくないがこっちの台詞だ。おかげで賭けだが策は思い付いた」
「策!?」
ランが顎を引き、幸助にだけ伝わる小さな声で作戦を伝達した。
というわけで、第4章はもう少しの間続きます。ここから怒濤の展開がありますのでもう少しお付き合いお願いします!
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