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4-20 カルミの企み

 時間が少し経過し、カルミとゴンドラ二人が残る広間。

 国王に変身したままのウィーンが玉座に座り、見下す体勢で睨み付けながらカルミに問いただす。


「本当にやれるのだろうな? お前の使用人は」

「ええ、リガーはわらわの使用人の中で一番ですので。わらわの言うことは、必ず従ってくれる」


 カルミの話の途中、彼女の後ろにある扉が音を響かせて開いた。


「ほら、噂をすればですじゃ」


 カルミは後ろを振り返ると、気を失った男二人を抱えているリガーが広間の中に入ってきた。


「お待たせいたしましたお嬢様」

「ご苦労なのじゃ」


 リガーはまずは取引を済ませてしまおうと、玉座とその隣にそれぞれいるゴンドラの近くに放り投げた。


「お求めのものです。どうぞ近くで見てください」

「死んでいるのか?」

「当然。気になるならご自身で確認を」

「いいだろう。アングラ」


 ウィーンからの指示を受けたアングラは念のために怪人の姿に戻り、鋏を突き立てて触れると共に首を切り裂く姿勢を取りながら近付いていく。

 そのまま無言でアングラが相手を切り裂ける間合いに入り、横一線に刃を入れようとした瞬間、「カンッ!!」と甲高い金属音を響かせて何かに動作を止められた。


「やはりか」


 アングラの鋏の刃を止めたのは、突然身体を起き上がらせつつ、右逆手で幸助の剣を勝手に鞘から引き抜いていたランだった。


「こんなスリル満点な目覚まし聞いたこと無いぞ」

「起きなくて結構。二度寝がしたいのなら今すぐ永遠に眠らせてやる」

「つれないなぁ。せっかく広間にまで来たんだ。俺達も踊ろうぜ。荒々しくな」


 ランはアングラの鋏を弾き飛ばし、右隣の幸助の腹に肘打ちを入れて叩き起こした。


「オラ起きろ!」

「ウゴォ!! お前いつもいつも乱暴に……」


 目を覚ましつつ飛び上がった幸助は、目線の先にアングラがいることに驚くより先に敵意を向けた。


「お前は! 今度こそ!!」


 幸助は戦闘態勢に入ろうと剣の持ち手を握るように右手を回したが、ようやくそこで彼は自身の剣がなくなっていることに気が付いた。


「あれ!? 俺の剣は!?」

「借りてた。返す」

「え?」


 唐突にランが持っていた剣を幸助に放り投げて返却し、幸助は唐突に投げられたことで一度落としかけるもなんとか剣を受け取った。


「何でお前が持ってんの?」

「中々固い剣だな。アイツが修繕しただけある。ユリ!」


 ランは幸助の剣の使い心地について感想を述べると、後ろにいたリガーの方に右手を差し伸べた。


 するとぬいぐるみに変身してリガーの背中に隠れていたユリが上に飛び出し、右手に持っていたブレスレットをランに投げた。

 ランは左手で受け取ってすぐにブレスレットを剣に変形させ、追撃をかけるアングラの鋏が幸助に触れる前に受け止めた。


「素速い奴が!」

「悪い、ラン」

「ぼさっとするな。さっさと戦え」


 幸助はランに言われてすかさず隙があったアングラの腹に蹴りを入れて後ろに下がらせる。

 二人はこれを追いかけて斬り掛かるも、アングラは弾かれた鋏をすぐに動かして防いでみせる。


「かったいなぁ」

「早々破壊できてたまるか」


 ランの想定よりもアングラのパワーは強く、ランが押し巻けて数歩下がらされた。

 アングラは攻撃を仕掛けようとするも、代わるように近付いて来た幸助の攻撃に直撃はせずも胸にかすってしまった。


「チッ! 二対一か。せこい手を」

「王家を装って国乗っ取ろうとしている奴が言えたことか?」

「今度こそ、お前を倒して! ユレサさんを救う!!」


 ランと幸助がアングラとの戦闘を始める中、残っていたウィーンとカルミが冷静に会話する。


「交渉は決裂と言うことでよろしいですぞ?」

「いいや、わらわが言ったことは事実じゃ。ただそちらの理解が、勘違いだっただけ」


 カルミは自身の口元を広げた扇子で覆い隠し、顎を引いて詳細を口にした。


「わらわは()()()王家に恩を売るだけじゃ。王家になりすまし、国を乗っ取ろうとする輩を、わらわの元にいる吸血鬼が倒して国を守る

 こうも直接、恩を売れる機会はそうそうないのじゃ」

「始めから、私達を倒す気だったと……それはなんともまあ、ご都合主義な考えだぞ」


 ウィーンは玉座から立ち上がると共に怪人態の姿を現し、歩いてカルミとの距離を詰める。

 するとカルミの前にリガーが割って入り、ここからは自分の番だと顎を引いた鋭い目付きをウィーンに向ける。


「お嬢様、ぬいぐるみさんとお下がりを。ここからは自分が」


 カルミは押しつけられたユリを型崩れしないように丁寧に抱えつつ、閉じた扇子で彼の肩を叩いた。


「期待しておるぞ。リガー」


 カルミは一言終えると後ろに下がって距離を取り、リガーとウィーンがお互いに真っ直ぐ近付いていく。


「面倒な主人を持つと大変ですぞ。私も元使用人の身として、少し同情しますぞ」

「余計な気遣いです。自分は今のこの生活、気に入っていますので」

「おおっと、それは失礼」


 会話が終ると同時に間合いに入った二人は、直後にお互いの右腕で殴りつけた。

 リガーは血液を纏って強化し、ウィーンは鋏で攻撃したがどちらも引けを取らず、すぐさま左足を上げて回し蹴りをするもこれもお互いに打ち合って相殺されてしまう。


 ならばと少し離れてリガーは血液を銃弾に変形し、ウィーンは鋏の穴から破壊光線を発射し、またしても間ど真ん中でぶつかり合って相殺された。


「やりますぞ」

「そちらこそ」


 お互いを軽口ながら褒め称えつつ、ここから何度か仕掛けるも一進一退、互角の戦いを見せる二人。

 騒ぎを長引かせれば兵士が入ってくる。この戦闘を手早く終らせたいウィーンは、いつの間にかくすねていたマルジの十字架を隙を見て取り出した。


 そして次にリガーが目を合わせてくるタイミングに合わせて手元に隠した十字架を見せつけようとした。


(よし、これで一人)


 だがその直前、隣で戦闘をしていた幸助がふと目を向けたことでリガーの死角にある十字架の存在に気が付いた。


「あれは! <火矢(ひや)>」


 幸助は指を伸ばして横の隙間を閉じた状態の左手を勢い良く動かし、中指の先端から赤く細い矢を発生させて撃ち出した。


 火矢はウィーンがリガーに十字架を見せる寸前に命中し、高熱によって形を変形させた。


「熱っ!?」


 更にウィーンは突然の温度変化に反射で手を放してしまい隙を見せてしまう。リガーはこれを突いて一気に距離を詰めてきた。


「ユレサさんから十字架のことは聞いていたから。簡単な魔術で対策できて良かった」

「驚きだな。お前の後先を考えていないお人好し馬鹿が功を奏すなんて」

「それ褒めてんの? けなしてんの?」


 ランの悪口とも取れる言い分に幸助はジト目をして困ったような表情を浮かべるが、そこに向いたアングラの攻撃をまたランが捌いたのを見て真剣な顔に戻す。


「人を助けるのもいいが、自分の戦いに集中しろよ」

「……どうも」


 またランにフォローされたことに反省する羽目になった幸助だが、これ以上のツッコミは入れずに戦闘に集中した。


 ウィーンは対吸血鬼用の秘密兵器を使い物にならなくされてしまったことに、ここまで冷静でいた表情が一気に曇った。

 逆に有利になったリガーはこのチャンスを利用しない手は無いと走って距離を詰めつつ、逃げられないように血液を変形した銃弾を複数発射して間を潰した。

 だがウィーンもただやられるわけではない。焦りは自分で内に引っ込ませ、飛んできた銃弾を全て捌きながら距離を詰めて来たリガーにアングラが幸助に使ったものと同じ技を仕掛けた。


(<渦鋏 弾>)


 リガーは衝突する直前に技の発生に気が付き血液を変形させた壁で防ごうとするも、触れた途端に血液は周囲へ飛び散ってしまう。

 これを見たリガーは自分にも同じ効果があると見るが、かといって回避をするには遅すぎる。


「リガーさん!!」


 幸助が応援に行こうとしても、アングラが手出しはさせないように脇に破壊光線を発射して足を止めさせる。


「集中しろ」

「でもリガーさんが!!」

「それで野垂れ死んだら意味無いだろ。それにあのワガママお嬢の筆頭執事だ。頭の回転くらい速くなきゃ務められないだろ」


 ランの言い分はすぐに現実になった。

 リガーは普通に動いて回避が出来ないことを悟ると、宙に浮かせていた自分の血液を両足ふくらはぎに当て、ジェット噴射のように勢い良く身体を転倒させることで突き技の直撃を避けた。

 更にその上でリガーは自分の身体の手前に渦とは反回転する血液の流れを生み出し、攻撃側面の衝撃波までをも攻略してみせた。


「凄っ!」

「いいからこっちに集中しろ」


 二度目のツッコミにまたしても我に返る幸助。


 アングラは単純なパワーの強い幸助に、彼の欠陥部を器用にカバーしながらより攻め立ててくるランの二人の対処に徐々に追い詰められていた。


(クソッ! どうにも防戦に回らされている。

 厄介なのは白ローブだ。パワーは低いが、もう一人の男の単純な攻撃で出来る隙を見つけ次第すかさずカバーしてきやがる。どうにかして隙を生まなければ)


 しかしこの考え事をしてもつれた動きすらも見きり、ランの回し蹴りを当てに来た。彼はどうにか両手で防ぐ姿勢を取って受けるも、後ろに下げされてしまう。


 かなり痛い感触があったアングラだが、これで距離が取れた。次に近付くときまでに少し時間が出来る。


 幸助は怯んだアングラを見て今なら倒せると一人前に飛び出していったが、アングラはこの戦闘を有利にするために切り札を使うことにした。


 アングラはの左手の指を鳴らし、自身の幸助にの間の空間に突然、丁度彼等の全身を視界から隠す障壁が出現した。

 防御壁を用意したのならば破壊してそのまあ突き進もうとした幸助だったが、障壁の先に見えたものに攻撃のため前傾になっていた動きを急ブレーキをかけるように無理矢理停止させた。


「ッン!」

「よく止まった。だがこれを見せたってことで、俺が何を言いたいのかは分かるよな?」


 幸助の目の前に出現した障壁の正体は、ゴンドラが人を攫う際に使うカプセル。カプセルの中には、前回の戦闘で幸助が助け出すことの出来なかった女性、『ユレサ シーズ』が混乱した様子で周りを見渡していたのだ。


「ここは……ッン! コウスケさん!」

「ユレサ……さん」


 目を丸くして腕を下げるコウスケ。アングラが再び指を鳴らすとユレサを入れたカプセルは彼の側にまで瞬間移動する。


「妙な動きはするなよ? この女の身を案じるならな」


 分かりやすい人質交渉。ゴンドラが圧倒的に優勢な状況に持ち込まれてしまった。


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