4-18 そいつは俺じゃない!
マックとの戦闘に勝利し、息を吐きながら肩の荷を降ろした南。するとふと気持ちが切れた瞬間に魔法少女の変身が解け、身体の重さに押しつぶされるように膝をついてしまう。
「ハァ!……ハァ!……疲れた……」
つい本音が漏らしてしまう南に、彼女を手助けした使用人達が寄りかかる。
「大丈夫かい!?」
「うん。でもやっぱりダメージ受けすぎたかも」
少ししおれたような顔つきでかすれた声を出す南に、使用人達はとても大丈夫そうには思えなかった。
「私達が貴方を運びましょう。さっきの技で扉も……破壊されたみたいですし」
使用人は自分で口にしながらも少し引いていた。先程の南の射手ノ矢によって、マックを貫くと同時に扉の鍵の部分に穴を開けていたようだ。
正直吸血鬼から見ても文字通り人間業には思えない。
「ああ、ずっと受け身で衝撃を身体の中で巡らせていたから、それを一気に吐き出しすぎたみたいだ」
「ショックを身体に巡らせる?」
「全て吐き出す?」
南の言い分は使用人達にも理解不能だった。だがここで変な会話をして時間を潰している場合ではない。今の話は置いておいてすぐに城から脱出しようと移動を始めた。
その道中、南を庇ってくれた女性の使用人が、彼女に並走しながら話しかける。
「それと南さん。一つ、私達のワガママをよろしいですか?」
「?」
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一つの戦闘が終ったとき、王城内の廊下にて、その南達がいる玄関ホールに無かる人物二人。ユリと、ランの姿に化けて彼女を騙すスゴウ。
どうにもゆっくりを脚を進めて案内するユリに、スゴウは若干の苛立ちを感じて急かす声をかける。
「何をゆっくりしているんだ? はやく合流しないとマズいんだぞ」
「怪我から治ったばかりでしょ? 気遣ってやっているんだから感謝しなさいよ」
上から目線な言い分に顔をしかめるスゴウ。はやいところカルミの一派を始末しておきたい彼にとっては、どうにか状況をはやく進めようと考える。
(この女……付き合ってやるのも面倒だ。首を鋏でもかけて脅せばスムーズに動くだろうか)
スゴウはユリが前を見て自分の姿を見ていないことを良いことに、右腕だけを元の姿に戻して彼女の首に近付けようとする。
あと少しでユリに傷が付けられるかと思われたそのとき、突然に後ろから響いてきた叫び声に動きを止めた。
「待てユリ!!」
呼び止められたユリはもちろん、スゴウは彼女と違って焦りから大きく目を開かせて振り返った。
目線の先にいるのは、スゴウが地下牢廊下にて、カプセルに閉じ込めていたはずの本物の『将星ラン』その人だった。
「ラン」
ふと名前を読んでくるユリに、本物のランは彼女の隣にいる人物を睨み付けながらハッキリ聞こえるように告げる。
「ユリ! それは俺じゃない! ゴンドラの一因だ!!」
スゴウは率直にマズいと思った。これを言っているのが本物か偽物かユリには比べられないとしても、瓜二つの人物のどちらかが偽物である事実があるだけで同様は避けられないからだ。
彼女に反応される前にいっそ始末してしまおうと鋏を素速く動かすスゴウ。
ところがランからの言葉に対するユリの反応は、焦るわけでも驚くわけでもなく、ただ冷静なツンとした態度をとって一言口にしただけだった。
「なるほど、そういうことね」
スゴウは鋏はユリの身体を切り裂かれる直前、回復して貰ったはずの左手が激痛に襲われ、反射で右腕で押さえながら数歩脚を後ろに下がってしまった。
「こ、これは!?」
「<ショック エメラルルド>、事前に仕込んでおいたエネルギーを、後から操って爆発しないほどのショックを与える。中々に嫌らしい技でしょ?」
痛みに耐えかね、距離を取れば効果が無くなるのではないかと逃げ出すスゴウ。代わるようにランはユリの近くまで走り、冷静ながら心配していた様子で声をかける。
「大丈夫か?」
「特に何もされたないわ。もう少し人目につかない場所についてから情報を聞き出そうと思ってたけど、先にアンタが来ちゃうなんてね。手間が省けたわ」
「最初から気付いてて弄んでたのか」
少しスゴウが気の毒に感じたランに、ユリは左目を軽くウインクしながら見分けられた理由を口にする。
「アンタとは長い付き合いだもん。素人のなりすましなんかで騙されるわけないでしょ」
「どうも。話の続きはアイツを倒してからだな」
二人は逃げ出したスゴウを追いかけていき、スゴウの方は痛みに速度が制限されてすぐに後ろに付かれた。
スゴウはもう逃げられまいと内心察し、後ろに振り返って怪人としての本来の姿に戻った。
ランはユリをこれ以上危険な目に遭わせないために彼女の足を止めさせて自分だけ前に出る。スゴウはここで一番最初に気になったのは当然一つだ。
「お前、どうしてここに? カプセルは内側からは破壊できないはずだ!!」
「そこは俺自身もビックリ。偶然に救われたからな」
ランは左手に持ったあるものを見せびらかす。屋敷の使用人になる前、ユリから貰ったプレゼントだ。
「それ、私が上げたキーホルダー」
「内側から光線を撃っても透過するだけだった。だがコイツの装飾が光りを乱反射するようでな。たまたま当たった光線を細かくばらけさせてカプセルを破壊してくれた。ホント、愛されているよ俺は」
話の合間に一瞬だけユリにアイコンタクトを送るラン。逆にユリは彼のふとした台詞に少し頬を赤くして恥ずかしがった。
ランが和んだとみた瞬間を付いてスゴウは再びカプセル精製用のスプレーを発射しようとするが、ランはノールックでレーザー銃を右手で構えて発射し、スゴウの鋏すらも破壊した。
「俺の隙を突けたとでも思ったか? 一度見せた手段はそうそう効かないんだよ」
「クソッ! クソォ!!」
前を向くランに破れかぶれで突進合かけようとするスゴウ。
ランはこの攻撃にどうかわそうかと構えたが、あろうことかスゴウはある程度距離を詰めたところで回れ右をし、全力疾走でこの場から逃げ出した。
「こうなれば退却だ!! ウィーン達に合流すればまだまだ再起は……」
「ここで逃げるか。手としてはありだが、ハッタリをかけるのは愚策だったな。距離が取り切れていない」
ランはブレスレットを右手で触れ、鞭に変型させると共に伸縮自在に伸ばしてスゴウを拘束した。
「クッ! ウウゥ……」
もがいて高速から抜き出そうとするスゴウだが、いくらでも形を変形させることの出来る鞭を相手にしていてはどうあっても脱出することは叶わず、ランが近付いて来て頭を掴まれた時点で、もがくことも諦めた。
「その程度で済んでるだけ感謝しろ。もしアイツを怖がらせてでもいたのなら、お前今頃首が宙を舞っていたぞ」
ランが普段と変わらない口調で言い出す恐ろしい言い分に、スゴウは全身が固まった状態で止まってしまう。
「安心しろ、そうじゃなかったからお前を殺す気はないさ」
ホッとしたスゴウ。しかし次の瞬間にランが左拳で思いっ切りゲンコツを浴びせ、白目を向かせたまま彼を気絶させた。
「ま、多少の憂さ晴らしはさせて貰うがな」
「おっかない男ね」
ユリがジト目になってランの元まで歩いてくる。戦闘が終ったこともあり、ランはカルミのことについて彼女に質問した。
「で、カルミお嬢はどうした? お前助けに向かったんだろ?」
「私が足止め役を買って出てそれっきりよ。向こうに行って以降どこにいるのかは知らないわ」
「ああ、そう」
あまり情報としては役に立たない結果にランは微苦笑を浮かべる。
「ま、ここに止まっていたってしょうがない。とりあえず移動して状況調べるか」
「アイツはどうするの?」
ユリは倒れているスゴウに指を差す。
「安心しろ。起きてもどうにもならないようガチガチに固めておく。そこから分かれてバラバラになった奴らと合流しないとな」
「通信使えばいいじゃない」
ユリからの当然の指摘にランは罰が悪い顔になって頭をかいた。
「やってみたが、幸助も南も応答無しだった。カプセルから出る手としても考えていたが、どうにも取り込み中のようだな」
「それこそやばいじゃない! 行かないと!!」
「だな。お前もこれに懲りたら、俺から離れるなよ」
ランの上からな言い分に両拳を腰に当てて多少腹を立てるユリ。
「何? 説教なら御免よ。私だって私なりの考えがあるんだから」
ランは彼女の返しに対して睨み合うようなことはせず、後ろを向いて歩き出しながら単純に自分の心境を告げた。
「違う。俺が単に心配になるだけだ」
声色こそ変わらないものの素直な言葉を伝えたランに、ユリは不機嫌な表情を少し柔らかいものに変えて彼の後ろをついていった。
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同時刻、王城広間の中。一人残っていたウィーンは王の姿のままでランと同じように移動した味方に連絡を試みたが、誰からも返事は来なかった。
「オイッ! アングラ! マック、スゴウ応答せよ!! 応答せよ!! アイツら……何をやっているんだ?」
返答が来ない事に焦りの覚えるウィーンだったが、すぐに部屋の扉が開いて腹を押さえたアングラが広間に入って来た。
ウィーンはアングラの負傷に目を付けるより先に、計画が大詰めに入っているこの時に彼が連絡に応答しなかった事を指摘する。
「戻ったかぞ。混ぜ連絡をしなかったぞ?」
「連絡? そんなものいつ?」
アングラが胸ポケットの中にしまっていたスマートフォン方の通信機器を取り出したが、いつの間にか内部に大きく陥没するほど凹んだ状態で故障していた。
アングラはこれが幸助の攻撃が当たった事によるものだと思い返す。
「あのとき壊れたか」
「何?」
「いや、相手は俺達が思っているより相当やり手だ。一人は倒したが、マック、スゴウはやられたとみていいだろう」
「ほう、危機的とでも言いたいのかぞ? ここまで長い時間をかけてやっと利益を得ようとしている計画が!!」
込み上がった碇からアングラを怒鳴りつけるウィーン。
すると再び突然、広間の扉が開いた。マックかスゴウが戻ってきたものなのかと思った二人だったが、入って来たのは意外な人物だった。
「ごきげんよう。国王陛下」
「ッン! 貴様は……」
広間に入って来たのは、したたかに笑う令嬢、『カルミ メル ロソーア』だった。
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