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4-4 多次元救護警察連合団体

 この宇宙には、数々の星々、その中のそれぞれに生物、知性、集落、知識と作られていき、いくつもの異世界が誕生した。


 あるとき、どこかの世界が異世界へと渡り歩く技術を開発。国々の繋がり、広がりを得た人々は、二つの考え方が生まれた。


 一方は交易相手、外交相手として手を取り合う道。もう一方は、他の世界を侵略し、手中に収めることで領土を広げていく道。


 今から約数十年前、後者の方法によって『星間帝国』という巨大国家が誕生し、繁栄を極めた。


 一方的な価値観を押しつけ統制を図ろうとする帝国のやり方に異を唱える世界は多く存在したが、圧倒的な力を前に反対意見は押しつぶされていった。


 自由を奪われることに恐怖した各世界は、互いに連合として手を取り合い、星間帝国に対抗する一大勢力を築き上げ、帝国と真っ向からの争いごとに発展した。


 多数の犠牲が出ながらも帝国に勝利したその組織は、以後このような一方的な価値観の押しつけや、力による侵略、犯罪の被害を防ぐために、創設の中心に立った十一人を隊長とし、結成した組織を継続させることを決定。


 これにより命名された組織こそが、『多次元(たじげん)救護(きゅうご)警察(けいさつ)連合(れんごう)団体(だんたい)』、通称『次警隊(じけいたい)』である。



______________________



「以後、俺ら次警隊は異世界間で動く侵略活動や犯罪者の対応、及び被害者の救護活動を生業としているって訳や。俺と零名は二番隊所属。ランは……」

「三番隊所属だ」


 話に割り込んでくる形でランが自分の所属を述べて概要を終わらせると、幸助達がこれまでもランの行動を振り返った。


「なるほどな。時折お前が相手に対して『確保』を優先しようとしていたのは、その仕事の関係だったのか。ユリちゃんが星間帝国の名前を聞いて驚いたのも、既に知っていたから」


 自分の中で納得している幸助に、ランは補填を加える。


「おう。お前らも、知らないうちに次警隊の助けを受けていたんだぞ。特に南」

「はいっ?」


 南はピンときていないようだったので、ランが説明した。


「赤服による魔法少女量産の闇が露見しても大事にならなかったのは、次警隊の連中に火消しをするように頼んでおいたからだ。

 魔法少女達が妖精との関係を良くしながら、これまで通り活動できるように整理をしたのもな」


 ランに言われて南も気が付いた。


「じゃあ、騒動が終わってすぐから僕は次警隊の助けを受けていたのか!」


 南は知らぬ間に自分が次警隊に助けられていたことに驚いたが、説明を思い返していた幸助は引っかかるところが出来ていた。


「あれ? でも今の大悟の説明だと……」

「えっ、いきなり呼び捨て」

「初対面でアホづら晒したからだろ」


 余計なことで話がこじれたが、幸助は調子を変えずに二人に質問した。


「星間帝国って、既に次警隊に倒されたって事なんだよな?」

「ん? おう。それがどうかしたか?」

「でも、これまでにいた世界で、俺達はその帝国の構成員と戦ってきたんだよな?」

「そうだな」

「ハッ!? なんやて!!?」


 大悟はここにきて初めて星間帝国の存続を知ったようで、ラン達によるこれまでの旅路での赤服のことについて話を聞いた。


「なるほどな。潰されたかに思っていた帝国の構成員が、兵器獣を連れて侵略しに来たと」

「兵器獣のことは知ってるんだ」

「以前とある世界にて連続で出現したからな。ラン達が討伐しとったけど」

「その話は長くなるからまたの機会にしてくれ」


 ランに指摘されて説明を切った大悟は、ランが自分をここに連れてきた本題を聞いた。


「それで、お前が俺達を呼び付けたんは、その帝国の元構成員であったアキちゃんと、あそこの男のことについてって事でええんか?」

「ああ、次警隊の方で支援を受けられないか掛け合って欲しい」

「交渉材料として、俺達が知っている帝国の情報は教えるつもりだ」


 フジヤマからも自分なり材料を出して交渉をしてみる。大悟は一呼吸おくと、ランとフジヤマに対しての返事を一言で告げた。


「やだ」

「やだ……やだ?」


 トントン拍子の流れの中、一言で断られた事にランは顔をしかめて大悟の顔を見ると、相手は目を閉じてもう一度ため息を吐くように理由の言葉を吐いた。


「当たり前やろ。こちとらこの世界での仕事で忙しくしているんや。それをほっぽって追加業務なんぞ出来るわけない。お前が結晶探しに血眼になっとるのは知っとるけど、俺も無理や。他を当たりぃ」


 目を細めてランの顔を見ながらいかにもやる気がない姿勢をとる大悟。


 ランも彼の一理あるこの言い分にどう説明を切り出すかと頭を回したが、ふと視線を向けた自身の肩周りからユリの姿が消えている事に気が付いた。


 まさかと思って大悟の方に顔を向けると、元の姿に戻ったユリが彼が女の子達にやっていた芸当をそっくりそのまま真似して両手を包み込み、ウルウルとした目付きで訴えかけていた。


「お願い大悟君! 大悟君だけが頼りなの!!」


 自分の事を美少女だと自覚している人物による色仕掛けは、女好きの大悟が顔を真っ赤にするほど効果てきめんだった。


「アッ! ユ、ユリちゃん!! そんな! 俺は仕事が!!」

「お願い」


 もう一押しで堕ちると確信したユリは、潤ませていた瞳をそのままに甘えるような頼み方をしてたたみ掛けた。

 旦那であるランにとってはユリのこの行動に少し思うところがあったが、これで頼み事が円滑に進むのならと見なかったことにした。


「あぁ!! ユリちゃんがそこまでゆうてくれるんなら! よっしゃやったるわ!!」

「ワァ~! ありがとう!!」

「チョロい……」

「なんかゆうたか?」


 零名は自身のこぼした一言を拾った大悟の返事にそっぽを向いて無視をした。


 大悟は零名をこれ以上問い詰めることはなかったが、代わりに彼との取引を持ちかけた。


「ただし条件は付けさせて貰う。今俺達がこの世界で捜査している仕事。お前らに引き継いで貰うで」

「仕事って、どんなのですか?」


 南からの質問に大悟は少しかっこつけた様子で簡単に説明した。


「異世界に潜伏しては争いを起こし、漁夫の利で世界ごと奪っている地上げ屋、『ゴンドラ』がこの世界に入ったという情報を掴んでな。そいつらを逮捕する為に調査してたんや」


 南は地上げ屋という言葉の意味を知っている。だからこそ、この宇宙にそんな大規模な犯罪者がいることに衝撃を受けた。


「地上げ屋! てことは、世界そのものを奪って、商売にしているって事!?」

「ま、悲しいことにそれを買う奴もいるってことや。趣味の悪い金持ちとか、他に住む宛のない生物とかな」


 大悟は嫌な事実を軽く言ってのけた。南はこの対応を見て、彼が飄々としていながらも、自分が驚くような危険な環境を当たり前に生きている事を察した。


「それと、この世界の結晶についても回収できてない。こっちのことも頼んだで」

「了解。後者については頼まれずともやる。前者もついでにな」

「……まあ、お前はそうやろうな」


 大悟はランの肯定の返事を聞き入れると、彼の隣から離れて幸助の側に近付いて彼の左肩に自身の左手を軽く置き、ランの聴力に気にした声の大きさで呟いた。


「ランと一緒にいるんなら気を付けや。アイツ、狂っていたのが一周回ってかろうじてまともになった柄だ。何かあれば、すぐにぶっ壊れるから」

「?」


 大悟は軽く彼の肩を二度叩いてから幸助から離れ、歩きながら零名に話しかけた。


「つうことや零名。仕事が変わったから行くぞ」


 零名も軽く頷いて大悟についていこうとしたが、ここでまた大悟の悪癖が出てきた。


 別れ際の挨拶のつもりなのか、大悟はユリの前に跪いて甘い言葉をかけ出した。


「別れるのが寂しいわぁユリちゃん。そうや、このままあの無愛想な奴は置いて俺と一緒に……」

「いい加減にしろ」


 ナンパの最中、大悟は割り込んできたランの渾身の蹴り上げを顎から直撃し、建物の向こうにまで吹っ飛んで行ってしまった。


「やべ、やりすぎた」

「ラン、アンタね……」


 ユリは少しランを諫めたが、大悟の相棒である零名は呆れてやれやれとでも言いたそうに目線を大悟から逸らしていた。


 ユリをナンパしたことに対して苛立ったのだろう。誰も深く追求することはなかったが、大悟がいなければフジヤマとアキにとっては旅をするためにかけてはならない人物だ。


 念のためユリはぬいぐるみの姿に戻り、一行は飛んでいった大悟を回収するために走り出したが、すぐにこの事、及びランは大悟を蹴り飛ばしたこと自体を大きく後悔することになった。


 大悟に近付いていく道中、ラン達は周辺の人々の騒ぐ声が響いて来ていた。何事か、それも悪い方に起こっているのは間違いないらしい。


 段々と詳細が分かってくる声の内容に、ラン達は焦りを抱いて脚を素速くさせた。


「おい! あっちの方で事故が起こったらしいぞ!!」

「なんでも空から人が飛んできたんだって!!」

「何だ!? 馬車にでもひかれたのか!?」

「いや、それが飛んできた人が何かをぶつけて、馬車の方を横転させたんだとか!!」


 民衆の話を盗み聞きしながら顔を歪ませるラン。


「アイツ、何をやらかしたんだ!?」

(アンタが吹っ飛ばしたからでしょうか)


 左肩に乗っかっているユリが怒鳴っているような態度を見せてきたことで歪めていた顔を少し申し訳なさそうなものに変形させた。


 とても悪い予感がする中、とうとう現場に出て来た一行。

 まず目に飛び込んできたのは、派手に横転した馬車が大通りの端に連なっていた店の一角に激突していた状況だった。


「これは……」

「めちゃくちゃ派手なことに……」

「なってしもうたな」


 この事故と自分達は関係無いと思いたいランと幸助だったが、後ろから聞こえて来た声に驚いて振り返る。

 自分達の近くには、この事故を起こした張本人が何食わぬ顔で立っていた。


「「お前!!」」


 思わず叫んでしまうランと幸助。とはいえ大悟も一息をついてから話し出す辺り、危なかったのは事実らしい。


「フゥ……あっぶなかったで。飛ばされたかと思ったら突然馬車が走ってきたもんな。咄嗟に攻撃してしまった……」

「しまった……じゃねえよ」

「結果大事故になってんじゃん」


 説教が始まりかけたそのとき、馬車の中から人が出て来たことで、場にいた全員がそちらに注目した。


 出てきた人物は二人。土埃にまみれているが一組の男女のようだ。


 土煙から脱出した一人目。首に金縁に桃色の綺麗な宝石を詰めたネックレスを巻き、ボロボロになったドレスを着込んでいる身なりが元々良かったはずの女性が、扇子を持っている右手を強く握って震わせて叫びだした。


「誰じゃ……


 このわらわの進む道に! 大きな砂利をばらまいたのは!!!」


 一言目の台詞を聞いただけで、ランの幸助に共通の言葉が頭によぎった。


(ウワァ~……)

(絶対やばいことになったな、これ……)


 実際この先、ここでの事故が原因でラン達がまた厄介ごとに巻き込まれてしまうのだった。


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