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3-27 魚人達からの感謝

 バタバタの一日が過ぎて一晩が過ぎた翌日。


 ランとユリが夫婦であった事実への驚きが抜き切れていない幸助と南は、証書言う寝不足気味な沈んだ様子で朝を迎えた。


 本人からすればほんの軽口だったようで、ランはやって来た二人の姿を見て汗を流して少し困惑した。


「お前ら……揃ってどうした?」

「いや、昨日聞いたことのインパクトが抜けきれなくて……」

「僕も同じく……」


 朝から妙に重たい空気になりかけたが、そこに空気を読まないユリが二人の後ろから元気よく挨拶してきた。


「おはよ~!!」

「「ウワオッ!!」」


 驚いた二人は漫才のようなリアクションで飛び退け、ユリも二人の反応にそんなに驚くかと首を傾げる。


「何よ、そんなに驚いて?」

「あ、いやごめん。」

「昨日、ラン君から、彼が貴方と夫婦だって言ってたことへの驚きが抜けなくて……」

「あれ? 言ってなかったかしら? 驚いたのってその事?」


 ユリも昨日のランと同じ反応を示したことで、彼が言っていたことが事実であることを確認した二人。

 幸助は表情を戻すと、自分の近くに立ち止まったユリに話しかける。


「そりゃ驚くよ。二人とも俺とそう歳変わんないし……てか、二人って何歳だっけ?」

「19」

「17よ」

「日本の法律でギリギリいける範疇……」

「ここ日本じゃないけどね。ユリさん、僕と同い年だったんだ」

「俺は18、丁度間か」

「なんだお前ら、思っていたより年下だったのか」

「「「ドワオッ!!」」」


 再び後ろから声をかけられ、今度はユリも含めた三人でさっきと同じ反応をしてしまう幸助と南。


 さっきのユリとは違い反応が薄いフジヤマ。同じく冷静なランが幸助の隣にまで歩いてフジヤマに話しかけた。


「突然声をかけて何のようだ?」

「旅に出る準備が出来た。今回は色々と世話になったから、最後に挨拶をと思ってな」


 二度の驚きと昨日の余韻で表情が歪んでいた幸助と南の顔が元に戻る。フジヤマの仲間である二人の事を思い浮かべたからだ。


 このままフジヤマ一人で旅に出てしまうのかと懸念した二人が彼を呼び止めようとすると、直前にフジヤマより更に後ろから彼に向かって声がかかった。


「ヒデキ君」


 フジヤマを始め全員が注目すると、アキが後ろからルミに背中を押されながら緊張が残りながらも真っ直ぐフジヤマの目を見ている様子で立っていた。


「アキ?」


 昨日話を聞いていた幸助と南も両腕を肘から曲げて声は出さずに「頑張れ!」と暗にエールを送る。


 面と向かっているアキの出で立ちにフジヤマが身構えると、彼女は肩の力を入れて自分の思いをハッキリ彼に伝えた。


「ヒデキ君! お願い!! 私を貴方の旅に連れて行って!!」

「ッン!!」

「私、ヒデキ君のように戦えないし、怪我の手当てしか出来ないけど、それでも一人で危険なところに行って欲しくないの! 勝手なことを言っているのは分かってる!! だけど……」


 アキは震えながらもため込んでいたものを一気に吐き出した。


 ただしアキが出していた言葉は勢いによるものが大きくあり、彼女自身、後半の言葉は適当が多くなって最後には単語が浮かばずに歯切れが悪い状態になっていた。


「けど……その……」


 アキはなんとか頭の中でフジヤマを説得する言葉を思い浮かべようと躍起になっていた。


 その前にフジヤマが彼女に歩み寄り、震えている彼女の両手を包むように自分の両手を挟み込んで胸の前まで持ち上げた。


「俺の方からも、一緒に来てくれないか?」


 フジヤマの返事が聞こえたランとアキ以外の全員が「ヨッシャアァ!!」と言わんばかりのガッツポーズを決めた。


 次にルミがアキの両肩に自信の両手を置いてテンションの高い言葉をかける。


「よかったわね! アキ!!……アキ?」

「ん? アキ?」


 フジヤマとルミが返事も動じもしないアキを改めてよく見てみると、うれしさのあまりに放心状態になって固まっていた。


「固まってる……」

「昨夜、ずっと緊張していたからね……しっかりしなさい!!」


 ルミは両手で強めにアキの肩を叩き、彼女の気絶を覚ました。


「ハウワッ!!?」

「全く、こんなんじゃこの先が心配ね」

「だな……」


 ルミは空きの肩から手を放して腰に置き、フジヤマも冗談交じりに彼女に合わせた。これにアキ本人はしかめた顔になって反発した。


「そんなことないわ! ヒデキ君のためなら頑張るから!! やっと再開できたんだもん! もう離れないから!!」


 するとアキはフジヤマにの胸に飛び込んで抱きついた。これだけなら婚約者同士の微笑ましい光景なのだが、次にアキの目のハイライトが徐々に消えていき、様子をおかしくしながら小言を呟き始めた。


「そう、もう離れることなんてないんだから……ヒデキ君と私はずっと一緒にいるの。何処の世界に行っても二人は一緒……最後まで絶対一緒なんだから……」

「ア、アキさん?」


 周りからはアキの体から黒いオーラがにじみ出ているのが見えた。南が軽くアキに話しかける中、幸助はランに小声で聞く。


「おい、あれって……」

「会えない時間のせいで愛情をこじらしたな」

「一途な女の子は怖いのよ幸助君。裏切っちゃダメ」

「どういう意味? ユリちゃん?」


 幸助の反応を見たユリは、勇者の世界に残した幸助の仲間達三人の少女が少し不憫に思えてしまった。



______________________



 アキの分の準備も整い、家屋から出ていよいよ出発の時間になった。アキはここで軽い一悶着があった。


「ルミちゃん! ここに残るの!?」


 二人の仲間であるルミが、この世界に残ると言い出したのだ。


 アキは自分とフジヤマの関係正常ルミが遠慮しているのではないかと懸念したが、ルミ自身がすぐにこれを否定した。


「二人への遠慮じゃないわ。私は私なりに出来ることをやりたいの。この世界の人のほとんどからは嫌われちゃっているけど、それでも医者として、怪我を治していきたいから」

「ルミちゃん……」


 これではルミが孤独になってしまう。アキは彼女を心配したが、すぐに杞憂になった。


 理由は、突然彼女達に聞こえて来たラルコンの声だ。


「みなさ~ん!!」

「ラルコンちゃん!? どうして……」


 ラルこんだけではない。彼女の隣にはマルト、そしてその後ろには、これまでルミ達を卑下していたこの世界の民衆が続いていた。


「貴方たち!!」

「私が皆が旅に出るって伝えたら、一言お礼が言いたいんだって!!」

「迷惑になるかもしれないから止めたんだがな……」


 ラルコンとマルトによる挨拶が終わると、兵器獣の出現時にはあれほど幸助達を罵倒していた男が前に出て、民衆の中で一番に謝罪した。


「勝手なことを言い続けて、すみませんでした!! そして、ありがとうございました!! この世界が守られたのは、貴方たちのおかげです!!」


 頭を下げて感謝を伝える男に続いて他の民衆も感謝の言葉を次々述べ、ルミとアキは逆に恐縮してしまい、南がフォローに入った。


 幸助は胸をなで下ろしてランに話しかける。


「よかったな。ルミさんも、この世界に受け入れられたみたいで」

「……そうだな」

「?」


 このとき幸助が見たランの表情は、嬉しいというよりもどこか少しだけ機嫌を悪くしたようなものになっており、幸助は何故彼が微妙な顔をしているのかが分からなかった。


 一通りの御礼済んで出発の時がきた。アキとルミは固い握手を交わし、次の瞬間には抱き合った。


「それじゃあ、行ってくるね」

「ええ、頑張ってらっしゃい。私はここで頑張ってるから、何かあったら戻ってきなさい、フジヤマ君もね」

「お、おう……」


 補足とは言え自分にも声をかけられた事に不意を突かれたフジヤマは返事が変なものになってしまい、アキとルミは軽く彼を笑ってしまった。


 ルミ、ラルコン、マルトを戦闘に、大勢の魚人達が手を振って六人を見送った。


 家屋を離れて黙々と歩いて行く一行。辺りに人気がなくなったところで、ふと幸助が思うところが出来た。


「ん? なんで俺達歩いてんだ? あの場で次の世界に行けばよかったんじゃ?」

「あれ? そういえば確かに」


 幸助に言われて口を開けた南を始めほとんど全員が足を止める。流れで最後に足を止めたランは後ろを振り返り、幸助の疑問について説明した。


「ああ、だが今回は事情があったからな」

「事情?」


 ランは幸助からの二つ目の問いかけには答えず、フジヤマに顔を向けて別を質問を飛ばした。


「フジヤマ、お前アキと二人で当てもなく無鉄砲に旅をするつもりか?」

「それがどうかしたか?」

「止めとけ。多分死ぬ」


 ストレートに告げるランの意見にユリ以外の全員が「ハァ!?」と言いたげな歪んだ顔になる。


「この宇宙は広いんだ。世界なんて文字通り星の数ある。何の支援も無しに行くのは自殺行為だ」


 ランの言い分に一行は納得して表情を戻すが、同時にならばどうすればいいのかと当然のことを思い浮かべる。


 この疑問についてもランが回答を持ってきた。


「だからまずは、お前らの旅をバックアップできる組織に繋げる。俺も構成員だから、近くの世界にいる奴に話は繋いでおいた」


 ここに来てまた自分達の知らなかった新情報を聞いて唖然とする幸助と南。


「組織!? ラン君、就職していたの!?」

「てっきり無職のプー太郎かと」

「こんな異世界を渡るなんて壮大な旅、冒険者ギルドのような日雇い労働で出来るとでも思ってたか? ちゃんと俺も固定給もらって支援も受けてるんだよ」


 しれっと冒険者ギルドが当たり前だった幸助が少し傷ついたが、ランは気にもせずここに来た理由に話を続けた。


「場所を変えたのは、連絡が取れたパイプ役が役職上周りに名前を晒していいものではなかったからだ」

「秘密にしないといけない役職って、どんな?」


 今度は南から飛んできた質問に対するランの回答に、男性陣の目の色が変わった。


「端的に言うところの、『忍者』だ」

「「忍者!!」」


 幸助とフジヤマは突然目を輝かせ、興奮しながらランに前のめりに近付いた。


「忍者って! 忍術使うあの!?」

「やっぱり分身とか使うのか!? 変化とか変わり身の術とか出来るのか!!?」

「いきなり圧が強いなお前ら」


 更に前に出る二人を後ろから南とアキが引っ張って元の位置に戻した。


「アハハ……ヒデキ君、学生時代からオタクだから」

「へえ、クールキャラでも隠しきれないものなのね」


 後ろで一人ここまで喋っていなかったユリがランの隣にまで歩いた。


「ところでラン、何か忘れてないかしら?」


 ユリは右手に持った黒いリボンをランに見せる。すぐに彼女の真意に気付いたランはリボンを受け取り彼女の後ろに回った。


「そうだったな。大事な儀式だ」


 瞬く間にランはユリの髪を上げてまとめ、リボンで結んでサイドテールにした。


「よし、やっぱり結んだ方がしっくりくるわね」

「こればっかりは誰にも譲れない枠割りだからな。待たせて悪かった」


 重要な仕事も済んだところで、ランはユリに背中を向けてブレスレットをかざし、次の世界へと繋ぐ門を開いた。


「というわけで、忍者との待合場所に行くぞ。付いてこい」


 ランを先頭に一行は次々思い思いの言葉を口にして中に入った。


「久々に会うのね。近況はどうなのかしら」

「忍者ってどんなんなんだろう?」

「生で見るのは初めてだ。なあアキ」

「アハハ……やっぱり変わってないのねヒデキ君」

「フジヤマさんって、こんなキャラだったんですか!?」


 南を最後に扉は閉じ、裂け目は消えて六人を次の世界へと向かわせた。

<キャラクターの年齢>


・将星 ラン 19才


・西野 幸助 18才


・ユリ    17才


・夕空 南  17才


・ヒデキ フジヤマ 25才


・アキ ヨシザカ 25才




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