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3-24 ヒトテツ

 キロン、アント、チロウと赤服の三人はラン、南、フジヤマによって撃退され、残る敵は兵器獣だけとなった。


 しかしここで一つ問題が発生した。その問題は、幸助が一番はやく実感することになった。

 突然彼が戦闘中の兵器獣がもがき苦しみ始めたのだ。


(何だ!? 突然苦しんだように? 前にユリちゃんが妨害した時と同じか?)


 もがき苦しんでいた兵器獣は一瞬機能停止したかのように力をなくした状態になる。

 兵器獣の異変に一度動きを止めて出方を伺った幸助。

 彼のこの行動は、直後に彼自身にとってかなりの判断ミスになってしまった。


 次の瞬間に兵器獣は目を光らせ、あまり距離をとっていなかった幸助に尻尾を振り回してきた。


「マズっ!!」


 幸助が咄嗟に尻尾を跳び退くと、跳んだ先に兵器獣が右手を振り、彼を地面に叩き落とした。


 地面が陥没するほどに力強く攻撃されるも、幸助はその場からすぐに立ち上がって再び向かって行く。

 遠目に見る今の兵器獣の動きには、さっきまでの小刻みに震えるようなものではなく、よりそれを悪化させたものだ。

 獣が我を忘れ、何が何だかも分からずに興奮して暴れ出すように、今の兵器獣の動きにはたかが外れている。


(暴走している? でも、なんでいきなり……)


 幸助は何が原因でこんなことになったのかと兵器獣に近付くように走りながら周辺を探る。その道中、彼の目に仰向けに倒れて動かないチロウと、彼を無言で見ているフジヤマとアキの様子が目に入った。


(あれは!……)


 幸助は目に見えた光景からして状況を察し、兵器獣と戦っているときに自分で立てた予想と組み合わせてある仮説が思い浮かんだ。


(まさか、指令を飛ばしていたクウリさんがやられたことで、兵器獣の制御が効かなくなってしまったのか!? だとするとマズい!!)


 制御が効かなくなったとなると、考えようによってはピンポイントで一人の人物を狙って動かれるよりもよっぽどたちが悪い。


 大暴れして都市を破壊されるわけにはいかない。幸助ははやく倒さなくてはならないと急いで走り出す。

 兵器獣はもはや彼が近付いて来ているという認識すらなく、ただ暴れるままに尻尾を振り回した行為が幸助に向かってきていた。


(また尻尾。まずはあれをどうにかしないと近付けないか……)


 幸助は自身の元に飛び込んでくる尻尾を剣の刃を構えて真正面から受け止めた。


「ウッグッ!!……(予想以上のインパクト……このまま耐えたら間違いなく剣も骨も折れる。

 かといってまた吹っ飛ばされたらさっき以上に距離をとられて都市が危ない。だったら多少無茶してでも……)」


 幸助は自身の体に流れる魔力を剣に集め、切断力を上げるも兵器獣の固い尻尾相手には効果はあまりない。

 だがこうなることは幸助自身も予想済み。彼の狙いは剣に溜めた魔力での術の行使にあった。


「<風爪(ふうそう)>!!」


 幸助が剣を振り下ろすアクションを起こすと、武器の動きに合わせて彼の身の丈ほどの大きさの真空の斬撃が発生し、兵器獣の尻尾を真っ二つに切り裂いた。

 暴走している兵器獣は自身の体の欠損に気付かず、そのまま尻尾を振る動作を続けて身を翻した。


 幸助はまず攻撃が成功したことに安堵して軽く一息入れると、態勢を戻して兵器獣の体に向き直す。


(よし、効いた。やっぱりこの兵器獣は体が硬いだけ。前みたいにココラの防御力を奪い取ったわけじゃないから攻撃自体は通る。このまま風爪を連続で飛ばして、振り回している手をなくす!!)


 『風爪』、以前幸助がいた勇者の世界にて、彼の旅仲間であるソコデイが得意としていた魔術。獣人である体を生かし、人間より固く鋭い爪に魔力を流し、真空の斬撃を飛ばす魔術。


 幸助は獣人ではないためソコデイと違い強靱な爪は持ち合わせていないが、彼女からの教えとアドバイスを受け、自身の剣を媒介とし、一本の巨大なの斬撃を飛ばす技にアレンジする形で会得した。

 そのためソコデイ本人の技と違って乱射や複数の同時発射は出来ないが、代わりに彼女の技とは比較にならない威力の斬撃を放つに至った。


 幸助は兵器獣が暴走したまま都市に到着する前に風爪で移動力を奪おうとするが、技を構える前に兵器獣は口からこれまでになかったほどの大量の酸を吐き出した。


 通常より頑丈な体を持つ幸助も、これには耐えきれないと直感が働いてすぐに風爪を発射する構えを解いき、剣を逆手に持ち直して水波を大量に発射して相殺しにかかる。

 しかしリミッターが外れていたこともあってか、煙の量は彼の水波の防御をも押し返していき、彼に近付いていく。


(防御が間に合わない!? この兵器獣、エネルギー切れとかないのか!!?)


 物量で押され、前回とは逆にこのままでは彼が自分で発射した水ごと被る事になってしまう。


(このまま水波を出していても結局酸を被ってしまう。エネルギー切れをいつ起こすか分からない以上敢えて出させるのもリスクが大きい。一体どうすれば?)


 ランとで会う前、幸助は数々の魔物を相手取ってきていた。

 しかし勇者の世界において、その誰もが幸助のチートじみた強さを前にしていとも簡単に撃退していったがため、幸助には戦闘経験は豊富ながら、ランのような機転のきく戦い方が出来なかった。


 時間もなく、策も思い付かない幸助。彼の頭に容赦無く兵器獣の酸の煙が襲いかかる。

 押し切られて酸がかかろうとしたそのとき、突然幸助の後方から複数の水波が酸を溶かして押し返した。


「これは!?」


 何が起こったのかと幸助が後ろを振り返ると、口を大きく開いて水を吐いているラルコンとマルトの姿があった。


「ラルコンちゃん! マルトさん!!」


 更に二人の後ろには、大勢の魚人達が彼女達と同じように口から水を吐き、酸の煙を無効化していった。


「この世界の人達も……どうして!?」


 幸助の質問に代表してラルコンとマルトが代わる代わるに水を吐くのを止め、返答した。


「倒すことは出来なくても、せめて少しでも貴方の助けになりたかったの」

「ここは俺達の世界なんだ! それを俺達が守らなくてどうするって話だ!!」

「ッン!!」


 二人は再び水を吐き、酸を抑えた。しかし兵器獣は後先を考えずただただ大量に酸を吐き続け、我慢比べとなると先に魚人達が力尽きてもおかしくないほどのかれるな攻撃が降り注いでいた。


(マズい! これだけいても押し返され始めている!!)

(せめて少しでも、あの化け物の意識を外してくれたら……)


 二人が内心に焦りを抱いてきたそのとき、今度は兵器獣の左側頭部に突然太いレーザー光線が命中し、攻撃を止めさせた。


「これは!?」

「何が起こったの!?」


 幸助だけではなく、魚人達にも何が起こったのか理解できないでいたが、すぐに理由は目に大きく映って分かることになった。

 大きな地響きを上げながら、こちら近付いてくる大きな存在が見えたのだ。


「あれは……」


 全員が目を凝らしてその姿をよく見ると、巨大な人間に似たシルエットの銀色のロボットと取れるようなものが肩幅に脚を広げて仁王立ちしていた。

 体に周囲の光を鈍く反射させるそれは角張った五本指をした両手を握り、両腕で力こぶを作るような態勢をとりながら甲高い鳴き声を叫んだ。


「クアアアアアアアアアアァァァァァ!!!!」


 民衆は新たな巨大生物に恐怖し、幸助は兵器獣に向けていた警戒をそちらにも増やすが、現われたロボットの左肩に人影があることに気が付いた。


「あれは……」


 幸助が目を凝らしてよく見ると、そこにいる人物が彼に話しかけてきた。


「幸助君! 大丈夫!?」

「その声、ユリちゃん!?」


 ロボットと一緒にやって来たのは、ランの近くにいたはずのユリだった。となると彼女が乗っているロボットらしきものが何なのか大体察しは付いたが、幸助は一応聞いてみる。


「その、ユリちゃんが今乗っかっているのは?」

「ランが連れてる異世界獣、機械生命体の『ヒトテツ』よ。幸助君がピンチになったら手伝えるように出してもらったの」

「ランが?」


 再び周辺に酸の煙を吐き出そうとする兵器獣に、ヒトテツは構えを変えないまま口を大きく開け、黄色く光るレーザー光線を発射した。

 思考のない兵器獣はかわす判断の付かずにレーザーを頭に命中させ、煙を吐くことも出来ずに巨体をよろめかせた。


 その隙にヒトテツは少し前屈みになり、ユリがヒトテツからユリが飛び出た。

 幸助はユリの無茶な行動に救助に入ろうとするが、彼女は彼が動きかけた所で叫んで諫めた。


「大丈夫よ幸助君! アイツの酸をしばらく使えなくするから!!」


 ユリはそう言うと背後に隠していた何かを右手に掴んだまま前に出した。ランが破壊したキロンの義手をそのまま持ってきていたようだ。


「(あれは、確かランが戦っていた赤服の義手?)……そんなもので何を?」

「まあ、そこで見てなさい!!」


 ユリが目の前に映り込んだことで彼女に向かって酸を吐き出そうと大口を広げる兵器獣。

 ユリはそのタイミングを見切ってキロンの義手を投げ入れた。


「さあてお見せしようじゃない! このドドドドド天才美少女のもう一つの秘技!! <クラッシュ エメラルルド>!!」


 ユリが攻撃されそうになったそのとき、彼女が右手を指パッチンして音を立てた瞬間、突然兵器獣の口の中から爆発音が発生し、酸の白い煙ではなく、焦げたような黒い煙が口から溢れ出した。


 ユリはヒトテツがそっと伸ばした掌に着地して回収されながら幸助に叫んだ。


「今よ幸助君! 結晶使ってトドメ決めちゃって!!」

「ふえっ!? アッ! うん、わかった!!」


 幸助はユリに言われるがままにランと同じように剣の刃に結晶をかざすと、一瞬結晶と同じ赤い色に光り、続いて次々と色を変えて七色に輝いた。


(凄い、もうチャージが済んだのか)


 黒い煙は収まるも兵器獣が酸を吐き出そうとすると、さっきの爆発で破壊されたのか白い煙は出てこない。


「皆、ありがとう」


 幸助は魚人達に感謝を告げると、彼等を巻き込まないように前に出てから剣を兵器獣に向けて突き出した。


「トドメだ! <七光衝波>!!」


 剣から放たれた七光衝波は兵器獣の胴に直撃し、内部から光りを溢れ出させた直後に見事爆散させた。


 騒ぎとは一転して静まり返った空気。

 魚人達は現われた赤服達が全員撃退されたことを確認すると、ラルコンが小さく呟いた。


「倒した……」

「倒した……倒したんだぁ!!」


 彼女に連れられる形で民衆が騒ぎ立てる中、当のトドメを決めた幸助は、肩の力を抜きながら尻餅をついた。


「フゥ~……終わった……」


 赤服による魚人の世界の侵略は阻止された。


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