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3-7 赤服の正体

 ユリからかけられた単純ながらも何か含みのある質問に息を呑む三人。皮肉にもユリの質問で息が整ったルミが返答する。


「何処って……残念だけど、研究中に急に飛ばされたからそれは分からなくて」


 歯切れの悪い返答に、ユリはルミの言葉が終わりきる前に言葉を被せた。


「嘘でしょ」


 彼女の一言にその場の全員がそれぞれの立場で別の思いを感じながら目を丸くした。

 とくに助けられた縁であるラルコンとマルトが混乱していると、ユリが一人そう思った理由を語り出した。


「この世界は怪魚が大量にいるんでしょ? それなら体組織の構成が分かっていてもおかしくないと思うけど。そこはなんで不明なの?

分かっていればその機械で分解でも何でも出来たでしょう」

「え? それはあれが見たことない種類で……」

「貴方たち、あれが怪魚じゃないことを知ってたんでしょ」


 ユリはまた話を最後まで聞かずに水を差す。


「酸を吐くなんて攻撃、水の中で泳ぐ魚類としてデメリットが多すぎる技。

 以前聞いたタコっていう生物の墨みたいに自分が受けてもお構いなしな場合もあるけど、建造物を溶かせるようなものなんて、とても狩りにも使えない。そもそも水に溶けちゃうしね。

 獲物を骨ごと溶かしちゃうもん。かといって怪魚の性質や大きさから、自衛用に使うとも考えにくいわ」


 ユリは分かりやすい魚類の説明を終えると、怪魚に対するルミとチロウの対応について触れた。


「あれは怪魚じゃない。それなのに貴方たちは、あれの対処に関して明らかに手慣れていたわよね」


 ユリの言葉で戦闘時に1番近くにいた幸助が、あの時のことを頭の中で改めて振り返る。怪魚ではないと彼女たちが知っていたのであれば、手早い動きだったことについて納得することができた。


 ユリの言い分にアキ達が一瞬反応したように見えたのを確認すると、ユリはもう一度ハッキリと聞こえるように言った。


「もう一度聞くわ。貴方たち、どこから来たの?」


 アキ達はユリの確信の持った疑いを受け、これ以上は隠せないと察し、一度お互いに目を見てからアキが代表として前に出ると話し出した。


「貴方の予想通り、私達はあの怪魚について知っていました。あれは、私達が作り出したから……」

「え!? 先生、それって……」

「今は静かに!」


 話に割り込もうとしたラルコンを幸助が止め、アキは事の核心を口にした。


「私達は元々、あの怪魚……いや、兵器獣の開発に関わっていたの」


 アキの告げた事実に、空気が大きく変わった。


(あれを兵器獣って呼んだ!!)

(もう隠すつもりはないようね)


 幸助達四人は聞きに入る姿勢に入ったが、ルミが口を開いてアキを止める。


「待てアキ! その話は!!」

「クウリ君、こうなったらもう話した方がいいわ。私達の本当のことも、ヒデキ君のことも……」

「アキ……」

「ルミちゃん?」


 アキはチロウに続いてルミにまで話を止められるのかと身構えたが、ルミは一度幸助とユリに視線を向けてから顎を引き、アキに顔を向け直しながら真剣に頼み事をした。


「私に話させて。アキは先に帰って食器とか片付けといて」

「でも、この事は……」

「私達も同罪よ。そうでしょ」


 彼女は顔の向きは変えずに目線だけチロウに向け、彼も無言で頷いて肯定する。


 何故アキに話させようとしないのか。四人には分からなかったが、事情があることを察して聞く事はしなかった。また、アキも納得し手を引いた。


「中に入って。お茶でも飲みながら落ち着いて話しましょ」


 ルミの誘いを受けて一行は再び彼女達の住む家屋の中に入っていった。



______________________



 こちらも穏やかではない状況のランと南。二人とも体から汗を流し、戦闘に一息ついたところだった。二人の足下や周辺には、倒した兵器獣の残骸が五つも倒れていた。


「フゥ……これで、最後かな?」

「のようだな。もうこちらに近付いてくる音はしてこない」


 猫背になっていた背中を戻して念のため周りを見るラン。一方南は倒した兵器獣を見て妙な感覚を感じていた。


「何というか、前の世界で戦った敵よりも弱いような」


 当を得た疑問にランは倒した兵器獣のことについて触れた。


「おそらくコイツらは怪魚を攫って共通の改造を受けた量産型なんだろう。改造箇所が共通だし、戦闘力が低いことにも納得がいく」

「兵器獣なんてものが量産されているって……そんなの、はやく止めないと!!」


 改めて赤服の危険性を知った南が意気込ませていると、ランは兵器獣がもう来ないことと同時に気が付いたことを南に告げる。


「ついでにもう一つ」

「?」

「あの男の姿もなくなっている。どさくさに紛れて上手いこと撒かれたか」


 ランは剣を変形させてブレスレットに戻すと、さっきの彼と同じように周りを見回している南に近付いた。


「何処に行ったんだろう、あの人?」

「捜すぞ。ここから出る手がかりはあれだけなんだからな」

「て言ったって、この広い洞窟の中、何処を捜すの?」

「そう時間はかかっていない。遠くへは行ってないはずだ。息を潜めているのか音は聞こえないが、やるしかない。

 近くに足跡でもないか見回るぞ。あの状況じゃ消している暇はなかったはずだ」

「うん、分かった」


 二人は男を追跡できる痕跡を捜すために動き出した。対して捜されている男は、後ろにラン達だけでなく、赤服の追っ手がいないかも逐一振り返って確認しながら、音を立てないように慎重に移動していた。


(追っ手はいないか。あの男達もこれで懲りてくれるといいが。俺に付いてきても碌な事にならないからな)


 これまで過ごしてきたのと同じように、暗い洞窟の中を一人で歩く彼だったが、またしても接触してくる人物の声が聞こえてきた。ランの声とも南の声とも違う男のものだ。


「やあ、久しぶりだなフジヤマ」


 自身の名前を呼ばれたことで威嚇を込めた鋭い視線を後ろに向けるフジヤマ。


 目線の先にいたのは、血液のように赤い髪をハリネズミのように逆立てたパーマの髪型におでこの上部から鼻筋にかけて黒い入れ墨を入れ、よどんだ緑色の瞳をしている男性。

 フードこそ降ろしているが、着込んでいるローブは間違いなく赤服のものだ。


「何故お前がここにいる!?」


 フジヤマは咄嗟に体から鱗を生やして兵器獣に向けたものより小さくした水球を撃ち出す。その水球は相手の顔に衝突したが、赤服の顔を貫通し、後ろの暗闇に消えていった。


「無駄だ。私はここにはいない」

「立体映像か。そこらの小型機雷から基地の様子を映してるな」


 フジヤマは腕は下げずに警戒を続けながら顎を引いて赤服に話しかけた。


「どういうつもりだ? お前が直接俺の前に現れることなんて、これまでなかっただろう?」

「状況が少し変わった。とある貴重なサンプルを手に入れるために力を貸して欲しい」

「断る。おれはもうお前達の駒として働く気はない。大体、これまで何度も兵器獣を送り込んできて、今更頼み事を受けると思うか?」


 赤服はフジヤマの口から出る返事を台詞を予想していた。一度やれやれとでも言いたげな態度で両肩を上げ下げしながらため息をすると、自身の左腕に付けているブレスレットに触れ、フジヤマに向けて立体映像を映した。


「これを見ても、同じ事が言えるか?」


 映像に映っていたのは、泡の都市の中で兵器獣が暴れている様子。一見するとだからなんだというものだが、問題はその場所にあった。

 フジヤマは映像にの中にあるものを見つけ、一瞬ながら目を丸くして反応し、赤服はそれを見逃さなかった。


「お前の行動次第で、兵器獣が町ごと破壊する。どうするべきなのかは理解したな?」


 兵器獣が返り討ちされたことに関しては伏せている。というよりどうとも思っていないといった反応だ。


「それにどうなろうと奴とお前はどこかで戦う事になるんだ。それが少し早くなるだけだ」

「何? どういうことだ?」


 赤服はフジヤマが依頼内容に興味を示したことに小さく口角を上げて喜んだ。


「奴の目的は、お前が隠し持っているものだ」

「ッン!!」

「今すぐとは言わない。だが返して貰おう。お前の持つ分も合わせて渡すのが条件だ」

「貴様…」


 赤服は映像を消すと首を軽く右に傾げながらフジヤマを見下すように顎を上げ、含みのある言葉を彼に言い放った。


「それでは頼んだぞ、フジヤマ()()


 最後の言葉を言い終えると、その態勢のまま映像が途切れ、立体映像を映していた小型機雷が役目を終えてその場の地面に落ちた。おそらく使い捨てのものだったのだろう。


「……」


 会話が終わって無言でたたずむフジヤマ。少し時間が経過すると両拳を強く握り、周りに全く聞こえないほど小さい音で舌打ちをした。


 一方、赤服は映像を切った途端に立っていた地面や周囲の景色が暗がりに包まれ、再び光に包まれると白い壁や床に包まれた殺風景な部屋の中心で台座の上に立っていた。


 そのタイミングで部屋の中に別の人物が入り、赤服は台から降りて質問する。


「奴と話はついているか?」

「はい」

「よろしい。来客のおかげで事前準備も出来た。そろそろ良い頃合いだろう」


 赤服は部屋の扉を抜けてしばらく歩くと、下に広い空間が広がり、そこにはローブとは違うながらも同じ赤い色をした軍服に同じ布地に黒いラインが入った帽子を被った大勢の人が統率された乱れのない出で立ちで整列していた。


 赤服は高い場所から見下げながら大きな声を出す。


「諸君! 長い間準備をかけた成果を示すときが来たぞ!! 明日、我々はこの世界への武力侵入を決行する!!」


 そう宣言すると、赤服は両拳を握って右手の親指の付け根を心臓の位置に当て、小指の側面を腰の後ろに付ける態勢になり、その姿勢で顎を上げ、高らかに声を上げた。


「全ては! 我らが国家のために!!」


 すると下にいた大勢も同じ態勢を取り、同じ台詞を揃って叫んだ。


「全ては我らが国家のために!!」



______________________



 同じ頃、リビングで席に着いた幸助達。座る席が足りなかったため、チロウとマルトは自ら立ち、そのまま話をすることになった。


 ルミは座ってから一度目を閉じて息をつき、少し思うところがあった自分の気持ちに整理を付けると、自分達の本当の事情について話し始めた。


「私達は元々、世界にある国の中で研究員として働いていたの」


 ルミはその言葉と共に目を開き、真っ直ぐ幸助とユリを見ながら謎に包まれた国について触れた。


「国の名前は『星間帝国(せいかんていこく)』。兵器獣を元とした様々な戦力を持ち、数多くの異世界を統治している巨大国家よ」


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