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6-35 お兄様の怒り

 広間内で取り囲むように立つ三体の怪物。一方で幸助は倒れ、救出したジネスにも動く様子はない。ユリも負傷し、五体満足なのはランだけになっていた。


「本格的に三対一か。しかもそれぞれで面倒な能力持ち、面倒だな」


 手を放し一人で立ち向かおうとするランだが、ユリが腕を引いて止める。


「待ちなさいよ。まだ私もいるわ!」

「お前はすぐに自分の手当てをしろ。ここは俺が」


 一言告げて向かおうとするランを尚もユリは力強く引いて止める。


「それはアンタが無茶していい理由にはならない! 身体を大事にするのならアンタこそ!」

「俺はどうでもいいんだよ。お前がやられるくらいなら、禁じ手使う方がよっぽどマシだ」


 ユリの腕を強引に払いのけ、ランは怪物達と目を合わせる。

 ユリはここで自分が立ち上がっても、ランを止めることも助けることも出来ないと理解させられた気分だった。


「馬鹿。そんなんじゃ私だって、アンタが無茶して酷い目に遭うくらいなら……」


 口に出しかけるも途切れてしまう言葉。胸が締め付けられるような思いにユリは悔しくて仕方なかった。


(私、こんな事になるくらいなら一緒に旅なんて……せめて、ランに何か助けを)


 心で祈り、自分に出来ることを考えるユリ。その祈りが通じたのか、はたまた偶然か。この時刻、この広間に向かってきている拘束の物体が一つあった。

 ランはこれには気付いておらず、ただ目の前の相手を倒すために、ユリを守るために動くことだけを思考していた。


「エメラル」


 詠唱を口ずさみかけたその瞬間、ランは突然横方向から自身に飛んで来た左手によって口を塞がれそのまま床に頭をぶつけられた。


「ンンッ!?」


 突然の事態に理解出来ないラン。目線を動かして見えた腕の先には、見覚えのある背中があった。


「貴様は罪を犯した。我が大切な妹を悲しませるという罪を」


 聞こえてきた声に襲撃者の正体を確信したラン。その人物はランが口を開くよりも先に立ち上がり、後ろを振り返った。


「すまないね。ここまで遅れてしまって」

「お、お兄…………」


 ユリが動かしかけた口も塞がれる。彼女の目に見えるのは、放心状態で放っておかれていたはずのスフェーだった。


「どうして、ここに……」


 困惑してゆっくりと問いかけるユリに、スフェーは優しい笑顔を向けて返答した。


「もちろん、君の祈りが聞こえてきたからさ」

「え、聞こえて来たって?」

「ついさっきまで夢を見ていたよ。でも、君の祈りが私の目を覚まし、ここまで導いてくれたんだ」


 笑顔で語っているが、ユリはこぼしかけた涙が引っ込んで顔を固めてしまう。


「え? 待って。ついさっきまで気絶していた? それっていつのタイミングまで?」

「ついさっきはついさっきさ。そうだな、十秒前といったところだろうか」

「十秒!? 目を覚まして十秒でここに!? ビルの中々に上の方なのに?」

「ハハハ、そんなことこの私には関係ないさ! 文字通り、火矢のごとく飛んでやって来たんだ。まあ、窓は割ってしまったけど」


 平然と答えて来るスフェーの言葉にユリは感謝以上の怖さに身震いしてしまった。

 つまりスフェーはユリが内心に思ったランを助けたい願を受信して覚醒。そこからわずか十秒の合間に踏み込みのジャンプと気合でここまでひとっ飛びして来たという事になる。


 余りにぶっ飛んだ行動を現実に起こしているスフェーにどう返事をすればいいのか分からなくなるユリだが、この危機的状況下に彼が現れた事は本当に助かった。


「いや、問題そこじゃないような……でも……」


 ユリはスフェーが防いだことでランが禁じ手を使わずに済んだ事にホッとしていた。


「ありがとうございます……来てくれて、助かりました」

「おいおい、例を言われるのはまだ早いぞ」


 スフェーはユリに声をかけつつ、起き上がりかけているランを彼女の後ろにぞんざいに投げ捨てた。


「貴様は下がれ。邪魔だ。通り沿いに大吾の周囲は片づけてあるから、その方角へ移動しておけ」

「雑い扱いを。まあいい、ユリの幸助の手当てが先か。それと……」


 ランは立ち上がってすぐに幸助、そして近くに倒れていたジネスの身体を拾い上げ、ユリと共に広間から離れようと走り出す。

 当然怪物はこれを阻止しようとするが、前方に突然選考が走り、行く手を阻まれた。


 おかげで広間を抜け出せた四人。ランは道中にスフェーに対する愚痴を吐く。


「アイツ、今の今までいなかったくせに美味い所だけ持っていきやがる」

「でも来てくれなかったら大変な事になっていた。それにお兄様の心強さは、アンタも知ってるでしょ」


 二人の会話の最中、どうにか声を出せた幸助が謝罪の台詞を口にして来た。


「ごめん……俺が、足を引っ張って……」

「謝るんなら次に役に立て。癪だが、今はアイツに任せる」


 ランは不機嫌な様子で返答すると、幸助はそのことにも言及する。


「でも、それで……ランの立場が」

「いい。立場のせいで何も守れないのなら、そんな地位はいらねえ」

「それに大丈夫よ幸助君。ああ見えてお兄様とラン、お互いを認めているところあるから」

「誰がだ!」


 ユリからのフォローを即刻反論するラン。四人はとりあえず大吾に合流するために急いだ。


 広間に残ったスフェー。自身を取り顔む三体の怪物に対し、一切臆することのない堂々とした態度を取り、語り掛けた。


「さて怪人諸君、まずは我が愛しき妹を傷付けたのは誰か?」


 この怪人達が操られている兵器獣であれば、もちろん質問に答えることはない。だが最初の怪物の爪から滴る血液が、すぐに犯人であることを証明していた。


「そうか、貴様だな」


 スフェーはほんの一瞬だけ自身の身体を光り輝かせると、音も聞こえない間に怪物の至近距離にまで近づき、拳を顔面に叩き付けた。

 余りの速さに碌に動けなかった怪物は、スフェーの拳を吸収する間もなく身体を吹き飛ばされ、壁にめり込むほどに激突した。


「生憎、私は妹を危険な目に遭わせる奴に容赦しない。もちろん奴も、後でしっかりケジメは付けさせるが……まずは、お前達の番だ」


 スフェーは丁寧ながら怒りの籠った言葉をかけると、同じ怪物に対して追撃しようとする。だがスフェーが攻撃に出るより先に、後方から大砲の怪物による砲撃が複数飛んで来た。


 スフェーはこれに目を向けることなく、右手を後ろに振るった。手の中に隠されていたパチンコ玉のような小球を砲弾に命中させる。


「<クラッシュ>」


 途端に小球は爆発を起こし、砲弾を巻き込んで攻撃を防いだ。


 スフェーは改めて目の前の相手を倒そうと足を動かすも、今度は爆煙を突破して球体に変身したサボテンの怪物が突進して来た。

 盾もなく、距離も近付かれたスフェーにこれを回避する術はない。直撃は避けられないかに思われたスフェーだったが、彼は右腕に続き顔も振り返ると、小球一つを指で挟んで構えた。


「<バスター>」


 スフェーがデコピンの要領で弾いた小球は、先程の彼の移動時と同じ光を放ってサボテンの怪物に激突。だが怪物の硬い装甲の前には破壊しきれずに防がれてしまう。


「防いだか。なるほどこの硬さなら、奴が苦戦するのも理解する。だが」


 スフェーはサボテンの怪人の態勢が整い切っていない間に二発目を発射。今度の小球は怪物の硬い装甲をいとも簡単に砕いていき、内部から怪物の身体を爆発させた。


「まずは一体。そして」


 スフェーは次に大砲の怪物に睨み付けた。飛び道具を繰り出す存在が厄介に感じたのだろう。後ろ振り返り歩き出すスフェーだったが、ここで注意が消えた途端、壁から飛び出した怪物がスフェーの左腕を掴んだ。


 スフェーが振り返る間に左腕を取り込み始める怪物。しかしスフェーに焦る様子は少しもない。


「なるほど。触れた相手を時間差で取り込むのか。ならば、<ビート>」


 スフェーは取り込まれかけている自身の左腕を光らせ、ユリと同じ要領でエネルギーを過剰に送り始めた。いきなり大量のエネルギーを流し込まれた怪物は目を丸くするも、これに耐えて吸収するつもりだ。


「取り込めるだけ取り込むといい。だがそんな柔な体に収まるほど、我らが由緒ある力は弱くないぞ」


 スフェーが啖呵を切った途端、怪物は取り込んでいるエネルギー量のあまりの多さにこれまでで一番大きく体を膨らませ、表情からも苦しさが見てとれた。

 マズいと感じたのか大砲の兵器獣が先にスフェーを仕留めるために複数個砲弾を発射するも、再びスフェーは小球をばらまいて防いだ。


「芸のない。所詮取ってつけた武器なのだろうか……」


 だがスフェーが前方に目を向けていたその隙に、大砲の怪物は後方に移動、爆音に紛れさせ複数方向から砲弾を発射していた。取り囲む形になっていた攻撃は、即席の策では防ぎきれない。


「なるほど、こちらが本命か。ならば」


 スフェーは空いていた右手を光らせて床に付けた。すると彼を中心に半径2メートルほどの床が同じ色の光りに輝いた。


「<スプラッシュ>」


 スフェーが口ずさんだ瞬間、縁の端から光が上方向に噴出、向かって来る砲弾を全て防いだ。分が悪いと判断したのか大砲の怪物は自身の後ろの空間をヒビ割り、撤退しようとする。


「逃げるには判断が遅かったな。既に貴様は私のテリトリー内だ」


 指摘された大砲の怪物が下を見ると、先程スフェーが床に発生させた光が、いつの間にか自身の足元にまで広がっていた。当然それが何を意味するか。考えるよりも先に実際に体に喰らわされた。


「<スプラッシュ>」


 真下からの強烈な光線に身を焼かれ、大砲の怪物もまた抵抗も出来ない間に焼き尽くされてしまった。

 残るはスフェーの左腕を取り込もうとしている怪物だけ。それも彼が立ち上がり冷静に判断する。


「うむ、このまま放置していては流石にマズい。かといってビートでは威力が足りないか」


 まるで動揺しないスフェーに怪物が首を傾げると、スフェーは右腕を再び光らせる。これまでで一番エネルギーを集束させているのか、生物であれば目を閉じてしまう程の眩さだ。


「貴様の能力にわざわざ月ある必要などない。我が妹の痛み、何倍にもなって思い知れ!」


 危機を感じた怪物はスフェーの左腕を放しかけるも、ほぼ同時に彼の張り手を受けた。


「<インパクト>」


 張り手から瞬間的に送られたエネルギー。ビートを遥かに超える量のエネルギーは怪物の身体が吸収するよりも先にその身を破壊していき、眩い閃光が発せられた途端、怪物はエネルギーに耐え切れなくなり、爆発した。


 解放された左腕を下ろし息をつくスフェー。腕に残った肉片すらも燃やし尽くし、独り言を呟いた。


「こんなもの、かな?」


 怪物達との戦いは、三対一という不利な状況ながら、次警隊一番隊隊長の圧倒的な実力を見せつける結果となった。

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