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6-29 忍者は卑怯

 大吾の幼女に対する怒りを目の当たりにし、多少の大人げなさを感じつつも凄いと感じる幸助。

 大吾はペースを崩さずに幸助の身体に目を向けると、再び拳を構えた。


「さ~て、このままお前を殴り続けたらあのガキも撃退出来るって訳で、()()()()耐えられる程度に力込めてあと何発か打つから受け止めろよ」

「そんな人をサンドバックみたいに!」


あまりの扱いのぞんざいさに流石にツッコミを入れてしまう幸助。続いて彼はそこからふと浮かんだ疑問も口にする。


「それにそんな仲間割れしている間に向こうから攻撃が」

「仮説やけどそれはない。アイツは奇襲が本命。正面背穏当は専門外やろうからな」

「専門外?」


 幸助が大吾からの返答に更に疑問を深めると、大吾の方から理由が語られた。


「アイツの直接的な攻撃は今んところ針を飛ばした攻撃だけ。自分から突進したり格闘戦に持ち込んだりは人を操ってないとせえへん。

 すなわち自分自身でやる戦闘力はないって事や。もちろん警戒はするけど、まあ心配はいらんやろう」


 大吾は理由は語り終えたとばかりに拳から音を鳴らして幸助に近付く。


「というわけでこれが一番確実やねん」

「いや確実だからって!」

「早速いっぱーつ!」


 戸惑う幸助に大吾から容赦のないジャブが再び腹に直撃する。幸助は気絶こそしないものの身体を駆け抜ける中々の痛みに悶絶させられた。


「お前、本当女の子以外に容赦ない」

「よ~し、これであのガキにはより重たいダメージが入ったはず……」


 だがここで異変があった。幸助は確かにダメージを受けて身体をくの字に曲がらせたにもかかわらず、相手の少女の方には特に変化が見られなかったのだ。


「ダメージを受けてない?」

「ど、どうして……」


 一人だけ痛みを受けて息が整うのに時間がかかる幸助。すると次の瞬間、疲労しているはずの幸助の身体が再び不自然に動き出し、再び大吾に向かって剣を振るって来たのだ。


「ナッ!」


 大吾は素早く反応して攻撃を回避するも、幸助がまたしても自分に襲い掛かって来た事には隠せずに驚いていた。


「お前、まだ操られとんのか?」

「そうみたいだ。体の自由がまだ効かない! でも……」


 幸助はどうにか動かせた視線で少女の様子伺うも、先程と同じく彼女の様子に変化は見られなかった。彼女が操っていないとなると一気にこの状況は迷宮化する。


「あの女は動いていない! ならなんで?」

「分からない! だがとにかくよけて!」


 幸助からの猛攻。単純な攻撃のため大吾は素早い動きでこれを回避するも、幸助を攻撃しても効果が見られない事から対処が浮かばなくなってしまった。


「クソ、どうなってんねんこれ?」


 するとこの事態の元凶である少女はフラフラと立ち上がり、彼等に話しかけた。


「確かにワタシは、貴方の言う通り正面戦闘は苦手……だけど、その分ワタシの異能力には、他の方にはない特殊な力がある!

 たかがあの程度で終わりと思われるのは心外……あれはあくまで即席の手段。時間が出来たのならば、やりようは他にもある!」


 少女が語るのを止めると、幸助の身体がまたも操作されて大吾と戦わされてしまう。それも動きは先程までより明らかに素早くなっていた。


「さっきより素早い! 気を付けて」

「分かっとるわい。けど攻撃事態は単純なものばかり。かわすのは単純やし、やろうと思えばいつでもお前を圧気で抑えれるわ」

「結局痛い目見るのは俺かよ!」


 少女は先程からの大吾の癪に障る台詞回しに血管が浮き出る程に腹を立てていた。


「黙って聞いていればいちいち癇に障る台詞を……なら、これは止められる?」


 少女が意地悪くにやけると、幸助は唐突に攻撃を止めた。大吾は彼の行動に何か仕掛けてくるのかと構えたが、幸助が操られて取った行動はよりマズいものだった。

 幸助に自身の剣の刃を首に当てさせ、自身の首を切り落とさせようとしてきたのだ。


「ナッ! お前まさか!」

「大人しくしないと、そこにいる人の首を切り落とす!」

「ナッ! なるほどな、やらしいことしてくれるわ」


 どこまでも正攻法ではなく邪道。ある意味これこそ彼女の土俵なのだろう。大吾は実質的に身動きを止められるも、動かせる頭を素早く回転して状況を整理した。


(切り落とすことが出来るって事は、やっぱり幸助を操っている何かはあのガキのすぐ近くにあるって事か。どうにしろ相手の首を切り落とすには操るものにその動作をさせる必要がある。

 そんじゃあのガキに圧気かけたら終いやな。人質作戦のおかげでこっちは幸助に意識向けんでええし)


 大吾が少女の視覚で印を組んで圧気を発動させようとしたその時、少女はどういう訳かいきなり幸助の首を切り落とす勢いで剣を動かした。


「何!」

「大人しくしたら切り落とさないとは言ってない」


 大吾はここに来て意表を突かれたと急いで幸助に圧気をかけた。風圧に押し潰され身体を動かせなくなった幸助は強制的に腕を下ろされる。


「ナッ! 急に重く……」


 同じとき、少女は近場の影に置いてあったものに強烈な重みを感じて手を放してしまった。大吾がここで視認したのは、かなり年季の入った人形だった。


「人形? まさかこれで操っとったんか。まあええ、ギリギリやったけど種は割れたからな」


 幸助の自切も防ぎ、これ以上はせめてはないと踏んで少女に近付く大吾。だが少女に焦りの様子はなかった。


「なるほどこんな術もあるのね。でももう無駄、貴方もお人形の仲間入り」


 瞬間、大吾は突然全身を風圧に潰される感覚に襲われ、膝を付いて身動きが取れなくなってしまった。


「何やこれ!? 急に身体が重く……」


 大吾はこの感覚に覚えがある。間違いなく自分自身の術である『圧気』の効果だ。


「なんで俺にまで圧気の効果が……まさか」


 考えられる可能性は一つしかないと大吾が目線を下に向けると、自身の手元に先程幸助が首から飛ばした血しぶきが当たっていたのだ。


「幸助の血! これで俺も人形と同列の扱いに?」

「正解。だから貴方と操り人形と同じ状態になった。最も発動中の技は、解き方が分からないから効果も持続するけど」


 リサートは軽く言ってのけたが、即ち大吾が発動した圧気は解くことも出来ないまま幸助と共に効果を受け続ける状況になる。

 このままでは二人共圧気に押され続けてリサートにトドメを刺されるか、このまま敢えて捨て置かれて大吾が限界を迎えるのを待たれるかだ。


 どちらにしろ少女には絶好の優勢。彼女は大吾の無様な姿を上から見下ろしながら話しかけた。


「こうなってしまえば素早い動きも腹の立つ減らず口もどちらもなくなるわね。

 分かった? 正面から戦えないワタシでも、工夫すればこうやって二人もまとめて追い詰められるのよ」


 少女は幸助達二人と同じ状態になっている人形の元に近付くと、右手の針を逆手持ちして人形の真上に掲げ、人形の胸の中心に標準を合わせていく。


(アイツ、まさか心臓を付いてトドメを刺す気か!)


 人形の胸に刺された最後、連動した幸助と大吾の胸も貫かれてしまう。このとき、大吾の脳裏にはふと浮かんで来た事があった。


(そういや、うちの基地内で出た内通者も周囲に誰もいない場で心臓を一突きにされたんやったっけ?

 今にして思えばこいつの異能力やったわけか。口封じに操り人形。こいつ赤服の隠密か?)


 忍者の世界での謎が一つ解けた所で現状の危機が解決するわけではない。少女は最後の挨拶としてか声をかけてきた。


「さようなら、癪に障る隊員さん。<依り代結び 一突き>」


 少女は腕を振るい、針を鋭く人形に突き刺した。途端に大吾と幸助の身体に起こるショック。声を出す間もなく二人はそのまま力を失い、倒れてしまった。

 少女は針を抜き、軽く息を付いた。


「これで完了。あらかたの資料は回収したことだし、後はノバァ姉さんに任せて帰ろっかな」


 勝利を確信した少女がブレスレットを操作し目の前の空間を割ろうとする。だが操作が終わる直前、突然後ろから強い衝撃を受けた。次に彼女は貫通し出血するほどの痛みを感じ、膝から崩れ落ちて機器操作を止めてしまう。


「何が……」


 自分の身に何が起こったのかを理解出来ない少女。すると真後ろから彼女にとって癪に障る声が鳴り響いて来た。


「勝利したつもりが知らん間に大ピンチ。最後まで油断せん事やでお嬢ちゃん」


 少女が驚きに目を丸くして振り返ると、心臓を貫いたはずの幸助と大吾が立ち上がって片腕づつ前に伸ばしていた。


「なん、で……人形に、針を刺したのに……」

「ああ、確かに人形は刺されたで。()()はな」


 大吾が下げていた左手を軽く上げると、幸助の血液が付いた針を持っていた。


「それは……いつの間に、引き抜いた?」

「拾ったのは今の今。でも外したんは俺がぶっ倒れる前。圧気の効果が俺に車でタイムラグがあって助かったわ」


 大吾が動いたのは、幸助が圧気を受けて人形に反映された際だ。人形の中に針が入っている事を見抜いた大吾は、自身の技『凪詰』を使いピンポイントで針を摘出していたのである。


「後はお前さんが勝ったと安心すれば、わざわざ倒した奴に術をかけ続ける理由がない。勝手に異能力は解いてくれると思ったんでな。手早く回収させて貰ったわ」

「何処までもせこいな大吾……ラン以上なんじゃ……」

「アホぬかせ。忍者ってのは卑怯が基本、常に小細工し敵を騙くらかす。そういうもんや」


 開き直る大吾。少女はやけくそとばかりに針を握って振り返りざまに反撃を仕掛けた。だが大吾は彼女が動き切るよりも先に彼女にすれ違い、右手のクナイで切りつけつつ彼女が隠し持っていた銀色の結晶を回収した。


「やけはあかんで。付け入られやすいから」


 少女は悔しそうな表情を浮かべつつ意識を失った倒れた。大吾の完全勝利だ。


「凄い、せこいけど……」

「誉めるついでにけなすのは止めてくれ」


 大吾は幸助の感想に微妙な顔を浮かべつつ、少女の服の中を漁って結晶を回収した。


「よし、回収完了」


 幸助は戦闘が終わってすぐに表情を戻した大吾に質問した。


「この子、どうしようか?」

「もちろん逮捕やな。色々知ってるかもやし、情報を聞き出す。まずは拘束して転送やな」


 大吾は決まれば即行動とばかりに手錠を用意しかけるが、ここで突然扉が何かにぶつかったように枠から外れれ吹っ飛んだ。

 大きな音に構える二人。扉を破壊した何者かは、そこから足早に資料館に突撃して来た。

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