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6-23 RAIDERの歪み

 場所は変わり、幸助と南が回収して来た資料からゾンビの正体、ジネスの過去の事件のあらましを知ったラン達一行。


「なるほどな。裏でなんかあるとは思ってたが、ゾンビのきっかけから丸々RAIDER(レイダー)が種をまいていたとはな」

「いやラン、お前めちゃくちゃ重大な情報なのになんかリアクション低くないか?」


 幸助からのツッコミにランの反応はなかったが、代わりに南が言葉を変えて質問した。


「何となく察していたからな。それはお前らに送ったメモ書きからも分かるだろう?」


 ランが幸助と南に渡していたメモ。幸助はこの場で広げて内容に改めて言及する。


「ジネスさんがヘレティック。実際に見るよりも前だったのにどうやって気付いたんだ」


 そう、ランは先程の現場で実際に目にするよりも前からヘレティックの正体がジネスであることを察していたのだ。

 ランは幸助の質問にジネスの動向を思い返しながら答えた。


「ヘレティックと再戦したときに俺が奴の腕に傷を付けておいた。だが病室で寝ているファンスにはそれがなかった。

 再生力があるのかと思っていたんだが、ユリがジネスの腕を掴んだ時、丁度俺の攻撃位置に触れた途端アイツが痛めているのを見たからな」


 ランがしれっと説明した理由に幸助と南は驚かされ、大吾は一周回って笑っていた。


「そんな細かい所見てたのか!?」

「見る行動にまで抜け目がないよラン君」

「ほんまにな。おかげでガキの頃から何度ユリちゃんに近付くのを妨害された事か」

「いやアンタ幼少期から何してるの」


 話の流れで大吾が口にした内容に幸助と南が呆れた顔を向けてしまうと、大吾は逆にかっこつけた顔付きをして勝手に語り出した。


「何をしているのかやと? 美少女のあんな姿やこんな姿は、一つでも多くこの目に収め記憶する義務があるだけや。

 そう、ユリちゃんとのことならば幼少期、一度だけ見かけたお風呂前の脱衣シーンなんかが……」


 大吾の口が滑りかけた瞬間、ランとスフェーの拳と零名の飛び蹴りが同時に彼に直撃して吹き飛ばした。


「お前、そんなことしてたのか。今すぐ記憶を消せ」

「最低……下衆……」

「同期の面汚しが。仕事が出来ない奴ならば即刻首を落としていた」


 ユリですらも汚物を見る目で大吾を見ていると、南がふと彼女に近付いて聞いて来た。


「同期って、そういえば三人共同じときに入隊したんだっけ?」


 南の声を受けて表情を戻したユリが説明した。


「え? ええ。ランにお兄様に大吾、三人揃って同期の中で頭一つ飛び抜けた存在だったの。強さも同格。二人は今や隊長だしね」

「同格って、それじゃあ大吾君も隊長になれるレベルって事?」

「おお、そのとおりや」


 いつの間にか二人の間に割り込んできていた大吾が両腕で二人の肩に組んで無理矢理話に便乗して来た。


「でも俺は二人と違って出世欲はなかったからな。家の跡継ぎは姉貴がおるし、俺は自由にフラフラすんのが一番なんや。

 という訳でお二人さん。色々整理するためにもどっかでお茶をしに」

「しつこい……」


 大吾は会話の途中で後ろに移動していた零名の踵落としを頭から直撃し、肩より下を地面に埋め込んでしまった。


「話、進まない……黙ってて……」


 零名の喝に大吾は大きなたんこぶを作って気絶してしまった。ランとスフェーは大吾の事はもはや放っておきつつ脱線した話を元に戻そうとする。


「とにかくだ、これで連中が赤服と繋がりがある事は分かった。結晶も持っているとなると即刻回収しないとやばいだろうな」

「やばいってなんで」

「お前と南が資料館で見つかっている。時間を後にするほどに対策を立てられるだろうさ」


 ここに来て自分達のミスが大きかったことを痛感させられる幸助と南。顔色が暗くなりかける二人だが、ランはすぐにフォローを入れてきた。


「凹むな。まさか同タイミングに連中が資料館に来るのは想定外だったんだ。なんで対話の後にそこに足を運んだのかは分からないがな」

「西野隊員達と遭遇したのは偶然だとすると、奴らも何か資料を取りに来ていたのか。だがそれこそ何のために」


 ランの台詞から仮説を立てようとするスフェー。ここで顔を上げた南が発現した。


「そういえばあの組織のボスの人、赤服に支援を打ち切られそうになっているのを止められかけていたような」


 南からの追加情報を聞いた上でスフェーは仮説をより詳細にした。


「支援か。奴らがスポンサーになっていてその関係を切るつもりなら」

「欲しい資料だけ取ってトンズラってとこか?」


 しれっとランに核心部分を先に言われ、スフェーは一瞬彼を睨みつけた。


「それじゃあ、もう赤服はいない可能性も!」


 幸助の指摘をランは肯定しつつ話を進める。


「かもな。裏切り者もいない可能性が高い。が……」

「あの組織もある程度情報共有されている危険はある。マリーナの件は考えにくいとしても結晶の件といい、放っておくわけにもいかない」


 さっきの仕返しとばかりに確信の台詞を横取りするスフェーにランが舌打ちを付く。


「ま、ならば話は早いな」

「即刻あのビルに向かい」

「組織のボスと結晶、どちらも素早く回収する」

「まさかやけど、それ俺らも参加せえへんといかん感じか?」


 ランとスフェーは音もなく背後に移動していた大吾の声に一瞬瞼を広げた。


「当然だ」

「スピード勝負だ。人手がいる」

「え~……」


 途端にめんどくさがる大吾。零名はそんな彼の背中に触れてため息をついた。


「逃げる……放っとく……どっちもダメ……」


 零名からも参加を促してくれるが、大吾の表情は変わらない。ならばと零名は仕方なさそうにユリに目を向ける。これにユリも理解を示してラン達の前に出て大吾の肩を掴んだ。


「何だラン? お前の言い分を聞く気は」

「大吾君お願い! 私、貴方を一番の頼りにしてるの!」


 大吾が振り返った途端に目にした美少女によるまっすぎな懇願。両隣の二人は釈然としない様子だったが、大吾は脇など一切見ずにユリの両手を掴んでテンションを上げながら返答した。


「ユリちゃんに頼りにされているのならしゃあない。この疾風大吾、持てる力でサクッと解決してやろうやないか!」

「わ~ありがと~」


 ユリはちょろいと思いつつほぼ棒読みな台詞で返事をし、大吾の参戦が確定した。


 これでメンバーは揃った。後は作戦だ。真っ先に切り出したのは、清掃作業をしてビル内を駆け回っていた幸助と南だ。


「あのビルは各階ごとに色んな部屋があるけど、機密資料や社長室は上部の回に纏められてる。そこに行くことがまず第一だね」

「てことは結晶も上部階にあるのかな?」

「いや、それは微妙なとこだな」


 ランの発言に幸助は首を傾げるも、すぐに理由は伝えられた。


「俺達が最初に転移したときに討伐部隊と合致した。つまりそこまで階級が高くない隊員でも入れるフロアって訳だ」

「結晶は資料館とは離されているって事か。だとすると手分けしないと」

「それもお前らがここまでビル内を歩いても結晶は見つからなかった。とするとビル内にまだ俺達が知らない区画があるって事だ」

「資料館以上に秘密にしたいものって何だよ? それこそイメージが湧かないんだけど」


 引っかかる要因は出来てもそこで新たな疑問が生じる。ラン達が頭を抱えていると、グループの脇に立っていたリコルがふと口にした。


「実験室……」

「あ?」


 耳の良いランはすぐにこれに気付き、彼女に顔を向けた。


「実験室? ゾンビのか?」


 リコルは小さく頷くと、声のボリュームはあまり変えずに説明した。


RAIDER(レイダー)が討伐したゾンビは、皆回収されてそこに運ばれていく。そこでゾンビについて調査をしているって聞いた事がある。入った事はないけど」


 リコルの説明に幸助達は納得がいった。しかしランは逆にリコルに対する警戒を強めた。


「社長令嬢ってだけにしてはやけに詳しいな。まあ最も、ジネスがゾンビだと分かっていた時点で単なる女ではないか。お前も何者だ?」


 リコルはなまじ話に介入してしまったがためにもう誤魔化すわけにもいかず、目線は下げたままい自分の説明をした。


「私がRAIDER(レイダー)のボスの娘というのは本当です。組織に所属しているわけでもない。

 ただ、私は過去にあの組織の実験体の一人でした」


 予想の斜め上を言った回答に聞いた全員が驚いた。


「実験体? まさかゾンビの!?」

「そうだとも、そうでないとも言えます。結果的に現在のゾンビの事に繋がったので」


 リコルは前置きを終え、本格的な説明をした。


「私は幼少期から身体が弱く、長くは生きられないと診断されていました。父はそんな私の身体を何とか治せる手立てはないものかと奮闘してくれた。

 そんな中調査で見つかったのが、ゾンビの元となっているウイルスの存在だった」

「ウイルスが? それじゃあ身体を蝕むんじゃ?」


 幸助からの当然の疑問にリコルは返す。


「それが分かったのは運用実験を行ってしばらく経った後の話。それも原因はウイルスそのものではなく、ウイルスに混ぜたものだから」

「混ぜ物?」


 引っ掛かりの出来る台詞に南がそのまま返すと、リコルは続けて説明した。


「当初発見されてすぐは、これまで治すことの出来なかった病気に対し、人間の自然治癒力を高めて治してしまう、ウイルスとは名ばかりの万能薬だった。

 父はそれを知ってすぐに私に投与した。そのウイルスは、これまでどんな薬でも治らなかった私の病気を短期間で治してくれました」


 リコルの言い分を黙って聞いていたランだったが、ここで発言をした。


「驚いたな。そんな情報は資料にも乗っていないが?」

「父が消したんです、ウイルスの医療方面の活用法を。兵器方向に方針を転換したことで、意味がなくなったからと」


 リコルの顔色がさらに暗くなった。


「ウイルスの万能性に父の立場は大きく上がった。そこに噂を聞きつけた団体が接触して来たの。赤い服を着ていた人達が」

「「「赤服!」


 ここに来て赤服の存在が現れた事に反応した一行。

 赤服こと星間帝国と、RAIDER(レイダー)の間に出来た繋がりのきっかけが何だったのか、ここで説明された。

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