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6-21 生まれながらのゾンビ

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 RAIDER(レイダー)の討伐部隊から攻撃されたその時に突然降り注いだ光によって姿を消したランとユリ。二人が次に気が付いた時には、討伐部隊が周りにはいない人気のない空間に出ていた。


「ここは……ああ、そういうことか」


 ランは状況を察してすぐに苦い顔に変貌した。彼の真後ろに立っている人物。彼等三番隊とは別行動をしていたスフェーだ。


「お前に助けられるとはな」

「勘違いするな。私はマリーナを助けただけだ。貴様の勝手な行動のせいでマリーナの身体に傷でもつけば大変だ。それこそお前程度の首を飛ばしたところでとても間に合わない程にな」


 スフェーからのまたしてもユリびいきな説教の言葉を鬱陶しそうに聞き流すラン。続けれ彼はランの服の中に隠れているユリに声をかけた。


「マリーナも、元の姿に戻ってくれて構わないぞ」

「お前の奥に一人いるみたいだが?」


 ランが視線を向けて注意をするも、スフェーの考えは変わらない。


「私の目がある場でへまはしない」

「裏切り者を逃がしたくせに……」

「何?」

「まあいい。今は端折れる時間は端折りたいからな」


 一瞬戸惑いランに顔を向けるユリ。ランはスフェーに対する愚痴交じりの台詞を吐きつつもユリの変身解除を許可した。


「こいつの自信家には裏切り者が出る程困り者だが、まあ俺もいる。わざわざ指示してくるって事は理由もあるんだろう。解いてやれ」


 ユリはランの服から飛び出しつつ変身を解いて人間の姿になった。


「うむ。それじゃあ教えてもらおう、マリーナが手に入れた情報を」

(大方ランだけでなく視点の違う情報を……という名目でユリと会話したかったのだろうこのシスコンは……)


 とりあえず共有しておいた方がいい情報を話そうとしたランだったが、何者かがそんな彼の背後から肩を掴んできた。

 一切の気配を感じさせずに自身を掴んできた人物にランが戦闘態勢に入ってブレスレットを変形させつつ振り返るも、剣の刃は相手が既に構えていた武器によって防がれてしまった。


「おいおい、久々の挨拶にしては随分物騒な事してくれんなぁ」

「お前……」

「大吾君!!」


 ランの攻撃を受け止めて見せたのはラン、スフェーと同じく次警隊の隊員である大吾だった。


「やあユリちゃん! 俺に会えなくて寂しかったかい?」

「お前なんでここにいる?」


 ユリに話しかけたところ間髪入れずに話しかけてくるラン。大吾は彼の対応に一瞬面倒そうな顔をするも、すぐに理由は答えてくれた。


「そこにいるスフェーに前から頼まれたんや。裏切り者の調査についてな。そんでここで情報を掴んだって来てすっ飛んできてんや。まあ事情も諸々聞いとるから安心しろ」

「事情ね……」


 ランはそもそもの発端である裏切り者を逃がしたスフェーに白い目を向ける。するとその間に大吾はユリの元に近付き彼女に手を差し伸べて声をかけていた。


「いや~それじゃあせっかく会えたことやし……ユリちゃん、俺と一緒に何処か落ち着ける喫茶店で談笑しようや」


 当の受け側であるユリが微妙に呆れている中で大吾は一方的に台詞を続ける。


「にしても、少し間を開けただけで一段と可愛く美しくなっているなぁ……そう。生まれ変わる度に美しくなると言われているあの……その……何だったっけか……」

「不死鳥!!」


 唐突に間に入って来た怒り交じりの台詞と共にドロップキックをしながら出現した零名。彼女のケリの直撃を受けた大吾は吐き気を感じながら地面を擦っ転んでいき、ユリは解放された。


「ナイスキック……」


 ランがしれっと呟く台詞に無言にグーさんを向けて答える零名。彼女の後ろには別行動をしていた幸助と南が疲労が残っている様子で付いてきていた。


「ん? お前らなんでそいつと一緒にいるんだ?」

「資料館に入った時に襲撃に遭って……大吾と零名ちゃんに助けられたんだ」

「隠密……逃走……得意……」


 零名が少しだけ自慢げに反応している中、ランは幸助の口にした台詞の内容に気付いた。


「襲撃された? 誰にだ」

「赤服に……」


 ラン達の表情が動いた。幸助と南は襲撃時の状況を説明し、同時に南は収納していた資料二冊子を取り出してランの前に見せる。


「後の事はこれを見て調べよう」

「ちょっと待った」


 これから本題に入ろうとした全員をランが止めた。全員がキョトンとしたところにランは切り出した。


「ここで情報を整理するのなら、もう一人この場に置いておきたい奴がいる」

「奴って……」

「俺をピンポイントで連行したって事は知っているんだろう? そんなお前が放ってほくないと思うんだが?」


 暗に伝えるような台詞でスフェーに問いかけるラン。スフェーは視線を逸らしつつ返答した。


「もちろんだ。憂いはない」


 そうしてスフェーが物陰にアイコンタクトを送ると、そこに隠れていたリコルが姿を現した。


「リコルさん!」

「あれが、ジネスさんの恋人っていう」

「んで、色々裏事情を知っている」

「「エッ?……」」


 幸助と南が予想外と言いたげな反応を見せた。反対にリコルは引け目を感じている様子だが、ランはそんな彼女に同情を向ける気はさらさらなかった。


「こうなった以上隠し立てはなしだ。洗いざらい吐け」

「ラン!」


 強気な姿勢でかかったランをユリが諫めて話を代わり、へりくだる姿勢でリコルに頼んだ。


「私からもお願いしますリコルさん。ジネスさんの為にも……」

「……」


 少しの間無言のままでいたリコル。しかし彼女はユリの真っ直ぐな視線に押されたのか、はたまた四面楚歌の状況に屈したのか、逸らしていた視線を前に向けてきた。


「……分かりました」


 そこからリコルも交えた上で赤服から襲撃された件も含めてお互いの話を纏めることにした。



_______________________



 同時刻、RAIDER(レイダー)ビル内の何処かの部屋の中。ジネスはぼんやりとした意識で目を覚ました。


「ここは……俺は……」

「目を覚ましたか」


 ジネスに聞こえてきた声に顔を向けると、当の本人が顔を見せてきた。予想通りRAIDER(レイダー)の社長である『バズ マリファ』だ。


「社長!?」

「ほお、意識が戻っているようだ。ようやく成功したらしいな」

「成功? 何の……」


 ジネスが身体を起き上がらせようとすると、身体が何かに拘束されていたことに気付く。どうにか動かせた首を回して周りを見渡すと、ふと視界に入って来た自分の腕に意識がハッキリするほどの驚かされる。


「何だ、これ……」


 ジネスの目に入ったのは位置からして明らかに自分の腕だ。だがその腕は人間のそれではなく、紛れもないゾンビのそれだった。


「何だこの腕!? ゾンビ……俺の腕が? そんな訳ない! なんで!!」

「腕だけ……分かってはいたが本当に自覚がないとはな」


 バズは近くから手鏡を手に持ち、ジネスに近付いて今の自分の姿を見せた。そこに映っていたのはジネスのいつもの姿ではなく、彼自身が妹のファンスだと思っていたダークグリーンの肌の色をした怪物『ヘレティック』のそれだった。


「ヘレティック?……いや、そんな訳がない。ヘレティックはファンスで……」

「君はずっとそう思っていたみたいだね。現実を直視できないとは、実に哀れな事だ」

「何を言ってんだ社長!? ヘレティックは俺じゃない!!」

「君なんだよ!!」


 困惑し尚もヘレティックの正体は自分でないことを口にするジネスに、圧をかけるように突き付けるバズ。ジネスは大きく焦りながらも自分の言い分をぶつけた。


「そんなことはない! 俺は見たんだ! 俺の目の前で変貌したアイツを……目を覚ました途端に暴れたアイツを……だから……」


 必死に台詞を吐き続けるジネスの様子をバズは鼻で笑った。


「悲しい事だ……時に人間は自らに起こった悲劇を誤魔化すため、頭で思い浮かべた妄想を事実の記憶をすり替えてしまう事がある。

 これは、君が半分人間であるが為なのかな」

「妄想? 半分人間? 何を言いたいんだアンタは!!?」


 話を聞く気になったジネスの態度を肯定的に感じつつ説明を始めた。


「私はかつて、この世界で未知のウイルスを発見した。それは感染者に人を超えた力を与えるウイルスだった」

「何の話をしている!?」

「私は考えたのだよ。このウイルスを利用し、理性の持った怪物を生み出すことが出来るのならば、これまでにない巨万の富が動くビジネスが起こせると!!」


 困惑するジネス。バズがそこから口にしたのは、既に理解しがたい事実を突きつけられているのを除いた上でも恐ろしいものを感じさせた。


「そこで私は仕掛けた。偶然にもウイルスに興味を持ったとある団体の援助を受け、年に一度必ず行われているウイルス症状の予防接種のワクチンと偽り、試験的に培養したそのウイルスを注入させたのだ。

 だが結果は失敗。時期はバラバラに理性のない怪物ばかりが生まれてしまった」

「それが……ゾンビ!?」


 驚愕の事実にやはり驚きを隠せないジネス。バズはこれを軽々と語り続けた。


「皮肉にもこの怪物の処分をするにあたり、同時に開発していた対生物兵器用の武器が役に立った。そこで予定を変更し、出現したゾンビを討伐することで富を得る『RAIDER(レイダー)』を組織したのだ」

「そんな、全部アンタが……」


 あまりの自分勝手な言い分に自分の復讐心がかすむほどにゾッとするジネス。それでもバズの話は止まらない。


「だが私は諦めきれなかった。ゾンビという存在が理性を持ち、操ることが出来るのならばこれに勝る兵器はないと……

 そこで可能性を発見した。偶然だった! とある感染者の男がゾンビになった後に人に戻り理性を取り戻したとの報告を!!」


 話がヒートアップして来たからか、バズの表情が随分と豊かになっていった。ただしどれも邪悪に思えた。


「間の悪い事に、その男は討伐部隊が捕獲命令を出す前に駆除。目的は達せられないかと絶望しかけたものだ……

 だが幸運は続いていた! その男は家庭を持っていたのだ! そしてそこに生まれた子供の存在が!! 怪物になってもその力を抑え、人間に戻ることが出来る少年を!!」


 話を進めていく程にバズのテンションが上がっていく。まるで自分の願望が叶ったかのように。

 そして話の流れからしてバズが何が言いたいのかは、一蹴回って思考判断力が戻って来たジネスにとっても予想がついて来た。


「まさか……それは……」


 ジネスがふと出した声に反応し、バズは何処か狂っているともとれるような大きな笑みを浮かべて回答した。


「そう……君達兄妹は特別な存在! ()()()()()()()()()()なんだよぉ!!!

 ……最も、妹の方は君が再起不能にしてしまったがね」


 バズの台詞を真正面から耳に入れたジネスは、自身の脳裏にとある映像がフラッシュバックして来た。

 自身が両親を失い、妹が怪物に変貌したかに思われていた時の事。その真相を……

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