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6-18 盗み聞ぎ

 社長室付近の清掃作業中に偶然聞いてしまった誰かの会話。その内容の重大さに幸助と南は些細な単語も聞き洩らさないように聞き耳に集中する。

 会話の中に出てきた『星間帝国』というワード。幸助達が知りたかった情報ピンポイントだった。


「頼みます。ここで援助を打ち切られてしまってはせっかくの実験が全て水の泡になります! そんなことになってはそちらにとっても不利益が……」


 必死に自分の側の需要を説く男の方に対し、相手側は冷たい態度で返答した。


「ええ、ですがここで行われいた実験の結果なら既にある程度のデータが取れました。これ以上の投資は不要との我らのリーダーの判断です」


 この回答にRAIDER(レイダー)側の人物は何とか支援の態勢をそのままにしてもらえないものかと声をかけ続ける。


「待ってください! 今まさに新しい個体の実験が進んでいるんです! 成功しましたら、貴方方にも大きな戦力になりますので!!」

「例の子供か。だがまだ制御が出来ていないのだろう?」

「それに関しては……近い内に何とかしてみせます! だから! あともう少しだけ判断に猶予を!!」


 藁にも縋るような勢いで頼み続けるRAIDER(レイダー)の職員に星間帝国の構成員、即ち来ている服の色は違うが『赤服』は少し間を置いてから返答した。


「分かりました。しかしあまり猶予はありませんよ」


 赤服は淡白にRAIDER(レイダー)職員へ返答すると、幸助と南が隠れていることに気付かないまま二人の近くを通り過ぎて去っていった。

 RAIDER(レイダー)職員は赤服が去ったのを確認した途端に一人で愚痴をこぼしていた。


「クソッ……アイツらめ。こちらの足元を見て上か目線で……」


 赤服に対する苛立ちが無意識の内にこぼれ出てしまったように文句を言いつつ元いた部屋に戻っていった職員。

 この一部始終を聞いてしまった幸助と南は大きく丸くしてしまった目をそのままに小さな声で会話をした。


「このビル、というか組織が赤服と繋がっている……」

「そして次警隊の裏切り者が出入りしている情報が入っている」


 幸助と南は飛び出した目玉こそ引っ込んだものの、同時に酷く顔色が青ざめた。

 裏切り者の出入り場所に赤服の出入りがある。つまりはユリの正体に関する情報が赤服に筒抜けになっている可能性が大きくなったという事だ。


「これ、本当にマズい事態なんじゃないか!?」

「それもそうだけど、もう一つ気になるよ」


 焦る幸助に南はユリの事にばかり意識を向けて見過ごしかけていた問題に提言した。先程のRAIDER(レイダー)職員と赤服との会話で出ていた内容についてだ。


「あの二人、実験と言っていた。赤服はそれに対する投資を止めるって言っていたけど、そもそも()()って一体……」


 南が浮かべた疑問ももっともだ。赤服がここに来たのはRAIDER(レイダー)がしていた実験への投資を打ち切るために見えた。

 ならばその実験とは一体何なのか。これまでの旅路で赤服という組織の邪悪さをこれでもかと思い知らされた二人にとって、その内容は分からないながらも酷く嫌な予感を感じさせていた。


赤服(アイツ等)がわざわざ異世界で行っていた実験。とにかく、すぐにラン達にも報告を」

「幸助君!」


 話の途中に名前を呼ばれた幸助が反応すると、南は先程職員が出てきた部屋に指を差して幸助に見せた。文字自体はこの世界のものながら、南はブレスレットで翻訳に成功した。だからこそ三度驚かされることになった。


「ここ、社長室って……」

「何っ!?」


 幸助も南に続いて自信がはめているブレスレットの機能を使い扉付近の札の文字を翻訳する。そうして出ていた言葉は確かに『社長室』という文字だった。


「さっきのが社長。この組織のボスって事なのか!?」

「大きな情報、もう一つ知れたね」


 とにかくここで得た情報をはやく伝えなければならない。幸助と南は音をたてないように注意しつつ移動した。現場仕事を終えたランが幸助達の元に合流して来た。


「なるほどな……裏があるとは思っていたが、思っていたよりも大きい事が……はなから赤服とグルと来たか」


 ランの表情がかなり暗いものになる。幸助も南も彼が考えていることについてはすぐに分かった。


「これって……次警隊の裏切り者が既に赤服に情報を漏らしてる可能性、大いにあるってことだよね……」


 無意識の内にランの手が自身の服の中に隠れているユリの元に向かっていき、彼女はそれをぬいぐるみの小さな両手で掴んで自分がここにいることを彼を告げて安心させようとする。


スフェー(あの馬鹿)が……自分の部隊から裏切り者を出した挙句こんな所に来させてしまうとはな……」


 ユリの感触を受けつつスフェーに対して文句を吐くラン。幸助と南は自分たち以上にユリの事を大切に思っている彼の心境が相当怒りに満ちてきていることを察した。

 だがランは怒りを抑え、仮説したことを含めて算段を立てようと頭を回す。


「どうにしろさっさと探し物を見つけないといけないな」

「探し物って?」

「ここの組織のボスがひた隠しにしている資料だ。赤服も絡んできたとなると、俺達にとって相当大きな情報になると思うのだが……」

「だが俺達は資料館に入ることは出来ない」

「そうだな」

「資料……って、ちょっと待て!!」


 ごく当然のごとく会話をしている最中に我に返ってツッコミを入れてきた幸助。明らかにこの場にいなかった別の声が入り込み、直後に近くから現れたジネスが合流して来た。


「何でこの人がここに!?」

「俺が呼んだ」

「「ハイッ!!?」」


 ランの思わぬ行動に驚いて変顔を見せる幸助と南。すぐにランは事情を説明した。


「お前ら二人、この世界に来て初手で俺と一緒にこいつの舞台に交じって出撃しただろう。おれで俺の件からお前らの存在もある程度勘付かれてしまってな。

 協力関係になった今、下手に隠してバレるより先にこっちからバラす方がいいと判断した」


 ランは自分の言い分を述べつつもスフェーの存在は隠していた。彼は当初ラン達とは別の場所で行動しており、ジネスにここまで一切姿を見せてはいなかった。

 スフェーは元々そこまで表立って外の異世界に出てはいけない人物である。ランにとっては同時に最悪自分達に何かあった時の保険としての側面もあるのだろう。


 ジネスは幸助と南の顔を見てとりあえずの台詞を吐いた。


「お前たちがそいつの仲間か。確かに二人いるが……あの緑髪の女はいないのか?」

「アイツは別行動をしている。俺達と違って戦闘要員じゃないんだ。俺達とは違う手で何かできないか頑張っている。詮索は邪魔になるからするな」


 ジネスがユリについて指摘した途端に即座に嘘の理由をでっちあげて口にするラン。ジネスは彼の目を見て言葉絵お受け止めると、話題を元に戻した。


「俺達が気になるのはやはり資料この資料だ。だが社長から許可を得ることは出来ずに手詰まり状態になっている」

「それをどうこう言ったって仕方ないだろ。出来ない事を考えるより別案を上げないとだ……」


 ビル内の資料館に入れないことを悔やむランとジネス。二人の歯がゆい様子を見て話を聞いていた幸助と南は、驚きを通り越して何かゆっくり瞬きをする反応になっていた。


「資料館? そこに入れないことに困っているのか?」


 ここに来て受け取り手に取ってヘンテコともとれるような質問を飛ばして来た幸助。ランは彼のこの台詞に少し呆れて返事をする。


「お前、話聞いてなかったのか? ゾンビの……下手したら赤服のいう実験についてそこにあるかもしれないんだ。だが監視が多く下手に入れないのが……」


 幸助と南はここでゆっくり二度瞬きをして一度お互いの顔を見ると、視線を前に戻してランとジネスに向かって素直に答えた。


「僕達……そこに入ったけど?」

「「ハイッ!!?」」


 ランとジネス、そしてランに隠れているユリが揃って顔が歪むほどの大きな反応を示した。


「何言ってんだお前!? 入った? 機密情報のある資料館に!?」

「うん……清掃員の仕事で……」

「俺達、今日も入って掃除してたよな」


 幸助と南がしれっと言ってのけた事実にランもジネスも驚きを通り越して困惑してしまっていた。


「セキュリティどうなってんだよ。正社員でもない奴に入らせるだなんて……」

「そこはまあ、仕事を指示してきた人からその時の暗証番号を貰う感じで入ったんだ。どうやら時間によって定期的に暗証番号は変わってるみたいだけど」


 南からの回答にランは少し納得しつつ次にまた情報を得ようと南に質問をした。


「で、入ってみて部屋の感じはどんなのだった?」

「どんなのって……いくつも巨大な棚があって、その中に太いファイルが隙間なく挟まれていた感じだったな」

「思っていたよりアナログだな。とすると入ってしまえば物は探せるか」

「まあ重要資料っていうのは下手なデジタルよりもアナログの文書の方が盗まれるリスクは低い。そもそも清掃員がそんな資料を見るとも思ってないんだろう」

「でも、やっぱり監視カメラは配備されていたよ。資料を読もうとするとカメラに映ってしまうようになってた。

 それに情報を知ろうにも、部屋の中の数が多すぎて試しに読むにもどれがどれだかって感じだし……」


 南からの補足にランとジネスはそれも当然かと新たな悩みが浮かんでくる。だが監視カメラの件に関してはランがすぐに回答した。


「カメラについては対策が出来るかもしれない」

「出来るって、カメラに俺達を移さないようにするご都合アイテムがあるっていうのかよ」

「あるぞ」

「あるの!!?」


 自分の問いかけに即効で返答された事態に幸助が目が飛び出そうになるほど驚いていると、ランはブレスレットを操作して全体的に黒いUSBメモリを出現させた。


「敵基地進入用のご都合道具の一つだ。何かしらの機械に刺すとカメラの映像を一定時間のものをループさせる」

「本当に出てきたご都合チートアイテム……」


 幸助がランから受け取ったメモリに驚きを通り越した


「俺達の旅路はこういうアイテムがいくらあってもありすぎるってことはないんだよ。なんせ行ったとたんに海に溺れるなんて事態もあるくらいだからな」

「「ごもっとも……」」


 過去に魚人の世界への転移時にいきなり海の中に飛び込む形となり溺れかけた記憶がある二人にはランの言い分に本当に納得した。


「だがこれは大きい。とにかく鍵がある今すぐ資料館に入って探しものを見つければ……」


 ランが何処か焦りを感じさせるような口ぶりで話を進めようとしたが、偶然ながらこのタイミングにビル内にアナウンスが鳴り響いた。


「ゾンビ出現!! ゾンビ出現!! 現場付近の皆さんは、政府からの指示に従い、速やかに避難してください」


 つい先ほど倒したばかりなのに容赦なく、おしてラン達にとってはかなりタイミングの悪い事案だった。

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