6-17 バズ マリファ
ランとジネスの協力関係が結ばれ、一夜が過ぎた。朝になって早速ランは自身の元に送られてきた連絡に気が付いた。
連絡の内容を確認したランは、幸助達にここまでと同じような調査を続けるように言いつつユリと共にジネスのいる場所に合流した。
「よう。早速呼んでくれてどうも」
「世間話はいい。呼びつけた理由については送った通りだ」
「お前の部隊の報告って事で、隊員に扮して一緒に社長さんのところへ行くんだろ?」
「ああ、本来なら俺から直接っていうのもおかしな話なんだが、そこら辺は例のコネの影響だな」
ジネスの言い分にランが服の中で何が動いている子感触を感じた。犯人はもちろんユリ。ランに釘を刺されたことでぬいぐるみの姿のままで我慢こそしているものの、やはりジネスの言っていることに納得は出来ていないようである。
「ついてこい」
ジネスは冷たく一言だけ言ってついて来るのか確認することもなく歩いて行く。ランはジネスに気付かれないようにユリの頭を撫でて彼女の怒りを抑えつつ服装を清掃員から実働部隊の服装に変化させてジネスの後ろをついて行った。
三人がエレベーターに乗り込むと、ジネスが階を指定して上がっていく。最上階にかなり近い所で降りると、彼等が出た所は明らかにしたの海洋も豪華な装飾で飾られてる空間が広がっていた。
「これはまた分かりやすく豪勢な」
「無駄口を叩くな。こっちだ」
ジネスがランに指摘を入れつつ案内した先には、扉の上にこの世界の文字で社長室と書かれた場所に到着した。
ジネスは早速ノックをして中にいる人物に声をかける。
「失礼します。ジネス オルドです」
「入りたまえ」
許可をもらったジネスは引き戸を開き、彼を先頭にランも続いて一緒に入った。廊下の時点で豪華と思っていたランだったが、入った部屋の中はそのレベルを超えていた。
汚れの一つもない壁と床。綺麗に並べられた美術品、絵画の数々。中心には仕事用の机と椅子が置いてあるが、これもまた傷の一つもなく慎重に扱われていることがうかがえる。
そんな椅子に座っていた中年の男性が書類作業の手を止めてジネスに目を向けた。デスクの名札から彼の名前は『バズ マリファ』というらしい。
「やあジネス君」
とりあえずの挨拶をしてくるバズにジネスは早速印刷して来た報告書を提出する。資料に目を通すバズにジネスはふと話しかけた。
「資料にも記載している通り、このところゾンビの出現率が上がってきております。そしてヘレティックもそれに合わせて目撃数が増えているようで……」
ジネスの発言に資料に向けていた目が留まるバズ。
「そうか……そして発言からみて逃がしてばかりのようだな」
「はい。そこで今後の対策のためにも、過去の討伐文献などを調べてみたいのですが」
「資料館は立ち入り禁止だ。何度も言わせるな」
ジネスの遠回しの頼みに冷たく拒否を示すバズ。しかしジネスはこれでは引かないと一歩前に足を出して強めに提言した。
「しかし! この所のゾンビの出現率は異常です!! いくら複数の討伐部隊があるからって対処しきれない。ならばせめて過去の事件から学べるものだって多いはずです!!」
「だが現状、今ある装備品で十分に対処は出来ている。それは現場に出ている君が私よりよっぽど理解しているはずだ」
最もな言い分を並べて許可しようとしないバズ。だがジネスは上司との対話にも折れることなく続けた。
「だからって! それで現状の状態に満足していていざという時に何か起きてはそれこそ大変です! せめて過去の資料を調べるだけでも同系統の相手に対策が……」
「結論は変わらない。他に用事がないのなら仕事に戻りなさい」
裏の目的があるとはいえ、事情を知らないものからすれば最もな熱弁を語るジネス。だがバズの心には全くと言っていいほど響いていないどころか彼の言い分を鬱陶しく感じてすらいるのか、部屋から出るように指示してくる。
「備えはしていて損をするという訳では……」
ジネスは尚も負けじと熱弁を続けようとしたのだが、彼が話をしている最中にそれを無理矢理研ぎらせるかのように電話の着信音が鳴り響いた。
バズはジネスの話に返事もしないままに受話器を取ると、耳に当てて応答した。
「私だ。そうか、通せ」
バズはたった三言の言葉で返して受話器を下ろすと、すぐにジネスの顔を見ないままに書類仕事に再び手を付けながら口を開いた。
「客人が来た。すぐに話がある。君達は仕事に戻れ」
「ですが!」
「戻れ。いくら娘との仲があったとしても、自分が特別だとは思わない事だな」
釘を刺すような言い分。これ以上自分の言い分を押し通そうとすれば気付いた地位を下ろすという脅しなのだろう。
立場上これ以上言い分を一方的に言い続けるのは自分の首が締まると判断したジネスは出した足を後ろに下げ、バズに向かって頭を下げた。
「失礼いたしました」
ジネスの見よう見まねで頭を下げるラン。二人は頭を上げて社長室から退出すると、今さっきバズが言っていた客人と思われる人物とすれ違った。帽子を深々と被っていたために顔は見えない相手だったのだが、一瞬ランは視線をその相手に向けてしまった。
「どうした? 行くぞ」
「……ああ」
ジネスから声をかけられたランは彼に従い階を移動していった。落ち着いた人気のない場所に来た三人は椅子に座りつつランから話を切り出した。
「あれがここのボスか。なんというか、ケチ臭い奴だな。現場の隊長格のお前があれだけ言って武器の一つも用意しないとは」
「以前から何度も進言しているのだが拒否ばかりだ」
面識した社長の人物像について概要だけでも整理しようと頭を回すラン。そこで彼はふと思い立ったことをジネスに問いかけた。
「お前の彼女から進言してもらうってのは出来ないのか?」
「リコルはあくまで俺とあの社長を繋いだパイプだ。あいつ自身はRAIDERに所属しているわけではない。一度聞いてみた事はあったが、何も知らなかった」
ジネスの表情からして彼の心境はラン以上にもどかしい所があるのだろう。言葉遣い以上に表にこぼれてしまっている表情がそれを物語っている。
会話をしながらも頭を回し続けていたランは、次に思い当たった事をまたジネスに問いかけてみる。
「あの社長、随分と過去の資料を見ることに反対してやがったな」
「それも前からずっと言い分が変わらない」
ランはこれがどうにも引っかかった。
「変な話だな。お前があの場で言ってた通り、最悪装備を増やせなかったにしても資料を見ることは十分今後の対策になるはずだ。
そして何より金がかからない。単にケチ臭いだけの奴ならそんな低コストな案を認めないだろ?」
ランは続けて先程の会話でジネスが発現した台詞について触れる。
「本当なのか? ゾンビの出現率が異常になっているっていうのは」
ジネスはこれに苦い顔を浮かべながらも素直に答えた。
「ああ。この所のゾンビの出現率は統計に比べても明らかに異常だ。この前日中何もなかったのが奇跡だと思えるくらいにな」
ジネスからの返事を聞き取って得た情報の整理をある程度終えた事で思い浮かんで来た結論をそのまま口からこぼした。
「そんな危機的状況だってのに、まるで現状維持を望んでいるかのような……」
ランが思い浮かんだ仮説を独り言のように発言したのとほぼ同時にビル内全体にアナウンスが響き渡った。
「ゾンビ出現!! ゾンビ出現!! 現場付近の皆さんは、政府からの指示に従い、速やかに避難してください」
ジネスはアナウンスを聞いた途端に目つきが鋭くなり、ランの最後の発言は耳に届いていないようだった。
すぐに椅子から立ち上がったジネスは、一言も声をかけずに出動準備に取り掛かった。
「仕事が入った途端に切り替えか。仕事をキッチリするのは出世のための土台作りか、はたまた人を助けることが既に板についているからなのか……」
ランが胸元からゴソゴソとした動きを感じ取ったために視線を向けると、隠れていたユリが急かしているように見えた。
「はいはい分かってるよ。俺もアイツについて行くさ。(どうにもこの前から気になる事もあるしな)」
ランはユリの機嫌を取りつつもジネスに置いて行かれないように走って後をついて行った。
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ランが連続して現場に急行していく一方で、この所清掃員に扮してビル内の掃除しかしていない幸助と南。今回も誰かが被害に遭うかもしれないという時に動けない事態にジネスのものとはまた違うもどかしさを感じていた。
「ハァ……俺達この所掃除ばっかりやってるよな。今人が襲われているかもしれないって時に動けないなんて」
幸助は身動き取れないストレスからかついつい力んで自分が両手に握っているモップにヒビを入れてしまう。
「アアァ! 幸助君箒にヒビが入ってるよ!!」
南に言及されて気が付いた幸助は慌てて力を緩めた。
「ご、ごめん」
「ううん。でもやっぱりもどかしい所はあるよね」
現場仕事には来るなとのランからの指示。渋々ながらその間に知れることがあると愚痴をこぼしつつ清掃作業を続ける二人。焦りの強い要因はここまでの成果にあった。
二人がこのビルの清掃作業員として動いてそこそこ時間が経過している。しかし未だに事態の解決につながるような情報は得られていないのだ。
だがかといってビル内に情報通と知り合っていない二人にはこのまま清掃作業を続けるほかに方法はない。くまなく清掃を意識しつつ移動をしている二人は図らずも社長室のあるフロアにまで到着していた。
そして廊下での清掃作業を続けていたところ、入り口付近にまで近づいて同じくモップ掛けをしようとしかけたそのとき、社長室の扉が開いて誰かの足が飛び出して来た。
幸助と南は突然の人の出現に清掃スタッフとしてマズいと出しかけたモップをすぐに引っ込めて近くの物陰にまで引っ込んだ。
「って、なんでわざわざこんな所に引っ込んでるんだ俺達?」
「ごめん、なんというか……つい勢いで……」
二人揃って今しがたの自分の行動に戸惑っていたが、そこに話声が聞こえてきた。
「待ってください! そんな、関係を打ち切るかもしれないだなんて……」
随分焦りの感じる声色に二人が聞き耳を立てていると、同じ人物が次に口にした台詞に二人は強く反応することになった。
「頼みます! 星間帝国の援助がなければ私は!!」
飛び出しそうになった台詞をどうにか飲み込みながらも目が飛び出かける程の衝撃を受けた二人。ここに来て思わぬ情報を得られそうな状況になった。
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